【会津若松】立ち退き脅迫男に提訴された高齢者

立ち退き脅迫男に提訴された高齢者

 会津若松市馬場町に住む74歳男性が土地の転売を目論む集団から立ち退きを迫られている(昨年8月号で詳報)。追い出し役とみられる新たな所有者は、男性が「賃料を払わず占有している」として土地と建物の明け渡しを求める訴訟を起こし、昨年12月に地裁会津若松支部で第1回期日が開かれた。転売集団は立ち退きを厳しく制限する借地借家法に阻まれ、手詰まりから訴訟に踏み切った形。新所有者が、既に入居者がいるのを了承した上で土地を購入したことを示す証言もあり、新所有者が主張する「不法入居」の立証は無理筋だ。

無理筋な「不法入居」立証

 問題の土地は会津若松市馬場町4―7の住所地にある約230坪(約760平方㍍)。地番は174~176。その一角に立ち退き訴訟の被告である長谷川雄二氏(74)の生家があり、仕事場にしていた。現在は長谷川氏の息子が居住している。

 長谷川氏によると、祖父の代から100年以上にわたり、敷地内に住む所有者に賃料を払い住んできたという。不動産登記簿によると、1941年4月3日に売買で会津若松市のA氏が所有者になった。その後、2003年4月10日に県外のB氏が相続し、2018年9月11日に同住所のC氏に相続で所有権が移っている。実名は伏せるが、A、B、C氏は同じ名字で、長谷川氏によると親族という。

 この一族以外に初めて所有権が移ったのは2019年12月27日。会津若松市湯川町の関正尚氏(79)がC氏から購入し、それから3年余り経った昨年2月7日に東京都東村山市の太田正吾氏が買っている。

 今回、土地と建物の明け渡し訴訟を起こしたのは太田氏だ。今年3月に馬場町の家に車で乗り付け、「許さねえからな。俺、家ぶっ壊しちゃうからな」などと強い口調で立ち退きを迫る様子が、長谷川氏が設置した監視カメラに記録されていた。長谷川氏は太田氏を、所有権を根拠に強硬手段で住民を立ち退かせ、転売する「追い出し役」とみている。

 賃料の支払い状況を整理する。長谷川氏は、A、B、C氏の一族には円滑に賃料を払ってきたといい、振り込んだことを示すATMの証明書を筆者に見せてくれた。次の所有者の関氏には手渡しで払っていたという。後述するトラブルで関氏が賃料の受け取りを拒否してからは法務局に供託し、実質支払い済みと同じ効力を得ている。これに対し、太田氏は「出ていけ」の一点張りで、そもそも賃料の支払いを求めてこなかったという。同じく賃料を供託している。

 立ち退き問題は関氏が土地を買ったことに端を発するが、なぜ彼が買ったのか。

 「A氏の親族のB、C氏は県外に住んでいることもあり、土地を手放したがっていました。C氏から『会津で買ってくれる人はいないか』と相談を受け、私が関氏を紹介しました」(長谷川氏)

 土地は会津若松の市街地にあるため、買い手の候補は複数いた。ただ、C氏は長年住み続けている長谷川家に配慮し「転売をしない」、「長谷川家が住むことを承諾する」と厳しい条件を付けたため合意には至らなかった。そもそも借主の立ち退きは借地借家法で厳しく制限され、正当事由がないと認められない。認められても、貸主は出ていく借主に相応の補償をしなければならない。C氏が付けた条件は同法が認める賃借人の居住権と重複するが、長谷川氏に配慮して加えた。

 会津地方のある経営者は、購入を断念した一因に条件の厳しさがあったと振り返る。

 「有望な土地ですが『居住者に住み続けてもらう』という条件を聞き躊躇しました。開発するにしても転売するにしても、立ち退いてもらわなければ進まないですから」

 そんな「長谷川家が住み続けるのを認め、転売しない」という買い手に不利な条件に応じたのが関氏だった。約230坪の土地は固定資産税基準の評価額で2600万円ほど。C氏から契約内容を教えてもらった長谷川氏によると、関氏は約500万円で購入したという。関氏はこの土地から数百㍍離れた場所で山内酒店を経営。土地は同店名義で買い、長谷川家は住み続けるという約束だった。

 法人登記簿によると、山内酒店は資本金500万円で、関氏が代表取締役を務める。酒類販売のほか、不動産の賃貸を行っている。

 「転売しないという約束を重くするために、C氏は関氏との契約に際し山内酒店の名義で購入する条件を加えました。2019年に私と関氏、C氏とその親族が立ち会って売買に合意しました。代々の所有者と長谷川家の間には賃貸借契約書がなかったこと、関氏と私は長い付き合いで信頼し合っていたことから約束は口頭で済ませた。これが間違いだった」(長谷川氏)

 長谷川氏が2022年3月に不動産登記簿を確認すると、所有者が2019年12月27日に「関正尚」個人になっていた。山内酒店で買う約束が破られたことになる。疑念を抱いた長谷川氏は、手渡しで関氏に払っていた賃料の領収書を発行するよう求めた。「山内酒店」と「関正尚」どちらの名前で領収書が切られるのか確認する目的だったが、拒否された。しつこく求めると「福和商事」という名前で領収書を渡された。

 「土地の所有者は登記簿に従うなら『関正尚』です。この通り書いたら、店名義で買うというC氏との約束を破ったのを認めることになる。一方、『山内酒店』と書いたら、登記簿の記載に反するので領収書に虚偽を書いたことになる。苦し紛れに書いた『福和商事』は関氏が個人で貸金業をしていた時の商号です。法人登記はしていません」(長谷川氏)

