復旧途上の「令和4年8月豪雨」被災地

復旧途上の「令和4年8月豪雨」被災地

 昨年8月3〜4日の大雨で、県内は広範囲で影響を受けた。特に被害が大きかったのは会津北部で、家屋や農地などに被害が及んだ。来月で「令和4年8月豪雨災害」から1年を迎えるが、それに先立ち、現在までの復旧状況を取材した。

災害で浮き彫りになった会津農山村の現実

災害で浮き彫りになった会津農山村の現実

 昨年8月3日から4日にかけて、北日本を中心に大雨に見舞われ、県内広範囲で大雨・洪水警報、土砂災害警戒情報が順次発令された。それから5日後の8月9日、福島地方気象台は次のように発表した。

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 8月3日から4日にかけて、東北地方に前線が停滞した。福島県は、前線に向かう暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で大気の状態が非常に不安定となったため、3日夕方から雷を伴った非常に激しい雨が降り、会津北部を中心に大雨となった。特に4日明け方は、5時28分に西会津町付近で1時間に約100㍉の猛烈な雨を解析し、福島県記録的短時間大雨情報を発表するなど、局地的に猛烈な雨が降った。

 期間降水量(3日5時〜4日15時)は桧原(※北塩原村)と鷲倉(※福島市)が300㍉を超え、日降水量としては桧原と喜多方が通年での1位を更新するなど、記録的な大雨となった。

 この大雨により、土砂崩れ、河川の氾濫、橋梁損壊、住家浸水、道路損壊・冠水などの被害が生じた。

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 期間降水量の詳細を見ると、3日5時〜4日15時までの総雨量は北塩原村桧原と福島市鷲倉で315㍉、喜多方市276㍉などとなっており、北塩原村桧原と喜多方市では、通年での観測史上最高を更新する大雨だったという。いかに猛烈な雨だったかがうかがい知れよう。

 昨年8月末時点の県のまとめでは、住宅の全半壊と一部損壊が計10棟、浸水被害が159棟、道路被害78カ所に及んだ。公共土木施設の被害額は8市町村で計62億円。農地、農道、農業用施設などでも多数の被害が確認され、農林水産業の被害額は20億円以上に上るという。ただ、幸いにも人的被害はなかった。

 国は、この「令和4年8月豪雨」を激甚災害に指定し、公共施設や農業用施設の復旧事業について、国の補助率を引き上げ、自治体の負担を軽減している。

 福島地方気象台の発表にあったように、中でも被害が大きかったのは北塩原村や喜多方市などの会津北部。本誌は大雨から約2週間後の昨年8月中旬、北塩原村や喜多方市を中心に被害状況を取材したが、それから11カ月が経ち、間もなく1年を迎えるのを前に、あらためて被害個所の復旧状況などを見て回った。

 猪苗代町から北塩原村へと続く「磐梯吾妻レークライン」は、雨量超過による道路流失のため、通行できなくなり、現在も金堀ゲート(猪苗代町若宮字吾妻山)から剣ヶ峰中津川渓谷レストハウス(同町大字若宮字吾妻山甲)までが通行止めとなっている。中津川渓谷レストハウスから剣ヶ峰ゲート(北塩原村大字檜原字剣ヶ峯)間は通行できるが、猪苗代町側から裏磐梯側への通り抜けができない状況が続いている。この道路は「生活道路」というより「観光道路」の位置付けのため、日常生活には大きな支障はないが、観光シーズンには痛手となった。

 喜多方市内では、JR磐越西線の濁川にかかる橋梁が崩落し、喜多方―野沢(西会津町)間が不通となった。JR東日本は昨年8月10日から喜多方―野沢間で代行バスを運行し、同月25日から山都―野沢間は臨時ダイヤで再開通した。

 当時、ある市民はこう話していた。

 「ひとまず、代行バスが運行されたのは良かったが、一番大変なのは通学で利用している高校生。以前に比べてだいぶ余計に時間がかかると言っていました」

 橋梁が崩落したのはJR喜多方駅から西に1㌔ほどのところ。橋が崩落し、線路が宙づりになっていた。崩落した橋梁付近の濁川の河川敷は親水公園になっており、当時、近隣住民は「これまでの雨と降りっぷりが全然違くて、これはまずいと思った。(親水公園の)遊具などが設置されているところの付近まで水が上がって来たのは初めて見ました」と話した。

