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  • 77歳教師【相楽新之助さん】「これからも教壇に立ち続けたい」

    77歳教師【相楽新之助さん】「これからも教壇に立ち続けたい」

     教員不足が全国的に深刻になっており、教員免許を持つ教員OBが教育現場に戻るケースが増えている。福島市内でも70歳を超えても教壇に立ち続ける男性がいる。 小中学校の教員不足率は0・35%  教育委員会が定める教員の配当数を満たせない学校が増えつつある。文部科学省が実施した調査によると、2021年度の始業式時点での小中学校の教員不足率は0・35%。全国で2065人不足している。別の調査では、今年度開始時点で「教員不足の状況が1年前より悪化した」と回答した都道府県・政令指定都市教育教員会は43%に上った。  背景には団塊世代の教員が大量退職したことに加え、特別支援学級増加への対応、産休・育休取得者の増加、臨時的任用教員のなり手が減少していることなどが挙げられる。教員の多忙かつ長時間の労働環境が一般的に知られるようになり、教員を目指す人が減っている事情もある。  昨年9月5日付の福島民報によると、県教委調査の結果、県内の学校(小・中・高・特別支援学校)約130校で約140人の教員が不足していた。本県の場合、前述した事情に加え、少人数教育、震災・原発事故からの復興推進に取り組むための「加配」で定数が増え、欠員が膨らんでいることも影響している。  県教委では2~3年以内の定年退職者を中心に職場復帰を呼び掛けており、教員免許を持っている人にもさまざまなルートをたどって声がかけられている。そうした中、60代、70代になっても教壇に立つ教員が増えているが、パソコン対応や体力面の問題もあって簡単ではないという話が新聞などで報じられている。  「私の場合、目の前の生徒のためになっていると実感できれば、年齢を忘れてのめりこんでしまうので、年齢を感じることはないですね」  こう話すのは、70歳を超えた後も現役教員として教壇に立ち続けてきた相楽新之助さんだ。 再任用で中学校教員に  1946(昭和21)年5月16日生まれの77歳。福島高、福島大経済学部卒。川俣高、福島北高、矢吹高、安達高、福島東高、福島商業高で英語教員として教鞭をとり、定年退職後も再任用されて3年間勤めた。  その後は、福島東稜高で指導を継続。その一方で飯舘村教委から声がかかり、学力向上を目指した村学力向上アドバイザーに就任。仮設校舎(当時)で授業と若手教師へのアドバイスを担当した。  それらがひと段落すると、今度は取得していた中学校教諭の免許を生かし、福島市の平野中、福島三中、西信中、北信中で教員を務めた。  「小学校中学年では『外国語活動』として楽しく英語に触れるが、高学年から教科として『外国語』が始まると急に文法などが出てきて難易度が高まり、授業についていけなくなりがち。その結果、中学校に入る頃には英語嫌いになるケースが少なくないのです。そのため、英字新聞を活用するなど、教科書にとらわれない英語関連の話題を出して、興味を持ってもらうように心がけてきました」  もともとは商業科の教員だった相楽さん。転機となったのは、福大生時代に献血制度制定を呼び掛ける運動に携わったことだった。その運動内容について、県の赤十字大会でスピーチしたところ、世界中の若者が集う国際会議に日本代表として出席することになった。片言の英語で意思疎通を図る中で、各国の代表らは世界平和や自国の将来を真剣に考えていることを知った。  刺激的な体験をして居ても立っても居られなくなった。すでに大学を卒業し、川俣高の教員になっていたが、英語の教員免許を取って子どもたちに教えたいと考えた。同校に在職しながら福島大経済学部の専攻科や教育学部に通い直し、必要な条件を満たし、英語の高等学校教諭1級(当時)の免許を手にした。その後、生徒への指導のために数学、社会の免許も取得したという。  これまでの教員生活で印象に残っているエピソードを語ってもらったら止まらなくなった。  安達高で女子生徒3人から「米国に留学したい」と相談され、準備を手伝ってそれぞれ別の公立高校に送り出した。  英語教員向けに国が実施する「中央研修」に参加後、出版社から声がかかって英和辞典の編集に携わり、英語検定試験の面接官を務めた。  福島商業高の国際経済科(当時)の生徒に東京商工会議所が主催した英語の会計の検定試験を指導して受験させたところ、14人が合格した。  人とのつながりから刑務所でボランティア指導を行うようになった。  その行動力もさることながら、記憶力の良さに圧倒されるばかり。 自由度が低い教育現場  いま教育現場にいて感じることを尋ねると、「自由度が低くなっている」ことだという。  「授業に集中したいのに、やることが多すぎてがんじがらめで、教材研究をやったりする余裕は全くありません。高校に勤めていたときとは大きく異なると感じました」  どんな授業をやるのか、事前に「指導案」の提出を求められる。学力向上会議や生徒指導委員会といった各種会議も入り、県から降ってくる仕事もある。  相楽さんによると、教育現場では、1年間の目標を立て年度末に校長・教頭が4段階(S・A・B・C)で評価する「目標管理制度」が導入されている。時間が足りず学級運営に手が回らなくなり、学級崩壊などを引き起こした教員の評価は低くなるとみられる。評価が低いと次年度の給料にも影響するという。  こうした中で、自由な発想で指導を行う教員が減っている、と。  「新学習指導要領で求められている『指導と評価の一体化』(子どもへの評価を学習改善や指導改善にうまくつなげる取り組み)への対応も教員を悩ませる一因となっている。仕事がひと段落して帰宅できるのは19時過ぎ。朝は7時ごろから出勤しているので12時間勤務です。こうした現状を見直さないと、教員志望者も増えないのではないでしょうか」  県教委では「教職員多忙化解消アクションプランⅡ」を策定し、業務改善、部活動・校務の見直しなどに取り組んでいるが、現場の実感としてはまだまだ厳しいということになる。こうした声を受け、さらなる抜本的改革に取り組む必要があろう。  教育関係者は「70代の教員がデジタル技術を用いた授業を行ったり、最新受験テクニックを教えることができるのか。生徒も保護者も不安を抱くだろう」と疑問を呈するが、相楽さんは意に介さずこう話す。  「どの生徒も知りたいという欲求を持っていて、うまく〝鉱脈〟に突き当たると、目を輝かせて話を聞き始める。まだまだ教壇に立ち続けたい。現在は臨時的任用教員として登録しているわけではありませんが、今度、福島市に公立の夜間中学校ができると聞いているので、機会があればそちらでもぜひ指導してみたいと考えています」  教育への情熱はまだまだ消えることがなさそうだ。

