郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

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郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった【芳賀小児童クラブ】

(2022年9月号)

 郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。

公式発表前に届いた内部告発メール

  一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。

 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。

 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》

 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。

 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。

 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。

 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。

 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。

 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。

 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。

 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。

 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。

 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。

 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。

239万円横領の理由

239万円横領の理由【8月2日に行われた記者会見】
8月2日に行われた記者会見

 周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。

 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。

 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。

 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。

 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。

 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。

 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。

 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。

 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」

 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。

 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。

 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。

放課後児童クラブへの不満

 取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。

 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者)

 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。

 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。

 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。

 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。

 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。

 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」

 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。

 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。

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