民間の有識者グループ「人口戦略会議」(三村明夫議長=日本製鉄名誉会長)が全国自治体の「持続可能性」について分析した「地方自治体『持続可能性』分析レポート」が4月24日に公表された。その中で、福島県内の多くの自治体が「最終的には消滅する可能性がある」という区分の「消滅可能性自治体」に位置付けられた。一方で、小規模自治体ながら「消滅可能性自治体」に当たらないとされたところもある。(本誌取材班)
温度差がある指標の捉え方
人口戦略会議の「地方自治体『持続可能性』分析レポート」では、昨年12月に公表された「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)を基に、人口から見た全国の地方自治体の「持続可能性」について分析している。中でも、出産適齢期にあたる20〜30代の若年女性人口に着目し、2020年~2050年の30年間でその年代の女性の減少率に基づいて、「自立持続可能性自治体」、「ブラックホール型自治体」、「消滅可能性自治体」、「その他」の4つに区分されている。
なお、2014年5月に日本創成会議(増田寛也座長=元岩手県知事、※現在、増田氏は人口戦略会議副議長を務めている)が同様のリポートを発表している。ただ、その時は福島県は原発事故の影響もあり、詳細な分析対象に含まれていなかった。そのため、持続可能性の有無を示されたのは今回が初めてになる。
前述した4つの区分だが、「自立持続可能性自治体」は若年女性人口の減少率が20%未満の自治体、「ブラックホール型自治体」は若年女性人口の減少率は50%未満だが、封鎖人口(人口移動を加味しない出生数と死亡数によってのみ変動すると仮定した場合の人口)では50%以上になる自治体。県内ではこれに該当するところはない。
「消滅可能性自治体」は若年女性人口の減少率が50%以上の自治体。「その他」は上記3つのどれにも当てはまらない自治体。「減少状況によって、必要な対策が異なることに留意する必要がある」とされている。県内自治体はこの2区分しかなく、33市町村が前者、13市町村が後者に該当。なお、浜通りの13市町村は震災・原発事故の影響があるため、個別分析されていない。つまり、個別分析された46市町村のうち33市町村、実に7割以上が消滅の可能性があるとされたのだ。
2020年 | 2050年 | 20〜39歳の女性人口減少率 | |||
20〜39歳の女性人口 | 総人口 | 20〜39歳の女性人口 | 総人口 | ||
福島市 | 2万6996人 | 28万2693人 | 1万4891人 | 20万9049人 | ▼44.8 |
会津若松市 | 1万0749人 | 11万7376人 | 5057人 | 7万6262人 | ▼53.0 |
郡山市 | 3万3984人 | 32万7692人 | 1万9923人 | 25万6083人 | ▼41.4 |
白河市 | 5429人 | 5万9491人 | 2700人 | 4万0370人 | ▼50.3 |
須賀川市 | 6959人 | 7万4992人 | 3910人 | 5万3951人 | ▼43.8 |
喜多方市 | 3514人 | 4万4760人 | 1374人 | 2万4846人 | ▼60.9 |
二本松市 | 4517人 | 5万3557人 | 1820人 | 3万1803人 | ▼59.7 |
田村市 | 2720人 | 3万5169人 | 884人 | 1万8087人 | ▼67.5 |
伊達市 | 4586人 | 5万8240人 | 1858人 | 3万3578人 | ▼59.5 |
本宮市 | 2890人 | 3万0236人 | 1524人 | 2万2760人 | ▼47.3 |
桑折町 | 867人 | 1万1459人 | 372人 | 6783人 | ▼57.1 |
国見町 | 594人 | 8639人 | 187人 | 4185人 | ▼68.5 |
川俣町 | 798人 | 1万2170人 | 175人 | 5072人 | ▼78.1 |
大玉村 | 926人 | 8900人 | 648人 | 7970人 | ▼30.0 |
鏡石町 | 1213人 | 1万2318人 | 712人 | 9333人 | ▼41.3 |
天栄村 | 414人 | 5194人 | 152人 | 2829人 | ▼63.3 |
西郷村 | 2221人 | 2万0808人 | 1507人 | 1万8313人 | ▼32.1 |
泉崎村 | 550人 | 6213人 | 252人 | 4173人 | ▼54.2 |
中島村 | 415人 | 4885人 | 225人 | 3535人 | ▼45.8 |
