木幡浩・福島市長(64)=2期=はモットーの「スピードと実行」が職員に浸透せず苦慮している。一方の職員は「度を越えてスピードを求めている」と感じ、木幡市長が繰り返す「もっと早くできないの!?」に辟易。指導に熱がこもる木幡市長と冷笑に走る職員の間を埋める術はないのか。木幡市長が何を考えているのか、その「脳内」を公開資料を基に探る。
「早くできないの!?」を職員に連発する真意
本誌11月号に「木幡浩・福島市長の暴君化を恐れる職員」という記事を掲載した。「職員が高ストレスを抱える原因の一つに木幡市長の高圧的な対応がある」という現役職員の声を紹介する内容。木幡市長が原因かどうかは判然としないが、全国自治体のストレスチェックの結果を比較すると、福島市は同規模自治体の中で全国8位(東北1位)だった。
木幡市長が「スピードと実行」を求めるあまり、圧が強くなったのは確かだが、市民からは職員の仕事ぶりにも叱責が寄せられた。木幡市長が熱くなればなるほど職員には響かず、口癖の「早くできないの!?」は冷笑を呼ぶ。傍若無人さから愛想を尽かされ落選した小林香前市長を引き合いに出し、「小林前市長に似てきた」との嬉しくない評価もある。
木幡市長の方針を理解するには、30年余に及んだ総務省官僚時代に目を向ける必要がある。
木幡市長は飯舘村出身で、原町高校から東大に進学した。本人の公式ホームページによると、同大経済学部を卒業後、1984年に自治省(現総務省)入省。1989年以降、徳島市財政部長や国土庁、長崎県財政課長、消防庁など霞が関と地方自治体を行ったり来たりした。1998年に香川県に出向し、2007年には北海道大公共政策大学院教授に。2013年に岡山県副知事に就任し、消防大学校長、復興庁福島復興局長を最後に退官。2017年11月の福島市長選で初当選した。
大学教授まで務めた木幡市長は論客で、行政職員や地方議員向けの専門誌に論文やインタビュー記事が多く載っている。香川県健康福祉部長時代の2001年には、時事通信社の専門情報誌「厚生福祉」(2001年6月23日)のインタビューに応じている。
《――(木幡浩)部長が携わってきた事業には、68、69歳の医療費助成廃止、県立病院改革など〝リストラ案件〟が多いので、ご苦労も多かったでしょう。
「リストラといっても単なる削減ではなく、本来的な意味の再構築に取り組んできた。68、69歳の場合、浮いた財源を生涯学習を目的とする長寿大学の拡充に使ったり、乳幼児医療費助成の対象年齢を3歳未満から6歳未満まで延長するといった少子化対策にも活用した。県立病院では、救急部門の増員、転院後のフォローアップの強化などサービス向上に努めている。苦労話と言えば、68、69歳を打ち出した後、県内各地で説明討論会を開いたり、公募の県民を交えた場で討論するなど、オープンな過程で最終決定すべく努力した。こうした手法は、健康福祉以外の施策の進め方にも大きな影響を与えると思う」》
アイデアを施策に落とし込む際に心掛けていることを問われると、
《「役所には、事業はお金を使うものという認識が多いが、私は効率的に成果が上がればいいと思っている。できるだけお金を使わない工夫として、県のホームページの音声化や、インターネットを使った県立病院から診療所へのアドバイスがある。使用後のベビーカーを県職員に提供させて来庁者用にしたり、健康福祉関係の各種資料、新聞記事などを閲覧できる『情報バンク』を部長室前のスペースにつくったりもした。また情報提供を積極的に行い、やり方を工夫したりして、注目されやすいようにしている。その際、在宅介護の利用率が低いといったネガティブな情報も積極的に出して、県民の議論の材料を提供するよう心掛けている」》
現在に通ずる仕事ぶりが伺えるのは次の問いだ。
《――全課長に今年度の課題を提出させたそうですが、部長ご自身の目標は?
