学校法人ザベリオ学園(会津若松市)が運営する会津若松ザベリオ学園高校で8月末、30代男性教諭が唐突に退職した。市内では「不祥事を起こしたのでは」との噂が駆け巡る。保護者らによると、学園は保護者会で「部活遠征中に飲酒運転をした」と説明していたことが分かった。学園は「既に辞めた人のことなので話せない」と取材に口を閉ざす。県内の公立学校の教職員であれば、飲酒運転は事故の有無にかかわらず懲戒免職となり公表されるが、保護者は同じ教員であるにもかかわらず私立という理由で迅速な報告がなかったことに納得がいかない。(小池航)
「部活遠征中に飲酒運転」と保護者会で説明

会津地方は、知人同士で掛け金を融通しあう互助組合「無尽」の風習が色濃く残る。現代では掛け金の保管を任された店に毎月集まり、飲食しながら親睦を深める意味合いが強いが、毎月欠かさず集まる理由は、御馳走が楽しみだからでもないし、仲間との談笑が心地よいからでもない。目当ては多彩な業界人が集まることで飛び交う生々しい噂話だ。
本誌の無尽人脈によると、市内の会津若松ザベリオ学園高校の教諭が9月に入って急に辞めたことが噂になっているという。保護者から事情を聞いた市内の無尽関係者が話す。
「退職したのは30代の男性教諭で、会津若松ザベリオ学園高校で主要教科の一つ(※1)を教えていた。部活動顧問も務めており、問題は部活の遠征の引率中に起こった」
※1…男性教諭の担当教科を本誌は把握しているが、特定を避けるため中学校の英語、国語、数学、理科、社会などを意味する「主要教科の一つ」と表現する。
無尽関係者は声を潜めて続ける。
「7月に福島市で大会があり、生徒たちはバスで、男性教諭は自家用車で現地に向かった。市内の宿泊施設に泊まったが、男性教諭は酒を飲み、公道を飲酒運転したという。運転した理由は、別の宿泊施設に分かれて泊まっていた生徒たちを訪ねるためだったそうだ。幸い事故はなく、警察にも呼び止められなかった。ただ、不審に思った生徒がSNSに投稿し、飲酒後に運転する様子を収めたショート動画が出回った」
男性教諭が辞めたこと、その背景には不適切な行為があったことをうかがわせる文書がここにある。9月2日付、差出人は会津若松ザベリオ学園高校校長の鈴木光誠氏。「お知らせ」と題した文書は、ある部活動の保護者宛てになっている。一部引用するが、個人や団体が特定できる部分は伏せる。
《先日の保護者会においては、お忙しい中多数ご出席くださいまして誠にありがとうございました。事故の概要については、そこでご説明した通りとなります。
このたび、令和6年8月29日付けで学校に、●教諭から一身上の都合による依願退職の願いが提出されました。8月31日付けをもって本校を退職することになりましたので書面にてお知らせします。
学校として今回の件を厳粛に受け止め、再発防止策及び内部管理体制に一層強化を図る所存です
●部への今後の対応としましては、生徒の活動が円滑に進むように●部顧問や外部指導者の調整をしております》
飲酒運転の様子を収めたという動画はすでに削除されているが、部活の枠を越えて生徒たちに広がった。子どもに見せてもらったという保護者が語る。
「映像は夜に撮ったのか暗く、遠くから撮っていることもあり、それだけでは飲酒運転しているかどうかは判別できない。ただ、生徒の間では『先生が飲酒運転なんてヤバすぎだろ』と大分拡散したようだ」
問題が起こったのは部活動の遠征中ということで8月下旬、この部活に所属する生徒の保護者に学園から公式に説明があった。鈴木校長が主に説明し、問題の男性教諭と中学校・高校の教頭2人が同席したという。
「男性教諭が飲酒運転をしたと説明がありました。宿泊施設から『他の不適切な行為』について学園に連絡がいき、学園が男性教諭に詳しく聞くと、飲酒運転を白状したそうです。学校は本人に聞き取りし、他にも禁煙の場所でたばこを吸ったり、本校卒業生の女性を学園の許可を得ずに同行させたりしていました。校長の説明によると、外部の人を部活動に携わらせるのであれば、学園への報告と許可が必要だそうです」(部活動に所属する生徒の保護者)
本誌が、生徒たちが利用した宿泊施設に男性教諭の「不適切行為」があったかどうか確認すると、責任者は「お答えすることはない」と話すだけだった。
保護者たちは、8月に入って部活動の練習が急になくなり、男性教諭が指導に来ていないと子どもたちから聞いて初めて異変に気付いたという。部活動引率中の「不適切行為」が発覚した直後に男性教諭が自宅謹慎を命じられたと知ったのは大分後になってからだった。保護者たちは学園に説明を求めたが、説明会が開かれたのは8月23日。不祥事から約3週間が経っていた。その日は、定例の保護者会が以前から予定されていた。保護者の目には、不祥事の説明は「ついで」に映った。
飲酒運転は免職

