【女性流出】全国ワーストの福島県

【女性流出】全国ワーストの福島県

 人口減少が加速する本県。昨年11月現在の推計人口は178万8873人で、ついに180万人を切った。その背景には若い女性が進学・就職を機に県外に転出し、出生数が減っていることがある。本県から女性が去っていく背景には何があるのか、さまざまな女性の〝本音〟に耳を傾けた。

「職の選択肢少なくキャリアも積めない」

 昨年10月9日付けの福島民報に衝撃的な記事が掲載された。転出者が転入者を上回る「転出超過」により、女性が直近10年間でどの程度減少したか全国で比較したところ、本県が最多だったというのだ。

福島県の転出超過の推移

 総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2012年から21年までの本県転出超過総数は6万3528人。内訳は男性2万2245人、女性4万1283人。

 本県以外で女性の転出超過が多かったのは北海道、長崎県、新潟県、岐阜県など。大都市圏から遠い、もしくは本県同様、大都市圏に近かったり交通面で移動しやすい県が目立つ。逆に東京都をはじめ首都圏は女性の転入超過となっている。

 第一の原因として考えられるのは、震災・原発事故の影響だ。3・11以降、避難指示区域はもちろん、区域外でも放射能汚染を懸念して、県外に母子避難する人が相次いだ。

 転出超過は2011年3万1381人(男性1万3798人、女性1万7583人)、12年1万3843人(男性5714人、女性8129人)に上った。その後、公共工事の復興需要などを背景に男性は14、15の両年、転入超過となったが、女性は転出超過が続いている。直近21年の3572人は全国2位の多さだ。

 2021年の女性の転出超過の内訳をみると、15~19歳27%(977人)、20~24歳62%(2216人)と、若い世代が全体の9割近くを占める。進学・就職で県外に転出していると思われる。

 若い女性が県内から減れば出生数も減っていく。2020年の出生数は1万1215人。10年は1万6126人。10年間で約5000人減った。それに伴い人口減少も加速しており、180万人を切っている。

 東北活性化研究センターは2020年、東北出身の女性2300人にインターネット調査を実施した。その結果、東京圏に住み続ける女性は「『選択肢が多くて希望の進学先がある』という理由で東京の教育機関に進学し、『希望の職種の求人が多い』という理由で東京圏で就職した」という傾向がみられた。

 「地方に求めていること」という設問に対しては「若い女性たちが正社員として長く働き続けられる企業を増やす」、「女性にとって多様な雇用先・職場を多く創出する」、「公共交通機関などのサービスを充実させる」、「地方の閉塞感や退屈なイメージを払拭するような取り組みをする」といった回答が多く選ばれた。

 暁経営会計(郡山市)代表取締役の伊藤江梨さん(38)は安積黎明高校卒業後、大阪大学法学部に進学。共同通信社に就職し、報道記者として全国で取材活動を続けた後、税理士に転身。地元で独立した異色の経歴の持ち主だ。伊藤さんに女性の転出超過数が多いことについてコメントを求めたところ、こう語った。

 「女性にとって、それなりの所得を手にできる職の選択肢が少ないのは事実です。せいぜい公務員、銀行、看護師ぐらい。首都圏で医療業界に就職し、バリバリ働いていた同級生が、震災・原発事故後、志を持って帰って来たケースもありました。ただ、自分の意見が全く通らず、男性中心の職場環境であることにあらためて気付かされたようで、県外の職場に移っていきました」

 男性に正面から意見を言っても、表立って潰されることはない。ただ、その場でヘンな空気が流れ、後日、自分が〝腫れ物扱い〟されていることが聞こえてきたりする。優秀な女性ほど息苦しさを感じる。

 「そもそも管理職やリーダーとして活躍している女性が県内には少ない。だから、『女性が働きやすいように職場環境を整えよう』という考えになりにくいし、『責任のある仕事は男性がやるもの』という先入観が男女とも根付いているのです」(同)

 県労働条件等実態調査によると、2021年の従業員30人以上の企業の管理職(係長相当職以上)に占める女性の割合は18・9%。

 一方、総務省の就業構造基本調査によると、2017年の公務員を含む管理的職業従事者(課長相当職以上)に占める女性の割合は13・8%。

 管理職に占める女性の少なさは平均賃金の男女格差につながっている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2021年の県内女性の平均賃金(残業代除く)は男性の75・2%に留まり、45~49歳世代では100万円以上の差がある。賃金格差は東北6県で最大だ(福島民報11月6日付)。背景には出産や育児で休職・退職を余儀なくされ、キャリアを積んで管理職を目指すのが難しい事情がある。

女性に厳しい労働環境

 前出・就業構造基本調査2017年版によると、県内で過去5年間に離職した女性のうち、出産・育児が退職理由だった人は1万1500人(全体の7・9%)。育休制度はあるものの、離職している人が多いわけ。出産前の働き方と比較し「元の会社に戻って働き続けるのは無理だ」と自ら判断し、退職する面もあるのかもしれない。

