本誌記者【甲子園に行く】聖光学院・斎藤監督と試合を振り返る

本誌記者【甲子園に行く】聖光学院・斎藤監督と試合を振り返る

 今年8月に100歳の誕生日を迎えた阪神甲子園球場。言わずと知れた「高校野球の聖地」だが、三十数年来の高校野球ファンを自称しつつも、これまで聖地に足を踏み入れたことはなかった。ただ今回、この節目の年に、地元・聖光学院の現地応援の機会を得た。(末永)

夏の甲子園

聖光学院提供

聖光学院提供

 最初に書いておこう。筆者は高校野球ファンで、中でも聖光学院を一番応援している。もちろん、地元の代表だからということもあるし、何度も取材で訪れ、愛着があるということもある。ただ、それ以上に勝ち残る楽しさを教えてくれたというのがファンになった最初の理由。

 高校野球を見るようになったのは三十数年前、小学校中学年のころだったろうか。そのころの福島県代表は初戦敗退が多く、相手によってせいぜい1つ勝てるくらい。1995年から2003年までは9年連続初戦敗退という時期もあった。

 ただ、聖光学院が出てきて、ベスト8くらいまで勝ち上がることが珍しくなくなった。大会終盤に地元の高校が勝ち残っていることで、より楽しめるということを教えてくれたのが同校なのだ。

 先走って書くと、甲子園で会った若い男性は、県内のライバル校出身で、「聖光学院に負けてファンになった」と話していた。一見すると「何で?」という感じだが、グラウンド(プレー)での強さのほかに、王者の振る舞いに魅せられたということだろう。いまは首都圏在住で、わざわざ関西まで応援に来たという。

 聖光学院に取材に行き、駐車場からグラウンドまでの途中で選手に会うと、大きな声であいさつをしてくれる。例えば、用具を運んでいる途中でも、一度用具を置いてあいさつしてくれる。思わず「そこまでしなくてもいいよ」と言いたくなるが、そこには「教え」があるのだろう。

 斎藤智也監督は「プロまで行くのはほんの一握り。そのほか、教員になって指導者を目指す人や、用具メーカーなどへの就職を希望する人などを含めても、野球に携わる仕事に就くのは多くない」という。だからこそ、野球が上手くなるということだけでなく、将来役に立つ何かを身につけてほしい、といった視点からさまざまな指導がされている。

 筆者が取材やプライベートの観戦(応援)で同校を見てきて感じる強さの秘密は、ベンチ外の選手を〝戦力〟にしていることにあると思う。同校には1学年30人から50人の選手が入学・入部してくる。一方で、最後の夏の大会にベンチ入りメンバーとして入れるのは20人(2022年までの甲子園大会は18人)。毎年その中に下級生が2、3人、多い時で4、5人は入ってくるから、3年生の約半数はメンバーに入れない。

 そうなると、チーム内に不協和音が起こったり、最悪、メンバー入りできなかった選手が腐って不祥事を起こすということも起こり得る。しかし、同校ではそうしたことが起きていない。これは、そこに至るまでにチーム内での対話や、斎藤監督、横山博英部長らの指導が徹底されているから。

 メンバー入りできなかった選手は、当然悔しいに違いない。でも、それを押し殺して、メンバー入りした選手をサポートする。選ばれたメンバーがそれで奮起しないわけがない。仲間の悔しさやさまざまな思いを背負い、チームの代表者であることを自覚して練習に取り組み、グラウンドに立つ。これが同校の安定した強さの要因なのだ(と筆者は思っている)。

 こうした指導方針が続く限り、強豪校、甲子園常連校であり続けるだろう。

ハウトゥー甲子園

甲子園球場

甲子園球場

 さて、前置きが長くなってしまったが、初の甲子園観戦。まず何からすればいいのか。常連の観戦者によると、「とにかく宿を押さえること」という。

 8月4日に組み合わせ抽選が行われ、聖光学院は大会5日目の第2試合に決まった。相手はお隣の山形県、鶴岡東高校。昭和の時代、鶴商学園の校名で、何度か甲子園に出場していたが、それ以降はしばらく出場がなかった。ただ、近年は甲子園常連校になりつつある。近県だから、練習試合などでの対戦もあり、東北大会で直に見る機会も少なくない。

 大会は7日開幕だから順調に進めば、8月11日に試合が行われる。三連休の中日で、同日の第1試合は屈指の人気校である早稲田実業、第3試合は地元・兵庫県の報徳学園が登場するから大混雑が予想される。