  • 福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

    福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

     福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち  福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か  前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【福島成蹊中学校・高等学校】首都圏型中高一貫教育で躍進

    【福島成蹊中学校・高等学校】首都圏型中高一貫教育で躍進

     学校法人福島成蹊学園(福島市、高橋幸七理事長)が運営する福島成蹊高等学校(本田哲朗校長)は中高一貫教育を導入し、近年高い大学進学実績を残している。福島成蹊中学校開校による「首都圏型中高一貫教育」の開始から15年目を迎え、この間、東大や医学部への合格者を輩出するなど〝進学の成蹊〟として注目を集めている。 入試に求められる力を中高6年間で醸成 上浜キャンパス  「桃李不言下自成蹊」の校訓のもと、6月16日に創立110周年を迎えた福島成蹊学園。そんな同学園が2009年4月から始めたのが、福島成蹊中学校と福島成蹊高校による「併設型中高一貫教育(首都圏型中高一貫教育)」だ。6年間の一貫教育で学習・受験指導の効率化を図り、国公立大や難関私立大の現役合格率アップにつなげる方式で、県内での導入校は依然として少ないが、首都圏では定着している。 最大のメリットは、人間的成長に力点を置きながらも、6年後を見据えた総合カリキュラムにより継続的・効率的に学習できる点だろう。大学入試改革の骨格となる新学力観では、知識・技能に加え、多様な能力や人間力が求められているが、高校入学後の3年間だけでこれらの力を身に付けるのは、時間的にも学力的にも容易でない。 同学園が展開する中高一貫コースの総合カリキュラムでは、6年間の計画的学習の中で、大学入学共通テスト対策はもちろん、来るべき大学入試改革や新学習指導要領を踏まえた次世代に求められる力を着実に身に付けられるよう創意工夫が施されており、時代のニーズを見据えた進学教育の提供に努めている。 同中学校の定員は1学年60人(30人2クラス)。県北地方に限らず、「通学圏外」から入学する生徒も目立っており、「進学の成蹊」のブランドが定着している証しと言えよう。 中高一貫コースでは「夢を実現するための確かな力を培う―東京大学、医学部合格を目指します。」を合言葉に、生徒一人ひとりの潜在能力を引き出すべく、『未来を拓く4つの柱』に基づいた首都圏型先進教育に鋭意取り組んでいる。 1つは、学力、そして人間力を伸ばすことを狙いとする「新学力観を包括したカリキュラム 年間1500時間の学習量」。週6日制で中学1年次から1日7時間授業(週2回、高校1年次より週4回)を行う。さらに英語、数学、国語の放課後補講(週3回・50分、高校1年次より5教科週5回・90分)も実施し、年間1500時間の学習時間を確保している。中・高6年間の総学習時間は一般的な公立校の約8年分に匹敵するなど、圧倒的なボリュームである。 長期休業中には課外授業を行い、「授業」、「補講」、「課外」による〝質と量〟に裏打ちされた学習指導サイクルを構築することで、基礎から応用へ着実にステップアップできる。 2つは、「生徒に寄り添い可能性を伸ばす教師陣」。一人ひとりの可能性を最大限伸ばすため、同校の教師陣は工夫あふれる授業に注力している。「分からない」から「分かる」に変わるまで生徒の疑問に徹底して向き合い、本質的な理解を追求する学習指導をはじめ、集中力、思考力、想像力を養える先進的なカリキュラムにより、学習意欲向上はもちろん、学習の楽しさや達成感を味わえる教科指導を展開している。 英語では、単語や文法、構文などの基礎を徹底し、大学受験突破に必要な力を養う。また、英語の起源や文化背景を深く掘り下げ、知的好奇心を刺激しながら教養を高められるよう厳選された教材を使用する。 数学では、単元ごとの関連性が深いため、基礎固めを徹底して行うことを重視。授業では演習を通して解法をしっかり考える時間を設定する。また、大学入試問題を研究し、入試対策に直結する授業を展開する。 国語では、読解力を向上させるため、文章が「分かった」と思える読み方を身につけることを重視。生徒一人ひとりが「学ぶ楽しさ」を実感できるよう、丁寧で具体的な授業を実践している。 社会では、単なる「暗記科目」ではなく、なぜそれが起こっているのかを理解し、用語の重要さを実感できる指導に努めている。授業では、まず理解すること、そして記憶すること、最後に問題を解いて基礎を固めながら定着を図る。 理科では、中学での各単元で身の回りの事象・現象に興味・疑問を持たせることを心掛ける。高校では、中学での学習内容とのつながりを意識し、原子・分子レベルで現象を理解・説明する力を養う。 そのほか、新学習指導要領を踏まえた「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協働性」を育むアクティブ・ラーニング教育も推進。校舎全体にWi―Fiを完備し、全ての教室・スペースで1人1台のタブレット(i―Pad)を使用した学習・活動を実施するなど、最先端の教育環境を提供している。また、中学校課程でプレゼンテーションの機会を多めに設定し、一人ひとりが主体的に考え、討論し、発表する活動を行う。 英語力向上と国際理解教育に注力 腰浜キャンパス  3つは、リアルな感性と課題解決力を磨く「五感で学ぶ豊富な行事&体験学習」。全校生を対象とした「学習合宿」や30㌔余の距離を歩く「強歩」をはじめ、中学1年次のオリエンテーション合宿、臨海教室、尾瀬学習・燧ケ岳登山、スキー教室(中1・2・高1)、中学2年次の林間教室など、鍛練的、運動的、文化的、探求的行事を実施している。 さまざまな行事を通して多くの経験を積み上げていく中で、「気付き」の機会を与え、主体的な姿勢が芽生える。また、友人と協働して困難を乗り越えることで達成感・一体感の共有、課題解決能力も育まれる。 4つは、異文化を理解する心を磨くことを狙いとする「グローバル社会へ羽ばたく国際理解教育」。国際理解教育を推進し、グローバル社会で活躍するための基礎作りとして、中学3年次にカナダ(ビクトリア、バンクーバー)、高校2年次にカンボジア(シェムリアップ)・ベトナム(ホーチミン)を訪れる海外研修旅行が行われる(※社会情勢によりスケジュールが変更になる場合がある)。 