 喜多方―山都間は代行バス運行が続いていたが、この間、崩落した橋梁の復旧作業が行われ、今年4月1日から全線運行が再開された。

 あらためて現地を見に行くと、河川に架かる橋脚のうちの1つが新しくなっているのが分かった。鉄筋コンクリート製の橋脚1基を新造し、橋を架け直して運転再開に至った。

片側交互の国道121号

国道121号不通の影響を受けた道の駅喜多の郷
国道121号不通の影響を受けた道の駅喜多の郷

 住民生活に直結する部分では、同市と山形県米沢市をつなぐ国道121号が、山形県側で斜面が崩落し通行止めとなったことも大きな被害だった。

 実は、国道121号は昨年6月末の大雨でも法面が崩落し、同年7月4〜7日までの3日間、通行止めとなった。その後、片側交互通行ではあるものの、通行できるようになったが、昨年8月の大雨でさらに被害を受けた。

 当時、ある市民はこう話していた。

 「市内の熱塩加納地区などでは、米沢市の高校に通っている人もおり、スクールバスが運行されているが、国道121号が通れなくなったことで、スクールバスは郡山市経由で高速道路を使って米沢市まで行かなければならなくなった。それに伴い、所要時間は2倍くらいかかるようになったそうです」

 会津方面から米沢市に行くルートとしては、裏磐梯経由(西吾妻スカイバレー)があるが、急峻な山道でスクールバスが通行するのは難儀。普通の乗用車であっても尻込みするような山道だ。結果、中通り経由で行くことになり、通常の2倍くらいの所要時間がかかっていたわけ。

 このほか、国道121号の不通で大きな影響を受けたのが道の駅喜多の郷。同道の駅は国道121号沿いで、市街地からだいぶ外れたところにある。利用者の多くは米沢方面から喜多方市に来る人、あるいはその逆ということになり、喜多方―米沢間が通り抜けできなくなったことで、交通量、利用者が大きく減った。

 道の駅を運営する喜多方市ふるさと振興公社は、「国道121号が通行止めとなったことで、交通量は大幅に減り、道の駅の売り上げは7〜8割減となっています。振興公社としてはかなり厳しい状況です」と嘆いていた。

 実際、通行止めになって以降の週末に同道の駅を訪ねたところ、入り込みはまばらだった。同日、近隣の猪苗代、ばんだい、裏磐梯の道の駅は駐車場にクルマを止められないくらい混み合っていたことを考えると、やはり影響は大きかったようだ。

 その後、国の権限代行で復旧が進められ、大雨被害から2カ月半以上が経った昨年10月24日に片側交互通行ながら、ようやく通行できるようになった。

 開通直後、道の駅を運営する喜多方市ふるさと振興公社に問い合わせると、「何とか紅葉シーズンに間に合い、お客さんが見込めると思います。開通初日から早速、山形ナンバーのクルマが何台かお見えになっていましたから」と話していた。

 6月下旬、喜多方市から米沢市方面に向かって国道121号を走行してみた。当初は片側交互通行が3カ所あったが、昨年12月にそのうちの2カ所が解消され、現在は1カ所だった。インターネットやSNSなどでは「(片側交互通行区間で)30分以上待たされた」といった書き込みも見られたが、たまたまタイミングが良かったのか、5分くらいの待ち時間で済んだ。

 残る片側交互通行区間は、仮橋が設けられ、従来の道路より少し高いところを走行する形。仮橋から脇を見やると、大規模に道路が崩落していることがうかがえた。完全復旧時期は示されておらず、まだいまの状況が続きそうだ。

 喜多方建設事務所によると、同事務所管内の被災個所は河川73カ所、道路24カ所、橋梁1カ所の計98カ所。このうち、道路10カ所が工事未発注。理由は、土地改良区所有のため池が復旧工事の最中で、それが終わらないと周辺道路の復旧工事に入れないところがあることと、手前から順次、復旧工事を進めている道路があり、奥側は後になるところがあるため。それ以外はすでに発注済みで、「進捗は現場によって異なるため、一概には言えないが、発注済みのものの工期は遅くとも年度内になっています」(喜多方建設事務所担当者)とのこと。

農業被害が大きい山都町

「大型通行止め」の国道459号(山都町宮古地区)
「大型通行止め」の国道459号(山都町宮古地区)

 一方、農地・農業用施設などの被害も大きく、特に目立ったのが喜多方市山都町。山都町中心部から、「宮古そば」で知られる同町宮古地区に向かう国道459号は、それに沿うように宮古川が流れている。

 大雨時は河川が氾濫し、道路が数カ所崩落した。現在は道路の復旧工事、護岸工事などが行われている。

 山都町中心部から宮古地区に向かう途中で、農作業をしていた住民に話を聞くと、次のように語った。

 「いま見ても分からないだろうけど、道路(国道)と河川(宮古川)の間(のただの荒地に見えるところ)はもともと農地だったんだよ。それが土砂、流木などが入って。ただ、この辺も高齢者の一人暮らし・二人暮らしが多くなり、耕作しない農地が増えてきた。一人暮らし・二人暮らしの高齢者が亡くなったことによる空き家も目立ってきた。災害復旧以前の問題だよね」