 開幕して数日、週間天気予報を見ると順調に日程を消化できそう。当初予定通りに試合が行われると踏んだ。聖光学院の試合開始予定は10時35分だから、福島から行くとなると、前乗りが必要。常連観戦者の教えに従って10日の宿を押さえた。同時に大会本部に取材申請をして、念のため、チケットも購入した。試合2日前の時点で、応援団が陣取るアルプス席周辺は満席だったので、外野席を取った。

 新幹線は、お盆の帰省ラッシュと重なり、満席かと思ったが、きっぷは問題なく取れた。これで準備は万端だ(とこの時は思っていた)。

 東北新幹線で福島から東京まで、東海道新幹線で東京から新大阪まで、乗車時間は約4時間半。当時は南海トラフ地震臨時情報が出されていたため、静岡県の三島駅と愛知県の三河安城駅は速度を落としての運行だった。通常より10分ほど余計に時間がかかったが、そのくらいで行けるんだというのが率直な感想。

 その日は大阪、神戸周辺を観光し、大阪市内でお好み焼きを食べて翌日に備える。

 試合の日、第1試合開始前に取材パスを受け取り、本番の第2試合前に取材エリアを確認した。その後、球場に隣接する甲子園歴史館を見学した。高校野球、甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースの歴史に触れる。筆者がファンになる以前のものは別として、ここ30年くらいまでのものは、どれも「あーそんなこともあったな」、「この時はこうだった」と思い出されるものばかり。一方で、福島から参上した身からすると、古関裕而関連の展示等がどれだけあるのかも気になっていたが、意外にもそれほど多くない。古関裕而が阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」や、夏の高校野球大会歌「栄冠は君に輝く」の作曲者であることは県民なら多くの人が知っていることと思われる。

 球場周辺に戻ると、聖光学院の監督、部長、選手らが球場に入っていく場面に会った。「頑張って」と一声かけ、こちらも試合に備える。球場の外では、応援団(メンバー入りできなかった野球部員)がいたので、そこでも一声かけて球場に入った。

 球場に入り、最初に感じたのは外野右中間、左中間の膨らみが大きいこと。分かってはいたが、実際に見ると、だいぶ深く感じた。この日は甲子園名物の浜風(ライト側からレフト側への風)はそれほど強くない。それが関係しているかどうかは不明だが、とにかく暑い。午前10時台で座っているだけでクラクラしそうな暑さだ。前段で万事準備を整えた(と思っていた)と書いたが、暑さ対策は不十分だった。失念していたわけではないが、思っていたより大変だったということ。夏の甲子園に観戦に行く際は、暑さ対策を十分にしてほしい。

試合レビュー

甲子園で力投したエースの高野結羽投手
甲子園で力投したエースの高野結羽投手(聖光学院提供)
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鶴岡東0020000002
聖光学院0000000101

 試合開始は11時15分ごろ。結果は1―2で敗戦したが、帰校後、落ち着いたころを見計らって斎藤監督を訪ねた。場面、場面で、ベンチでどう見ながら采配していたかを聞いたので、それを踏まえながら試合を振り返っていきたい。

 最初に、組み合わせが決まったときの思いを聞くと、「せっかくの全国大会だから、対戦したことがないチームとやってみたいという思いはあった」という。

 鶴岡東とは昨秋以降、3回、練習試合で対戦していた(結果はいずれも敗戦)。加えて、昨年、一昨年と甲子園で仙台育英に敗れており、いずれも隣県対決だった。そのため、「せっかくの全国大会だから、対戦したことがないチームとやってみたかった」との思いがあったのだ。

 一方で、鶴岡東は「特に近年は投手力が充実しており、5人投手がいたら、5人ともタイプが違うとか、育成が上手で、打者の目先を変えるのが上手い」と感じていたという。

 今年のエースの櫻井椿稀投手は4番バッターでもあり、投打の柱。U18侍ジャパン(高校日本代表)の候補にもなっており、今大会の注目選手の1人でもあった(※大会終了後、櫻井選手はジャパンメンバーに選出された)。

 「ただ、(山形)県大会から、ちょっと調子を落としているとも聞いていた。ウチは打線が強いチームではないが、チャンスはあるだろうと思っていました。いずれにしても、ロースコアの接戦を予想していました。勝つなら、3―2くらいかな、と。何とか相手打線を2点に押さえて、3点を取れればと考えていました」(斎藤監督)

 その点では、おおむね斎藤監督の想定通りに試合が進んだと言える。

 初回、鶴岡東はワンアウト1、3塁のチャンスを作ったが、そこは何とかしのいだ。聖光学院は初回、2回とチャンスをつくったが、あと1本が出ず、得点ができなかった。ここで先制できていたら、ペースを掴めただろうが、「櫻井投手は本格派のピッチャーだが、自身の調子があまり良くない中で、いろいろと配球を工夫していた」(斎藤監督)という。練習試合で対戦経験があるだけに、聖光学院の選手らが「以前の櫻井投手と違う」と面食らった部分もあったのかもしれない。