また、実践的英語力向上を図るため、生徒全員が実用英語技能検定を受験し、中学校課程での準2級取得を目指す。一方で、柔軟な価値観を養いながら広い視野や独自の視点を獲得すべく、茶道教育、芸術・文化体験など「生きる力」を育むリベラルアーツ教育を推進する。さらに国際理解講演会を開催するなど、語学力だけではなく異文化における多様性を理解する心、自分のマインドで考え自分のハートで感じ自主的に行動できる主体性を育む取り組みにも力を入れている。 本田哲朗福島成蹊中・高校長に聞く ほんだ・てつろう 1953年2月生まれ。東京理科大理学部卒、同理学専攻科修了。聖望学園(埼玉県)を経て1989年より古川商業(宮城県・現古川学園)教頭に就任。2004年、福島成蹊高に赴任後、2009年4月に福島成蹊中の開校に合わせて同中・高の学校長に就任した。  ――2022年度の大学進学実績についてうかがいます。 「大学入学共通テストに移行して3年目です。初年度はセンター試験の流れを踏襲した形でしたが、2年度目は難化し、全国で過去最低の平均点数となりました。本校も同じ傾向です。今回は、若干平均点は上がったのですが、教科による難易度にばらつきがありました。 本県の大学受験で一つのバロメーターとなるのは東北大学の合格者数です。少なからず私が本校に携わった中では、過去最低の結果で、2、3人受験した中で1人しか合格させられませんでした。 一方で、もう一つのバロメーターである県立医大の医学部医学科は3人合格しました。うち1人は県内推薦枠ではなくて、一般入試で合格しています。 県立医大医学部医学科の一般入試合格者は、福島県内で例年7、8人でしたが、今年度は3人しか受かりませんでした。安積、福島、本校で1人ずつです。福島県勢が学力で劣勢に回った感は拭いされません」 中高一貫1~9期生190名の難関大学合格数 医学部医学科東北大学1福島県立医科大学8慶應義塾大学1順天堂大学1国際医療福祉大学2自治医科大学1東北医科薬科大学3昭和大学1愛知医科大学1北里大学1獨協医科大学1防衛医科大学校6国交省所管気象大学校1国公立東京大学3東京工業大学2東北大学22北海道大学4東京外国語大学1お茶の水女子大学1私立早稲田大学15慶應義塾大学12上智大学4国際基督教大学4東京理科大学30学習院大学5明治大学10青山学院大学8立教大学3中央大学24法政大学20  ――首都圏型中高一貫教育が、2009年度のスタートから15年目を迎えました。総括と今後の課題についてうかがいます。  「今年度、9期生が卒業しました。これまでの卒業生は200人弱なので、毎年の卒業生は平均20人ほどであることが分かります。少子化により、そもそも入学者数の確保も苦戦しています。まだまだ十分な入学者数とは言えませんが、にもかかわらず東大への合格者も出し、結果は付いてきていると感じます。 中高一貫のシステムは精度が向上し、教員たちも誇張なしで素晴らしいレベルに達したと実感しています。教員の転勤がないので、本腰を据えて指導に当たれるのが私立校ならではの強みです」 ――「ゆとり教育」からの脱却を狙いとする新学習指導要領が中高で始まっています。従来と比べ知識・理解などの習得におけるスピードアップが求められるなど質・量ともに難易度が高まったとの指摘もあります。福島成蹊中・高のこれまでの取り組みについてうかがいます。  「各教科科目の質と量は、ゆとり教育時代を1とすると、現在は1・3~1・4倍のボリュームになっているというデータがあります。 ただ、それに比して授業時間が増えているかというと、そうではない。授業の密度が増した分、難易度は格段に上がったと思います。 文部科学省がゆとり教育に舵を切る前は、中高生の校内暴力が問題となった時代でした。文科省は勉強についていけないから非行に走るのだと見立て、理解ができるよう、子どもたちにゆとりを持たせたわけですが、現実は学級崩壊の到来でした。 最近は不登校が顕在化しています。要因の一つには、『勉強が分からない』があるのではないでしょうか。学校生活の7割以上は勉強の時間です。勉強が苦痛になると、その場に足が向かず、居場所がないと感じてしまう。綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、楽しくて夢のある授業を展開すれば学校に足も向くと思います。課外活動で能力を開花させることも重要ですが、学校と名が付く限りは、メーンは勉学であることを忘れてはいけません。 普通科高校を出た生徒の多くは、大学受験というある種の全国大会に臨みます。本校が15年も中高一貫教育を進めているのは、首都圏の受験生に対抗できる教育を福島で提供しないと地元の受験生が不利だからです。新学習指導要領をこなすためには授業時数を増やしていかなければ対応できない現実があります。柔軟に授業時間を増やすことで公立高校との差別化を図っています。 使命感に燃える教員たちが多くいることもそれを可能にしています。子どもたちや保護者のニーズに応えようと、教員一人ひとりが自己研鑽を惜しまず、生涯勉強を続けています。教員がこれまでの成蹊の実績をつくってきたと誇りに思います。これは勉学のみならず文化活動やスポーツでも同じです」 教育充実は大人の責務  ――アフターコロナを見据えた今後の学校運営についてうかがいます。 「コロナ禍以前は4コースとも海外研修が目玉でした。研修旅行がなかったり国内旅行に変えたりしましたが、今年度から一貫コースと特進コースは海外研修が復活し、来年度からは全てのコースで海外研修を実施します。日本の外を見るのは、一生に1回あるかないかのチャンスです。現地で視野を広げてほしい」 ――福島県における進学教育の現状と課題についてうかがいます。  「大学受験は全国レベルの戦いです。共通テストの県ごとの平均点は、本県は全国区でも、東北6県で比べても劣る数値です。福島県の将来ある若者の力を一層伸ばし、選択肢を広げるためにも、学力上位の大学に送る意識を大人たちが持たなければならないと考えます。子どもたちがこの県に、この街に生まれてよかったと思えるような教育環境を私たちがつくっていかなければと責任を感じています」 ――今後の抱負を。  「教育に携わる一人として、人が持つ力というのは、性別、生まれた地域などの条件によって制限されることはないと考えます。素質に働きかければ、子どもはそれを強みに大きく育ちますし、何もしなければ止まったままになってしまう。福島県の教育に不足している点は何かと教員たちと常に考え、生徒や保護者の皆さまの要望を民間ならではの柔軟性をもって教育に反映させます」