「課題を提出させたのは、目的意識をもって、しっかり成果を出すことにこだわってほしかったからだ。目標だけでなく、具体的なスケジュールを提出する課長もいた。私自身も、行動規範を示し部内に浸透させることが必要と考え、課長より前に目標を出している。意識改革、チャレンジと成果、情報の原則公開などを大枠に、県民本位の姿勢、担当横断的視野、〝攻撃的〟情報提供などを盛り込んでいる。今年度は改革の流れをはっきりさせ、21世紀の健康福祉部の方向付けをしたいと考えている。当面の施策では、移転統合も含めた県立病院の抜本改革、保健所と福祉事務所の統合、健康づくり計画策定などがある」》
木幡市長の口癖「早くできないの!?」にやる気を削がれているという現役職員(本誌11月号参照)はこの23年前のインタビュー記事を読み「木幡市長の圧の強さに合点がいった」という。
「攻めの情報発信は木幡市長の姿勢に通じます。記者会見で立て板に水のごとく話す姿には舌を巻く。昨年、市西部の先達山に建設中のメガソーラーパネルが山肌に露出し、景観破壊や土砂災害を懸念する声が上がると『ノーモア・メガソーラー宣言』を出して特設ページを作り、市が積極的に動いていることを伝えました。頓挫している福島駅東口再開発やイトーヨーカドー跡地で揺れる西口についても特設ページを立ち上げています」(現役職員)
他方で、この職員は役所内での情報共有が疎かになっているのではないかと苦言を呈する。
「行政トップが表に立ち、外部に情報発信することは大切です。ただ、職員が当事者の案件は、役所内で十分に情報共有してから発信してほしい。福島市は人手不足を解消しようと今年夏、市職員に中学校の部活動指導員の兼業を認めたほか、副業として農作業に携われるようになった。でも私たち職員は、記者会見と同時に公表された会見資料で初めて知りました」(同)
木幡市長はアイデアを実現する一方、合意を置いてけぼりにしてしまう傾向があるようだ。悪い形で現れたのが、1期目の2018年に起こった「サン・チャイルド問題」だった。
同年8月、アーティストが作成した人型の彫刻「サン・チャイルド」が一般財団法人ふくしま未来研究会(福島市・発起人佐藤勝三氏)の協力で市に寄贈され、市の教育文化複合施設「こむこむ館」に設置された。間もなく「放射線防護服のような衣装が原発事故の風評被害を助長する」と指摘を受け、1カ月半で撤去された。公共空間へのアート設置の合意の在り方を巡って論争が起きた。
「手続き面では、木幡市長が『市民への合意を諮らなかった』と給与1割を3カ月間減額する条例案を議会に提出して可決され、責任を取りました。小林前市長の評判が悪かったこともあり、木幡市長の1期目に期待する市職員は多かったが、私は『手続きを省いて暴走してしまう人なんだ』と首をかしげました」(前出の現役職員)
福島市は駅前再開発事業にメガソーラーと課題が山積みだが、この職員によると、市が所有し福島市観光開発株式会社(市が80%出資)が指定管理する農村型公園「四季の里」の利活用が新たな課題という。
年間来園者数は、開園直後の1996年度に最多の73万人を記録したものの、減少傾向。東日本大震災や新型コロナ禍による急減からは持ち直したが、2023年度には31万人に落ち込んだ。2021年に蕎麦屋が、昨年10月にはレストランのアサヒビール園が撤退。ビール園は空きテナントになっている。
施設に頼らず全シーズンの稼働率を底上げするため、イベントで誘客を図る。ただ市民からは、「イベントを開いても、駐車場が不足し、周辺が渋滞する」との声が寄せられる。
先手を打つ情報発信は、木幡市長が総務官僚時代から培ってきた姿勢で一貫している。行政運営の方針が伺えるのが、北海道大公共政策大学院教授時代(2007~09年)にまとめた論文「自治体のリスク管理の基本」だ。議員のための政策情報誌「議員navi」vol.11~15(2009年1月~9月)に5回に渡って連載した。
本誌が注目したのは第1回「自治体のリスク管理の基本」。危機広報(クライシス・コミュニケーション)の項目では、失敗しないマスコミ対応を指南する。
《マスコミ対応の基本は、マスコミの先に存在する住民・社会を意識し、常に「住民の視点」から「誠実に責任を果たす」ことである。危機の事実関係、原因、講じた対策と今後の方針、住民等への伝達事項やメッセージ、自治体に問題がある場合は、「責任」に関する所感など、説明責任に必要な事項を発表するとともに、質問にはウソやごまかしをせずに真摯に答える。ウソは後で必ずバレ、その方が大問題になる。また、原因や情報隠しの有無、責任などマスコミが聞きたがる質問を予測し、積極的に取材協力を行う。その姿勢は、報道トーンに大きな影響を与えることを心得ておく必要があろう。
もっとも、マスコミ側にも問題がないわけではない。報道の自由に配慮しつつ、危機対応や住民生活の障害となるような行きすぎた取材活動には、きちんと説明して改善を求めるべきである》
「客観的」「中立的」な報道に誘導する方法も述べる。
《できる限り事実関係に即した客観的・中立的なマスコミ報道とするためには、自治体側から取材・情報提供の機会を設定する。危機発生時には、事前に予告の上、発生後2時間以内をめどに緊急記者会見等を行うのが望ましい。事実関係等がはっきりしていなければ、「現時点では」などの限定を付けて判明している部分を発表すればよい。事態がある程度安定してくれば、幹事社と協議の上、定時・定期の情報提供を行うなど、自治体側から報道のイニシアティブをとることが重要である》
さらにはマスコミへの〝便宜供与〟も大切と指摘する。
《記者会見に当たっては十分なスペースの記者会見場を確保するとともに、報道資料には写真や図面等を使用するなど分かりやすい情報提供を心がける。近年発生したインサイダー事件の記者会見では、狭い記者会見場にマスコミが押し込められて不穏な空気が流れ、報道トーンに影響したといわれている》
本誌は弱小報道機関なので、軽んじられ、このような対応の対象外だろう。公式発表を鵜呑みにせず、内部の証言や公文書開示請求、他機関の公表資料と照らし合わせて、今後も福島市役所の裏事情に迫る。