矢吹町 | 1528人 | 1万7287人 | 1008人 | 1万2749人 | ▼34.0 |
棚倉町 | 1124人 | 1万3343人 | 512人 | 7834人 | ▼54.4 |
矢祭町 | 375人 | 5392人 | 160人 | 2987人 | ▼57.3 |
塙町 | 604人 | 8302人 | 217人 | 4323人 | ▼64.1 |
鮫川村 | 205人 | 3049人 | 53人 | 1275人 | ▼74.1 |
石川町 | 1042人 | 1万4644人 | 361人 | 7213人 | ▼65.4 |
玉川村 | 553人 | 6392人 | 223人 | 3820人 | ▼59.7 |
平田村 | 415人 | 5826人 | 101人 | 2824人 | ▼75.7 |
浅川町 | 444人 | 6036人 | 174人 | 3376人 | ▼60.8 |
古殿町 | 310人 | 4825人 | 87人 | 2180人 | ▼71.9 |
三春町 | 1363人 | 1万7018人 | 566人 | 1万0419人 | ▼58.5 |
小野町 | 653人 | 9471人 | 200人 | 4747人 | ▼69.4 |
北塩原村 | 191人 | 2556人 | 69人 | 1259人 | ▼63.9 |
西会津町 | 322人 | 5770人 | 109人 | 2587人 | ▼66.1 |
磐梯町 | 243人 | 3322人 | 150人 | 2035人 | ▼38.3 |
猪苗代町 | 942人 | 1万3552人 | 326人 | 6670人 | ▼65.4 |
会津坂下町 | 1169人 | 1万5068人 | 483人 | 8641人 | ▼58.7 |
湯川村 | 248人 | 3081人 | 131人 | 2021人 | ▼47.2 |
柳津町 | 154人 | 3081人 | 88人 | 1636人 | ▼42.9 |
三島町 | 73人 | 1452人 | 19人 | 528人 | ▼74.0 |
金山町 | 74人 | 1862人 | 22人 | 715人 | ▼70.3 |
昭和村 | 62人 | 1246人 | 38人 | 670人 | ▼38.7 |
会津美里町 | 1335人 | 1万9014人 | 436人 | 9218人 | ▼67.3 |
下郷町 | 283人 | 5264人 | 78人 | 2331人 | ▼72.4 |
檜枝岐村 | 37人 | 504人 | 14人 | 279人 | ▼62.2 |
只見町 | 195人 | 4044人 | 85人 | 2084人 | ▼56.4 |
南会津町 | 856人 | 1万4451人 | 234人 | 6369人 | ▼72.7 |
浜通り | 3万8374人 | 45万2508人 | 2万0922人 | 30万7228人 | ▼45.5 |
もっとも、これは若年女性人口の減少率(推計)から導き出された「1つの指標」に過ぎない。ただ、同リポートが公表された直後の地元紙やローカルニュースで「消滅可能性」ということが報じられ、「うちの町は消滅の可能性がある」、「自分のところは消滅可能性を免れた」ということだけが一人歩きした面は大いにあろう。逆に言うと、それだけセンセーショナルだった。
ちなみに、2014年のリポートで「消滅可能性自治体」だったが、今回はそこから外れた自治体もあり、努力次第で状況を変えられる可能性もあるということだ。
一方、県内の多くが「消滅可能性自治体」に区分された中、小規模ながら意外(?)にも「その他」(消滅可能性に当たらない)とされた自治体もある。そこに「消滅可能性」を免れるヒントは隠れているのか。「その他」に分類された市町村のうち、生活圏や地理的に近い矢吹町・中島村、磐梯町・湯川村、柳津町・昭和村の3エリア6町村について追跡取材した。
矢吹町・中島村
矢吹町・中島村は西白河郡に属しており、両自治体とも県南の中心都市である白河市と石川郡の中核的自治体である石川町に面している。
両自治体に共通しているのは、交通アクセスの良さだ。矢吹町には東北自動車道矢吹インターチェンジ(IC)、磐越自動車道小野ICへとつながるあぶくま高原道路の矢吹中央ICがあり、国道4号が通っている。
中島村は高速道路・国道こそ通っていないものの、矢吹町と棚倉町などを結ぶ県道44号棚倉矢吹線、泉崎村と石川町を結ぶ県道137号泉崎石川線、石川町と白河市を結ぶ県道139号母畑白河線が通っている。
鉄道は矢吹町にJR東北本線矢吹駅があり、中島村に駅はない。ただ、車があれば矢吹駅や東北本線泉崎駅、JR水郡線磐城石川駅、同野木沢駅まで15分程度で行ける。東北新幹線新白河駅までは両自治体とも約30分で着く。