  • 【学校法人昌平黌】創立120周年「人間力育成」誓い新たに

    【学校法人昌平黌】創立120周年「人間力育成」誓い新たに

     東日本国際大学、いわき短期大学等を運営する学校法人昌平黌(いわき市、緑川浩司理事長)は6月22日、いわき芸術文化交流館・アリオス大ホールで学校法人昌平黌創立120周年記念式典を執り行った。 来賓、関係者、学生を合わせ約1730人が出席し、これまでの同法人の歴史を振り返りながら、孔子哲学に基づく「人間力育成」のさらなる発展に向けて、誓いを新たにした。 記念式典では、プロローグとして同大と同附属昌平中・高合同吹奏楽部による迫力あふれる演奏が披露された後、緑川理事長が「創立120周年を機に、建学の精神を実践する徳のある人材を育成する。地元いわき市と密接に関わり合いながら、人間教育の拠点として地域の信頼を得ることが本学園の発展につながる。いわき市から人間教育の新たな歴史を刻んでいく」と式辞を述べた。 永年勤続職員表彰に続き、来賓の文部科学大臣代理の伯井美徳文部科学審議官、内田広之いわき市長が祝辞を述べ、来賓紹介、祝電披露が行われた。 引き続き、創立120周年記念講演会が催された。 まず、福原紀彦日本私立学校振興・共済事業団理事長が「新しい時代の学びと人材育成~文理融合と文武両道~」という演題で講演した。 福原氏は①歴史は過去と現在との対話、②人は何のために学ぶのか、③日本の近代化と現代化に果たした世界的に誇る学校制度と私学の役割、④資本化、グローバル化、デジタル化などいわゆる新時代の三大潮流と難局の克服――をテーマに、ユーモアを交えながら解説。 マニュアル型の知識獲得から社会貢献に基づく「志」を伴う知恵・知性の修得をはじめ、文系・理系の分化・分断ではなく文理融合教育の重要性や学問とスポーツとの両道・連携の必要性を説いた。 続いて、黒住真・東京大学名誉教授が「日本の思想史からの孔子『論語』と今後への課題」というテーマで講演を行った。 黒住氏はまず「古代、中世、近世、近代、現代における思想概念と社会的変化」について説明。そのうえで孔子「論語」の歴史を紐解きながら、「枢軸時代や紀元前後の動き」、「中世における完成形態」、「近世における普及」、「明治維新後における中村正直や渋沢栄一らの『論語』への造詣」についてそれぞれ解説した。 結びに、経済問題が環境問題とつながった現在、「論語」を再評価する意義について力説した。 当日は、記念式典に先立ち、東日本国際大学1号館の「大成殿」で大成至聖先師孔子祭が開催された。 同法人では、「論語」の一節にある「義を行い以て其の道に達す」を建学の精神として掲げており、学生が「論語」に親しみ、孔子を敬い、その教えをあらためて見つめ直す機会として孔子祭を執り行っている。今年で35回目。 記念式典の様子  法人役員や来賓をはじめ、学生、教室などオンラインで結んだ約1800人が列席。神事が行われ、齋主祝詞奏上の後、緑川理事長、吉村作治総長、緑川明美常務理事ら関係者が玉串をささげた。緑川理事長は祭主あいさつにおいて「建学の精神は本学の根幹をなすもの。人間教育を実践してきた120年の歩みを改めて確認し、一層の人間力向上を図りながら地域社会の発展に貢献していく」と決意を新たにした。

  • 子どもより教職員が多い大熊町の新教育施設【学び舎ゆめの森】

    子どもより教職員が多い大熊町の新教育施設【学び舎ゆめの森】

     4月10日、大熊町の教育施設「学び舎(や)ゆめの森」が町内に開校した。義務教育学校と認定こども園が一体となった施設で、0~15歳の子どもたち26人が通う。 同日、同町大川原地区の交流施設「link(リンク)る大熊」で、入学式・始業式を兼ねた「始まりの式」が行われた。入場時には近くにある町役場の職員や町民約200人が広場に集まって子どもたちを出迎え、拍手で歓迎した。 吉田淳町長は「原発事故で厳しい状況になったが、会津若松市に避難しながら、途絶えることなく大熊町の教育を継続し、町内で教育施設を再開できるまでになった。少人数で学ぶ環境・メリットを生かし、学びの充実に取り組む」と式辞を述べた。 南郷市兵校長は「大熊から全国に先駆けた新たな学校教育に挑戦していく。一人ひとりの好奇心が枝を伸ばせば、夢の花を咲かせる大樹となる。ここからみんなの物語を生み出していきましょう」とあいさつした。 同町の学校は原発事故後、会津若松市で教育活動を続け、昨年4月には小中学校が一体となった義務教育学校「学び舎ゆめの森」が同市で先行して開校していた。大川原地区では事業費約45億円の新校舎が建設されているが、資材不足の影響で工期が遅れ、利用は2学期からにずれ込む見通し。それまでは「link(リンク)る大熊」など公共施設を間借りして授業を行う。なお、周辺の空間線量を測定したところ、0・1マイクロシーベルトを下回っていた。 なぜ子どもたちを同町の学校に入れようと考えたのが。保護者らに話を聞いてみると、「自分が大熊町出身で、子どもたちも大熊町で育てたいという気持ちがあった。仕事を辞めて家族で引っ越しした」という意見が聞かれた。その一方で、「出身は別のまちだが、仕事の関係で大熊町の職場に配属され、せっかくなので、子どもと一緒に転居することにした」という人もいた。 今後、廃炉作業が進み、浪江町の国際研究教育機構の活動が本格化していけば、人の動きが活発になることが予想される。そうした中で、同校があることは、同町に住む理由の一つになるかもしれない。同校教職員によると、会津若松市に義務教育学校があったときよりも児童・生徒数は増え、入学・転校の問い合わせも寄せられているという。 それぞれの保護者の決断は尊重したいが、「原発被災地の復興まちづくり」という視点でいうと、廃炉原発と中間貯蔵施設があるまちに、新たに事業費45億円をかけて新校舎を建てる必要があるとは思えない。 避難指示解除基準の空間線量3・8マイクロシーベルト毎時を下回っているものの、線量が高止まりとなっている場所も少なからずあり、住民帰還を疑問視する声もある。新聞やテレビは教育施設開校を一様に明るいトーンで報じていたが、こうした面にも目を向けるべきだ。 式の終わりに子どもたちと教職員が並んで記念写真を撮影したところ、子どもより教職員の人数の方が明らかに多かった(義務教育学校・認定こども園合計37人)。これが同町の現実ということだろう。 壇上に並ぶ「学び舎ゆめの森」の教職員  県教育庁義務教育課に確認したところ、「義務教育学校には小中の教員がいるのに加え、原発被災地12市町村には復興推進の目的で加配しているので、通常より多くなっていると思われる」とのことだった。 あわせて読みたい 【原発事故から12年】旧避難区域のいま【2023年】写真 【座談会】放射能を測り続ける人たち【福島第一原発事故】

