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  • 運営法人の怠慢が招いた小野町特養暴行死

     小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」で起きた傷害致死事件をめぐり、一審で懲役8年の判決を言い渡された同特養の元職員・冨沢伸一被告(42)は判決を不服として昨年12月5日付で控訴した。  地裁郡山支部で同11月に行われた裁判員裁判の模様は先月号「被害者の最期を語らなかった被告」をご覧いただきたいが、公判の行方と併せて注目されるのが同特養を運営する社会福祉法人「かがやき福祉会」の今後だ。  同福祉会に対しては、県と小野町が2022年12月以降に計7回の特別監査を実施。  町は昨年10月、介護保険法に基づき、同特養に今年4月まで6カ月間の新規利用者受け入れ停止処分を科し、同福祉会に改善勧告を出している。  《施設職員らへの聞き取りなどから、介護福祉士の職員(本誌注・冨沢被告)が入所者の腹部を圧迫する身体的虐待を行い、死亡させたと認定した。別の職員が入所者に怒鳴る心理的虐待も確認した。法人の予防策は一時的で介護を放棄の状態にあったとした》(福島民報昨年10月20日付より)  法人登記簿によると、かがやき福祉会(小野町)は2018年12月設立。資産総額1億6000万円。公表されている現況報告書(昨年4月現在)によると、理事長は山田正昭氏、理事は猪狩公宏、阿部京一、猪狩真典、斎藤升男、先﨑千吉子の各氏。資金収支内訳表を見ると、23年3月期は620万円の赤字。  「現在の理事体制で法人・施設の運営が改まるとは思えない」  と話すのは田村地域の特養ホームに詳しい事情通だ。  「職員の間では冨沢氏が問題人物であることは周知の事実だった。今回の傷害致死事件も、法人がきちんと対応していれば未然に防げた可能性が高かった」(同)  事情通によると、事件が起きる8カ月前の2022年2月、介護福祉士の資格を持つ職員6人が一斉に退職した。このうちの2人は、冨沢被告と同じユニットリーダーを務める施設の中心的職員だった。  6人が一斉に退職した理由は、法人が自分たちの進言を真摯に聞き入れようとしなかったことだった。  「冨沢氏が夜勤の翌日、入所者を風呂に入れると体にアザがついている事案が度々あり、職員たちは『このままでは死人が出る』と本気で心配していたそうです。理事に『冨沢氏を夜勤から外すべき』と意見を述べる職員もいたそうです。しかし、理事は『冨沢にはきちんと言い聞かせたから大丈夫だ』と深刻に受け止めなかった。こうした危機意識の無さに6人は呆れ、抗議の意味も込めて一斉に退職したのです」(同)  有資格者がごっそりいなくなれば運営はきつくなるが、後任者の補充は上手くいかなかった。こうした中で、他の入所者にも暴力を振るっていた疑いのある冨沢被告が人手不足による忙しさから暴力をエスカレートさせ、今回の悲劇につながった可能性は大いに考えられる。  「法人に理事を刷新する雰囲気は全くない。亡くなった植田タミ子さんを当初『老衰』と診断した嘱託医もそのまま勤務している。変わったことと言えば昨年夏、ケアマネージャーの女性に事件の責任を負わせ辞めさせたことくらい。しかし、そのケアマネは『なぜ私なのか』と猛反発していたそうです」(同)  山田理事長は町から改善勧告を受けた際、マスコミに「全てを真摯に受け止め、職員一丸で信頼回復に努める」とコメントしたが、職員の進言を聞き入れず、冨沢被告の素行を見て見ぬふりをした理事を刷新しなければ信頼回復は難しいし、入所者の家族も安心して施設に預けられないのではないか。 ※かがやき福祉会に今後の運営について尋ねたところ「行政の指導に従って運営していく。理事変更の話は出ていない」(担当者)とコメントした。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人 小野町「特養暴行死」裁判リポート【つつじの里】

  • 【小野町】村上昭正町長インタビュー(2024.2)

    【小野町】村上昭正町長インタビュー(2024.2)

     1955年生まれ。日大東北工業(現・日大東北)高卒。2004年から小野町議を4期務め、その間、議長を歴任。2021年3月の町長選で初当選。 健康で安心して生活できる町を目指す。  ――間もなく県道36号小野―富岡間が全線開通します。  「全線開通により双葉郡へのアクセスの利便性が増し、小野ICは双葉郡と県中、県南を結ぶ交通の要衝となることから、その優位性を生かしたまちづくりに取り組みます。人、物、情報を還流させ、関係人口や交流人口を増やすため、小野IC周辺近くの国道349号沿いに新庁舎の建設を計画しています。また、防災拠点やターミナル的な物流関係施設、さらには大規模店舗などの誘致活動を進めていこうと考えています。さらに、小野高校が数年後には統合されますので、現在、空き校舎や施設の有効活用などの検討を進めていますが、ICからの導線も考える必要があり、街中の活性化も含めた『(仮称)インターチェンジ未来タウン構想』を策定しているところです」  ――いまお話にあった新庁舎整備について。  「令和9年の開庁に向けて計画を進めており、今年度内に用地交渉を終え、来年度に基本設計に取り掛かる予定です。新庁舎は、防災機能や保健センター機能を併せ持つ複合施設となります。災害時には、防災機能を集約した防災管理室で災害対応にあたるほか、町民の皆さんの避難所となるような設備の充実も図ります。さらに、新庁舎周辺に消防署小野分署や防災公園を設置することで、防災機能の強化を図りたいと考えています」  ――児童館の建設を進めています。  「少子化が進む中、未来を担う子どもたちの健全な育成は、重要な政策課題と捉えています。そのため、廃園となった保育園・幼稚園の跡地に、子どもの活動場所として児童クラブや放課後子ども教室、一時預かり保育などの機能を備えた『(仮称)おのまち児童館』の建設を進めており、令和7年度の開所を目指しています。子どもの安全な遊び場の整備に加え、子ども食堂なども開設することとしており、保護者の皆様からは大きな期待が寄せられています」  ――今後の抱負。  「町の現状をしっかり捉え、持続可能なまちづくりを町民の皆様と進めていきます。また、後継者不足などから農業離れが顕著になっており、農林業改革は待ったなしです。耕作放棄地の活用策について、大学機関やJAなどの協力を得て検討していくほか、新規就農者や研修制度の充実を図り、農家民泊や農家レストランなどの副業についての研究にも取り組みます。そのほか、起業家育成の支援体制整備、外国人との多文化共生の推進、発酵のまちづくりなどにも取り組みます。現在住んでいる方々が、健康で安心して生活できる町を目指し、あらゆる政策を講じていきます」