 ポイントになったのは3回表の鶴岡東の攻撃。先頭バッターがヒットで出塁し、次のバッターが送りバントを試みた。それをエラーしてしまい、ノーアウト1、2塁とピンチが広がる。そこで送りバントでワンアウト2、3塁とされるが、次のバッターを打ち取り、ツーアウト2、3塁。何とかしのげるか、というところで、相手バッターは4番の櫻井選手を迎える。

 筆者は、①ここで櫻井選手に1本出されると2失点するだけでなく、以降のピッチングも乗っていく可能性が高い、②聖光学院の高野結羽投手の制球力なら、もし櫻井選手を四球で歩かせても、押し出しの心配はそれほどしなくてもいい――と思って見ていた。要するに、「真っ向勝負」というよりは「探りながらの勝負」になるだろう、と。

 斎藤監督は「当然そのこと(場合によっては櫻井選手を歩かせること)は指示していた」という。

 ただ、櫻井選手への初球のストレート(見逃し)、2球目のスライダー(空振り)で、2球で追い込んだ。続く3球目のスライダーが甘く入り、2点タイムリーヒットを許す。

 「ピッチャー心理として、初球、2球目は『とにかく慎重に』と投げるが、追い込むと『抑えたい』という思いが強くなる」(斎藤監督)

 その結果、力んでスライダーが浮いてしまい、ヒットを許した。2球で追い込んだゆえの落とし穴ということか。

勝負どころ

(聖光学院提供)

(聖光学院提供)

 その後、試合はこう着状態に入るが、8回表、ツーアウトランナーなしから櫻井選手がライトにヒットを放ち、2塁を狙うがタッチアウトでチェンジとなった。

 櫻井選手はバッターボックスから2塁まで激走し、息つく間もなくマウンドに向かう。筆者は「試合が動くならここしかない」と思った。

 斎藤監督もここで勝負に出る。高野投手に代えて代打を送り、ヒットを放つ。続く選手もヒットを打ち、ノーアウト1、2塁。ここで送りバントを決め、ワンアウト2、3塁と一打同点のチャンスをつくる。バッターは3番の菊地政善選手で、唯一2年生でメンバー入りしていた。カウント1―1からの3球目は甘く入ったスライダーだったが、3塁ゴロでその間に1点を挙げるも、得点はその1点のみ。

 「(菊地選手の打席は)打ちたいという気持ちが出過ぎて、ポイントがズレていた。いつもの菊地だったら、左中間を抜いていたと思う。ただ、甲子園という独特の緊張感もあっただろうし、ビハインドの展開だったからね」(斎藤監督)

 さらに、斎藤監督はこう続ける。

 「1点を取って、さらにツーアウト3塁で、4番の木村(秀明選手)だった。木村は調子が上がっていなかったから、代打も考えた。代打を送っていたらどうなっていたかなとは思いますけどね」

 1―2で迎えた最終回の攻撃。ワンアウトから連打で1、2塁のチャンスをつくる。長打が出れば逆転サヨナラの痺れる場面だ。しかし、最後のバッターが併殺で試合終了。

聖光学院提供

聖光学院提供

 「あの場面、バッターの青柳(羽瑠選手)は、粘って粘ってくらいついていた。結果、ショートゴロ併殺になったけど、三振するような低めのボールを、体を残して拾うような練習をずっとしてきた。それを試合で出してくれたわけだからむしろ褒めるべきだよね。あそこで、ウチに球運があれば、イレギュラーしたり、打球が弱まって併殺崩れになったりして、次のバッターにもう1回、チャンスが残ったのかもしれないけど」(斎藤監督)

 今大会全体を通して言えることだが、ロースコアの接戦が多かった。その要因は今年春から低反発の新基準バットが採用されたことにほかならない。従来のバットに比べ、飛距離、打球速度が出ない。結果、投手有利に働くから、ロースコアの接戦が多くなったのだ。そうなると、より緻密な野球が求められ、1つのミスが致命傷になるということ。まさにそんなことを感じさせられる試合だった。

 試合後の取材エリアで、高野投手は涙で受け答えに窮するほどだった。これに対して、斎藤監督は終始冷静に振り返っているのが印象的だった。

 こうして人生初の甲子園観戦を終え帰路についた。前述したように、少し落ち着いたころ、斎藤監督を訪ねたわけだが、グラウンドでは新チームが練習しており、来年に向けた戦いが始まっている。

末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
合併しなかった県内自治体(6回シリーズ)
原発事故追加賠償の全容(2023年3月号)

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