  • 77歳教師【相楽新之助さん】「これからも教壇に立ち続けたい」

     教員不足が全国的に深刻になっており、教員免許を持つ教員OBが教育現場に戻るケースが増えている。福島市内でも70歳を超えても教壇に立ち続ける男性がいる。 小中学校の教員不足率は0・35%  教育委員会が定める教員の配当数を満たせない学校が増えつつある。文部科学省が実施した調査によると、2021年度の始業式時点での小中学校の教員不足率は0・35%。全国で2065人不足している。別の調査では、今年度開始時点で「教員不足の状況が1年前より悪化した」と回答した都道府県・政令指定都市教育教員会は43%に上った。  背景には団塊世代の教員が大量退職したことに加え、特別支援学級増加への対応、産休・育休取得者の増加、臨時的任用教員のなり手が減少していることなどが挙げられる。教員の多忙かつ長時間の労働環境が一般的に知られるようになり、教員を目指す人が減っている事情もある。  昨年9月5日付の福島民報によると、県教委調査の結果、県内の学校(小・中・高・特別支援学校)約130校で約140人の教員が不足していた。本県の場合、前述した事情に加え、少人数教育、震災・原発事故からの復興推進に取り組むための「加配」で定数が増え、欠員が膨らんでいることも影響している。  県教委では2~3年以内の定年退職者を中心に職場復帰を呼び掛けており、教員免許を持っている人にもさまざまなルートをたどって声がかけられている。そうした中、60代、70代になっても教壇に立つ教員が増えているが、パソコン対応や体力面の問題もあって簡単ではないという話が新聞などで報じられている。  「私の場合、目の前の生徒のためになっていると実感できれば、年齢を忘れてのめりこんでしまうので、年齢を感じることはないですね」  こう話すのは、70歳を超えた後も現役教員として教壇に立ち続けてきた相楽新之助さんだ。 再任用で中学校教員に  1946(昭和21)年5月16日生まれの77歳。福島高、福島大経済学部卒。川俣高、福島北高、矢吹高、安達高、福島東高、福島商業高で英語教員として教鞭をとり、定年退職後も再任用されて3年間勤めた。  その後は、福島東稜高で指導を継続。その一方で飯舘村教委から声がかかり、学力向上を目指した村学力向上アドバイザーに就任。仮設校舎(当時)で授業と若手教師へのアドバイスを担当した。  それらがひと段落すると、今度は取得していた中学校教諭の免許を生かし、福島市の平野中、福島三中、西信中、北信中で教員を務めた。  「小学校中学年では『外国語活動』として楽しく英語に触れるが、高学年から教科として『外国語』が始まると急に文法などが出てきて難易度が高まり、授業についていけなくなりがち。その結果、中学校に入る頃には英語嫌いになるケースが少なくないのです。そのため、英字新聞を活用するなど、教科書にとらわれない英語関連の話題を出して、興味を持ってもらうように心がけてきました」  もともとは商業科の教員だった相楽さん。転機となったのは、福大生時代に献血制度制定を呼び掛ける運動に携わったことだった。その運動内容について、県の赤十字大会でスピーチしたところ、世界中の若者が集う国際会議に日本代表として出席することになった。片言の英語で意思疎通を図る中で、各国の代表らは世界平和や自国の将来を真剣に考えていることを知った。  刺激的な体験をして居ても立っても居られなくなった。すでに大学を卒業し、川俣高の教員になっていたが、英語の教員免許を取って子どもたちに教えたいと考えた。同校に在職しながら福島大経済学部の専攻科や教育学部に通い直し、必要な条件を満たし、英語の高等学校教諭1級(当時)の免許を手にした。その後、生徒への指導のために数学、社会の免許も取得したという。  これまでの教員生活で印象に残っているエピソードを語ってもらったら止まらなくなった。  安達高で女子生徒3人から「米国に留学したい」と相談され、準備を手伝ってそれぞれ別の公立高校に送り出した。  英語教員向けに国が実施する「中央研修」に参加後、出版社から声がかかって英和辞典の編集に携わり、英語検定試験の面接官を務めた。  福島商業高の国際経済科(当時)の生徒に東京商工会議所が主催した英語の会計の検定試験を指導して受験させたところ、14人が合格した。  人とのつながりから刑務所でボランティア指導を行うようになった。  その行動力もさることながら、記憶力の良さに圧倒されるばかり。 自由度が低い教育現場  いま教育現場にいて感じることを尋ねると、「自由度が低くなっている」ことだという。  「授業に集中したいのに、やることが多すぎてがんじがらめで、教材研究をやったりする余裕は全くありません。高校に勤めていたときとは大きく異なると感じました」  どんな授業をやるのか、事前に「指導案」の提出を求められる。学力向上会議や生徒指導委員会といった各種会議も入り、県から降ってくる仕事もある。  相楽さんによると、教育現場では、1年間の目標を立て年度末に校長・教頭が4段階(S・A・B・C)で評価する「目標管理制度」が導入されている。時間が足りず学級運営に手が回らなくなり、学級崩壊などを引き起こした教員の評価は低くなるとみられる。評価が低いと次年度の給料にも影響するという。  こうした中で、自由な発想で指導を行う教員が減っている、と。  「新学習指導要領で求められている『指導と評価の一体化』(子どもへの評価を学習改善や指導改善にうまくつなげる取り組み)への対応も教員を悩ませる一因となっている。仕事がひと段落して帰宅できるのは19時過ぎ。朝は7時ごろから出勤しているので12時間勤務です。こうした現状を見直さないと、教員志望者も増えないのではないでしょうか」  県教委では「教職員多忙化解消アクションプランⅡ」を策定し、業務改善、部活動・校務の見直しなどに取り組んでいるが、現場の実感としてはまだまだ厳しいということになる。こうした声を受け、さらなる抜本的改革に取り組む必要があろう。  教育関係者は「70代の教員がデジタル技術を用いた授業を行ったり、最新受験テクニックを教えることができるのか。生徒も保護者も不安を抱くだろう」と疑問を呈するが、相楽さんは意に介さずこう話す。  「どの生徒も知りたいという欲求を持っていて、うまく〝鉱脈〟に突き当たると、目を輝かせて話を聞き始める。まだまだ教壇に立ち続けたい。現在は臨時的任用教員として登録しているわけではありませんが、今度、福島市に公立の夜間中学校ができると聞いているので、機会があればそちらでもぜひ指導してみたいと考えています」  教育への情熱はまだまだ消えることがなさそうだ。