  • 小野町「特養暴行死」裁判リポート【つつじの里】

    小野町「特養暴行死」裁判リポート【つつじの里】

     小野町の特別養護老人ホームで昨年10月、入所者の94歳女性に暴行を加え死なせたとして傷害致死罪に問われていた元介護福祉士の男の裁判員裁判で、地裁郡山支部は懲役8年(求刑懲役8年)を言い渡した。男は「暴行はしていない」と無罪を主張。裁判とは別に特別監査をした町や県は、死亡原因を暴行と結論付けていた。裁判所は司法解剖の結果や男の暴行以外に死亡する可能性があり得ないことを認定し、有罪となった。法廷で男は、死亡した女性の息子から代理人を通じて「介護士として母の死に思うことはあるか」と問われ、「分からない」や無言を貫き通した。 被害者の最期を語らなかった被告 冨沢伸一被告 特別養護老人ホーム「つつじの里」  事件は昨年10月8日夜から翌9日早朝までの間に発生。小野町谷津作の特別養護老人ホーム「つつじの里」に勤める介護福祉士の冨沢伸一被告(42)=小野町字和名田下落合=が入所者の植田タミ子さん(当時94)を暴行の末、出血性ショックで死なせた。  発覚に至る経緯は次の通り。第一発見者の冨沢被告が同施設の看護師に連絡し、町内の嘱託医が「老衰」と診断、遺体を遺族に渡した。不審に思った施設関係者が警察に通報し、同11日に司法解剖を行った結果、下腹部など広範囲に複数のあざや皮下出血が見つかったことから、死因が外傷性の出血性ショックに変わった。事件発生から2カ月後の同12月7日に冨沢被告は殺人容疑で逮捕。傷害致死罪に問われた。  事件発覚後の昨年12月以降、町は県と合同で同施設に特別監査を計7回実施し、冨沢被告が腹部を圧迫する身体的虐待を行い、死亡させたと認定していた。同施設を2024年4月18日まで6カ月間の新規利用者受け入れ停止の処分とした。特別監査では別の職員が入所者に怒鳴る心理的虐待も確認。同法人の予防策は一時的で、介護を放棄している状態にあったとした(10月20日付福島民報より)。  行政処分上は冨沢被告による暴行が認定されたが、刑罰を与えるのに必要な事実の証明はまた別で、立証のハードルはより高い。冨沢被告は地裁郡山支部で行われた裁判員裁判で「暴行はしていない」と無罪を主張。弁護側は植田さんが具体的にどのような方法でけがをして亡くなったかは明らかでなく、立証できない以上無罪と、裁判員に推定無罪の原則を強調した。  冨沢被告は高校卒業後に郡山市内の専門学校で介護を学び、卒業後に介護福祉士として複数の施設に勤務してきた。暴行死事件を起こしたつつじの里には、開所と同時期の2019年10月1日から働き始めた。つつじの里は全室個室で約10床ずつ三つのユニットに分かれ定員29床。社会福祉法人かがやき福祉会(小野町、山田正昭理事長)が運営する。 入所者が暴行死したつつじの里のユニット(同施設ホームページより)  冨沢被告は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーだった。事件が起こった夜は2人態勢で、冨沢被告は夕方4時から朝9時まで割り当てられたユニットを1人で担当した。  暴行死した植田さんは2021年6月に入所した。自力で立って歩くことが困難で、床に尻を付いて手の力を使って歩いたり、車椅子に乗ったりして移動していた。転倒してけがを防止するため床に敷いたマットレスに寝ていた。  植田さんは心臓にペースメーカーを入れていた。事件3日前も病院で診察を受けたが体調は良好で、事件当日は朝、昼、晩と完食していた。それだけに、一晩での死亡は急だった。この時間帯に異変を目撃できた人物は冨沢被告しかいない。以下は法廷で明かされた植田さんのペースメーカーの記録や居室前廊下のカメラ映像、同僚の証言を基に記述する。  事件があった昨年10月8日の午後3時半ごろ、冨沢被告が出勤する。植田さんを車椅子に乗せ食堂で夕食を食べさせた冨沢被告は、午後6時半ごろに居室に連れ帰った。9日午前0時20分ごろにペースメーカーが心電図を記録していた。心電図は波形の異常を検知した時だけ記録する仕組みになっていた。同4時38分に心電図の波が消失するまでの間に冨沢被告は2回、食堂に車椅子で運び、28回居室に入った。午前3時38分、冨沢被告は「顔色不良、BEエラー」と植田さんの容体の異常を日誌に記録。4時38分に心電図の波が消失後、施設の准看護士に電話で相談した。准看護士は「俺もうダメかも知れない」との発言を聞いた。  同5時14分には別のユニットに勤務していた同僚に報告。さらに別の同僚は、冨沢被告から「警察に捕まってしまうかもしれない」と言われたという。 指さした先にいた犯人  施設の嘱託医は「老衰」と診断した。不審に思った施設関係者が警察に通報し、事件の発覚に至った。通報があったということは、冨沢被告は疑われていたということだ。裁判には施設の介護士が出廷し、昨年春ごろに植田さんの手の甲にあざがあり、虐待を疑って施設に報告していたことを証言した。  この介護士が入所者や職員が集まる食堂で植田さんの手の甲を見ると、大きなあざがあったという。口ごもる植田さんに「どうしたの」と問うとしばらく答えなかった後、「自分ではやっていない」。そして「やられた」と言った。「誰に」と問うと「男」。ちょうど食堂に男性職員2人が入ってきた。「あそこにいるか」と問うと「いない」。冨沢被告が入ってきた。介護士は同じように植田さんに聞いたが怖がっている様子で、それ以上話そうとしなかった。植田さんに介護士自身の手を持たせ、けがをさせた人物を指すように言うと冨沢被告を指した。介護士はすぐに上司に報告した。  本誌1月号「容疑者の素行を見過ごした運営法人」では、内情を知る人物の話として、2021年春ごろに冨沢被告が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかったこと、職員が冨沢被告の問題点を上司に告げても施設側は真摯に聞き入れず、冨沢被告に口頭注意するのみだったことを報じている。運営状況に嫌気を指した職員数人が一斉に退職したこともあったという。町と県の特別監査では、冨沢被告とは別の職員による心理的虐待があり、予防策がその場限りであったことを認定した。  運営法人が冨沢被告ら職員による虐待の報告を放置していたことが今回の暴行死につながった。さらには嘱託医による「老衰診断」も重なり、通報がなければ事件が闇に葬られるところだった。  植田さんの親族4人は冨沢被告と施設運営者のかがやき福祉会に計約4975万円の損害賠償を求め、5月22日付で提訴している(福島民友11月7日付)。  傷害致死罪を問う裁判では植田さんの長男が厳罰を求める意見陳述をした。  《亡くなる3日前、母のために洋服を買いました。母は自分で選び、とても喜んで「ありがとう」と言いました。私たちは母にまた会うのを楽しみに別れました。そのやり取りが最後でした。10月9日、新しい服に腕を通すことなく亡くなりました。あんなに元気なのに信じられなかった。  天寿なのだと思い、信じられない気持ちを納得しようとしました。死んだ本当の原因を聞いた時は今まで感じたことのない怒りと憎しみで胸がいっぱいでした。信じていた介護士に暴力を振るわれて亡くなった。遺体を見ると足の裏まであざ。見るに堪えません。母は被告人に殴られたり怒られたりするのが怖くて助けを求めることができなかったと思います。最後に会った時、私は母の手にあざを見つけどうしたのと聞きましたが、母は教えてくれませんでした。気づいていれば亡くなることはなかったのではと悔やみ申し訳なく思っています。  介護士はお年寄りに優しくし、できないことをできるように助けになるのが仕事ではないでしょうか。なぜ暴力を振るい母を殺めたのか。施設と介護士を信用していたのに、被告人は信頼を裏切って助けを求められない母を殺めた。母は助けとなるべき介護士に絶望し、苦しみながら死んだ。私たち家族は被告人を到底許すことはできません。できうる限りの重い刑罰を求めます。できるなら生前の元気な母にもう一度会いたい》 「亡くなったことはショック」  法廷で遺族は弁護士を通じて、冨沢被告に質問した。その答えは「分からない」や無言が多かった。傍聴席からは植田さんの写真が見守っていた。 遺族代理人「植田さんはなぜ亡くなったと思う?」 冨沢被告「詳しくは分からない」 遺族代理人「事故で亡くなったとか具体的なことは分かるか」 冨沢被告「転倒はしていないと思う。それ以外は分からない」 遺族代理人「介護を担当していた時間に何かが起こって亡くなったのは間違いないか」 冨沢被告「はい」 遺族代理人「自分が担当していた時間に植田さんが亡くなったことについて思うことはあるか」 冨沢被告「分からない」 遺族代理人「分からないというのは自分の気持ちが?」 冨沢被告「思い当たる件がです」 遺族代理人「今聞いているのは亡くなった原因ではなく、あなたの感情についてです」 冨沢被告「亡くなったことについてショックを受けている」 遺族代理人「担当中に亡くなったわけで、監督が足りないと思うことはあったか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「午前3時半ごろ容体が急変した。救急車や看護師を呼ばなかったことに後悔はなかったか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「分からないんですね。遺族に申し上げたいことはあるか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「特にはないということですか」 冨沢被告「はい」  自らに不利益なことを証言しない権利はある。だが、亡くなった植田さんの最も近くにいて、その容体を把握していたのは冨沢被告しかいない。判決が出た後、被害者の最期を何らかの形で遺族に伝えるのが介護士としての責務ではないか。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

