【しゃぶしゃぶ温野菜 郡山爆発事故】被害女性が明かす苦悩

【しゃぶしゃぶ温野菜 郡山爆発事故】被害女性が明かす苦悩

 2020年7月に郡山市で起きた飲食店爆発事故から、間もなく3年を迎える。当時、現場近くの事業所におり、重傷を負った女性が本誌取材に応じ、この間の苦悩や、誰も責任を問われない現状へのやるせなさなどを明かした。(末永)

「責任の所在不明」で進まない被害者救済

「責任の所在不明」で進まない被害者救済

 まずは事故の経過を振り返っておく。

 爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところに位置する。

 この事故によって1人が死亡し、19人が重軽傷者を負った。加えて、当該建物が全壊したほか、付近の民家や事業所など200棟以上に被害が及んだ。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。

 警察の調べに基づく当時の地元紙報道などによると、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたと考えられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに、何らかの原因で引火した可能性が高いという。

 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。

 それによると、以下のようなことが分かったという。

 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。

 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。

 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。

 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。

 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。

 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。

 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。

 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。

 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かった。管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。

 以降しばらくは、捜査機関の動きは報じられていなかったが、今年3月、福島地検が全員を不起訴としたことが伝えられた。運営会社社長ら4人は嫌疑不十分、内装業者は死亡していることが理由。

 これを受け、事故で重傷を負った市内の女性が4月12日、不起訴処分を不服として福島検察審査会に審査を申し立てた。

 地元紙報道によると、代理人弁護士が県庁で記者会見し、「大事故にもかかわらず、誰も責任を負わない結果は被害者には納得できない。責任の所在を明確にし、なぜ事故が起きたのかはっきりさせないといけない」と話したという。(福島民報4月13日付)

被害女性に聞く

【被害女性に聞く】本誌取材に応じるAさん
本誌取材に応じるAさん

 以上が事故のおおよその経緯だが、今回、本誌取材に応じたのは、事故現場のすぐ目の前の事業所にいて重傷を負ったAさん(※不起訴処分を不服として審査を申し立てたのとは別の被害女性)。

 その日、Aさんはいつも通り始業時間である8時半の少し前に出勤し、事務所の掃除、業務の打ち合わせなどをして、自分のデスクに座り、パソコンの電源を立ち上げた瞬間に事故が起きた。

 〝ドーン〟という大きな音とともにAさんがいた事業所(建物)が崩れ、「飛行機か何かが落ちてきたのかと思った」(Aさん)というほどの衝撃だった。天井が落下して下敷きになり、割れた窓ガラスの破片で頭や顔などに大ケガを負った。

 当時、事業所にはAさんのほかにもう1人いたが、「たまたま何かの陰になったのか、その方は傷を負うことはなく、(下敷きになっていた)私を救出してくれました」(Aさん)。

 その後、救急車で郡山市内の病院に運ばれ、そこからドクターヘリで福島県立医大病院に搬送された。

 そこで、手術・点滴などの治療を受けたが、安静にする間もなく、警察から事情を聞かれた。毎日、窓越しに事故が起きた飲食店の改修工事の様子を見ていたため、早急に話を聞きたいとのことだったという。当時は話をするのも容易でない状況だったが、警察から「(工事で)何人くらいの人が出入りしていたか」等々の質問を受け、筆談で応じた。

 その後は、医大病院(病室)で安静にしていたが、次第に「助かった」という思いと、「家族はどうしているか」、「職場はどうなったか」等々が頭を占めるようになった。

 「なるべく早く帰りたいと思い、一生懸命、歩ける、大丈夫ということをアピールしました」(同)

 その結果、抜糸やその後の治療は郡山市内の病院で引き継ぐことになり、翌日には退院して自宅に戻ることができた。

 そうまでして、退院を急いだ理由について、Aさんはこう話す。

 「私は何のキャリアもない主婦で、過去には大きな病気をしたこともありました。そんな中、いまの職場に入り、そこから一生懸命仕事を覚えて、事務職にまで取り立ててもらえるようになって、やっと軌道に乗ってきたところでした。そうやって積み重ねてきたものがなくなる怖さと、生き残ったということに気持ちが高ぶっており、痛くて寝込むとか、つらいとかいうよりも、早く復帰しなければという思いの方が強かったんです」

 Aさんが勤める事業所は、市内の別の場所に移り、事故後1日も休むことなく事業を続けている。Aさんも間もなく仕事に復帰し、その間、一度だけ元の事業所に行った。事故の影響で、顧客情報などが散乱してしまったことから、その回収のためである。

 ただ、事故後、現場に行ったのはそれ1回だけ。

 「それ(一度、資料等を回収に行った時)以降は、一度も現場には行っていません。周辺がキレイに整備され、新しくなってドラッグストアができたとか聞きますが、あの周辺を通ったこともありません」

 それだけ、恐怖心が残っているということだ。

 事故の後遺症はそれだけではない。いまでも、時折、体に痛みを感じるほか、ヘリコプターや飛行機などの音を聞くと、猛烈な恐怖心に襲われることがある。「ドクターヘリで搬送されたときの記憶はあいまい」とのことだが、仕事中、そうした音が聞こえると、建物が崩れたときの記憶がフラッシュバックし、怖くて建物の外に飛び出すこともある。

 「(事故の記憶がよみがえらないように)全く違う業種に転職して、環境を変えた方がいいのかな、と思うこともありました。ただ、いまの状況ではどこに行っても、普通に働くことはなかなか難しいでしょうし、いまの職場の方は事情を分かってくれて、例えば、調子が悪い日は職場に設置してもらった簡易ベッドで休ませてもらうこともあります。そういったサポートをしてくれるので働き続けることができています」