人口戦略会議の推計(前頁の別表参照)によると、20~30代の若年女性人口は矢吹町が2020年1528人、2050年1008人(減少率34・0%)。中島村が2020年415人、2050年225人(同45・8%)。特に矢吹町は大玉村、西郷村に続く低減少率だ。
ここ10年の若年女性人口の動きを見ると、矢吹町は近隣町村と比較してかなり低い減少率となっている。一方の中島村は玉川村、泉崎村を上回っているが、前出・封鎖人口における減少率で差が生じたようだ。
20〜39歳の女性人口 | 2014年 | 2024年 | 減少率 |
矢吹町 | 1748人 | 1495人 | 14.40% |
中島村 | 511人 | 354人 | 30.70% |
玉川村 | 689人 | 483人 | 29.80% |
泉崎村 | 680人 | 483人 | 28.90% |
石川町 | 1652人 | 921人 | 44.20% |
両自治体に①消滅可能性自治体から外れた理由の自己分析、②今後の若年女性人口の減少対策について――の2点について質問を送ったところ、両町村から回答が寄せられた。
矢吹町では転入者が転出者を上回る転入超過がここ数年続いており、20~30代の外国人を含む若年女性の転入者も多いという。
その要因について、同町担当者は①白河市や郡山市に通勤可能な立地条件と充実した交通アクセス、②子育て世代に選ばれるまちづくりの徹底、③企業誘致への注力と外国人を含めた若い世代が子育てをしながらでも働きやすい職場環境の確保、④文化・スポーツの両面における人流の増加やにぎわい創出の取り組み、⑤交通弱者対策など子どもから高齢者まで住み続けられる事業の徹底――の5点を挙げる。
同町周辺にはレンゴー㈱福島矢吹工場など有力企業の工場が複数進出しており、女性でも働きやすい環境がある。JR矢吹駅前に整備された複合施設「kokotto(ココット)」は公民館、図書館、観光交流、子育て支援の4つの機能を備える。
町では若い世代の移住者を受け入れるため、家賃の助成など負担軽減に取り組みながらもPFIなどを活用した住宅整備・供給などを検討しているという。
若年女性の流出に歯止めをかけるために講じている対策としては、①多様な働き方を選択できる働く場所の確保、②子育て環境の充実、③まちの活気やにぎわい創出、④デジタル技術を活用した施策や持続可能なまちづくりの推進――などを掲げた。
中でもデジタル技術の活用に可能性を見いだしており、スポーツ×デジタルの取り組み、農業を活用したまちづくり、AIオンデマンドバス実証運行など、新たな試みに積極的にチャレンジしている。
「人口減少や少子高齢化に適応した地域社会づくりを進めるにあたっては、産業、健康、農業、移動課題解決、観光・定住促進など様々な領域を組み合わせ、デジタルを活用した地域社会のトランスフォーメーションが必要と考えます」(同町の担当者)
コンビニが2軒ある村
一方の中島村は 消滅可能性自治体から外れた理由をこう分析する。
「全国に先駆け、保育所・幼稚園保育料の無償化、小・中学校給食費無料化による子育て世帯の負担軽減を図るとともに、小・中学校における国際理解教育や充実した児童館事業などの子育て施策を実施しており、これらの取り組みが若手女性人口の減少にある程度歯止めをかける効果があったものと推測しています」
子育て世帯支援や教育充実に力を入れたことが奏功したのではないか、と。
若年女性人口の減少対策に関しては、特別な施策を打ち出しているわけではないようで、「今後も国や県と連携し、子育て施策や働く場所の確保などに取り組み、『住みたい。住み続けたい』と思ってもらえる魅力ある村づくりを進めていくことが重要であると考えている」と回答した。
こうしてみると、両自治体とも交通アクセスが良く、働き先となる企業の選択肢が多いのに加え、子育て支援策が充実していることが大きいようだ。郡山市や白河市と比べ地価も安いので、マイホームの候補地として上がりやすい立地にあることも大きいのかもしれない。
人が集まる場所には自然と買い物できる店舗や飲食店が集まるようになり、より暮らしやすい環境となっていく。ある中島村民は「小さな村だが、コンビニ2軒、ドラッグストアがあり、新たに焼き肉店ができた。人口規模にしては珍しいと思う」と話す。商工会の会員事業者数はどこも減少傾向にあるが、中島村商工会の事業者数は横ばいだという。
もっとも、住民に細かく話を聞いてみると、「財政的に厳しくなりつつあるのに、ハコモノへの投資を続けている。将来的に住民サービスの低下につながらないか心配」(矢吹町の経済人)、「政治や人間関係を見ていると田舎気質は抜けないと感じる」(ある中島村民)といった課題を指摘する声も聞かれた。