  • 【小野町】村上昭正町長インタビュー

    【小野町】村上昭正町長インタビュー

    むらかみ・てるまさ 1955年生まれ。日大東北工業(現・日大東北)高卒。2004年から小野町議を4期務め、その間、議長を歴任。2021年3月の町長選で初当選。  ――新型コロナウイルスの影響について。 「医療機関や福祉施設でのクラスターの発生、地域経済の停滞など、さまざまな面で影響がありましたが、感染対策徹底に向けた広報活動や事業者支援などの経済対策により、町民の安全・安心と経済活動の維持に取り組んできました。一方で、コロナ禍の中、町民の皆さんに少しでも笑顔を取り戻してもらうため、昨年10月には感染対策を徹底したうえで3年ぶりに『ふれあいフェスタ』を開催し、さらに今年1月には20歳の集いを催したところです。新たな変異株発生など、まだまだ油断できない状況ではありますが、引き続き感染対策の徹底を図りながら、イベントの開催や観光客の誘客などにより、町のにぎわいを取り戻していきたいと考えています」 ――昨年には認定こども園が開園しました。 「町として初の公私連携幼保型認定こども園となりますが、保護者の皆さんに安心と信頼をいただけるよう、当面は町職員の派遣を行うとともに、子育て担当課との定期的な打ち合わせの実施などさまざまな連携を行い、お子さんが心豊かにたくましく成長できるよう支援していきます」 ――町民の健康増進の取り組みについて。 「昨年は、ウオーキングコースマップの作成や『ふれあいフェスタ』での健康関連ブースの設置などに取り組みましたが、今年は健康と食を融合させたイベントの開催を検討しています。また、新たなウオーキングコースマップの作成や運動器具の増設、健康づくり講演会の開催など、健康増進に向けた意識の醸成に取り組んでいきます」 ――地域連携の強化について。 「田村地方において、さまざまな連携をしていますが、特に観光面では、田村地方の観光協会の連絡協議会が発足する運びとなっているので、今までとは違う魅力的な観光PRが展開されることを期待しています。また、現在、ふくしま復興再生道路として県道吉間田滝根線の整備が進んでいますが、開通されれば、浜通りと中通りを結ぶ重要な路線となり、新たな地域間交流が期待されますので、双葉郡との地域連携についても検討していきたいと思います」 ――最後に今後の抱負を。 「地域の活性化です。人口減少と少子高齢化、さらに新型コロナウイルスの影響により、地域活動の維持が難しくなっています。地域づくり協議会の活用などによる新たな地域づくりに向けて、町民の皆さんの理解を得ながら将来に向けた改革を進めていきます。 また、昨年、JR東日本から磐越東線小野新町―いわき駅間において厳しい経営状況にあることが示されたところですが、生活や地域振興のうえで欠かせない路線ですので、田村地方はもちろん、いわき市や郡山市とも連携して存続を訴えていきたいと思います。さらに県立小野高校の統合が決定されましたが、その影響が最小限で済むよう、空き校舎を活用した地域振興対策などの検討を進めていきます。 地域の活性化には、移住人口や交流人口を増やしていく必要があります。空き家についてホームページ上で公開するなどして利活用を進めていくほか、町の魅力をさまざまなツールを活用して発信することで、町に少しでも興味を持ってくれる人を増やしていきたいと考えています」 小野町のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人『特別養護老人ホーム「つつじの里」』

