任期満了に伴う第20回福島県議選は11月2日告示、同12日投開票で行われる。定数58、19選挙区は前回同様。無投票とみられる選挙区も少なくない中、定数2の二本松市選挙区では現職1人と新人2人が立候補の準備を進めている。
◎2019年11月10日告示
当 遊佐 久男 60 無現
当 高宮 光敏 48 無現
※無投票当選
◎2015年11月15日投票
当 10743 遊佐 久男 56 無現
当 6699 高宮 光敏 44 無新
5644 中田 凉介 59 無新
3614 鈴木 雅之 37 無新
※投票率57.78%
立候補予定者3氏の評判【高宮光敏】【石井信夫】【鈴木雅之】
現在、二本松市選挙区から選出されているのは共に自民党の遊佐久男氏(64、3期)と高宮光敏氏(52、2期)。このうち遊佐氏は次の県議選に立候補せず、今期限りで引退することを表明した。
旧安達町出身。福島大学経済学部中退。2011年の県議選で初当選した。
「数年前に脳梗塞を患った。復帰後は動作に不安はなかったが、失語症に陥った」(ある自民党員)
遊佐氏は、手元に原稿があれば問題なく話せたが、ノー原稿だと言葉に詰まる場面が見られた。政治家が言葉を発せなくなるのは致命的だ。
「家族から『もう十分やった』と言われ、早い段階で引退を決めていた。健康状態に問題がなければ、もう少し続けてほしかった」(同)
惜しまれる声があるのは、人望の厚かった証拠だろう。しかし、遊佐氏の後継をめぐっては不満の声が漏れている。
遊佐氏が引退表明(6月5日)した翌日、石井信夫氏(57)が立候補することを表明した。
《自民党二本松市総支部が党県連に推薦を申請する。
石井氏は県庁で記者会見し、「自分が住む東和地域にも過疎化の波が押し寄せている。過疎化に歯止めをかけ、活力ある地域をつくりたい」と語った》(福島民報6月7日付)
旧東和町出身。川俣高校卒。製造業や印刷業の会社員として40年近く勤務。自民党には2018年に入党したが、これまで選挙に立候補した経験はない。
自民党二本松市総支部の関係者によると、今年4月ごろ、石井氏の公認・推薦をめぐり各支部で協議が行われた。しかし、市町村議を務めた実績がなく、党員歴も浅く、年齢も若くないため「意気込みは評価するが、候補者に適任なのか」と強く推す雰囲気は少なかったという。
そうした中で6月5日、自民党二本松市総支部役員総会が開かれ、総支部長の遊佐氏が正式に引退を表明すると共に「後継に石井信夫氏を据えたい」と発言した。ところが、
「総会の最後に石井氏から挨拶があると思ったら、何もないまま閉会したのです」(総支部関係者)
出席者はここで初めて、石井氏が役員総会を欠席していたことを知ったという。
「後継指名の場に当事者がいないのはおかしい。石井氏が欠席した理由も聞かされなかった」(同)
実は、各支部の中には石井氏と直接面会した支部もあれば一度も面会していない支部もあり、支部役員からは「会ったこともない人の公認・推薦を協議しろというのか」と不満が漏れていた。その最中に石井氏は役員総会までも欠席したから、石井氏の姿勢や総支部の対応を問題視する声が上がったのだ。
挙げ句、翌6日には石井氏が記者会見を開いて立候補を正式表明、党県連に推薦を申請すると報じられたため、一部の支部役員・党員は「順番が逆」「筋道を通していない」と憤っているわけ。
なぜ大事な後継指名の場を欠席したのか。石井氏に尋ねると「体調を崩していた」と言う。
「しばらく調子が悪くて、岩代や東和などの支部にも足を運べなかった。そうこうしているうちに6月5日の総支部役員総会を迎えてしまって……。遊佐氏の引退表明と後継指名の場にいなかったことは申し訳なく思っています」(石井氏)
選挙に携わる人たちは順番や筋道を重んじる。裏を返せば、順番や筋道を間違えたら十分な支援を受けられなくなる恐れがある。一部の支部役員・党員は石井氏の立候補表明に不満を持っていると伝えると、石井氏は反省していた。
「今後、諸先輩方にアドバイスをいただき、誤解を招いたのであれば各地に出向いて立候補に至る経緯や私の考えを伝えていきたい」(同)
ちなみに体調は「良くない時期が長引いていたが、今は全く問題ありません」とのこと。
「私はPTA、スポ少、消防団などの活動を通じて地域の問題に関心を深めてきました。政治経験はゼロですが、遊佐後援会の青年部で活動したり、市議の選挙を手伝ってきたので政治が全く分からないわけではありません。今後、遊佐氏の後を引き継いでいければと思います」(同)
石井氏の地元・東和地域には「彼に本当に県議が務まるのか」と訝しむ声がある。支部役員・党員だけでなく地元の支持も獲得しないと、ただでさえ苦労する初めての選挙は一層厳しいものになるだろう。
〝ヤンチャ体質〟に嫌気
自民党のもう一人の現職・高宮氏は6月22日現在、態度を明らかにしていないが、3選を目指して立候補するものとみられる。
二本松市出身。東海大学体育学部卒。都内の電気工業会社を経て家業の岳下電機に入社。2012年、ミヤデンに商号変更すると同時に代表取締役に就任した。父親で創業者・前社長の敏夫氏(19年死去)は二本松市議、県議を務め、05年の市長選にも立候補した(結果は落選)。光敏氏はその後を継いで15年の県議選で初当選した。
高宮氏と言えば「資産の多さ」で有名だ。県の資産公開条例に基づき2020年4月に公開された資料によると、高宮氏は土地分で4669万円、建物分で8554万円、預金や投資信託などで8015万円、計2億1238万円と県議58人中トップの資産を誇る。
「大人になった今も学生時代の後輩をあごで使っている。そういう関係性に嫌気を差し、最初は高宮氏を応援していたが袂を分かった若手経済人は結構います。『オレは自民党員だが高宮氏の選挙はやらない』と公然と口にする人もいます。前回の県議選は無投票だったのに、やたらとカネを使っていた。昔からの〝ヤンチャ体質〟を改めないと、支持は広がらないと思う」(高宮氏をよく知る自民党員)
そんな高宮氏と石井氏に割って入るのが鈴木雅之氏(45)。立憲民主党県連常任幹事で、同党から公認を受ける予定だ。
二本松市出身。石巻専修大学経営学部卒。2015年の県議選に無所属で立候補したが落選した。市内で学習塾を経営する。
「前回の県議選も本人は出る意向だったが、家族の理解が得られず断念した。今回も家族は乗り気ではないと聞いている」(市内の選挙通)
鈴木氏は前々回の県議選で3600票余を獲得しているが、反自民で三保恵一市長の支持者が支援に回れば、前々回次点だった中田凉介氏と同等かそれ以上の得票(別掲)が期待できるのではないか。そもそも前々回は、鈴木氏が立候補せず三つ巴だったら中田氏が当選していた可能性が高かった。石井氏、高宮氏より年齢が若いことも無党派層には魅力に映るかもしれない。
二本松市選挙区は前回、前々回と自民党が2議席を独占しているが、人望が厚く選挙も強かった遊佐氏に比べ、石井氏と高宮氏には不安材料がある。その間隙を鈴木氏が突くことができれば、自民2議席独占の牙城は崩れるかもしれない。