 災害があったことで、あらためて農山村の現実を思い知る。

 そこからさらに北上し、宮古地区に向かった。ちなみに、大雨直後、同地区の住民はこう語っていた。

 「大雨の日は、増水して川の流れが速く、大きな石がぶつかる音がカミナリのようで怖くて眠れなかった。ソバ畑は、ちょうど種まきの時期で、すでに種まきをしていた人、これから(大雨があった日の後で)種まきをしようと思っていた人、それぞれですが、ソバは雨に弱く、大雨前に種まきしたところはかなり厳しい状況です。中には、(大雨後に)種まきをし直した人もいますが、その後にさらに雨が降り続き、さすがに2回目(都合3回目)のまき直しはしないと言っていました。ですから、収量は減るでしょうね。コロナ禍でなかなかお客さんが来ない中、ようやく戻りつつあると思ったら、この水害ですよ。この地区のソバ店は自宅兼店舗だから何とかやっていけますが、家賃を払ってお店をやるような状況だったら続けられなかったでしょうね」

 大雨の凄まじさと、コロナ禍で厳しい状況の中、災害に見舞われるという二重苦を明かしてくれた。

 今回の取材で、あるソバ店で話を聞いたところ、こう話した。

 「ソバ畑で水害を受けたところは、市の補助で直すことができました。それがなかったら厳しかったでしょうね。ただ、種まきの前後だったこともあり、全体的に収量は落ちていると思います。もう1つは、いまここ(宮古地区)に来る道路(国道459号)は大型車両が通れません。コロナ禍以降は少なくなりましたが、以前はバスツアーで来る人もおり、大型車両が通れないと影響が出ます。ただ、先日、ツアー会社の方で道路管理者に問い合わせ、通れる規模のバスでツアー客においでいただいたのは幸いでした」

 確かに、同地区に向かう途中には「大型通行止め」の立て看板があった。県のHPで確認したところ、喜多方市山都町蓬莱地内の7・8㌔区間について「豪雨災害による路肩崩壊のため 大型通行止」とあった。バスツアー客が来られない(来にくい)といった意味で、その影響が出ているということだ。

市の農業復旧・支援

 一方で、市農山村振興課に、農地補修の補助について確認すると「激甚災害指定を受けた部分は、国の補助がありましたが、そうでない部分は市が補助しました」と説明した。

 各農家が業者に依頼して農地・農業施設の補修を行い、その分を市が補助する仕組み。対象は465件で事業費は1億2800万円(本誌取材時点で事業未了のため、金額は当初予算)。

 ほかにも、同市内では、水田に土砂が流れ込んだケースや、水路が被害を受け、水田に水を引けなくなったケース、園芸品を栽培するビニールハウスなどが被害を受けた。そのほかの農地・農業施設の復旧については、こう説明した。

 「水田への水路は本復旧したところ、仮復旧で対応したところなど、今年の作付けに支障がないように対応しましたが、一部間に合わなかったところもあり、その部分については、今年に限り水稲からソバへの転作をお願いしています」

 水稲は4月下旬ごろから田んぼに水を入れ、代掻きなどを行うが、ソバは8月に種まきをするため、水稲より数カ月の時間的余裕があること、そもそもソバはそれほど水が必要ないこと等々から、水路復旧(仮復旧)が間に合わなかったところはソバへの転作を推奨しているようだ。そのうえで、秋(収穫期)以降に、来年に間に合うように水路復旧などを進めていきたい考え。

 なお、転作によって収入が減った場合は、国から補助が受けられるが、それでは補いきれない可能性が高い。そのため、場合によっては市でさらなる補助(転作に伴う所得補償)も考えていく必要がありそう。

 「市としては、何とか営農を継続してもらえるよう、復旧や支援を進めています。やはり、1年耕作しないとなると、なかなか再開するのは難しいでしょうから」(市農山村振興課担当者)

 災害を機に、耕作をやめてしまう農家もあるに違いない。そうならないよう、市としては復旧を急ぎ、各種支援をしてきたようだ。

 ただ、前出・山都町の住民が「高齢者の一人暮らし・二人暮らしが多くなり、耕作しない農地が増えた。一人暮らし・二人暮らしの高齢者が亡くなったことによる空き家も目立ってきた。災害復旧以前の問題がある」と語っていたが、それが現実だろう。

 あらためて「令和4年8月豪雨災害」被災地を取材したが、まだまだ復旧途上の部分も多いことが浮き彫りになった。

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