    【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

    介護業界の人手不足が招いた悲劇  小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)を暴行・殺害したとして田村署小野分庁舎は12月7日、同施設の介護福祉士・冨沢伸一容疑者(41)を逮捕した。内情を知る人物によると、同施設では以前から容疑者に関する問題点が上司に告げられていたが、きちんとした対応が行われていなかったようだ。事件を受けて行われた県と同町の特別監査でも、運営状況に問題が見つかった。 *脱稿時点で冨沢容疑者は起訴されていないため、 この稿では「容疑者」と表記する  「つつじの里」は2019年9月に開所。全室個室・ユニット型で定員29床。同施設を運営するのは社会福祉法人かがやき福祉会(小野町谷津作、山田正昭理事長)。 冨沢容疑者(同施設のホームページより) 事件が起きた「つつじの里」  事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。  昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。  第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。  冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。  「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」  そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。  「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)  報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。  「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)  そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。  タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。  「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)  その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。  原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。  母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。  「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」  逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。  最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。  これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。  主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。  「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)  タミ子さんは2021年6月に同施設に入所。だが、新型コロナウイルスの影響で入所者以外は施設内に立ち入ることができず、芳松さんも着替えなどを届けるため入口で職員に荷物を手渡す程度しか同施設に近付いたことはなかった。タミ子さんと会えるのは、入所の原因となった脚の骨折やペースメーカーの検査で定期的に通院・入院する時の付き添いだった。その際、同施設から病院にタミ子さんを送迎していたのが冨沢容疑者とみられる。「みられる」と表記したのは、  「施設内に入れないので、どの職員が母の世話をしているのか分からなかった。事件後、新聞に載った冨沢容疑者の写真を見て『確か病院に送迎していた人だ』と思い出した。名前も報道で初めて知った」(同) 告げられていた問題点  冨沢容疑者とはどのような人物なのか。  同町内にある冨沢容疑者の自宅を訪ねると、玄関先で女性から「何も分からないんで」と言われた。部屋の奥からは高齢男性の「うちは関係ないぞ」という声も聞かれた。  同施設がマスコミ取材に語ったところでは、冨沢容疑者は開所時から介護福祉士として勤務。事件当時は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーに就いていた。  同施設は冨沢容疑者を「物静かでおとなしく真面目だった」「勤務態度に問題はなく、入所者とのコミュニケーションも取れていた」と評している。だが、内情を知る人物はこれとは違った一面を指摘する。  「『つつじの里』に来る前に数カ所の介護施設で勤務経験があるが、そのうち何カ所かで問題を起こし辞めたと聞いている。『つつじの里』に勤務する際、採用担当者は『こういう人を雇って大丈夫か』と心配したそうだが、運営法人幹部のコネが効いて採用が決まったという」  これが事実なら、冨沢容疑者には事件を起こすかもしれない素地があったことになる。さらに言うと、タミ子さんが亡くなった直後に施設関係者がすぐに警察に通報したということは、内部で問題人物と見なされていた、と。  実際、2021年春ごろには冨沢容疑者が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかった。当時の内部調査に、冨沢容疑者は「車いすに乗せる際に力が入ってしまった。虐待ではない」と説明したが、  「職員たちはその後、冨沢容疑者に関する問題点を上司らに告げていた。しかし、施設側は真摯に聞き入れず、冨沢容疑者に口頭で注意するだけだったそうです」(同)  昨年春には、そんな運営状況に嫌気を差した職員数人が一斉に退職したこともあったという。  「辞めた職員からは『問題点を指摘しても、上層部がそれをどの程度深刻に受け止めたか分からない』という不満が漏れていた」(同)  施設顧問とは、事件後に取材対応などを行っている阿部京一氏のことだ。阿部氏は小野町の元職員で、大和田昭前町長時代には副町長を務めていた。しかし、2021年3月に行われた町長選で大和田氏が現町長の村上昭正氏に敗れると副町長を辞職。その後就職したのが、同年9月に開所した「つつじの里」だった。  阿部氏は同町職員時代、健康福祉課に勤務したことがあるが、専門知識や現場経験を豊富に備えていたかというと疑問が残る。そうした心許なさが、職員から問題点を指摘されても深刻に受け止め切れない原因になったのかもしれない。ちなみに、運営法人理事長の山田正昭氏も元政治家秘書。  施設側の対応のマズさという点では、本誌が芳松さんを取材した12月中旬時点で、同施設は遺族に事件に関する説明をしていなかった。まだ容疑者の段階で、犯人と断定されたわけではないとはいえ、でき得る範囲での説明や謝罪は行うべきではなかったか。芳松さんの義母はタミ子さんと同い年で、昨年夏に別の施設で亡くなったが、この時施設側から受けた温かみのある対応との差も同施設への不信感を増幅させている。  今回の事件を受け、同町は12月16日、県と合同で同施設に特別監査を行った。同町総務課によると、本来はもっと早く行う予定だったが、同施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、後ろ倒しになった。  社会福祉法人に対する指導監査には一般監査と特別監査がある。一般監査は実施計画を策定したうえで一定の周期で行われる。これに対し特別監査は、運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時行われる。  特別監査が行われると、対象法人に改善勧告が出され、勧告に従わないと行政処分に当たる改善命令、業務停止命令、それでも従わないと最も重い解散命令が科される。  「特別監査では施設内でどのような生活を送っているか、虐待や拘束を受けていないかなどを入所者から直接聞き取ります。書類や記録簿などもチェックし、専門家の意見を仰ぎます。町は介護保険法、県は老人福祉法の観点から調査します。改善勧告の時期は明言できないが、多くの町民が心配しているので早急に結論を出したい」(同町総務課) 規定より少なかった職員数  そして行われた特別監査では《入所者の虐待防止のための研修は行われていたものの、対面での研修はなく、書類を回覧するだけで済ませていた》《施設の規定では職員数は14人以上必要としていたが、現時点では10人だけで入所者に十分なサービスを提供できていない可能性があることもわかった》(朝日新聞デジタル版12月18日付)として、県と同町は同施設に対し虐待防止研修の強化や職員の増員を指導した。  同施設に取材を申し込むと、運営法人から「施設顧問に対応させる」と言われたが、締め切りまでに阿部氏から連絡はなかった。  介護業界は重労働なのに低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。同施設も運営規定で職員14人以上を適正規模と謳っているが、実際は10人しかいなかった。  求人を出しても募集は来ない。今の給料より高い求人があると、職員は即移籍してしまう。そうなると素行に問題のある職員でも、人手の充足を優先し、雇用が継続されてしまう実態がある。その結果、トラブルが起こり、余計に人手不足になる悪循環に陥っている。  すなわち今回の事件は、介護業界の弊害が招いたものと言える。  前出・芳松さんは「誰もが特別養護老人ホームを利用する可能性がある。高齢化が進む社会にとって必要不可欠な施設を安心・安全に利用できるよう事件の原因究明と再発防止策が求められる」と指摘するが、まさしくその通りだ。 あわせて読みたい 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

