老舗ホテルが経営破綻する一方で、大手チェーンのホテルが進出するなどホテルをめぐる動きが活発な福島市の中心市街地。その背景には、仙台市の影響もあるようだ。
新幹線で30分の立地に大手が熱視線!?

本誌10月号で「同業他社にのみ込まれたホテル大亀」という記事を掲載した。
JR福島駅近くに立地するザ・ホテル大亀が9月3日に事業を停止し、破産申請の準備に入った。1921年に創業したうなぎ割烹の㈱大亀楼が前身で、1964年に福島駅前にホテルを新設、1986年に現在の建物を建設した。レストランも運営しており、ピーク時には売上高3億円以上を計上した。
だが、同業他社の進出や新型コロナの影響で、2021年12月期の売上高は8200万円まで落ち込んだ。コロナ禍がひと段落した2023年12月期は若干売上高が回復したものの、食材費の高騰が追い打ちをかけ、資金繰りが限界に達した。負債額は約4億8500万円。
記事では「ホテル業だけで負債が5億円近くになることはないと思う。レストランが足を引っ張っていたのか、人件費がきつかったのか」といった駅前のホテルの支配人の話を紹介しながら、破産の背景を探った。
その中で触れたのが、福島駅前にホテルが過剰と言えるほど進出している現状だ。西口には5つ、東口には7つのホテルがある。さらに東口では客室数294室の「ホテルルートインGrand福島駅前」が建設中だ。当初12月オープン予定となっていたが、あらためて公式ホームページを確認したところ、来年2月オープンに変更されていた。
同社ホームページによると、「ルートインGrand」は同ホテルグループの中でも「ワンランク上」のブランドに位置づけられており、客室やパブリックスペース、アメニティ、朝食など、通常のビジネスホテルより高品質なサービスを提供する。その分価格も通常の「ルートイン」より割り増しとなるようだ。
「落ち着いた雰囲気のところに泊まりたい」、「翌朝すぐ移動したいので駅前のホテルがいい」と考える宿泊者には人気を集めそうだが、同ホテルの目と鼻の先にある場所では今年2月に「福島リッチホテル東口駅前」が閉店したばかり。これだけホテルが集中しているエリアで思うように集客できるのか。
こうした疑問に対し、県内のある宿泊施設経営者は「福島市だけでなく仙台市からの宿泊需要も見込んでいると思います」と話す。
「インバウンド需要が好調なこともあって、仙台市のホテル需要は伸び続けており、イベントや有名アーティストのコンサートなどがある際には『ホテル難民』が出ることで知られている。そのためJR仙台駅周辺では相次いでホテルが開業していたが、大手ゼネコン関係者によると、そろそろ街なかは飽和状態で、建設用地もなくなりつつある。そこで業界関係者が目を付けたのが福島駅前です。新幹線を使えば仙台から30分もかからず移動できるし、飲食店も充実している。地価が高い仙台市でホテルに適した物件を探すより、比較的地価が安い福島駅前に絞った方が効率がいい。そうした建設側の事情もあり、福島駅前のホテル進出が盛んになっているようです」
要するに、ホテル競争が激化する仙台市の余波を受ける形で、大手チェーンが福島駅前に進出しているのではないか、と。
「仙台空港に近い利点も」
ホテル各社がどのように考えて福島市に進出しているかは分からないが、市内のあるホテルの支配人も「福島市が仙台市のサブ的な場所として捉えられているという見立ては概ね合っていると思う。今後はホテルの新規進出が相次ぐというよりも、既存ホテルを安く買い叩いて、リニューアルするのがポピュラーになっていくと考えられます」と語る。
「新幹線で2駅だし、車を使えば仙台空港まで1時間20分程度。空港までのリムジンバスを運行すれば一定数の空港利用者を取り込める余地はあると思います。仙台市と比べ福島市の宿泊料金は割安なので、リムジンバスを割安価格で提供することでさらに優位性を発揮できるはずです。もっとも、リムジンバスを定期的に割安価格で運行するためにはそれなりの経費がかかるので、行政などの支援が不可欠だし、福島市が仙台市・仙台空港に寄生する覚悟があるかどうかという点も重要になります。もっと言えば、こうした大胆な発想を福島市の各ホテルが持って実行できるかがポイントになるかもしれませんね」
観光庁が2月に発表した宿泊旅行統計調査の2023年年間値(速報値)によると、福島県のホテル稼働率は44・4%で全国42
位。宿泊施設タイプ別では、旅館は30・5%で39位、リゾートホテルは51・9%で20位、ビジネスホテルは58・2%で44位、シティホテルは54・1%で42位。福島市単体のデータは確認できなかったが、全県的に稼働率が低いことを考えると、仙台市から宿泊客を奪い取るぐらいのしたたかな姿勢が必要になるかもしれない。
市内では駅東口再開発のビル工事などにより、工事作業員の宿泊・飲食需要が高まると期待されていたが、計画見直しにより各ホテルはあてが外れた格好となった。物価高騰で厳しい経営を余儀なくされる中、大手チェーンのホテルが進出したことでさらに競争が激化する見通しだ。
市内の宿泊施設関係者はこのように分析する。
「『ホテルルートインGrand福島駅前』が進出することで、既存のホテルが大きな打撃を受けるのは間違いありません。小規模のホテルへの影響は少ないと思いますが、駅東口のビジネスホテルは軒並み影響を受けると思います。一方で、『ホテルルートインGrand福島駅前』としても、約300室の客室に宿泊客を入れ続けるのは簡単なことではないと思います」
飽和状態の中で淘汰されたザ・ホテル大亀の事例もあるだけに、既存のホテルは「ホテルルートインGrand福島駅前」の影響に戦々恐々としている。オープン予定の2月以降、宿泊客がどのように動くか、注視していく必要がありそうだ。