運営法人の怠慢が招いた小野町特養暴行死

 小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」で起きた傷害致死事件をめぐり、一審で懲役8年の判決を言い渡された同特養の元職員・冨沢伸一被告(42)は判決を不服として昨年12月5日付で控訴した。

 地裁郡山支部で同11月に行われた裁判員裁判の模様は先月号「被害者の最期を語らなかった被告」をご覧いただきたいが、公判の行方と併せて注目されるのが同特養を運営する社会福祉法人「かがやき福祉会」の今後だ。

 同福祉会に対しては、県と小野町が2022年12月以降に計7回の特別監査を実施。

 町は昨年10月、介護保険法に基づき、同特養に今年4月まで6カ月間の新規利用者受け入れ停止処分を科し、同福祉会に改善勧告を出している。

 《施設職員らへの聞き取りなどから、介護福祉士の職員(本誌注・冨沢被告)が入所者の腹部を圧迫する身体的虐待を行い、死亡させたと認定した。別の職員が入所者に怒鳴る心理的虐待も確認した。法人の予防策は一時的で介護を放棄の状態にあったとした》(福島民報昨年10月20日付より)

 法人登記簿によると、かがやき福祉会(小野町)は2018年12月設立。資産総額1億6000万円。公表されている現況報告書(昨年4月現在)によると、理事長は山田正昭氏、理事は猪狩公宏、阿部京一、猪狩真典、斎藤升男、先﨑千吉子の各氏。資金収支内訳表を見ると、23年3月期は620万円の赤字。

 「現在の理事体制で法人・施設の運営が改まるとは思えない」

 と話すのは田村地域の特養ホームに詳しい事情通だ。

 「職員の間では冨沢氏が問題人物であることは周知の事実だった。今回の傷害致死事件も、法人がきちんと対応していれば未然に防げた可能性が高かった」(同)

 事情通によると、事件が起きる8カ月前の2022年2月、介護福祉士の資格を持つ職員6人が一斉に退職した。このうちの2人は、冨沢被告と同じユニットリーダーを務める施設の中心的職員だった。

 6人が一斉に退職した理由は、法人が自分たちの進言を真摯に聞き入れようとしなかったことだった。

 「冨沢氏が夜勤の翌日、入所者を風呂に入れると体にアザがついている事案が度々あり、職員たちは『このままでは死人が出る』と本気で心配していたそうです。理事に『冨沢氏を夜勤から外すべき』と意見を述べる職員もいたそうです。しかし、理事は『冨沢にはきちんと言い聞かせたから大丈夫だ』と深刻に受け止めなかった。こうした危機意識の無さに6人は呆れ、抗議の意味も込めて一斉に退職したのです」(同)

 有資格者がごっそりいなくなれば運営はきつくなるが、後任者の補充は上手くいかなかった。こうした中で、他の入所者にも暴力を振るっていた疑いのある冨沢被告が人手不足による忙しさから暴力をエスカレートさせ、今回の悲劇につながった可能性は大いに考えられる。

 「法人に理事を刷新する雰囲気は全くない。亡くなった植田タミ子さんを当初『老衰』と診断した嘱託医もそのまま勤務している。変わったことと言えば昨年夏、ケアマネージャーの女性に事件の責任を負わせ辞めさせたことくらい。しかし、そのケアマネは『なぜ私なのか』と猛反発していたそうです」(同)

 山田理事長は町から改善勧告を受けた際、マスコミに「全てを真摯に受け止め、職員一丸で信頼回復に努める」とコメントしたが、職員の進言を聞き入れず、冨沢被告の素行を見て見ぬふりをした理事を刷新しなければ信頼回復は難しいし、入所者の家族も安心して施設に預けられないのではないか。

※かがやき福祉会に今後の運営について尋ねたところ「行政の指導に従って運営していく。理事変更の話は出ていない」(担当者)とコメントした。

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