  • 運営法人の怠慢が招いた小野町特養暴行死

     小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」で起きた傷害致死事件をめぐり、一審で懲役8年の判決を言い渡された同特養の元職員・冨沢伸一被告(42)は判決を不服として昨年12月5日付で控訴した。  地裁郡山支部で同11月に行われた裁判員裁判の模様は先月号「被害者の最期を語らなかった被告」をご覧いただきたいが、公判の行方と併せて注目されるのが同特養を運営する社会福祉法人「かがやき福祉会」の今後だ。  同福祉会に対しては、県と小野町が2022年12月以降に計7回の特別監査を実施。  町は昨年10月、介護保険法に基づき、同特養に今年4月まで6カ月間の新規利用者受け入れ停止処分を科し、同福祉会に改善勧告を出している。  《施設職員らへの聞き取りなどから、介護福祉士の職員(本誌注・冨沢被告)が入所者の腹部を圧迫する身体的虐待を行い、死亡させたと認定した。別の職員が入所者に怒鳴る心理的虐待も確認した。法人の予防策は一時的で介護を放棄の状態にあったとした》(福島民報昨年10月20日付より)  法人登記簿によると、かがやき福祉会(小野町)は2018年12月設立。資産総額1億6000万円。公表されている現況報告書(昨年4月現在)によると、理事長は山田正昭氏、理事は猪狩公宏、阿部京一、猪狩真典、斎藤升男、先﨑千吉子の各氏。資金収支内訳表を見ると、23年3月期は620万円の赤字。  「現在の理事体制で法人・施設の運営が改まるとは思えない」  と話すのは田村地域の特養ホームに詳しい事情通だ。  「職員の間では冨沢氏が問題人物であることは周知の事実だった。今回の傷害致死事件も、法人がきちんと対応していれば未然に防げた可能性が高かった」(同)  事情通によると、事件が起きる8カ月前の2022年2月、介護福祉士の資格を持つ職員6人が一斉に退職した。このうちの2人は、冨沢被告と同じユニットリーダーを務める施設の中心的職員だった。  6人が一斉に退職した理由は、法人が自分たちの進言を真摯に聞き入れようとしなかったことだった。  「冨沢氏が夜勤の翌日、入所者を風呂に入れると体にアザがついている事案が度々あり、職員たちは『このままでは死人が出る』と本気で心配していたそうです。理事に『冨沢氏を夜勤から外すべき』と意見を述べる職員もいたそうです。しかし、理事は『冨沢にはきちんと言い聞かせたから大丈夫だ』と深刻に受け止めなかった。こうした危機意識の無さに6人は呆れ、抗議の意味も込めて一斉に退職したのです」(同)  有資格者がごっそりいなくなれば運営はきつくなるが、後任者の補充は上手くいかなかった。こうした中で、他の入所者にも暴力を振るっていた疑いのある冨沢被告が人手不足による忙しさから暴力をエスカレートさせ、今回の悲劇につながった可能性は大いに考えられる。  「法人に理事を刷新する雰囲気は全くない。亡くなった植田タミ子さんを当初『老衰』と診断した嘱託医もそのまま勤務している。変わったことと言えば昨年夏、ケアマネージャーの女性に事件の責任を負わせ辞めさせたことくらい。しかし、そのケアマネは『なぜ私なのか』と猛反発していたそうです」(同)  山田理事長は町から改善勧告を受けた際、マスコミに「全てを真摯に受け止め、職員一丸で信頼回復に努める」とコメントしたが、職員の進言を聞き入れず、冨沢被告の素行を見て見ぬふりをした理事を刷新しなければ信頼回復は難しいし、入所者の家族も安心して施設に預けられないのではないか。 ※かがやき福祉会に今後の運営について尋ねたところ「行政の指導に従って運営していく。理事変更の話は出ていない」(担当者)とコメントした。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人 小野町「特養暴行死」裁判リポート【つつじの里】

  • 【小野町】村上昭正町長インタビュー(2024.2)

     1955年生まれ。日大東北工業(現・日大東北)高卒。2004年から小野町議を4期務め、その間、議長を歴任。2021年3月の町長選で初当選。 健康で安心して生活できる町を目指す。  ――間もなく県道36号小野―富岡間が全線開通します。  「全線開通により双葉郡へのアクセスの利便性が増し、小野ICは双葉郡と県中、県南を結ぶ交通の要衝となることから、その優位性を生かしたまちづくりに取り組みます。人、物、情報を還流させ、関係人口や交流人口を増やすため、小野IC周辺近くの国道349号沿いに新庁舎の建設を計画しています。また、防災拠点やターミナル的な物流関係施設、さらには大規模店舗などの誘致活動を進めていこうと考えています。さらに、小野高校が数年後には統合されますので、現在、空き校舎や施設の有効活用などの検討を進めていますが、ICからの導線も考える必要があり、街中の活性化も含めた『(仮称)インターチェンジ未来タウン構想』を策定しているところです」  ――いまお話にあった新庁舎整備について。  「令和9年の開庁に向けて計画を進めており、今年度内に用地交渉を終え、来年度に基本設計に取り掛かる予定です。新庁舎は、防災機能や保健センター機能を併せ持つ複合施設となります。災害時には、防災機能を集約した防災管理室で災害対応にあたるほか、町民の皆さんの避難所となるような設備の充実も図ります。さらに、新庁舎周辺に消防署小野分署や防災公園を設置することで、防災機能の強化を図りたいと考えています」  ――児童館の建設を進めています。  「少子化が進む中、未来を担う子どもたちの健全な育成は、重要な政策課題と捉えています。そのため、廃園となった保育園・幼稚園の跡地に、子どもの活動場所として児童クラブや放課後子ども教室、一時預かり保育などの機能を備えた『(仮称)おのまち児童館』の建設を進めており、令和7年度の開所を目指しています。子どもの安全な遊び場の整備に加え、子ども食堂なども開設することとしており、保護者の皆様からは大きな期待が寄せられています」  ――今後の抱負。  「町の現状をしっかり捉え、持続可能なまちづくりを町民の皆様と進めていきます。また、後継者不足などから農業離れが顕著になっており、農林業改革は待ったなしです。耕作放棄地の活用策について、大学機関やJAなどの協力を得て検討していくほか、新規就農者や研修制度の充実を図り、農家民泊や農家レストランなどの副業についての研究にも取り組みます。そのほか、起業家育成の支援体制整備、外国人との多文化共生の推進、発酵のまちづくりなどにも取り組みます。現在住んでいる方々が、健康で安心して生活できる町を目指し、あらゆる政策を講じていきます」

