猪苗代町は9月12日、統合によって使われなくなった旧吾妻中学校と旧東中学校の利活用について、優先交渉権者を決定したことを発表した。いまは優先交渉権者と正式契約に向けた協議が行われているが、過去には実現しなかった〝幻の計画〟もあったという。
実現に至らなかった〝幻の計画〟も

同町には3つの中学校があったが、2022年3月末に1つに統合され、両中学校の校舎は使われなくなった。町は今年3月に「猪苗代町廃校活用基本方針」を定め、同方針に基づき、議会や町民(行政区)などへの説明や意見交換を行い、今年5月から6月にかけて、両中学校跡地の利活用事業者の公募を行った。応募があった中から、町廃校活用検討委員会で審議を行い、優先交渉権者を決定した。
旧吾妻中学校の優先交渉権者は天鏡(磐梯町)で、ウイスキーの熟成倉庫(校舎1階、体育館)として活用する。①地元協力者や町シルバー人材と連携し定期的な雇用創出による施設管理、②町や地元からの要請に対しての対応(避難場所、敷地の活用等)、③ウイスキー販売場所による貢献(道の駅、地元酒販売店、地元ホテル等)――といった提案だった。
旧東中学校はDMC aizu、ISホールディングス、日本ビルドの3社。世界に向けて発信する「サムライ総本山計画」(校舎・体育館・校庭)を掲げ、①サムライ道場を地域の観光資源と組み合せ、歴史学習・伝統文化体験や自然・環境学習、農業体験など、魅力あふれる体験メニューを作り、持続可能な観光への活用を図る、②外国人留学生向けの日本語学校を誘致開校し、外国人留学生と地域住民との交流機会を創出する、③物販エリアを設け、地域拠点として質の高い農産品や特産品、歴史・文化、これを支える人の力を集結させ、さらに猪苗代町の価値を高める――といった提案で優先交渉権者になった。
なお、DMC aizu、ISホールディングス、日本ビルドはいずれもISグループで、同グループについては、本誌でもたびたび取り上げてきたほか、前段の箕輪スキー場の記事でも登場している。代表の遠藤昭二氏は猪苗代町出身で、端的に言うと、東京でビジネスに成功し、地元貢献として、さまざまな事業を行っている。やはり、と言うべきか、ここでも同グループ(遠藤氏)が名乗りを上げた格好だ。関係者によると「今回の計画は日光江戸村の会津版のようなイメージ」という。
町教育総務課によると、「(優先交渉権者に決定した事業者と)現在、協議中」とのことで、まだ正式契約には至っていないようだが、正式契約を経て前述の事業が動き出すことになろう。
「地域のため」を望む住民

旧吾妻中学校は1978〜1979年に建設され、外から見た限りではかなり古いように映る。
近隣に住む高齢女性に話を聞くと、「近くに買い物をできるところがないため、私としては商業施設が良かったかな。まあ、でも(商業施設は)なかなか難しいでしょうね。どんな形であれ、地域のためになるようにしてほしい」と話した。
旧東中学校は2000年(体育館は2001年)に建設され、外から見ても比較的新しい。

近隣住民に話を聞くと、次のように話した。
「あー、何か町から発表があったね。特に、こうしてほしいというのはなかったけど、このままにしておくのは勿体ないと思っていたから、利活用されることで、少しでも地域のためになってくれたらいいね。ここは学校の裏側に山があり、やっぱり人の出入りがないと、クマとかサルが下りてくるんです。何らかの形で使われて、人の出入りがあれば、そういった心配も減るから、その点でも良かったと思う」
とはいえ、利活用方法として示された「サムライ総本山計画」については「どんなふうに使うのか、正直イメージできない」と苦笑い。
一方で、昨年6月まで務めた前後公前町長によると、「在職時に内々にいくつかの話があった」という。
「主なものでは相撲協会やバルセロナ五輪金メダリストの岩崎恭子さんのチーム(水泳教室)などから使用したい旨の話がありましたが、狭いなどの施設上の問題があり、実現することはありませんでした」
それらが地元にどれだけの恩恵をもたらすかは分からないが、話題性という点ではどちらも面白かっただろう。ただ、どちらもまとまらず、〝幻の計画〟に終わった。そんな中で、公募を経て前述の事業者が優先交渉権者になった。今後の動きが注目される。