  • 福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

     福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち  福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か  前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【福島成蹊中学校・高等学校】首都圏型中高一貫教育で躍進

     学校法人福島成蹊学園(福島市、高橋幸七理事長)が運営する福島成蹊高等学校(本田哲朗校長)は中高一貫教育を導入し、近年高い大学進学実績を残している。福島成蹊中学校開校による「首都圏型中高一貫教育」の開始から15年目を迎え、この間、東大や医学部への合格者を輩出するなど〝進学の成蹊〟として注目を集めている。 入試に求められる力を中高6年間で醸成 上浜キャンパス  「桃李不言下自成蹊」の校訓のもと、6月16日に創立110周年を迎えた福島成蹊学園。そんな同学園が2009年4月から始めたのが、福島成蹊中学校と福島成蹊高校による「併設型中高一貫教育(首都圏型中高一貫教育)」だ。6年間の一貫教育で学習・受験指導の効率化を図り、国公立大や難関私立大の現役合格率アップにつなげる方式で、県内での導入校は依然として少ないが、首都圏では定着している。 最大のメリットは、人間的成長に力点を置きながらも、6年後を見据えた総合カリキュラムにより継続的・効率的に学習できる点だろう。大学入試改革の骨格となる新学力観では、知識・技能に加え、多様な能力や人間力が求められているが、高校入学後の3年間だけでこれらの力を身に付けるのは、時間的にも学力的にも容易でない。 同学園が展開する中高一貫コースの総合カリキュラムでは、6年間の計画的学習の中で、大学入学共通テスト対策はもちろん、来るべき大学入試改革や新学習指導要領を踏まえた次世代に求められる力を着実に身に付けられるよう創意工夫が施されており、時代のニーズを見据えた進学教育の提供に努めている。 同中学校の定員は1学年60人(30人2クラス)。県北地方に限らず、「通学圏外」から入学する生徒も目立っており、「進学の成蹊」のブランドが定着している証しと言えよう。 中高一貫コースでは「夢を実現するための確かな力を培う―東京大学、医学部合格を目指します。」を合言葉に、生徒一人ひとりの潜在能力を引き出すべく、『未来を拓く4つの柱』に基づいた首都圏型先進教育に鋭意取り組んでいる。 1つは、学力、そして人間力を伸ばすことを狙いとする「新学力観を包括したカリキュラム 年間1500時間の学習量」。週6日制で中学1年次から1日7時間授業(週2回、高校1年次より週4回)を行う。さらに英語、数学、国語の放課後補講(週3回・50分、高校1年次より5教科週5回・90分)も実施し、年間1500時間の学習時間を確保している。中・高6年間の総学習時間は一般的な公立校の約8年分に匹敵するなど、圧倒的なボリュームである。 長期休業中には課外授業を行い、「授業」、「補講」、「課外」による〝質と量〟に裏打ちされた学習指導サイクルを構築することで、基礎から応用へ着実にステップアップできる。 2つは、「生徒に寄り添い可能性を伸ばす教師陣」。一人ひとりの可能性を最大限伸ばすため、同校の教師陣は工夫あふれる授業に注力している。「分からない」から「分かる」に変わるまで生徒の疑問に徹底して向き合い、本質的な理解を追求する学習指導をはじめ、集中力、思考力、想像力を養える先進的なカリキュラムにより、学習意欲向上はもちろん、学習の楽しさや達成感を味わえる教科指導を展開している。 英語では、単語や文法、構文などの基礎を徹底し、大学受験突破に必要な力を養う。また、英語の起源や文化背景を深く掘り下げ、知的好奇心を刺激しながら教養を高められるよう厳選された教材を使用する。 数学では、単元ごとの関連性が深いため、基礎固めを徹底して行うことを重視。授業では演習を通して解法をしっかり考える時間を設定する。また、大学入試問題を研究し、入試対策に直結する授業を展開する。 国語では、読解力を向上させるため、文章が「分かった」と思える読み方を身につけることを重視。生徒一人ひとりが「学ぶ楽しさ」を実感できるよう、丁寧で具体的な授業を実践している。 社会では、単なる「暗記科目」ではなく、なぜそれが起こっているのかを理解し、用語の重要さを実感できる指導に努めている。授業では、まず理解すること、そして記憶すること、最後に問題を解いて基礎を固めながら定着を図る。 理科では、中学での各単元で身の回りの事象・現象に興味・疑問を持たせることを心掛ける。高校では、中学での学習内容とのつながりを意識し、原子・分子レベルで現象を理解・説明する力を養う。 そのほか、新学習指導要領を踏まえた「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協働性」を育むアクティブ・ラーニング教育も推進。校舎全体にWi―Fiを完備し、全ての教室・スペースで1人1台のタブレット(i―Pad)を使用した学習・活動を実施するなど、最先端の教育環境を提供している。また、中学校課程でプレゼンテーションの機会を多めに設定し、一人ひとりが主体的に考え、討論し、発表する活動を行う。 英語力向上と国際理解教育に注力 腰浜キャンパス  3つは、リアルな感性と課題解決力を磨く「五感で学ぶ豊富な行事&体験学習」。全校生を対象とした「学習合宿」や30㌔余の距離を歩く「強歩」をはじめ、中学1年次のオリエンテーション合宿、臨海教室、尾瀬学習・燧ケ岳登山、スキー教室(中1・2・高1)、中学2年次の林間教室など、鍛練的、運動的、文化的、探求的行事を実施している。 さまざまな行事を通して多くの経験を積み上げていく中で、「気付き」の機会を与え、主体的な姿勢が芽生える。また、友人と協働して困難を乗り越えることで達成感・一体感の共有、課題解決能力も育まれる。 4つは、異文化を理解する心を磨くことを狙いとする「グローバル社会へ羽ばたく国際理解教育」。国際理解教育を推進し、グローバル社会で活躍するための基礎作りとして、中学3年次にカナダ(ビクトリア、バンクーバー)、高校2年次にカンボジア(シェムリアップ)・ベトナム(ホーチミン)を訪れる海外研修旅行が行われる(※社会情勢によりスケジュールが変更になる場合がある)。 