  • 小野町「特養暴行死」裁判リポート【つつじの里】

     小野町の特別養護老人ホームで昨年10月、入所者の94歳女性に暴行を加え死なせたとして傷害致死罪に問われていた元介護福祉士の男の裁判員裁判で、地裁郡山支部は懲役8年(求刑懲役8年)を言い渡した。男は「暴行はしていない」と無罪を主張。裁判とは別に特別監査をした町や県は、死亡原因を暴行と結論付けていた。裁判所は司法解剖の結果や男の暴行以外に死亡する可能性があり得ないことを認定し、有罪となった。法廷で男は、死亡した女性の息子から代理人を通じて「介護士として母の死に思うことはあるか」と問われ、「分からない」や無言を貫き通した。 被害者の最期を語らなかった被告 冨沢伸一被告 特別養護老人ホーム「つつじの里」  事件は昨年10月8日夜から翌9日早朝までの間に発生。小野町谷津作の特別養護老人ホーム「つつじの里」に勤める介護福祉士の冨沢伸一被告(42)=小野町字和名田下落合=が入所者の植田タミ子さん(当時94)を暴行の末、出血性ショックで死なせた。  発覚に至る経緯は次の通り。第一発見者の冨沢被告が同施設の看護師に連絡し、町内の嘱託医が「老衰」と診断、遺体を遺族に渡した。不審に思った施設関係者が警察に通報し、同11日に司法解剖を行った結果、下腹部など広範囲に複数のあざや皮下出血が見つかったことから、死因が外傷性の出血性ショックに変わった。事件発生から2カ月後の同12月7日に冨沢被告は殺人容疑で逮捕。傷害致死罪に問われた。  事件発覚後の昨年12月以降、町は県と合同で同施設に特別監査を計7回実施し、冨沢被告が腹部を圧迫する身体的虐待を行い、死亡させたと認定していた。同施設を2024年4月18日まで6カ月間の新規利用者受け入れ停止の処分とした。特別監査では別の職員が入所者に怒鳴る心理的虐待も確認。同法人の予防策は一時的で、介護を放棄している状態にあったとした(10月20日付福島民報より)。  行政処分上は冨沢被告による暴行が認定されたが、刑罰を与えるのに必要な事実の証明はまた別で、立証のハードルはより高い。冨沢被告は地裁郡山支部で行われた裁判員裁判で「暴行はしていない」と無罪を主張。弁護側は植田さんが具体的にどのような方法でけがをして亡くなったかは明らかでなく、立証できない以上無罪と、裁判員に推定無罪の原則を強調した。  冨沢被告は高校卒業後に郡山市内の専門学校で介護を学び、卒業後に介護福祉士として複数の施設に勤務してきた。暴行死事件を起こしたつつじの里には、開所と同時期の2019年10月1日から働き始めた。つつじの里は全室個室で約10床ずつ三つのユニットに分かれ定員29床。社会福祉法人かがやき福祉会(小野町、山田正昭理事長)が運営する。 入所者が暴行死したつつじの里のユニット(同施設ホームページより)  冨沢被告は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーだった。事件が起こった夜は2人態勢で、冨沢被告は夕方4時から朝9時まで割り当てられたユニットを1人で担当した。  暴行死した植田さんは2021年6月に入所した。自力で立って歩くことが困難で、床に尻を付いて手の力を使って歩いたり、車椅子に乗ったりして移動していた。転倒してけがを防止するため床に敷いたマットレスに寝ていた。  植田さんは心臓にペースメーカーを入れていた。事件3日前も病院で診察を受けたが体調は良好で、事件当日は朝、昼、晩と完食していた。それだけに、一晩での死亡は急だった。この時間帯に異変を目撃できた人物は冨沢被告しかいない。以下は法廷で明かされた植田さんのペースメーカーの記録や居室前廊下のカメラ映像、同僚の証言を基に記述する。  事件があった昨年10月8日の午後3時半ごろ、冨沢被告が出勤する。植田さんを車椅子に乗せ食堂で夕食を食べさせた冨沢被告は、午後6時半ごろに居室に連れ帰った。9日午前0時20分ごろにペースメーカーが心電図を記録していた。心電図は波形の異常を検知した時だけ記録する仕組みになっていた。同4時38分に心電図の波が消失するまでの間に冨沢被告は2回、食堂に車椅子で運び、28回居室に入った。午前3時38分、冨沢被告は「顔色不良、BEエラー」と植田さんの容体の異常を日誌に記録。4時38分に心電図の波が消失後、施設の准看護士に電話で相談した。准看護士は「俺もうダメかも知れない」との発言を聞いた。  同5時14分には別のユニットに勤務していた同僚に報告。さらに別の同僚は、冨沢被告から「警察に捕まってしまうかもしれない」と言われたという。 指さした先にいた犯人  施設の嘱託医は「老衰」と診断した。不審に思った施設関係者が警察に通報し、事件の発覚に至った。通報があったということは、冨沢被告は疑われていたということだ。裁判には施設の介護士が出廷し、昨年春ごろに植田さんの手の甲にあざがあり、虐待を疑って施設に報告していたことを証言した。  この介護士が入所者や職員が集まる食堂で植田さんの手の甲を見ると、大きなあざがあったという。口ごもる植田さんに「どうしたの」と問うとしばらく答えなかった後、「自分ではやっていない」。そして「やられた」と言った。「誰に」と問うと「男」。ちょうど食堂に男性職員2人が入ってきた。「あそこにいるか」と問うと「いない」。冨沢被告が入ってきた。介護士は同じように植田さんに聞いたが怖がっている様子で、それ以上話そうとしなかった。植田さんに介護士自身の手を持たせ、けがをさせた人物を指すように言うと冨沢被告を指した。介護士はすぐに上司に報告した。  本誌1月号「容疑者の素行を見過ごした運営法人」では、内情を知る人物の話として、2021年春ごろに冨沢被告が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかったこと、職員が冨沢被告の問題点を上司に告げても施設側は真摯に聞き入れず、冨沢被告に口頭注意するのみだったことを報じている。運営状況に嫌気を指した職員数人が一斉に退職したこともあったという。町と県の特別監査では、冨沢被告とは別の職員による心理的虐待があり、予防策がその場限りであったことを認定した。  運営法人が冨沢被告ら職員による虐待の報告を放置していたことが今回の暴行死につながった。さらには嘱託医による「老衰診断」も重なり、通報がなければ事件が闇に葬られるところだった。  植田さんの親族4人は冨沢被告と施設運営者のかがやき福祉会に計約4975万円の損害賠償を求め、5月22日付で提訴している(福島民友11月7日付)。  傷害致死罪を問う裁判では植田さんの長男が厳罰を求める意見陳述をした。  《亡くなる3日前、母のために洋服を買いました。母は自分で選び、とても喜んで「ありがとう」と言いました。私たちは母にまた会うのを楽しみに別れました。そのやり取りが最後でした。10月9日、新しい服に腕を通すことなく亡くなりました。あんなに元気なのに信じられなかった。  天寿なのだと思い、信じられない気持ちを納得しようとしました。死んだ本当の原因を聞いた時は今まで感じたことのない怒りと憎しみで胸がいっぱいでした。信じていた介護士に暴力を振るわれて亡くなった。遺体を見ると足の裏まであざ。見るに堪えません。母は被告人に殴られたり怒られたりするのが怖くて助けを求めることができなかったと思います。最後に会った時、私は母の手にあざを見つけどうしたのと聞きましたが、母は教えてくれませんでした。気づいていれば亡くなることはなかったのではと悔やみ申し訳なく思っています。  介護士はお年寄りに優しくし、できないことをできるように助けになるのが仕事ではないでしょうか。なぜ暴力を振るい母を殺めたのか。施設と介護士を信用していたのに、被告人は信頼を裏切って助けを求められない母を殺めた。母は助けとなるべき介護士に絶望し、苦しみながら死んだ。私たち家族は被告人を到底許すことはできません。できうる限りの重い刑罰を求めます。できるなら生前の元気な母にもう一度会いたい》 「亡くなったことはショック」  法廷で遺族は弁護士を通じて、冨沢被告に質問した。その答えは「分からない」や無言が多かった。傍聴席からは植田さんの写真が見守っていた。 遺族代理人「植田さんはなぜ亡くなったと思う?」 冨沢被告「詳しくは分からない」 遺族代理人「事故で亡くなったとか具体的なことは分かるか」 冨沢被告「転倒はしていないと思う。それ以外は分からない」 遺族代理人「介護を担当していた時間に何かが起こって亡くなったのは間違いないか」 冨沢被告「はい」 遺族代理人「自分が担当していた時間に植田さんが亡くなったことについて思うことはあるか」 冨沢被告「分からない」 遺族代理人「分からないというのは自分の気持ちが?」 冨沢被告「思い当たる件がです」 遺族代理人「今聞いているのは亡くなった原因ではなく、あなたの感情についてです」 冨沢被告「亡くなったことについてショックを受けている」 遺族代理人「担当中に亡くなったわけで、監督が足りないと思うことはあったか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「午前3時半ごろ容体が急変した。救急車や看護師を呼ばなかったことに後悔はなかったか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「分からないんですね。遺族に申し上げたいことはあるか」 冨沢被告「……」 遺族代理人「特にはないということですか」 冨沢被告「はい」  自らに不利益なことを証言しない権利はある。だが、亡くなった植田さんの最も近くにいて、その容体を把握していたのは冨沢被告しかいない。判決が出た後、被害者の最期を何らかの形で遺族に伝えるのが介護士としての責務ではないか。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

