(2022年9月号)
2022年8月3日から4日にかけての大雨で、県内広範囲で大きな被害が出ている。特に被害が大きかったのは会津北部で、家屋や農地などが影響を受けた。大雨から2週間ほどが経った8月中旬から下旬にかけて、被害が大きかった地域を中心に、状況を見聞きした。
住家、農業、市民生活、経済……多方面に影響
8月3日から4日にかけて、北日本を中心に大雨に見舞われ、県内では広い範囲で大雨・洪水警報、土砂災害警戒情報が順次発令された。
福島地方気象台は8月9日、《8月3日から4日にかけて、東北地方に前線が停滞した。福島県は、前線に向かう暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で大気の状態が非常に不安定となったため、3日夕方から雷を伴った非常に激しい雨が降り、会津北部を中心に大雨となった。特に4日明け方は、5時28分に西会津町付近で1時間に約100㍉の猛烈な雨を解析し、福島県記録的短時間大雨情報を発表するなど、局地的に猛烈な雨が降った。期間降水量(3日5時〜4日15時)は桧原(※北塩原村)と鷲倉(福島市)が300㍉を超え、日降水量としては桧原と喜多方が通年での1位を更新するなど、記録的な大雨となった》と発表した。
3日5時〜4日15時までの総雨量は北塩原村桧原と福島市鷲倉が315㍉、喜多方市が276㍉などとなっており、北塩原村桧原と喜多方市では、通年での観測史上最高を更新する大雨になったという。
県の発表(8月24日13時時点)によると、人的被害(死者、行方不明者、重傷者、軽傷者)は確認されていないが、住家被害は全壊1棟、半壊2棟、一部破損5棟、床上浸水15棟、床下浸水140棟、非住家107棟となっている。道路は県管理道路27件、市町村管理道路51件で被害を受け、公共土木施設の被害額は県・市町村を合わせて約60億円。そのほか、農地、農道、農業用施設などで260件の被害が確認され、農林水産業の被害額は約22億円に上るという。公共土木施設や農林水産業の被害額は今後も増える可能性がある。
国は、今回の大雨被害を激甚災害に指定し、公共施設や農業用施設の復旧事業について、国の補助率を引き上げ、自治体の負担を軽減する方針を示している。
福島地方気象台の発表にもあったように、中でも被害が大きかったのは北塩原村や喜多方市などの会津北部。本誌は大雨から2週間ほどが経った8月中旬から下旬にかけて、北塩原村、喜多方市を中心に被害状況を見聞きした。
まず、国道115号から国道459号を経由して北塩原村、喜多方市へと向かったのだが、猪苗代町から北塩原村へと続く「磐梯吾妻レークライン」は、8月3日午後6時30分から全面通行止めとなっており、ゲートが閉じられていた。雨量超過、道路流失が原因という。その後、8月25日に一部解除となったが、中津川渓谷レストハウス(猪苗代町若宮字吾妻山甲)―金堀ゲート(同町若宮字吾妻山)間は通行止めが続いている(8月25日時点)。
同村では、裏磐梯グランデコ東急ホテルに通じる道路が土砂崩れのため通行できなくなり、宿泊客や従業員ら計約160人が一時孤立状態になった。すぐに道路をふさいでいた土砂撤去が進められ、4日午後に孤立状態は解消された。
国道459号に沿うように流れる大塩川の近くに住む村民は、「村から避難指示が出され、多くの人が避難所となった村民体育館などに避難しました。幸い、私のところは寸前のところで浸水には至らなかったが、やはり怖かった」と話した。
前述した県の発表の詳細を見ると、同村の住家被害は床上浸水2棟、床下浸水2棟となっているほか、道路8件で路肩崩落、土砂崩れなどの被害が出ているが、後述する喜多方市に比べると割合は低い。
喜多方市の被害状況
一方、喜多方市は住家被害が半壊1棟、床上浸水12棟、床下浸水106棟に加え、道路28件で冠水、法面崩落、陥没、路肩崩落、土砂流入などの被害を受けたほか、農地、農業用施設などのその他の被害も多数確認されている。
それ以外で、最も大きなところでは、JR磐越西線の濁川にかかる橋梁が崩落し、喜多方―野沢(西会津町)間が不通となった。こうした事態を受け、JR東日本は8月10日から喜多方―野沢間で代行バスを運行している。
ある市民はこう話す。
「ひとまず、代行バスが運行されたのは良かったが、一番大変なのは通学で利用している高校生。以前に比べてだいぶ余計に時間がかかると言っていました」
橋梁が崩落したのはJR喜多方駅から西に1㌔ほどのところ。橋が崩落し、線路が宙づりになっているのが確認できた。
崩落した橋梁付近の濁川の河川敷は親水公園になっており、近隣の住民によると「これまでの雨と降りっぷりが全然違くて、これはまずいと思った。(親水公園の)遊具などが設置されているところの付近まで水が上がって来たのは初めて見た」とのこと。
