石川町発注の道路工事の指名競争入札を巡り、地元業者に事前に予定価格を漏らしていたとして、県警捜査2課と石川署、郡山署、白河署は4月30日、官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の疑いで石川町長の塩田金次郎氏(76)を逮捕した。5月21日には、町発注の認定こども園用地造成入札でも予定価格を漏らしていたとして再逮捕された。同町では2006年にも町長が逮捕されており、繰り返される不祥事に町民は呆れている。事件の経緯と背景、町長選の動向などをリポートする。
塩田金次郎氏の逮捕容疑
県警、石川町役場を家宅捜索 pic.twitter.com/xS8PJPfXJf
— 月刊政経東北|多様化時代の福島を読み解く (@seikeitohoku) April 30, 2024
塩田金次郎氏の逮捕容疑は、2022年9月26日入札執行の町道116号道路改良工事に先立ち、予定価格を町内の土木会社・志賀建設(石川町)の社員らに教え、落札させた疑い。予定価格1262万4000円に対し、落札額1245万円で、落札率は98・62%(左頁の別表参照)。同社が2019年4月から昨年7月までに受注していた公共工事10件のうち8件が98%台だった。
【官製談合・入札妨害容疑の対象となった入札】町道116号線 道路改良工事(2022年9月26日入札) 予定価格=1262万4000円
応札業者 | 入札額(万円) | 落札率(%) |
㈱佐藤渡辺石川営業所 | 1260 | 99.8 |
㈱志賀建設 | 1245 | 98.62 |
水谷工業㈱ | 1250 | 99.01 |
4月30日6時30分ごろ、県警の捜査員が塩田氏の自宅を訪問し任意同行を求め、7時45分に郡山署で逮捕された。地元紙には任意同行の様子を収めた写真が掲載され、「2、3日前からマスコミが町内で張っていた」(ある町民)という声も聞こえるから、事前に情報がリークされていたのだろう。
同日、不正に入手した情報をもとに公正な入札を妨害したとして、志賀建設の元社員で無職関根徳夫氏(69)、同社元役員でコンサルタント業添田保雄氏(63)が公契約関係競売入札妨害の疑いで逮捕された。同社は先代社長の死去、息子への社長交代などが重なったが、その間、両氏が同社の入札業務を取り仕切っていた。
記者会見で記者らが細かく確認していたのは、予定価格が外部に漏洩する可能性だ。同町では入札の際、参加業者を会場に入れた後、別室で入札執行者の町長と課長らが予定価格を決定しているので漏洩は考えにくい。ただし、予定価格の基になる設計金額は入札の約1カ月前に決まっており、入札の決裁権者である町長は事前に知り得る立場にあった。
新聞報道によると、県警は昨年から内偵捜査を続け、関根、添田両氏に任意で事情聴取した際に携帯電話を押収。その通信記録やデータなどを解析し、事情聴取内容などと矛盾がないとして3人の逮捕状を請求した。関根、添田両氏は県警に事情を聞かれた後の昨年夏ごろ、「個人的な理由」で志賀建設を退職していた。
塩田氏は石川町出身。学法石川高卒、亜細亜大法学部中退。石川町議2期、県議4期を経て2018年の町長選で初当選し、2期目だった。エアポンプの製造・組み立てなどを手掛ける塩田工業の社長。資本金1000万円。
逮捕容疑となった道路改良工事の入札は再選を果たした町長選挙からわずか1カ月後に行われたもの。塩田氏と交流があった町民は「脇が甘いので、後援会をはじめ、知人・友人なども気をつけていたが、防ぎきれなかった」と語る。
一方で、自分にとって〝障害〟となる人物には冷酷な態度を取る一面があった。そのため、塩田氏に恨みを持つ人物が県警にリークしたのではないか、と見る向きもある。
いずれにしても黒いウワサが絶えなかったのは事実で、ある団体の代表者が国会議員と一緒に塩田氏を訪ねた際、町長室に入るやいなや小声で「カネ、持ってきたのかい?」と言われて仰天した――という逸話もあるほどだ。
町内で注目されていたのが、この間進められてきた3つの大規模事業だ。1つは逮捕前日の4月27日にオープンした総事業費約6億5000万円の町立歴史民俗資料館「イシニクル」。2つは12月開園に向けて現在園舎が建築されている町認定こども園。3つは2025年度中の開業を目指す道の駅。いずれも事業規模が大きく、受注を希望する業者も多かったため、不正の温床になるのではないかと警戒されていた。
そうしたところ、5月21日には認定こども園用地造成工事入札でも事前に予定価格と同額の設計金額を漏らしたとして、県警本部捜査2課などが官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の疑いで塩田氏を再逮捕した。