こうした課題が解決されなければ、せっかく転入してきた若年女性が定着せず、推計値よりも減少率が高くなる可能性もある。常に住みやすい環境へのアップデートに努める必要があるだろう。
磐梯町・湯川村
磐梯町は耶麻郡、湯川村は河沼郡に属する。例えば、磐梯町東部の住民は猪苗代町に、湯川村北部は喜多方市に、同村南西部は会津坂下町に通勤・通学、通院、食料品・日用品の調達などに行くという人もいるが、どちらも会津地方の中心都市である会津若松市に近く同市の生活圏と言える。
人口戦略会議の推計によると、20〜30代の若年女性人口は、磐梯町が2020年243人、2050年150人で減少率38・3%、湯川村が2020年248人、2050年131人で減少率47・2%とされている(表参照)。いずれも50%を下回っており、「消滅可能性自治体」には当たらないとされた。
もっとも、これは推計で、本当にその通りになる保証はどこにもない。実際の若年女性人口の動きはどうなのか。福島県現住人口調査を基に今年1月1日時点と、10年前の2014年1月1日時点の若年女性の人口の推移を表にまとめた。比較対象として、近隣町村の増減も併記した。これを見ると、確かに磐梯町、湯川村の減少率は少ない。
20〜39歳の女性人口 | 2014年 | 2024年 | 減少率 |
磐梯町 | 289人 | 222人 | 23.20% |
湯川村 | 259人 | 214人 | 17.40% |
猪苗代町 | 1193人 | 754人 | 36.80% |
西会津町 | 354人 | 252人 | 28.80% |
会津坂下町 | 1388人 | 982人 | 29.20% |
その理由はどこにあるのか。それを探るべく、本誌は両町村長に①「人口戦略会議」では、20代から30代の「若年女性人口」について、2020年から2050年までの30年間で50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」と定義しています。湯川村はそれに当たらないとされたわけですが、その要因についてどのように分析されますか、②今後の若年女性人口の減少対策についてどのように考えていますか、との質問を投げかけコメントを求めた。
磐梯町は、「正直、あの(人口戦略会議の推計の)根拠がよく分からないので、コメントのしようがない」とのことだった。
湯川村の佐野盛至村長は本誌取材に応じ、次のように話した。
「若者定住促進事業として、村で若者向けの住宅を整備したり、民間の分譲地もあります。そういった中で、20代、30代の若い世代が入ってきており、それが今回の数字(人口戦略会議の分析)に加味されているのかどうかは分かりませんが、そんな関係もあるのかなと思います。また、今年度から小中学校の学校給食費の無料化、保育料の無料化などの子育て支援を行っており、若い人に住んでもらえるような取り組みを進めています」
このほか、佐野村長は交通の便がいいことや地理的な要因も挙げた。同村は無料の地域高規格道路「会津縦貫北道路」のICが2つあり、会津若松市や喜多方市、会津坂下町が近い。前段で述べたように、通勤・通学、通院、食料品・日用品の調達などで不便がないのだ。
「総人口、若年女性の人口を増やすのは難しいでしょうけど、そういった地理的な条件を生かしながら、若者定住促進のための取り組みはもちろん、魅力ある村づくりを進めていきたい」(佐野村長)
域内の奪い合いは無益
両町村の住民は今回の件をどう捉えているのか。聞くと、多くは「どういう分析でそうなったか、詳しいことはあまり分からないけど、とにかく、『消滅可能性自治体』に入らなくて良かった」といった捉え方のようだ。
一方で、磐梯町内ではこんな話が聞かれた。
「シグマや日曹金属化学の工場がありますから、そういったことが大きいんじゃないですかね」
「いま、会津若松市では新工業団地整備事業を進めていますが、最有力候補地とされているのが磐越道磐梯河東ICに近い河東町八田地区です。あそこだと、会津若松市の住宅密集地より、磐梯町の中心部の方が近い。まあ、実際に工場などが立地して、そこで働く人がどこに住むかは分かりませんが、磐梯町がベットタウン候補というか、住む場所の選択肢の1つになるのは間違いないでしょう」
湯川村では、実際に若い世代が同村に移り住んだ事例を聞く機会があった。
「近く結婚して一緒に住むことになった若い夫婦で、旦那さんが会津若松市、奥さんが喜多方市、あるいは旦那さんが会津坂下町、奥さんが会津若松市に勤めていて、どこに住もうかとなったとき、どこに行くにも便利で土地も比較的安価な湯川村に、ということでこの村に住むようになった事例をいくつか聞きました。そういった形で若い夫婦に移り住んでもらえたら、村としてもありがたいですよね」
