「あんな嫌がらせを受けるなんて思ってもいませんでした……」
そう話すのは、中通りのある議会の40代男性議員だ。議員は現在1期目だが、当選直後から無言電話に悩まされた。
「毎日深夜にかかってきました。私が電話に出ても相手は一言も喋りません。必ず『非通知』でかかってくるので着信拒否にしたら、今度は番号が表示されてかかってくるようになりました。もちろん、それまでと変わらず無言です」(同)
驚いたことに、無言電話はこの議員だけでなく、他の新人議員にもかかってきていた。議員は議会事務局が公表する議員名簿に携帯番号を記載。〝犯人〟はそれを見て、新人議員をターゲットに無言電話をかけていたとみられる。
議員は議会事務局と相談し、携帯番号の公表をやめ、自宅の固定電話番号を記載することにした。
「住民と気軽にコンタクトを取るには携帯番号を知ってもらった方がいい。そう考えて議員名簿に載せたが、思わぬ悪用をする人がいると勉強になりました」(同)
無言電話はそのうちかかってこなくなったという。
議員からもらった名刺には公表をやめた携帯番号が書かれていた。
「多い日は1日20件かかってきます。私は出払っていることが多いので、携帯にかけてもらった方がありがたい。ただ、無言電話を繰り返されるのはしんどい(苦笑)」(同)
筆者も初対面の議員に連絡する際は議員名簿を利用するが、携帯番号を記載している議員は少なく、多くが固定電話番号とファクス番号を記載している。しかし、その番号が自宅ならまだ連絡が取れるが、個人事務所だったりすると不在気味で通じないことがほとんどだ。
過日の某市議への取材でも、曜日や時間を変えて何度電話しても出ないので、ファクスで質問を送ると回答期限を過ぎてから折り返しの電話があった。某市議いわく「ここに来ることはあまりないので」。そんな場所を連絡先にするなと言いたい。
議員は公人であり、住所、電話番号、生年月日、最終学歴などは公にして当然、というのがかつての風潮だったが、今は「公人でも個人情報は保護されるべき」との考え方に変わっている。
その意識が一層高まったのは2022年に施行された新(改正)個人情報保護法がきっかけだろう。それまで個人情報保護制度は行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法、個人情報保護法が存在し、地方公共団体は個別に個人情報保護条例を施行してきた。この縦割りの弊害を是正すると共に官民のデータ流通を一元的に監視監督するため、3法を統一した新個人情報保護法が施行され、個人情報保護委員会が全体を所管することになった。
ただ、新個人情報保護法では立法府や司法府は対象外とされ、地方公共団体の議会も除かれたことから、各議会で独自の条例を新たに定め、2023年から新条例に基づき議員の個人情報保護に努めている。
最近は、議員名簿は公表しているが住所や電話番号は不記載のケースも増えている。初対面の議員とコンタクトを取るには、まず議会事務局に連絡し、事務局が本人と話して了承を得られれば住所や電話番号を教えてもらえる流れになっている。
個人情報保護の観点から言えば、当然の進め方なのかもしれない。しかし、中には自分に不利な取材と察し「個人情報なので教えられない」などと拒む議員もいる。個人情報保護を都合よく解釈されては困るが、同時に、前述のような携帯番号に無言電話をかける行為も極めてナンセンスと指摘しておきたい。公にされている情報を利用する側にもモラルが求められる。