  • 【小野町】村上昭正町長インタビュー

    むらかみ・てるまさ 1955年生まれ。日大東北工業(現・日大東北)高卒。2004年から小野町議を4期務め、その間、議長を歴任。2021年3月の町長選で初当選。  ――新型コロナウイルスの影響について。 「医療機関や福祉施設でのクラスターの発生、地域経済の停滞など、さまざまな面で影響がありましたが、感染対策徹底に向けた広報活動や事業者支援などの経済対策により、町民の安全・安心と経済活動の維持に取り組んできました。一方で、コロナ禍の中、町民の皆さんに少しでも笑顔を取り戻してもらうため、昨年10月には感染対策を徹底したうえで3年ぶりに『ふれあいフェスタ』を開催し、さらに今年1月には20歳の集いを催したところです。新たな変異株発生など、まだまだ油断できない状況ではありますが、引き続き感染対策の徹底を図りながら、イベントの開催や観光客の誘客などにより、町のにぎわいを取り戻していきたいと考えています」 ――昨年には認定こども園が開園しました。 「町として初の公私連携幼保型認定こども園となりますが、保護者の皆さんに安心と信頼をいただけるよう、当面は町職員の派遣を行うとともに、子育て担当課との定期的な打ち合わせの実施などさまざまな連携を行い、お子さんが心豊かにたくましく成長できるよう支援していきます」 ――町民の健康増進の取り組みについて。 「昨年は、ウオーキングコースマップの作成や『ふれあいフェスタ』での健康関連ブースの設置などに取り組みましたが、今年は健康と食を融合させたイベントの開催を検討しています。また、新たなウオーキングコースマップの作成や運動器具の増設、健康づくり講演会の開催など、健康増進に向けた意識の醸成に取り組んでいきます」 ――地域連携の強化について。 「田村地方において、さまざまな連携をしていますが、特に観光面では、田村地方の観光協会の連絡協議会が発足する運びとなっているので、今までとは違う魅力的な観光PRが展開されることを期待しています。また、現在、ふくしま復興再生道路として県道吉間田滝根線の整備が進んでいますが、開通されれば、浜通りと中通りを結ぶ重要な路線となり、新たな地域間交流が期待されますので、双葉郡との地域連携についても検討していきたいと思います」 ――最後に今後の抱負を。 「地域の活性化です。人口減少と少子高齢化、さらに新型コロナウイルスの影響により、地域活動の維持が難しくなっています。地域づくり協議会の活用などによる新たな地域づくりに向けて、町民の皆さんの理解を得ながら将来に向けた改革を進めていきます。 また、昨年、JR東日本から磐越東線小野新町―いわき駅間において厳しい経営状況にあることが示されたところですが、生活や地域振興のうえで欠かせない路線ですので、田村地方はもちろん、いわき市や郡山市とも連携して存続を訴えていきたいと思います。さらに県立小野高校の統合が決定されましたが、その影響が最小限で済むよう、空き校舎を活用した地域振興対策などの検討を進めていきます。 地域の活性化には、移住人口や交流人口を増やしていく必要があります。空き家についてホームページ上で公開するなどして利活用を進めていくほか、町の魅力をさまざまなツールを活用して発信することで、町に少しでも興味を持ってくれる人を増やしていきたいと考えています」 小野町のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