関係者の「不起訴」にやるせなさ

爆発事故後のAさんの勤務先(Aさんのデスクがあった場所=Aさん提供)
爆発事故後のAさんの勤務先(Aさんのデスクがあった場所=Aさん提供)

 傍目には目立つ外傷はないが、体には痛みが残り、精神的に安定しない日があるというのだ。

 「どんどん握力が落ちて、お皿を洗っているときに、落とすこともあります。握力測定では性別・年代別の平均値よりずっと低く、幼稚園児と同じくらいでした」

 いまも、整形外科で薬を処方してもらっているほか、メンタルクリニックでカウンセリングを受けている。睡眠薬がなければ眠れず、体の痛みで眠れない日もある。

 治療費は、しゃぶしゃぶ温野菜のフランチャイザーのレインズインターナショナル(横浜市)と、運営会社の高島屋商店(いわき市)の被害対応基金から支払われている。ただ、まずは自分で負担し、診断書を添えて実費分が支払われる、という手続きが必要になる。加えて、これもいつまで続くか、といった不安がある。

 中には「賠償金はいくらもらったの?」と心ないことを聞かれることもあったそうだが、治療費以外の賠償金は支払われていない。それどころか、事故を起こした店舗の関係者からは「私たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から謝罪もされていないという。

 当然、「納得できない」との思いを抱いてきたが、それをさらに増幅させることがあった。前段で述べたように、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)が業務上過失致死傷の疑いで書類送検されていたが、今年3月、全員が不起訴になったことだ。

 「まず、こんなに時間がかかるとは思っていませんでしたし、あれだけの事故を起こして、誰も責任を問われないなんて……。無力感と言うんですかね、そんな感じです」

 言葉にならない、やるせなさを浮かべる。

 事故当時、警察からは、被害者として刑事告訴できる旨の説明を受けた。民事でも「被害者の会」が組織されるのではないか、との見方もあった。ただ、被害の程度が違うため、被害者組織は結成されなかった。

 Aさん自身、自分の心身のこと、家族のこと、仕事のことで精一杯で、刑事告訴や、民事での損害賠償請求などに費やすエネルギーや時間的余裕がなかった。そのため、これまで自らアクションを起こすことはなかった。

 そもそも、これだけの事故を起こして、誰も責任を問われない、自身の被害が救済されない、などということがあるとは思っていなかったに違いない。ただ、刑事は前述のような形になり、どうしたらいいか分からないといった思いのようだ。

郡山市の損害賠償訴訟に期待

Aさんの勤務先から事故現場に向かって撮影した写真。奥に警察、消防士などが見え、現場と至近距離であることが分かる。(Aさん提供)

 そんな中で、Aさんが「希望を持っている」と明かすのが、郡山市が起こした損害賠償請求訴訟である。

 これについては、本誌昨年6月号で詳細リポートし、今年6月号で続報した。

 郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円、避難所運営に要した費用約100万円、被災者への固定資産税の減免措置など約80万円、災害ごみの回収費用約70万円など。

 裁判に至る前、市は独自で情報収集を行い、裁判の被告とした6社と協議をした。そのうえで、2021年2月19日、6社に対して損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。

 3月29日までに6社すべてから回答があり、2社は「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社は「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答だった。

 前段で、事故を起こした店舗の関係者は「自分たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から、Aさん(被害者)に謝罪していないと書いたが、市との協議でも同様の主張であることがうかがえる。

 これを受け、市は県消防保安課、郡山消防本部、郡山警察署、代理人弁護士と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対して、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。

 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。同年9月に6社に対して協議による解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。

 ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。

 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こすことを決めたのである。
 2021年12月議会で関連議案を提出し、品川萬里市長が次のように説明した。

 「2020年7月に島2丁目地内で発生した爆発事故で、本市が支出した費用について、責任を有すると思慮される関係者に対し、民事上の任意の賠償を求め協議してきましたが、本日現在、当該関係者から賠償金全額を支払う旨の回答を得ておりません。本市としては、事故の責任の所在を明らかにするため、弁護士への相談等を踏まえ、関係者に対して民法第719条に基づく共同不法行為者として、損害賠償を求める訴えの提起にかかる議案を提出しています」

 議会の採決では全会一致で可決され、それを経て提訴した。

 昨年4月22日から今年5月23日までに計6回の口頭弁論が開かれているが、市総務法務課によると「現在(この間の裁判)は争点整理をしています」とのこと。

 判決に至るまでにはまだ時間がかかりそうだが、Aさんは「市が率先して、責任の所在を明らかにしようとしているのはありがたいし、希望でもある」と話す。

求められる被害救済

 市総務法務課の担当者は、裁判を起こした理由について、こう話していた。

 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」

 当然、裁判は市の損害を回復することが最大の目的だが、市が率先して裁判を起こすことで判例をつくり、ほかの被害者の参考にしてもらえれば、といった意味合いもあるということだ。

 今回の事故で、Aさんをはじめ多くの人・企業が被害を受けたのは明らかだが、「加害者」は明確なようで実はそうではない。

 過失があると思われるのは運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などだが、それぞれが「自分たちの責任ではない」、あるいは「自分たちの責任であると明確に認定されるまでは謝罪も賠償もしない」という姿勢。言わば、責任をなすりつけあっているような状況なのである。

 そのため、事故から3年が経とうとしているが、賠償などは全く進んでいない。気の毒というほかないが、運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などのどこであれ、責任の所在を明らかにし、事故を起こした事実を受け止めてほしい。あの日、日常の中で事故に巻き込まれた人たちの被害が救済されることを切に願う。


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末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
合併しなかった県内自治体(6回シリーズ)
原発事故追加賠償の全容(2023年3月号)

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