【福島成蹊中学校・高等学校】首都圏型中高一貫教育で躍進

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【福島成蹊中学校・高等学校】首都圏型中高一貫教育で躍進

 学校法人福島成蹊学園(福島市、高橋幸七理事長)が運営する福島成蹊高等学校(本田哲朗校長)は中高一貫教育を導入し、近年高い大学進学実績を残している。福島成蹊中学校開校による「首都圏型中高一貫教育」の開始から15年目を迎え、この間、東大や医学部への合格者を輩出するなど〝進学の成蹊〟として注目を集めている。

入試に求められる力を中高6年間で醸成

上浜キャンパス
上浜キャンパス

 「桃李不言下自成蹊」の校訓のもと、6月16日に創立110周年を迎えた福島成蹊学園。そんな同学園が2009年4月から始めたのが、福島成蹊中学校と福島成蹊高校による「併設型中高一貫教育(首都圏型中高一貫教育)」だ。6年間の一貫教育で学習・受験指導の効率化を図り、国公立大や難関私立大の現役合格率アップにつなげる方式で、県内での導入校は依然として少ないが、首都圏では定着している。

 最大のメリットは、人間的成長に力点を置きながらも、6年後を見据えた総合カリキュラムにより継続的・効率的に学習できる点だろう。大学入試改革の骨格となる新学力観では、知識・技能に加え、多様な能力や人間力が求められているが、高校入学後の3年間だけでこれらの力を身に付けるのは、時間的にも学力的にも容易でない。

 同学園が展開する中高一貫コースの総合カリキュラムでは、6年間の計画的学習の中で、大学入学共通テスト対策はもちろん、来るべき大学入試改革や新学習指導要領を踏まえた次世代に求められる力を着実に身に付けられるよう創意工夫が施されており、時代のニーズを見据えた進学教育の提供に努めている。

 同中学校の定員は1学年60人(30人2クラス)。県北地方に限らず、「通学圏外」から入学する生徒も目立っており、「進学の成蹊」のブランドが定着している証しと言えよう。

 中高一貫コースでは「夢を実現するための確かな力を培う―東京大学、医学部合格を目指します。」を合言葉に、生徒一人ひとりの潜在能力を引き出すべく、『未来を拓く4つの柱』に基づいた首都圏型先進教育に鋭意取り組んでいる。

 1つは、学力、そして人間力を伸ばすことを狙いとする「新学力観を包括したカリキュラム 年間1500時間の学習量」。週6日制で中学1年次から1日7時間授業(週2回、高校1年次より週4回)を行う。さらに英語、数学、国語の放課後補講(週3回・50分、高校1年次より5教科週5回・90分)も実施し、年間1500時間の学習時間を確保している。中・高6年間の総学習時間は一般的な公立校の約8年分に匹敵するなど、圧倒的なボリュームである。

 長期休業中には課外授業を行い、「授業」、「補講」、「課外」による〝質と量〟に裏打ちされた学習指導サイクルを構築することで、基礎から応用へ着実にステップアップできる。

 2つは、「生徒に寄り添い可能性を伸ばす教師陣」。一人ひとりの可能性を最大限伸ばすため、同校の教師陣は工夫あふれる授業に注力している。「分からない」から「分かる」に変わるまで生徒の疑問に徹底して向き合い、本質的な理解を追求する学習指導をはじめ、集中力、思考力、想像力を養える先進的なカリキュラムにより、学習意欲向上はもちろん、学習の楽しさや達成感を味わえる教科指導を展開している。

 英語では、単語や文法、構文などの基礎を徹底し、大学受験突破に必要な力を養う。また、英語の起源や文化背景を深く掘り下げ、知的好奇心を刺激しながら教養を高められるよう厳選された教材を使用する。

 数学では、単元ごとの関連性が深いため、基礎固めを徹底して行うことを重視。授業では演習を通して解法をしっかり考える時間を設定する。また、大学入試問題を研究し、入試対策に直結する授業を展開する。

 国語では、読解力を向上させるため、文章が「分かった」と思える読み方を身につけることを重視。生徒一人ひとりが「学ぶ楽しさ」を実感できるよう、丁寧で具体的な授業を実践している。

 社会では、単なる「暗記科目」ではなく、なぜそれが起こっているのかを理解し、用語の重要さを実感できる指導に努めている。授業では、まず理解すること、そして記憶すること、最後に問題を解いて基礎を固めながら定着を図る。