さらに、この住民は「塩川の方はもっとひどいと聞いた」とも語っていた。実際、住家被害は同市塩川町がかなりひどかったようだ。
市危機管理課によると、市役所塩川総合支所から700㍍ほど南側が大塩川と日橋川の合流地点となっているほか、土地が低くなっていることもあり、その周辺の住家が浸水被害を受けたようだ。
中には「この地域は何年、何十年かに一度はこうした浸水被害がある。仕方がない」と諦めている人も。
塩川総合支所には、災害廃棄物の仮置場が設置され、浸水被害を受けた住民が使えなくなった家財道具などを運び込めるようにしてあった。
ある市民によると、「今回、浸水被害を受けたところには、区画整理によってできた新興住宅があり、会津若松市への通勤などにも便利で、地価も比較的安いことから、会津若松市などから移り住んだ人も少なくない。ただ、その周囲は過去にも水害が起きており、便利で求めやすい半面、そういうリスクもあるということ」と話した。
農業被害の状況
一方、農地・農業用施設の被害という点では、同市山都町の被害が大きかったようだ。
「宮古そば」で知られる同町宮古地区を訪ねてみると、同地区は国道459号に沿うように宮古川が流れているのだが、道路は所々、崩落していた。農作業をしていた住民に話を聞くと、次のように語った。
「大雨の日は、増水して川の流れが速くなり、大きな石が流れてきて、それがぶつかる音がカミナリのようで怖くて眠れなかった。ソバ畑は、8月上旬はちょうど種まきの時期で、(大雨前に)すでに種まきをしていた人、これから(大雨があった日の後で)種まきをしようと思っていた人、それぞれですが、ソバは雨に弱く、大雨前に種まきしたところはかなり厳しい状況です。中には、(大雨後に)種まきをし直した人もいますが、その後にさらに雨が降り続き、さすがに2回目(都合3回目)のまき直しはしないと言っていました。ですから、収量は減るでしょうね。コロナ禍でなかなかお客さんが来ない中、ようやく戻りつつあると思ったら、この水害ですよ。この地区のソバ店は自宅兼店舗だから何とかやっていけますが、家賃を払ってお店をやるような状況だったら続けられなかったでしょうね」
ほかにも、同市内では、水田や畑に土砂が流れ込んだケースや、用水路が被害を受けたために水田に水を引けなくなったケース、トマトやキュウリ、アスパラガスなどを栽培するビニールハウスが被害を受けたケースなどが確認されている。水田は、水位が上がっただけなら、水が引けば多少収量が落ちたとしても収穫することはできるが、そうでない場合は収穫は難しいだろう。
前述したように、農林水産業の被害額は約22億円に上るというから、相当な被害だ。あとは、共済などの農業保険に入っているかどうか、ということになろう。
被害を受けた人の中には、「安倍晋三元首相の国葬には数億円(新聞報道によると2・5億円)かかるとされているが、それならわれわれのように、被害を受けた人の救済措置に回してほしい」と語る人もいたのが印象的だった。
国道121号不通の影響
このほか、同市と山形県米沢市をつなぐ国道121号は、山形県側で斜面が崩落し通行止めが続いている。実は、国道121号は6月末の大雨でも法面が崩落し、7月4日から7日までの3日間、通行止めとなっていた。その後、片側交互通行ではあるものの、通行できるようになったが、今回の大雨でさらなる被害を受け、いまのところ復旧の見通しは立っていない。
「(同市の)熱塩加納町などでは、米沢市の高校に通っている人もおり、スクールバスが運行されているが、国道121号が通れなくなったことで、スクールバスは郡山市経由で高速道路を使って米沢市まで行かなければならなくなった。それに伴い、所要時間は2倍くらいかかるようになったそうです」(ある市民)
このほか、国道121号が通行止めとなったことで大きな影響を受けているのが「道の駅 喜多の郷」だ。同道の駅は国道121号沿いで、市街地からだいぶ外れたところにある。利用者の多くは米沢方面から喜多方市に来る人、あるいはその逆ということになり、喜多方―米沢間が通り抜けできないとなれば交通量は大きく減る。
道の駅を運営する喜多方市ふるさと振興公社によると、「国道121号が通行止めとなったことで、交通量は大幅に減り、道の駅の売り上げは7〜8割減となっています。振興公社としてはかなり厳しい状況です」と話した。
本誌が訪ねたのは週末だったが、実際、客入りはまばらだった。
こうして聞くと、今回の大雨被害により、住家、農地・農業用施設、市民生活、経済面のさまざまなところで大きな影響を受けていることが分かる。