相馬玉野メガソーラー計画への懸念

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相馬玉野メガソーラー計画へ  の懸念(2021年10月号)

(2021年10月号)

 本誌2021年8月号に「不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 静岡県熱海市土砂災害との意外な接点」という記事を掲載した。その後、相馬市9月議会で同計画に関連する動きがあったので続報する。

実らなかった住民団体「必死の訴え」

実らなかった住民団体「必死の訴え」

 現在、相馬市玉野地区で、県内最大級のメガソーラー計画が進められている。計画地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴う。そのため、近隣住民や下流域の住民からは、「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安の声が出ていた。

 こうした事情もあり、7月15日に玉野地区だけでなく、ほかの地区の住民も交えた説明会が開催された。主催したのは「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社の担当者を招いての説明会だった。

 記事ではその模様を伝えたほか、①同事業用地の所有者で同事業の発案者は、7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者と同一人物であること、②県はそのことを認識しながら、7月15日に林地開発許可を出したこと――等々をリポートした。

 一方、同記事では、説明会から4日後の7月19日に、住民団体「相馬市民有志の会」(※説明会を主催した「相馬市民の会」とは別団体)が県に対して、「同事業には安全面で問題があるため、林地開発許可を行わないよう求める」とする申入書を提出したことも伝えた。

 申入書の趣旨は、1つは静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」を引き合いに、そうした問題人物の手掛ける事業に行政として、開発許可を出すのが妥当なのか、ということ。

 もう1つは調整池の問題。「相馬市民有志の会」の関係者は当時の本誌取材に次のように話していた。

 「2019年の台風では、同計画の設計基準とされている雨量を超えたほか、事業終了後の調整池の問題もあります。というのは、最初の説明会のとき、事業者は発電期間は20年間で、その後、メンテナンスを行い、さらに20年間、最大40年間を見込んでいるとのことでしたが、事業期間が終わり、パネルを撤退した時点では、山は丸裸のまんまです。一度剥いてしまった山林が保水力を取り戻すには数十年、場合によっては100年かかると言われており、事業終了後も調整池は残さなければならない。事業期間中は定期的にえん堤の修繕・堆積土浚渫などを行うそうだが、事業終了後は誰がそれをやるのか。国の制度では、2022年度から事業期間中に売電収入から外部積み立てをし、それを撤去費用に充てることになっていますが、調整池の保全管理費分も含むかどうかは不透明です。そういった面で、とにかく問題点が多過ぎる。将来的に、負の遺産になるかもしれないものは、地元住民として到底容認できないというのが申入書の趣旨です」

 計画では事業区域は1号から7号までの各ブロックに分かれ、太陽光パネルが設置されたエリアはフェンスで覆い、その外側の周囲30㍍は残置森林とするほか、各ブロックに調整池を設置する、とされている。事業(発電)期間終了後、その調整池の管理の問題を問うのが申入書の趣旨だった。 8月号記事執筆時点では、この申入書に対する県からの回答はなかったが、8月11日付で県森林保全課から「相馬市民有志の会」に回答があった。内容は次の通り。

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 林地開発許可について

 令和3年4月28日付で合同会社相馬伊達太陽光発電所から林地開発許可申請があったこのことについて、「災害の防止」、「水害の防止」、「水の確保」、「環境の保全」の4要件で審査し、許可基準を満たすことを確認しました。さらに、福島県森林審議会に諮問した結果、「適当と認める」旨の答申を得たことから、令和3年7月15日付で許可しました。

 GSSGソーラージャパンホールディングス2等の調査結果

 申請者である合同会社相馬伊達太陽光発電所の代表社員GSSGソーラージャパンホールディングス2の存在を確認するとともに、開発行為が中断されることなく許可を受けた計画どおり適正に完遂させうる相当の資金力及び信用の有無を確認しています。なお、麦島善光氏(編集部注・静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者で、合同会社相馬伊達太陽光発電所の創設者、玉野地区メガソーラー計画地の地権者)につきましては、土地所有者であり、土地所有者の適正は審査項目に含まれておりません。

 土砂災害警戒区域について

 土砂災害防止法による開発規制は、指定区域において住宅分譲や災害時要援護者関連施設等の建築のための開発行為が対象であり、太陽光発電事業を目的とする開発行為は該当しない旨の回答を担当部局から得ています。また、当該地の警戒区域については、現時点で未指定であり、基礎調査の公表となっています。なお、環境省において再生可能エネルギーの促進地域から土砂災害の危険性が高い区域を除外する旨の通知等は示されていません

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資源エネ庁に申し入れ

資源エネ庁に申し入れ【相馬玉野メガソーラー計画】地図

 「相馬市民有志の会」が県に申入書を提出した直後、県森林保全課に確認したところ、林地開発については、手続き上、要件を満たしていれば開発許可を出すことになる、とのこと。

 さらに、静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」との関係については、県森林保全課では、熱海市の土地所有者と、玉野地区のメガソーラー計画の事業地所有者が同一人物であることは認識していた。

 そこで、記者が「すでに開発許可は出ているそうだが、そういう人(問題人物と思しき人)が関わっているということで、開発許可を再考するということにはならないのか」と尋ねると、こう明かした。