 理科では、中学での各単元で身の回りの事象・現象に興味・疑問を持たせることを心掛ける。高校では、中学での学習内容とのつながりを意識し、原子・分子レベルで現象を理解・説明する力を養う。

 そのほか、新学習指導要領を踏まえた「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協働性」を育むアクティブ・ラーニング教育も推進。校舎全体にWi―Fiを完備し、全ての教室・スペースで1人1台のタブレット(i―Pad)を使用した学習・活動を実施するなど、最先端の教育環境を提供している。また、中学校課程でプレゼンテーションの機会を多めに設定し、一人ひとりが主体的に考え、討論し、発表する活動を行う。

英語力向上と国際理解教育に注力

腰浜キャンパス
腰浜キャンパス

 3つは、リアルな感性と課題解決力を磨く「五感で学ぶ豊富な行事&体験学習」。全校生を対象とした「学習合宿」や30㌔余の距離を歩く「強歩」をはじめ、中学1年次のオリエンテーション合宿、臨海教室、尾瀬学習・燧ケ岳登山、スキー教室(中1・2・高1)、中学2年次の林間教室など、鍛練的、運動的、文化的、探求的行事を実施している。

 さまざまな行事を通して多くの経験を積み上げていく中で、「気付き」の機会を与え、主体的な姿勢が芽生える。また、友人と協働して困難を乗り越えることで達成感・一体感の共有、課題解決能力も育まれる。

 4つは、異文化を理解する心を磨くことを狙いとする「グローバル社会へ羽ばたく国際理解教育」。国際理解教育を推進し、グローバル社会で活躍するための基礎作りとして、中学3年次にカナダ(ビクトリア、バンクーバー)、高校2年次にカンボジア(シェムリアップ)・ベトナム(ホーチミン)を訪れる海外研修旅行が行われる(※社会情勢によりスケジュールが変更になる場合がある)。

 また、実践的英語力向上を図るため、生徒全員が実用英語技能検定を受験し、中学校課程での準2級取得を目指す。一方で、柔軟な価値観を養いながら広い視野や独自の視点を獲得すべく、茶道教育、芸術・文化体験など「生きる力」を育むリベラルアーツ教育を推進する。さらに国際理解講演会を開催するなど、語学力だけではなく異文化における多様性を理解する心、自分のマインドで考え自分のハートで感じ自主的に行動できる主体性を育む取り組みにも力を入れている。

本田哲朗福島成蹊中・高校長に聞く

本田哲朗福島成蹊中・高校長

ほんだ・てつろう 1953年2月生まれ。東京理科大理学部卒、同理学専攻科修了。聖望学園(埼玉県)を経て1989年より古川商業(宮城県・現古川学園)教頭に就任。2004年、福島成蹊高に赴任後、2009年4月に福島成蹊中の開校に合わせて同中・高の学校長に就任した。

 ――2022年度の大学進学実績についてうかがいます。

 「大学入学共通テストに移行して3年目です。初年度はセンター試験の流れを踏襲した形でしたが、2年度目は難化し、全国で過去最低の平均点数となりました。本校も同じ傾向です。今回は、若干平均点は上がったのですが、教科による難易度にばらつきがありました。

 本県の大学受験で一つのバロメーターとなるのは東北大学の合格者数です。少なからず私が本校に携わった中では、過去最低の結果で、2、3人受験した中で1人しか合格させられませんでした。

 一方で、もう一つのバロメーターである県立医大の医学部医学科は3人合格しました。うち1人は県内推薦枠ではなくて、一般入試で合格しています。

 県立医大医学部医学科の一般入試合格者は、福島県内で例年7、8人でしたが、今年度は3人しか受かりませんでした。安積、福島、本校で1人ずつです。福島県勢が学力で劣勢に回った感は拭いされません」

中高一貫1~9期生190名の難関大学合格数

医学部医学科東北大学1
福島県立医科大学8
慶應義塾大学1
順天堂大学1
国際医療福祉大学2
自治医科大学1
東北医科薬科大学3
昭和大学1
愛知医科大学1
北里大学1
獨協医科大学1
防衛医科大学校6
国交省所管気象大学校1
国公立東京大学3
東京工業大学2
東北大学22
北海道大学4
東京外国語大学1
お茶の水女子大学1
私立早稲田大学15
慶應義塾大学12
上智大学4
国際基督教大学4
東京理科大学30
学習院大学5
明治大学10
青山学院大学8
立教大学3
中央大学24
法政大学20