同工事の予定価格1億7594万8000円に対し、志賀建設が1億7380万円で落札。落札率は98・8%だった(別表参照)。公契約関係競売入札妨害の疑いで、関根、添田両氏も再逮捕された。県警の狙いは最初からこちらの入札だったのかもしれない。同日、地検郡山支部は4月30日に逮捕した件で塩田氏ら3人を起訴した。
【官製談合・入札妨害容疑の対象となった入札】認定こども園用地造成工事(2023年2月27日入札) 予定価格=1億7594万8000円
応札業者 | 入札額(万円) | 落札率(%) |
㈱志賀建設 | 1億7380 | 98.77 |
水谷工業㈱ | 1億7410 | 98.94 |
㈱福産建設 | 1億7430 | 99.06 |
藤田建設工業㈱石川営業所 | 1億7500 | 99.46 |
㈱佐藤渡辺石川営業所 | 1億7580 | 99.91 |
出直し町長選の行方
塩田氏は5月15日、近内雅洋町議会議長に辞職を申し出て、同17日に開かれた町議会臨時会で、全会一致で同意。同日付で辞職が成立した。50日以内に選挙を開くことが定められている公職選挙法に基づき、6月25日告示、同30日投開票の日程で町長選が行われる。
5月22日現在、立候補を表明しているのは、新人の会社経営髙橋翔氏(36)。県内の選挙に立候補しまくっており、塩田氏らが逮捕された4月30日夕方には、石川町役場前に立って動画を撮影していた。
「立候補に前向き」と報じられているのが、新人で元県議の円谷健市氏(70)。石川町出身。東白川農商高卒。過去に玄葉光一郎衆院議員の秘書を務め、石川町議3期、県議3期を務めた。これを受けて衆院選新福島2区で玄葉氏と激突する根本匠氏の陣営も立候補者を擁立し〝代理戦争〟になるのではないか、と見る向きもある。
もっとも、円谷氏の県議時代の働きぶりを評価する町民は少なく、町長としての適性を問われるようなウワサも一部で流れており、新町長としての期待感が高まっているとは言い難い。
地元の事情通はこう分析する。
「自民党に逆風が吹き荒れていることもあり、県議選に自民党新人で立候補した武田務氏(43)は立候補に慎重になっているようだ。町議選で連続トップ当選を果たした乾初美氏(2期、38)も『今回は荒れた選挙になるから動かない』と周囲に話している。前回町長選で塩田氏に敗れた西牧立博元町長(78)と距離が近い町議グループは、町議の迎茂城氏(1期、53)を立候補させるべく調整を進めているようです」
一部議員らは町政の混乱を最小限に食い止める観点から、首藤剛太郎副町長(59)を推そうとしている。5月21日現在、町長選立候補に向けた意思表示はしていないが、辞職した塩田氏に代わって職務代理者を着実に務めている点は評価されている。記者会見でも「(塩田氏は)入札に関してクリーンな印象だったのでショックを受けている」と率直に説明していたのが印象的だった。副町長として塩田氏の〝暴走〟を止められなかったが、その点が町民からどのように評価されるか、今後の動向が注目される。
議会からの要望を受け、町は町長の逮捕・勾留時や有罪判決が確定した場合、給与の不支給・差し止めを行うことができる規定を追加した町条例改正案を6月定例会に提出する方針を決定。退職手当766万円の支給差し止め処分も併せて決めた。
同町では1991年12月、当時現職だった前出・西牧元町長が公選法違反の疑いで書類送検され、93年に辞職、有罪判決が確定した。その後、町長選で再選を果たしたが、2006年7月には町職員採用に関する贈収賄事件で再び逮捕された。なぜ不祥事は繰り返されるのか、検証する必要がある。
学法石川の春のセンバツ出場に沸いた後だっただけに、町民の失望は大きい。町長選に誰が立候補するのか、原稿を執筆している段階では判然としないが、いかに再発防止策を講じるかという点は大きな争点になるだろう。
囁かれる県職員汚職事件との関連
現職首長の立件は石川町に限って言えば過去にもあり、町民も耐性があるが、通常の自治体ならば前代未聞だ。選挙で選ばれた公職者を逮捕するのは、有権者への影響が大きく、証拠が不十分で罪に問えなかった場合を考えると、捜査機関にとってリスクが大きい。疑惑があったとしても政治家の立件に至るには、万全に万全を重ねた証拠集めが不可欠だ。塩田氏は毀誉褒貶が激しく、敵も多い。町民の関心事はもっぱら「県警は誰から塩田氏と志賀建設の関係を聞いたのか」に向かっている。
マスコミは4月30日に町が開いた会見で、説明に立った首藤剛太郎副町長に「県警は何を聞いてきたのか」をしきりに質問していた。報道で情報を得る町民たちは、塩田氏らを逮捕したのが県警本部捜査2課と石川署だけでなく、郡山署と白河署も加わっていることを詮索。「県警は大物政治家に照準を当てる中で露骨に汚職を行っていた塩田氏が検挙されたのでは」と尾ひれがついて回る始末。