 「女性としては、責任が重い管理職や時間の融通が利かないフルタイムを避けて、育児と仕事を両立させたいと考える。だから、仕事に復帰する際も、配偶者の扶養控除内(103万円)の範囲に収まるように、パートタイムで働くことを選ぶ傾向が強いのです」(同)

 県内の正規従業員の割合を見ると、24~34歳が男性87・2%、女性61・9%で、25・3ポイントの差がある。年齢が上がるごとにその差は開いていき、45~54歳は男性90・4%、女性46・8%となっている(福島民報11月23日付)。

 やりたい仕事に就けず、結婚・出産でキャリアが断絶される――こうした環境では、県内から去っていく若い女性が多いのも当然だろう。

 女性は働くことを望んでいる。2019年現在の国内の専業主婦世帯は582万世帯で、共働き世帯数(1245万世帯)の半分以下。別掲記事で体験談を執筆してもらった県内在住の女性フリーライター・みきこさんも「専業主婦志向だったが、実際に出産したら、家計や子育ての問題は別として、できる限りの範囲で働きたくなった」と述べている。

 11月8日には福島市で同市主催の「そろそろ働きたい女性のための就活準備セミナー」が開かれ、約50人が参加した。テーマ別の意見交換会では「在宅勤務」、「仕事と子育てとの両立」に参加者が集中した。

福島市主催のセミナーでの意見交換会の様子
福島市主催のセミナーでの意見交換会の様子

 ハローワーク福島で行われた出産後の母親向けミニセミナーでは、新卒向けの〝就活セミナー〟のように、履歴書の書き方や会社への要望の伝え方などが細かく教えられた。

 参加した女性たちは「そもそも子連れで参加できるセミナーがないのでありがたい」、「せっかくだから新しい仕事にも挑戦したい」、「希望の職に就いて、子どもに生き生きと働く姿を見せたい」と語っていた。

 出産により再び就職活動をせざるを得なくなった女性たち。例えば県内の企業が時短勤務や在宅勤務などを積極的に取り入れ、彼女たちが退職(再就職)しなくてもいい労働環境を整えることで、女性の転出超過の状況も改善されるのではないか。

 一方で伊達市に移住した女性は、女性を取り巻く環境についてこんな〝本音〟を打ち明ける。

 「女性同士で情報交換したいと思い、いろいろ働きかけたが、なかなか親密になれず孤独感を抱きました。都市部の個人主義的な面と、地方特有の閉鎖的な面を備えている印象です。求人を見ると『こんな給料で生活していけるの!?』という労働条件。緑が多く子育てしやすい環境と言われるが、子どもたちが外で遊んでいる姿は見ないし、学力テストの結果は低い。正直、他地域より暮らしにくい場所だと感じていますよ」

 女性が置かれている環境を根本的に変えなければ、移住者も定着せず、人口減少も加速するということだ。

 12月3日に東京で開かれた国際女性会議「WAW!2022」では県内の女性が出席し、地方の現状を発表したほか、県男女共生センター(二本松市)にサテライト会場が設けられ、遠隔で意見を述べた。地元女性や専門家、地元企業の管理職などを交えたパネルディスカッションも開催された。

 同センターの千葉悦子館長(福島大学名誉教授)は「女性に限らず、結婚したい人、したくない人、多様な生き方が受容される社会にしていくことが大事だと思います。イベントや当センター主催の講座などを通して〝気づき〟の機会を作り、地道に変えていくしかない」と語る。

少子化対策の失敗

 前出・東北活性化研究センターが運営している「TOHOKU MIRAI+」というウェブサイトに昨年7月、福島市で開かれたフォーラムの動画と文字起こししたリポートが掲載されている。

 同フォーラムで行われた講演で、ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さんは経営者や自治体職員に対し厳しい言葉で問題提起した。

 《福島県の出生数は1970~2020年の50年間で63%減》

 《この理由は、県内から出ていった女性の産むはずだった子どもが生まれていないからです》

 《「子育て世帯誘致」とよく言いますが、年齢層別の社会減をみると、統計的に子育て世代に当たるアラサー世帯の増減は全体からすると殆ど影響しない》

 《少子化対策や地方創生政策において「福島県に留まる既婚女性」のイメージしか持てないというアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があった》

 《福島県の少子化対策、福島県の地方創生政策において、20代女性の就業問題、就職問題がメインになったことはあったでしょうか。何より、皆さまがこの課題に対して問題提起、本気の取り組みをしたことはあったでしょうか》

 女性の働く環境を考え改善することは地方創生、人口増加に直結する。天野さんの言葉を重く受け止め、まずは女性の声を聞き、意識を変えていくことから始める必要がある。県や市町村には、そのけん引役としての役割が期待される。

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