 ――首都圏型中高一貫教育が、2009年度のスタートから15年目を迎えました。総括と今後の課題についてうかがいます。 

 「今年度、9期生が卒業しました。これまでの卒業生は200人弱なので、毎年の卒業生は平均20人ほどであることが分かります。少子化により、そもそも入学者数の確保も苦戦しています。まだまだ十分な入学者数とは言えませんが、にもかかわらず東大への合格者も出し、結果は付いてきていると感じます。

 中高一貫のシステムは精度が向上し、教員たちも誇張なしで素晴らしいレベルに達したと実感しています。教員の転勤がないので、本腰を据えて指導に当たれるのが私立校ならではの強みです」

 ――「ゆとり教育」からの脱却を狙いとする新学習指導要領が中高で始まっています。従来と比べ知識・理解などの習得におけるスピードアップが求められるなど質・量ともに難易度が高まったとの指摘もあります。福島成蹊中・高のこれまでの取り組みについてうかがいます。 

 「各教科科目の質と量は、ゆとり教育時代を1とすると、現在は1・3~1・4倍のボリュームになっているというデータがあります。

 ただ、それに比して授業時間が増えているかというと、そうではない。授業の密度が増した分、難易度は格段に上がったと思います。

 文部科学省がゆとり教育に舵を切る前は、中高生の校内暴力が問題となった時代でした。文科省は勉強についていけないから非行に走るのだと見立て、理解ができるよう、子どもたちにゆとりを持たせたわけですが、現実は学級崩壊の到来でした。

 最近は不登校が顕在化しています。要因の一つには、『勉強が分からない』があるのではないでしょうか。学校生活の7割以上は勉強の時間です。勉強が苦痛になると、その場に足が向かず、居場所がないと感じてしまう。綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、楽しくて夢のある授業を展開すれば学校に足も向くと思います。課外活動で能力を開花させることも重要ですが、学校と名が付く限りは、メーンは勉学であることを忘れてはいけません。

 普通科高校を出た生徒の多くは、大学受験というある種の全国大会に臨みます。本校が15年も中高一貫教育を進めているのは、首都圏の受験生に対抗できる教育を福島で提供しないと地元の受験生が不利だからです。新学習指導要領をこなすためには授業時数を増やしていかなければ対応できない現実があります。柔軟に授業時間を増やすことで公立高校との差別化を図っています。

 使命感に燃える教員たちが多くいることもそれを可能にしています。子どもたちや保護者のニーズに応えようと、教員一人ひとりが自己研鑽を惜しまず、生涯勉強を続けています。教員がこれまでの成蹊の実績をつくってきたと誇りに思います。これは勉学のみならず文化活動やスポーツでも同じです」

教育充実は大人の責務

 ――アフターコロナを見据えた今後の学校運営についてうかがいます。

 「コロナ禍以前は4コースとも海外研修が目玉でした。研修旅行がなかったり国内旅行に変えたりしましたが、今年度から一貫コースと特進コースは海外研修が復活し、来年度からは全てのコースで海外研修を実施します。日本の外を見るのは、一生に1回あるかないかのチャンスです。現地で視野を広げてほしい」

 ――福島県における進学教育の現状と課題についてうかがいます。 

 「大学受験は全国レベルの戦いです。共通テストの県ごとの平均点は、本県は全国区でも、東北6県で比べても劣る数値です。福島県の将来ある若者の力を一層伸ばし、選択肢を広げるためにも、学力上位の大学に送る意識を大人たちが持たなければならないと考えます。子どもたちがこの県に、この街に生まれてよかったと思えるような教育環境を私たちがつくっていかなければと責任を感じています」

 ――今後の抱負を。 

 「教育に携わる一人として、人が持つ力というのは、性別、生まれた地域などの条件によって制限されることはないと考えます。素質に働きかければ、子どもはそれを強みに大きく育ちますし、何もしなければ止まったままになってしまう。福島県の教育に不足している点は何かと教員たちと常に考え、生徒や保護者の皆さまの要望を民間ならではの柔軟性をもって教育に反映させます」

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