    介護業界の人手不足が招いた悲劇  小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)を暴行・殺害したとして田村署小野分庁舎は12月7日、同施設の介護福祉士・冨沢伸一容疑者(41)を逮捕した。内情を知る人物によると、同施設では以前から容疑者に関する問題点が上司に告げられていたが、きちんとした対応が行われていなかったようだ。事件を受けて行われた県と同町の特別監査でも、運営状況に問題が見つかった。 *脱稿時点で冨沢容疑者は起訴されていないため、 この稿では「容疑者」と表記する  「つつじの里」は2019年9月に開所。全室個室・ユニット型で定員29床。同施設を運営するのは社会福祉法人かがやき福祉会(小野町谷津作、山田正昭理事長)。 冨沢容疑者(同施設のホームページより) 事件が起きた「つつじの里」  事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。  昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。  第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。  冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。  「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」  そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。  「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)  報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。  「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)  そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。  タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。  「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)  その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。  原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。  母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。  「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」  逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。  最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。  これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。  主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。  「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)  タミ子さんは2021年6月に同施設に入所。だが、新型コロナウイルスの影響で入所者以外は施設内に立ち入ることができず、芳松さんも着替えなどを届けるため入口で職員に荷物を手渡す程度しか同施設に近付いたことはなかった。タミ子さんと会えるのは、入所の原因となった脚の骨折やペースメーカーの検査で定期的に通院・入院する時の付き添いだった。その際、同施設から病院にタミ子さんを送迎していたのが冨沢容疑者とみられる。「みられる」と表記したのは、  「施設内に入れないので、どの職員が母の世話をしているのか分からなかった。事件後、新聞に載った冨沢容疑者の写真を見て『確か病院に送迎していた人だ』と思い出した。名前も報道で初めて知った」(同) 告げられていた問題点  冨沢容疑者とはどのような人物なのか。  同町内にある冨沢容疑者の自宅を訪ねると、玄関先で女性から「何も分からないんで」と言われた。部屋の奥からは高齢男性の「うちは関係ないぞ」という声も聞かれた。  同施設がマスコミ取材に語ったところでは、冨沢容疑者は開所時から介護福祉士として勤務。事件当時は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーに就いていた。  同施設は冨沢容疑者を「物静かでおとなしく真面目だった」「勤務態度に問題はなく、入所者とのコミュニケーションも取れていた」と評している。だが、内情を知る人物はこれとは違った一面を指摘する。  「『つつじの里』に来る前に数カ所の介護施設で勤務経験があるが、そのうち何カ所かで問題を起こし辞めたと聞いている。『つつじの里』に勤務する際、採用担当者は『こういう人を雇って大丈夫か』と心配したそうだが、運営法人幹部のコネが効いて採用が決まったという」  これが事実なら、冨沢容疑者には事件を起こすかもしれない素地があったことになる。さらに言うと、タミ子さんが亡くなった直後に施設関係者がすぐに警察に通報したということは、内部で問題人物と見なされていた、と。  実際、2021年春ごろには冨沢容疑者が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかった。当時の内部調査に、冨沢容疑者は「車いすに乗せる際に力が入ってしまった。虐待ではない」と説明したが、  「職員たちはその後、冨沢容疑者に関する問題点を上司らに告げていた。しかし、施設側は真摯に聞き入れず、冨沢容疑者に口頭で注意するだけだったそうです」(同)  昨年春には、そんな運営状況に嫌気を差した職員数人が一斉に退職したこともあったという。  「辞めた職員からは『問題点を指摘しても、上層部がそれをどの程度深刻に受け止めたか分からない』という不満が漏れていた」(同)  施設顧問とは、事件後に取材対応などを行っている阿部京一氏のことだ。阿部氏は小野町の元職員で、大和田昭前町長時代には副町長を務めていた。しかし、2021年3月に行われた町長選で大和田氏が現町長の村上昭正氏に敗れると副町長を辞職。その後就職したのが、同年9月に開所した「つつじの里」だった。  阿部氏は同町職員時代、健康福祉課に勤務したことがあるが、専門知識や現場経験を豊富に備えていたかというと疑問が残る。そうした心許なさが、職員から問題点を指摘されても深刻に受け止め切れない原因になったのかもしれない。ちなみに、運営法人理事長の山田正昭氏も元政治家秘書。  施設側の対応のマズさという点では、本誌が芳松さんを取材した12月中旬時点で、同施設は遺族に事件に関する説明をしていなかった。まだ容疑者の段階で、犯人と断定されたわけではないとはいえ、でき得る範囲での説明や謝罪は行うべきではなかったか。芳松さんの義母はタミ子さんと同い年で、昨年夏に別の施設で亡くなったが、この時施設側から受けた温かみのある対応との差も同施設への不信感を増幅させている。  今回の事件を受け、同町は12月16日、県と合同で同施設に特別監査を行った。同町総務課によると、本来はもっと早く行う予定だったが、同施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、後ろ倒しになった。  社会福祉法人に対する指導監査には一般監査と特別監査がある。一般監査は実施計画を策定したうえで一定の周期で行われる。これに対し特別監査は、運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時行われる。  特別監査が行われると、対象法人に改善勧告が出され、勧告に従わないと行政処分に当たる改善命令、業務停止命令、それでも従わないと最も重い解散命令が科される。  「特別監査では施設内でどのような生活を送っているか、虐待や拘束を受けていないかなどを入所者から直接聞き取ります。書類や記録簿などもチェックし、専門家の意見を仰ぎます。町は介護保険法、県は老人福祉法の観点から調査します。改善勧告の時期は明言できないが、多くの町民が心配しているので早急に結論を出したい」(同町総務課) 規定より少なかった職員数  そして行われた特別監査では《入所者の虐待防止のための研修は行われていたものの、対面での研修はなく、書類を回覧するだけで済ませていた》《施設の規定では職員数は14人以上必要としていたが、現時点では10人だけで入所者に十分なサービスを提供できていない可能性があることもわかった》(朝日新聞デジタル版12月18日付)として、県と同町は同施設に対し虐待防止研修の強化や職員の増員を指導した。  同施設に取材を申し込むと、運営法人から「施設顧問に対応させる」と言われたが、締め切りまでに阿部氏から連絡はなかった。  介護業界は重労働なのに低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。同施設も運営規定で職員14人以上を適正規模と謳っているが、実際は10人しかいなかった。  求人を出しても募集は来ない。今の給料より高い求人があると、職員は即移籍してしまう。そうなると素行に問題のある職員でも、人手の充足を優先し、雇用が継続されてしまう実態がある。その結果、トラブルが起こり、余計に人手不足になる悪循環に陥っている。  すなわち今回の事件は、介護業界の弊害が招いたものと言える。  前出・芳松さんは「誰もが特別養護老人ホームを利用する可能性がある。高齢化が進む社会にとって必要不可欠な施設を安心・安全に利用できるよう事件の原因究明と再発防止策が求められる」と指摘するが、まさしくその通りだ。 あわせて読みたい 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着