また、実践的英語力向上を図るため、生徒全員が実用英語技能検定を受験し、中学校課程での準2級取得を目指す。一方で、柔軟な価値観を養いながら広い視野や独自の視点を獲得すべく、茶道教育、芸術・文化体験など「生きる力」を育むリベラルアーツ教育を推進する。さらに国際理解講演会を開催するなど、語学力だけではなく異文化における多様性を理解する心、自分のマインドで考え自分のハートで感じ自主的に行動できる主体性を育む取り組みにも力を入れている。 本田哲朗福島成蹊中・高校長に聞く ほんだ・てつろう 1953年2月生まれ。東京理科大理学部卒、同理学専攻科修了。聖望学園(埼玉県)を経て1989年より古川商業(宮城県・現古川学園)教頭に就任。2004年、福島成蹊高に赴任後、2009年4月に福島成蹊中の開校に合わせて同中・高の学校長に就任した。  ――2022年度の大学進学実績についてうかがいます。 「大学入学共通テストに移行して3年目です。初年度はセンター試験の流れを踏襲した形でしたが、2年度目は難化し、全国で過去最低の平均点数となりました。本校も同じ傾向です。今回は、若干平均点は上がったのですが、教科による難易度にばらつきがありました。 本県の大学受験で一つのバロメーターとなるのは東北大学の合格者数です。少なからず私が本校に携わった中では、過去最低の結果で、2、3人受験した中で1人しか合格させられませんでした。 一方で、もう一つのバロメーターである県立医大の医学部医学科は3人合格しました。うち1人は県内推薦枠ではなくて、一般入試で合格しています。 県立医大医学部医学科の一般入試合格者は、福島県内で例年7、8人でしたが、今年度は3人しか受かりませんでした。安積、福島、本校で1人ずつです。福島県勢が学力で劣勢に回った感は拭いされません」 中高一貫1~9期生190名の難関大学合格数 医学部医学科東北大学1福島県立医科大学8慶應義塾大学1順天堂大学1国際医療福祉大学2自治医科大学1東北医科薬科大学3昭和大学1愛知医科大学1北里大学1獨協医科大学1防衛医科大学校6国交省所管気象大学校1国公立東京大学3東京工業大学2東北大学22北海道大学4東京外国語大学1お茶の水女子大学1私立早稲田大学15慶應義塾大学12上智大学4国際基督教大学4東京理科大学30学習院大学5明治大学10青山学院大学8立教大学3中央大学24法政大学20  ――首都圏型中高一貫教育が、2009年度のスタートから15年目を迎えました。総括と今後の課題についてうかがいます。  「今年度、9期生が卒業しました。これまでの卒業生は200人弱なので、毎年の卒業生は平均20人ほどであることが分かります。少子化により、そもそも入学者数の確保も苦戦しています。まだまだ十分な入学者数とは言えませんが、にもかかわらず東大への合格者も出し、結果は付いてきていると感じます。 中高一貫のシステムは精度が向上し、教員たちも誇張なしで素晴らしいレベルに達したと実感しています。教員の転勤がないので、本腰を据えて指導に当たれるのが私立校ならではの強みです」 ――「ゆとり教育」からの脱却を狙いとする新学習指導要領が中高で始まっています。従来と比べ知識・理解などの習得におけるスピードアップが求められるなど質・量ともに難易度が高まったとの指摘もあります。福島成蹊中・高のこれまでの取り組みについてうかがいます。  「各教科科目の質と量は、ゆとり教育時代を1とすると、現在は1・3~1・4倍のボリュームになっているというデータがあります。 ただ、それに比して授業時間が増えているかというと、そうではない。授業の密度が増した分、難易度は格段に上がったと思います。 文部科学省がゆとり教育に舵を切る前は、中高生の校内暴力が問題となった時代でした。文科省は勉強についていけないから非行に走るのだと見立て、理解ができるよう、子どもたちにゆとりを持たせたわけですが、現実は学級崩壊の到来でした。 最近は不登校が顕在化しています。要因の一つには、『勉強が分からない』があるのではないでしょうか。学校生活の7割以上は勉強の時間です。勉強が苦痛になると、その場に足が向かず、居場所がないと感じてしまう。綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、楽しくて夢のある授業を展開すれば学校に足も向くと思います。課外活動で能力を開花させることも重要ですが、学校と名が付く限りは、メーンは勉学であることを忘れてはいけません。 普通科高校を出た生徒の多くは、大学受験というある種の全国大会に臨みます。本校が15年も中高一貫教育を進めているのは、首都圏の受験生に対抗できる教育を福島で提供しないと地元の受験生が不利だからです。新学習指導要領をこなすためには授業時数を増やしていかなければ対応できない現実があります。柔軟に授業時間を増やすことで公立高校との差別化を図っています。 使命感に燃える教員たちが多くいることもそれを可能にしています。子どもたちや保護者のニーズに応えようと、教員一人ひとりが自己研鑽を惜しまず、生涯勉強を続けています。教員がこれまでの成蹊の実績をつくってきたと誇りに思います。これは勉学のみならず文化活動やスポーツでも同じです」 教育充実は大人の責務  ――アフターコロナを見据えた今後の学校運営についてうかがいます。 「コロナ禍以前は4コースとも海外研修が目玉でした。研修旅行がなかったり国内旅行に変えたりしましたが、今年度から一貫コースと特進コースは海外研修が復活し、来年度からは全てのコースで海外研修を実施します。日本の外を見るのは、一生に1回あるかないかのチャンスです。現地で視野を広げてほしい」 ――福島県における進学教育の現状と課題についてうかがいます。  「大学受験は全国レベルの戦いです。共通テストの県ごとの平均点は、本県は全国区でも、東北6県で比べても劣る数値です。福島県の将来ある若者の力を一層伸ばし、選択肢を広げるためにも、学力上位の大学に送る意識を大人たちが持たなければならないと考えます。子どもたちがこの県に、この街に生まれてよかったと思えるような教育環境を私たちがつくっていかなければと責任を感じています」 ――今後の抱負を。  「教育に携わる一人として、人が持つ力というのは、性別、生まれた地域などの条件によって制限されることはないと考えます。素質に働きかければ、子どもはそれを強みに大きく育ちますし、何もしなければ止まったままになってしまう。福島県の教育に不足している点は何かと教員たちと常に考え、生徒や保護者の皆さまの要望を民間ならではの柔軟性をもって教育に反映させます」