「学園への不信感は最高潮に達していました。校長は『理事会の決定を待って処分を決める』と言うばかり。保護者からの質問があり、説明は1時間に及びましたが、学園側の説明は繰り返しで、正味15分の内容です。学園は男性教諭が事故を起こさず、警察に捕まらなかったのをいいことに重大視していない印象を受けました。警察沙汰にならなかったのは結果論に過ぎません」(前出・部活動に所属する生徒の保護者)
県内の県立・市町村立学校教職員の任命権を持つ県教育委員会は「道路交通法違反関係教職員の懲戒処分等に関する基準」(2020年3月最終改正)第4条1項で、飲酒運転した教職員は「原則として免職」と定めている。事故の有無は問わない。
さらに「懲戒処分の公表基準」(2024年3月最終改正)では「収賄、詐欺、横領、わいせつ行為、飲酒運転等重大な非違行為に対する懲戒処分で、免職若しくは停職12月の場合、又は既に警察により氏名等が公にされている場合は、被処分者の氏名、年齢及び所属を公表する」と規定。つまり、警察沙汰になったかどうかに関係なく飲酒運転が判明すれば、懲戒免職の上、実名が公表される。
会津若松ザベリオ学園高校は、学校法人ザベリオ学園が運営する私立の中高一貫校で、懲罰は内部規定による。県教委のように懲戒処分の基準は公表されないし、厳密に規定が適用されるとは限らない。決定はあくまで私立学校としての自主・自律に基づく。
自主性ゆえに、その立場に甘え、自律を果たさない学園に保護者は不満を募らせる。
「男性教諭には、担当教科や部活動から一度離れて反省してほしかったが、『一身上の都合』という形で辞めてしまった。体よく追放して内々に収めようとしているだけではないか。同僚の教員や授業を受けていた生徒には説明があったのか、それも分からない。男性教諭と関わりがあった学内の人には、学園から正式に説明があるべきです」(同)
公立学校と私立学校の違いはあるが、教育が果たす役割を考えた時、その違いは運営主体の違いに過ぎない。私立学校は自主性を発揮しつつ公共性を高めることを期待されている(私立学校法第1条)。さらに教育基本法第8条は「私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割」を認め、それゆえ、行政は自主性を尊重し、私立学校教育の振興に努めなければならないと義務付けている。要するに、私立といえども公教育と同等に公の性質を持っているということだ。組織管理や人事も公共性が果たせるように、説明を尽くさなければならない。
学校法人ザベリオ学園はカトリック系ミッションスクール。ホームページによると、カナダ・モントリオール市に本部を置く修道会が1934(昭和9)年に会津若松市で創設した幼稚園が起源。法人登記簿によると、学校法人としては1951(昭和26)年成立。資本金37億8450万円。同市内で認定こども園と小学校、中高一貫校、郡山市で幼稚園と小中学校を運営する。理事長はキリスト者の鈴木隆氏(東京都杉並区)。副理事長兼学園長は関博之氏。関学園長は、県教育庁で教育振興領域統括参事のほか安積高校の校長を歴任し、実績を買われてザベリオ学園に再就職した。
「秀才」のブランド

学園を訪ねると、男性教諭の依願退職を伝える「お知らせ」の文責者である鈴木光誠校長と関学園長が対応した。
本誌が男性教諭の依願退職を確認すると、鈴木校長は「確かに退職しました」と認めた。退職を伝える文書には「事故」という不穏な文字がある。「事故」とは何を意味するのか。
「当人は辞めていますし、個人情報を含むのでお伝えできない」(鈴木校長)
本誌は、飲酒運転や他の「不適切行為」の有無を確認をしたが、鈴木校長は口を閉ざし、肯定も否定もしなかった。
市内の経営者が、同学園役員の心境をおもんぱかる。
「ザベリオ学園は中高一貫の強みを生かして大学受験に特化したコースに力を入れている。国公立・難関私大で徐々に合格者を増やし、今年春には初めて東大合格者を出して実を結んだ。秀才を輩出するブランド校として、その地位が確立されつつあるが、半面、過疎化が進む会津地方の私立学校は少子化の中で児童・生徒の確保に苦慮している。同じ私立の会津北嶺高校も野球部の実績で何とか存在感を出そうとしている。ザベリオ学園は、教員の飲酒運転の噂が広まり、秀才とはかけ離れたイメージが付きまとうのを何としても避けたかったのでは」
人事権を持つ理事会では男性教諭に懲罰を与えたのか。不可解な「依願退職」に理事会の意向はあったのか。私立学校法に基づき(※2)学園本部で閲覧した役員名簿によると、11人の役員(理事、監事)には同学園に所属する4人のほか、会津若松商工会議所の元会頭や元県教育長、郡山市の医療機関の院長など高い地位の人物が名を連ねる。常識とかけ離れた決定を下すとは思えない。
少なくとも学園の説明を受けた保護者は納得しておらず、無尽に噂は流れ本誌に伝わった。ネット社会の昨今は、疑惑の動画ほど拡散されやすく、人の口を閉ざすのはなおのこと難しい。学園は監督責任や不祥事発覚後の対応が問われている。ブランドイメージの失墜を過度に恐れず、部活動の生徒と男性教諭が教えていた生徒、その保護者に納得がいくまで説明するべきではないか。
生徒たちはネットの切り取り動画だけで男性教諭の行為を知り、本人や学園から十分な説明もないまま、気付いたら男性教諭がいなくなっていた。学園は「臭いものに蓋」する対応で収束を図った。大人の黒い部分を見せているようで悲しい。