 正規の領収書が出せないなら、関氏には賃料を渡せない。ただ、それをもって「賃料を払っていない不法入居者」と歪曲されるのを恐れた長谷川氏は、福島地方法務局若松支局に賃料を供託し、現在も不法入居の言われがないことを示している。

転売に飛びついた面々

長谷川氏(右)に立ち退きを迫る太田氏=2023年3月、会津若松市馬場町
長谷川氏(右)に立ち退きを迫る太田氏=2023年3月、会津若松市馬場町

 現所有者の太田氏に所有権が移ったのは昨年2月だが、太田氏はその4カ月前の2022年11月17日に不動産業コクド・ホールディングス㈱(郡山市)の齋藤新一社長を引き連れ、馬場町の長谷川氏宅を訪ねている。その時の言動が監視カメラに記録されている。カメラには同月、郡山市の設計士を名乗る男2人が訪ねる様子も収められていた。自称設計士は「富蔵建設(郡山市)から売買を持ち掛けられた」と話していた。長谷川氏は、関氏から太田氏への転売にはコクド・ホールディングスや富蔵建設が関与していると考える。

 筆者は昨年7月、関氏に見解を尋ねた。やり取りは次の通り。

 ――長谷川氏は土地を追い出されそうだと言っている。

 「追い出されるってのは買った人の責任だ。俺は売っただけだ」

 ――長谷川家が住み続けていいとC氏と長谷川氏に約束し、買ったのか。

 「俺は言っていない。あっちの言い分だ」

 ――転売する目的だったとC氏と長谷川氏には伝えたのか。

 「伝えていない。どうなるか分からないが売ってだめだという条件はなかった」

 ――どうして太田氏に土地を売ったのか。

 「そんなことお前に言う必要あるめえ。そんなことには答えねえ」

 ――太田氏が長谷川氏に立ち退くよう脅している監視カメラ映像を見た。

 「(長谷川氏が)脅されたと思うなら警察を呼べばいい。あいつは都合が悪いとしょっちゅう警察を呼ぶ」

 ――コクド・ホールディングスの齋藤氏とはどのような関係か。
 「……」

 ――齋藤氏や土地を買った太田氏とは一切面識がないということでいいか。

 「何でそんなことお前に言わなきゃなんねえんだ。俺は答えねえ」
 入居者を追い出すのは現所有者である太田氏の勝手ということだ。

 太田氏の動きは早かった。所有権移転から間もない昨年3月、馬場町の家を訪ね、長谷川氏に暴言を吐き立ち退きを迫った。だが、逆に脅迫する様子を監視カメラに撮られた。以後、合法手段に移る。

 同6月、太田氏は長谷川氏の立ち退きを求めて提訴した。太田氏の法定代理人は東京都町田市の松本和英弁護士。同12月6日に地裁会津若松支部で第1回期日が開かれた。太田氏は現れず、松本弁護士の事務所の若手弁護士が出廷した。被告側は代理人を立てず長谷川氏のみ。長谷川氏は「弁護士を雇う金がない。法律や書式はネットで勉強した。知恵と根気があれば貧乏人でも闘えることを証明したい」。

転売契約書の中身は?

 裁判では、原告の太田氏側が長谷川氏の「不法入居」を証明する必要がある。だが、提出した証拠書類は土地の登記簿のみ。長谷川氏は、関氏から太田氏への売買を裏付ける契約書の提出を求めた。これを受け、島崎卓二裁判官は「売買を裏付ける証拠はある?」。太田氏側は「あるにはあるが提出は控えたい」。島崎裁判官は「立証責任は原告にある。契約書があるなら提出をお願いします」と促した。

 一方で、島崎裁判官は被告の長谷川氏に土地の賃貸や居住を端的に示す書類を求めた。長谷川氏の回答は「ありません」。長谷川氏は、関氏と太田氏の土地売買に携わった宅建業者の証言や賃料の支払い証明書など傍証を既に提出しているという。

 閉廷後の取材に長谷川氏は次のように話した。

 「私たち一族がここに住み始めたのは戦前にさかのぼる。当時の契約は、今のようにきちんとした書類を取り交わす習慣がなかったのだと思います。賃貸借契約を端的に示す書類はないが、少なくとも太田氏の前の前の所有者のC氏に関しては賃料を振り込んだことを示す記録が残っているし、関氏とC氏は親族立ち会いのもと『長谷川家が住み続ける』と合意して契約を結んでいる。さらに、関氏から太田氏に転売される際には『既に居住者(長谷川家)がいると説明した上で契約を結んだ』と話す宅建業者の音声データを得ている。裁判では太田氏側が出し渋る契約書の提出を再度求めます」

 長谷川氏が契約書の提出を強く求めるのは、仲介した宅建業者の証言通りなら「売買する土地には以前から入居者がいる」と関氏から太田氏への重要事項説明が書きこまれている可能性が高いからだ。太田氏が、居住者がいることを受け入れて契約を結んだ場合、「長谷川家は所有者の了解なく住んでいる」との理屈は成り立たない。さらに借地借家法で居住権が優先的に認められるため、太田氏の都合で追い出すことは不可能になる。

 太田氏側が契約書を示さず、裁判官の提出要求にも逡巡している様子からも、契約書には太田氏に不利な内容、すなわち長谷川家の居住を認める内容が書かれている可能性が高い。今後は太田氏側が契約書を提出するかどうかが焦点になる。 

 第2回期日は1月31日午前10時から地裁会津若松支部で行われる。譲らない双方は和解には至らず法廷闘争は長期化するだろう。

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