この間、地元建設業者は県警の任意の取り調べを受けてきた。何を聞いてきたかで県警の狙いは予想が付く。どのような情報を収集していたかを総合すると、官製談合と入札妨害摘発に至った端緒には、①2023年に発覚した県職員と須賀川市の業者による贈収賄事件ルート、②塩田氏や志賀建設に冷遇されてきた業者がリークしたルート、③政敵の西牧立博元町長やその関係者がリークしたルートの3ルートが考えられる。
県中地方のある土木建設会社社長は①のルートに立つ。
「地元マスコミは昨年の県職員贈収賄事件が石川町長逮捕につながったと考え、県中地方の業者に積極的に取材しているようだ。彼らの見立てでは、県警は県の贈収賄事件の捜査で得た情報をきっかけに石川町で官製談合と入札妨害が行われていた証拠をつかみ、昨年から内偵を続けていたそうだ」(土木建設会社社長)
昨年は会津地方と県中地方を舞台に県の出先機関の職員と受注業者が絡む贈収賄が2件発覚した。受注業者と県職員はともに有罪判決を受けている。公判では、業者や県職員が逮捕前の長期に渡る「任意」の捜査で洗いざらい情報を話したことが明かされた。県警は汚職を摘発するたびに、建設業界の入札不正を裏付ける証拠を収集し、新たな汚職を捜査しているようだ。
石川町につながると考えられるのは、県中地方を舞台にした県職員汚職事件だ。この事件では、須賀川市長沼の土木建築業㈱赤羽組の社長が贈賄で、県県中流域下水道建設事務所の職員が受託収賄などで逮捕・起訴された。県職員は2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わっていたから県中地方の業界情報に精通している。
県職員汚職事件で県警が建設業界に関わるディープな情報を得たと考えられるのは、この県職員を徹底的に取り調べていた点、さらに赤羽組社長のパソコンからデータを押収していたからだ。使っていないパソコンからも押収した(赤羽組社長は法廷で「任意」で提供したと説明した)。この間、須賀川市周辺の業者の相当数が捜査に協力したという。
これら建設業界の情報を参考に、落札率が高い市町村の入札結果を精査したに違いない。狙いを付けたのが石川町だった。公開されている入札結果は高い落札率だ。業界人が傾向を見れば、不正をしている業者がどこか見当が付くレベルだった。塩田氏の金にまつわるウワサは町民の知るところだ。
談合に使われた⁉入札情報
さらに塩田町政の下では、町歴史民俗資料館の移転改修(4月にオープン)、町認定こども園の新設工事、さらには道の駅の新設計画といった数億円規模の「石川町の令和三大公共事業」が進行していた。
県職員と赤羽組社長の裁判が進行中の昨年夏ごろから、県警は志賀建設の関根徳夫氏、添田保雄氏に接触し任意捜査を開始した。地元紙報道では「携帯データが塩田氏逮捕の決め手」というから、塩田氏と添田氏らはLINEのようなSNSを用いて予定価格をやり取りし、それが言い逃れできない物証になったのだろう。
②、③のルートは、塩田氏の逮捕で誰が得するかをもとに考えたものだ。逮捕直後は町内でウワサになっていたが、県警の捜査が町外にも及び、建設業者が軒並み取り調べを受けたことが明らかになるにつれ、信憑性は薄れていった。不正を告発する動機はさまざまで、怨恨によるものも多い。誰が告発してもおかしくないという状況が、塩田氏の評判を象徴するものとなった。
地元2紙の報道によると、捜査関係者の話として、志賀建設の添田氏と関根氏は、塩田氏から聞いた予定価格を同業者と共有していたという。受注調整=談合は多かれ少なかれ全国である。福島県は東日本大震災後の復旧工事と除染作業のバブルで建設業界が一時盛り返したが、公共事業が次第に減っていく中で縮小を迫られている。地元建設業は存続をかけて受注調整を行う。道路や水道管など比較的少額で、件数も多い工事での横行が目立つ。地元の建設業者が減る中、競争と地域インフラの担い手の維持をどう両立させるか、入札制度は岐路に立たされている。
受注調整の疑惑がある入札
町道222号線 道路改良工事(2022年9月26日入札)
予定価格=2904万9000円
応札業者 | 入札額(万円) | 落札率(%) |
㈱佐藤渡辺石川営業所 | 2890 | 99.48 |
㈱志賀建設 | 2900 | 99.83 |
水谷工業㈱ | 2905(超過) | 100 |
町道3042号線 道路改良工事(2022年9月26日入札)
予定価格=3343万4000円
応札業者 | 入札額(万円) | 落札率(%) |
㈱佐藤渡辺石川営業所 | 3345(超過) | 100.04 |
㈱志賀建設 | 3337 | 99.8 |
水谷工業㈱ | 3330 | 99.59 |
数多く残る談合の中で今回、石川町の汚職が検挙されたのは、町認定こども園新設に関わる工事が1億円規模で高額だったこと、漏洩した容疑者が現職首長であったことが大きい。悪質性が際立つ。塩田氏を町長に選んだために起こった事件と言える。今後は塩田氏が受けた見返りの内容と金額が注目だ。