 「許可申請者は別(GSSGの傘下のようになった相馬伊達太陽光発電所)ですし、(熱海市の件と同一人物が)所有者に名を連ねているのは承知していますが、それだけ、と言ったら何ですが……。そういうこと(開発許可を再考すること)にはならないと思います」

 申入書に対する回答を見ると、まさにそういった内容のものだ。

 一方、「相馬市民有志の会」は同様の観点から、8月下旬、相馬市に要望を行うと同時に、相馬市議会に陳情書を提出した。

 それに先立ち、「相馬市民有志の会」は8月10日に資源エネルギー庁にも同趣旨の申入書を提出している。その際、資源エネルギー庁は「調整池は長期にわたり維持管理される必要があるが、調整池保全管理費については、外部機関積み立ての対象になっていない」との回答だったという。

 国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいないことが資源エネルギー庁への申し入れで明らかになったということだ。

「市が義務付けは難しい」と市長

「市が義務付けは難しい」と市長【立谷秀清相馬市長】

 これを受け、「相馬市民有志の会」は市と議会に対して「長期にわたる調整池の保全管理費が本来負担すべき事業者ではなく、相馬市民に押し付けられることになる」として、「そうしたことにならないよう、事業者との間に①事業終了後においても、調整池の保全管理費は事業者が負担すること。事業者は保全管理費の総計を算出し、それを相馬市と共有して積み立て実態も公開すること、②万が一、メガソーラー設置に起因する災害が発生したときは事業者が復旧及び被害救済に責任を負うこと、などを内容とする協定書を取り交わすべき」と要望・陳情したのである。

 陳情は市議会文教厚生常任委員会に付託され、9月定例会中の9月8日に審議が行われたが、それに先立ち、同2日に一般質問が行われ、村松恵美子議員が関連の質問を行った。

 内容は「県内最大規模のメガソーラー発電施設が玉野地区に設置される計画が進んでいる。メガソーラー設置区域には土砂流出警戒区域も含まれる。さらに大雨対策の調整池の維持管理が事業継続中は事業者の責任だが、事業終了後は事業者責任が無くなることが分かった。このような法整備が不完全の状態で設置が進むことを市長はどう考えるかうかがう」というもの。

 まさに、「相馬市民有志の会」が懸念する「事業終了後の調整池の維持管理の問題」を質したのである。

 これに対する市当局の答弁だが、まず、林地開発申請後、県から地元自治体として意見を求められ、意見書を提出したという。

 その内容は、令和元年東日本台風により大きな被害を受けた下流地区の住民に、特に丁寧な説明を行い、水害への懸念を払拭すること、激甚災害相当規模の雨量にも対応できる設備を設置すること、林地開発にあたっては、開発地周辺住民に十分な説明機会を設け、理解を得ながら事業を進めること、意見や要望に対して十分な説明や誠意を持って対応すること――というもの。

 そのうえで、立谷秀清市長は次のように答弁した。

 「『相馬市民有志の会』から環境協定の中で事業終了後の調整池の管理を義務付けるよう要望が出ている。弁護士とも協議したが、民間事業者と地権者の契約の中で、市が事業者にその義務付けをすることはできない。協定書に盛り込めるとしたら、県の基準を順守しなさい、安全性を確保しなさい、というところまでしかできない」

 さらに、立谷市長は「この件は全国的な問題として、これから出てくる。発端は熱海市の件。熱海市長とは親しくしているが、憤懣やるかたない思いだと言っていた。全国的な問題だから、全国市長会長の立場で問題提起・議論していきたい」とも語っていた。

 問題は認識しつつも、民間事業者と地権者による民民のビジネス契約だから、市としてそこに関与することは難しい、ということだ。

陳情「委員会審議」の模様

 陳情の審議が行われたのは、この一般質問があった数日後で、当日は陳情者の意見陳述が行われ、「相馬市民有志の会」関係者が陳情趣旨などを説明した。その後、議員(委員)から陳情者への質問、議員から執行部への質問、議員間討議、討論などが行われ、最後に採決された。採決結果は賛成ゼロで不採択だった。

 反対討論は3人の議員が行ったが、端的に言うと、その内容は「相馬市民有志の会」が指摘した問題点について理解は示しつつ、基本的には民間事業者が民間の土地を借りて行う事業であり、行政として関与できるものではない、というものだった。この数日前の立谷市長の答弁を受け、議会でもそういった結論になったということだろう。

 「相馬市民有志の会」の懸念は、民間事業者がビジネス(金儲け)をした後の後処理を誰がするのか、場合によっては行政が税金によって担うことになり、それはおかしい、ということである。だったら、そうならないようにあらかじめ対策を取っておくべき、ということで、趣旨としては分かりやすい。

 ただ、市や議会の判断は前述の通りで、住民の感情や懸念と、行政・議会としてできることには隔たりがあるということだ。

 同日は「相馬市民有志の会」関係者ら十数人が傍聴に訪れていたが、落胆の声が聞かれた。

 前述したように、国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいない。そこに、調整池保全管理費なども含めるよう、法制度を変えていくしかないということだろう。

 一方で、関係者によると、10月中に事業者を招いた「相馬市民の会」主催の説明会が再度行われるというが、その席であらためてこの問題が取り上げられるのは間違いない。そこで、事業者がどのような回答を用意しているか、ひとまずはそこに注目だ。

相馬市のホームページ

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