(2019年8月号)
原発事故の被災地である福島県では、再生可能エネルギー推進の意識が高まっている。実際、県内ではさまざまな再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、その中心的な存在は太陽光発電だろう。震災・原発事故以降、各地で太陽光発電設備(メガソーラー)を見かけるようになった。そんな中、大玉村では「村内にはもうメガソーラーをつくらないでほしい」とする宣言を出した。その真意とは。
心配される景観悪化や発電終了後の放置
村は、6月議会に「大規模太陽光発電所と大玉村の自然環境保全との調和に関する宣言」の案を提出、同月18日に開かれた本会議で全会一致で可決された。同日、村は「宣言」文を村のHPで公開した。以下はその全文。
× × × ×
大規模太陽光発電所と大玉村の自然環境保全との調和に関する宣言
私たちは、化石燃料や原子力発電に依存しない社会を目指すため、太陽光、小水力、バイオマス等再生可能エネルギーを積極的に活用し、地球温暖化防止や低炭素社会の実現に向けて自然環境へ与える負荷の軽減に取り組んで来ました。
本村においては、再生可能エネルギー利用推進の村として自然環境に大きな負荷をかけない住宅屋上への太陽光発電施設や薪ストーブへの助成、豊かな水資源を活用した小水力発電民間事業者への支援等を今後も積極的に行ってまいります。
しかし一方で、自然環境に影響を与え、かつ、自然景観に著しく違和感を与えるような大規模太陽光発電所の設置が各地で行われており、傾斜地での造成や山林の大規模伐採による土砂災害への危惧や発電事業終了後の廃棄物処理等、将来への負の遺産となりうる懸念を払拭することが出来ません。
本村においては、村勢振興の重要資源である豊かな自然環境や優れた農山村の景観を未来に継承するため、「大玉村ふるさと景観保護条例」を制定しております。
また、「日本で最も美しい村」連合に加盟し「自然との共生」を目指し、農山村や田畑の原風景の維持及び魅力発信に努めて来ました。
以上の現状を踏まえて、みどり豊かな自然環境、優れた景観を保護保全するとの、本村の基本理念と著しく調和を欠くと思われる大規模太陽光発電施設の設置を望まないことをここに宣言します。
令和元年6月
大玉村長 押山利一
× × × ×
https://www.vill.otama.fukushima.jp/file/contents/1841/17082/tyouwa_sengen.pdf
村に確認したところ、同宣言の真意は次のように集約される。
○再生可能エネルギーの推進は今後も行っていく。
○ただ、宣言にあった理由などから、できるならメガソーラーはもうつくってほしくない。
○もし、つくるのであれば、最後まで責任を持ってほしい。
○今後は、建設制限などの条例化も検討していく。
現在、村内には出力約1000㌔㍗以上のメガソーラーが4カ所あるほか、新たな建設計画もあるという。今回の宣言により、現在ある建設計画がすぐに進められなくなるわけではないようだが、「できるなら、もうつくってほしくない」と。
中でもポイントになるのは、景観への配慮と、発電(耐用年数)後のソーラーパネルの処分について、ということになろう。
大玉村と言えば、田園風景が魅力の1つ。その中に、突如、ソーラーパネル群が現れたら、確かに見栄えのいいものではない。
もう1つは、ソーラーパネルの耐用年数を超えた後、更新、あるいはきちんと撤去されるのか、といった問題があること。
ソーラーパネルには鉛やセレンなどの有害物質が含まれていることもあり、発電終了後、放置・不法投棄されるようなことがあれば、景観的にも環境的にもよくない。
資源エネルギー庁の「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査(太陽光発電に係る保守点検の普及動向等に関する調査)」によると、「将来的な廃棄を想定して、廃棄・リサイクル費用を確保しているか」という調査で、低圧(10〜50㌔㍗)の発電事業者の74%、高圧・特別高圧(50㌔㍗以上)の発電事業者の59%が「積立していない」と回答したという。
倒産相次ぐ関連事業者
さらに、民間信用調査会社の東京商工リサーチの調査で、近年、太陽光関連事業者の倒産が相次いでいることが明らかになっている。2012(平成24)年7月に「固定価格買い取り制度(FIT)」が導入されたことで、新規参入が相次いだが、競合激化や安易な参入が原因という。
ここ10年の太陽光関連事業者の倒産件数は次の通り。なお、ここで言う「太陽光関連事業者」は、発電・売電事業者だけでなく、ソーラーパネルの製造・販売や、同事業のコンサルティング業なども含む。
2009年 26件
2010年 9件
2011年 18件
2012年 27件
2013年 28件
2014年 28件
2015年 54件
2016年 65件
2017年 87件
2018年 84件
2019年 32件(1月〜6月)
こうして見ても分かるように、近年は関連事業者の倒産が大幅に増えている。
こうした点から、ソーラーパネルの耐用年数を超えた後、更新、あるいはきちんと撤去されるのか、といった不安があるのだ。
大玉村によると、「メガソーラーは固定資産税などの面で村にとってメリットもある」としながら、以上のような課題があるため、「できるなら、つくってほしくない。ただ、どうしてもというのであれば、最後まで責任を持ってほしい」というのが「宣言」の真意である。
県では2040年ごろまでに「再生可能エネルギー100%」というビジョンを掲げており、大玉村でも「再生可能エネルギーの推進は今後も行っていく」という方針には変わりはないという。そのためには、メガソーラー以外の再生可能エネルギーの推進、これまで以上の家庭用太陽光発電の導入促進といった取り組みが求められよう。