  • 【学校法人昌平黌】創立120周年「人間力育成」誓い新たに

     東日本国際大学、いわき短期大学等を運営する学校法人昌平黌(いわき市、緑川浩司理事長)は6月22日、いわき芸術文化交流館・アリオス大ホールで学校法人昌平黌創立120周年記念式典を執り行った。 来賓、関係者、学生を合わせ約1730人が出席し、これまでの同法人の歴史を振り返りながら、孔子哲学に基づく「人間力育成」のさらなる発展に向けて、誓いを新たにした。 記念式典では、プロローグとして同大と同附属昌平中・高合同吹奏楽部による迫力あふれる演奏が披露された後、緑川理事長が「創立120周年を機に、建学の精神を実践する徳のある人材を育成する。地元いわき市と密接に関わり合いながら、人間教育の拠点として地域の信頼を得ることが本学園の発展につながる。いわき市から人間教育の新たな歴史を刻んでいく」と式辞を述べた。 永年勤続職員表彰に続き、来賓の文部科学大臣代理の伯井美徳文部科学審議官、内田広之いわき市長が祝辞を述べ、来賓紹介、祝電披露が行われた。 引き続き、創立120周年記念講演会が催された。 まず、福原紀彦日本私立学校振興・共済事業団理事長が「新しい時代の学びと人材育成~文理融合と文武両道~」という演題で講演した。 福原氏は①歴史は過去と現在との対話、②人は何のために学ぶのか、③日本の近代化と現代化に果たした世界的に誇る学校制度と私学の役割、④資本化、グローバル化、デジタル化などいわゆる新時代の三大潮流と難局の克服――をテーマに、ユーモアを交えながら解説。 マニュアル型の知識獲得から社会貢献に基づく「志」を伴う知恵・知性の修得をはじめ、文系・理系の分化・分断ではなく文理融合教育の重要性や学問とスポーツとの両道・連携の必要性を説いた。 続いて、黒住真・東京大学名誉教授が「日本の思想史からの孔子『論語』と今後への課題」というテーマで講演を行った。 黒住氏はまず「古代、中世、近世、近代、現代における思想概念と社会的変化」について説明。そのうえで孔子「論語」の歴史を紐解きながら、「枢軸時代や紀元前後の動き」、「中世における完成形態」、「近世における普及」、「明治維新後における中村正直や渋沢栄一らの『論語』への造詣」についてそれぞれ解説した。 結びに、経済問題が環境問題とつながった現在、「論語」を再評価する意義について力説した。 当日は、記念式典に先立ち、東日本国際大学1号館の「大成殿」で大成至聖先師孔子祭が開催された。 同法人では、「論語」の一節にある「義を行い以て其の道に達す」を建学の精神として掲げており、学生が「論語」に親しみ、孔子を敬い、その教えをあらためて見つめ直す機会として孔子祭を執り行っている。今年で35回目。 記念式典の様子  法人役員や来賓をはじめ、学生、教室などオンラインで結んだ約1800人が列席。神事が行われ、齋主祝詞奏上の後、緑川理事長、吉村作治総長、緑川明美常務理事ら関係者が玉串をささげた。緑川理事長は祭主あいさつにおいて「建学の精神は本学の根幹をなすもの。人間教育を実践してきた120年の歩みを改めて確認し、一層の人間力向上を図りながら地域社会の発展に貢献していく」と決意を新たにした。

  • 子どもより教職員が多い大熊町の新教育施設【学び舎ゆめの森】

     4月10日、大熊町の教育施設「学び舎(や)ゆめの森」が町内に開校した。義務教育学校と認定こども園が一体となった施設で、0~15歳の子どもたち26人が通う。 同日、同町大川原地区の交流施設「link(リンク)る大熊」で、入学式・始業式を兼ねた「始まりの式」が行われた。入場時には近くにある町役場の職員や町民約200人が広場に集まって子どもたちを出迎え、拍手で歓迎した。 吉田淳町長は「原発事故で厳しい状況になったが、会津若松市に避難しながら、途絶えることなく大熊町の教育を継続し、町内で教育施設を再開できるまでになった。少人数で学ぶ環境・メリットを生かし、学びの充実に取り組む」と式辞を述べた。 南郷市兵校長は「大熊から全国に先駆けた新たな学校教育に挑戦していく。一人ひとりの好奇心が枝を伸ばせば、夢の花を咲かせる大樹となる。ここからみんなの物語を生み出していきましょう」とあいさつした。 同町の学校は原発事故後、会津若松市で教育活動を続け、昨年4月には小中学校が一体となった義務教育学校「学び舎ゆめの森」が同市で先行して開校していた。大川原地区では事業費約45億円の新校舎が建設されているが、資材不足の影響で工期が遅れ、利用は2学期からにずれ込む見通し。それまでは「link(リンク)る大熊」など公共施設を間借りして授業を行う。なお、周辺の空間線量を測定したところ、0・1マイクロシーベルトを下回っていた。 なぜ子どもたちを同町の学校に入れようと考えたのが。保護者らに話を聞いてみると、「自分が大熊町出身で、子どもたちも大熊町で育てたいという気持ちがあった。仕事を辞めて家族で引っ越しした」という意見が聞かれた。その一方で、「出身は別のまちだが、仕事の関係で大熊町の職場に配属され、せっかくなので、子どもと一緒に転居することにした」という人もいた。 今後、廃炉作業が進み、浪江町の国際研究教育機構の活動が本格化していけば、人の動きが活発になることが予想される。そうした中で、同校があることは、同町に住む理由の一つになるかもしれない。同校教職員によると、会津若松市に義務教育学校があったときよりも児童・生徒数は増え、入学・転校の問い合わせも寄せられているという。 それぞれの保護者の決断は尊重したいが、「原発被災地の復興まちづくり」という視点でいうと、廃炉原発と中間貯蔵施設があるまちに、新たに事業費45億円をかけて新校舎を建てる必要があるとは思えない。 避難指示解除基準の空間線量3・8マイクロシーベルト毎時を下回っているものの、線量が高止まりとなっている場所も少なからずあり、住民帰還を疑問視する声もある。新聞やテレビは教育施設開校を一様に明るいトーンで報じていたが、こうした面にも目を向けるべきだ。 式の終わりに子どもたちと教職員が並んで記念写真を撮影したところ、子どもより教職員の人数の方が明らかに多かった(義務教育学校・認定こども園合計37人)。これが同町の現実ということだろう。 壇上に並ぶ「学び舎ゆめの森」の教職員  県教育庁義務教育課に確認したところ、「義務教育学校には小中の教員がいるのに加え、原発被災地12市町村には復興推進の目的で加配しているので、通常より多くなっていると思われる」とのことだった。 あわせて読みたい 【原発事故から12年】旧避難区域のいま【2023年】写真 【座談会】放射能を測り続ける人たち【福島第一原発事故】