そのほか、「子どもの日に、15歳未満の人口の割合が発表されましたが、湯川村は12・9%で県内では5番目に高かった」、「湯川村は過疎指定から外れているくらいだからね」と話す村民もいた。
こうして聞くと、両町村とも、近隣町村と比較して、地理的、条件的に恵まれていると言えよう。ただ、例えば、会津若松市から磐梯町や湯川村に、という具合に、会津地方内で人の移動があり、受け入れ先(移住先)の町村の指標などが良くなったとしても、それで人々の暮らしが豊かになるかというと、そうは思えない。もっと広い視点で、この場合は会津地方全体で浮上していけるような仕掛けが必要になろう。
柳津町・昭和村
柳津町は河沼郡、昭和村は大沼郡に属する。人口戦略会議の推計によると、20〜30代の若年女性人口は、柳津町が2020年248人、2050年131人で減少率42・9%、昭和村が2020年62人、2050年38人で減少率38・7%とされている。いずれも50%を下回っており、「消滅可能性自治体」には当たらないとされたわけだが、実際の若年女性人口の動きはどうか。
福島県現住人口調査を基に今年1月1日時点と、10年前の2014年1月1日時点の若年女性の人口の推移を表にまとめた。比較対象として、近隣町村の数値を併記した。これを見ると、昭和村の減少率が6・5%と低いが、むしろそれよりも金山町の方が目につく。若年女性人口が2014年は40人だったのが、今年は66人に増えているのだ。
20〜39歳の女性人口 | 2014年 | 2024年 | 減少率 |
昭和村 | 61人 | 57人 | 6.50% |
柳津町 | 228人 | 129人 | 43.40% |
三島町 | 81人 | 54人 | 33.30% |
金山町 | 40人 | 66人 | 165% |
会津美里町 | 1668人 | 1069人 | 35.90% |
これについて、金山町役場は「明確にこれというのは思い当たらないですね。さまざまな移住・定住政策は実施していますが、女性に特化したものはなく、実際に移住された方には女性だけでなく、男性もいますし。これまでの取り組みが奏功してそういった結果(若年女性が増えた)になったのであれば喜ばしい限りですけど」とのこと。
一方、人口戦略会議の推計では、2020年74人、2050年22人、減少率70・3%で「消滅可能性自治体」に区分されている。
両町村関係者の見立て
それはともかく、柳津町では人口戦略会議の報告をどう見ているのか。同町役場に問い合わせたところ、以下のような回答があった。
「当町が『消滅可能性自治体』に該当しなかった主な要因は、これまで若年層の町外流出に歯止めをかける施策に力を入れてきたことが挙げられます。具体的には、町内に製造業企業の誘致を進めるとともに、観光業や農業の振興によって若者の雇用の場を確保してきました。さらに、国の政策に加えて0~3歳児の保育料無償化や小中学校の給食費無償化を早期に実施し、子育て世帯への経済的支援を手厚くしてきました。また、結婚祝金や出産祝金などの各種支援制度に加え、若者定住促進住宅や後継者独身住宅の整備も行い、若年層の町への定住を後押ししてきた結果だと考えられます。しかしながら、町全体としては少子高齢化が進行しており、人口減少に歯止めをかけるためには、今後もこうした取り組みを一層積極的に推進していく必要があると考えています」
一方で、同町が分類された「その他」は、「若年女性人口が減少する見込み」、「減少状況によって、必要な対策が異なることに留意する必要がある」とされている。今後の若年女性人口の減少対策についてはどのように考えているのか。
「人口戦略会議からも指摘があったように、若年女性人口の減少傾向が続くことは避けらないと考えています。そのため、今後は出産・子育て支援策をさらに拡充し、併せて教育環境の充実や公共交通の充実、子育て世帯への住宅支援など、若年層が安心して子どもを産み育てられる環境づくりに重点を置いていく方針です。加えて、UIJターンの促進にも力を入れ、自治体間の連携を深めながら地方回帰の受け皿となれるよう努力していきたいと考えています」(柳津町の担当者)
商工業の視点からは、今回の人口戦略会議の分析をどうみるのか。
柳津町商工会の指導員・吉津大樹さんは、「消滅可能性自治体に入っていないんだと意外に感じた」という。そのうえで、次のように話した。
「『その他』に分類されても人口減の影響は感じており、危機感を持っています。商工会としては、地域おこし協力隊員の定住を進めようと移住・起業を考える若者のサポートを積極的に行っています。現在、地域おこし協力隊は赤べこを製作したり、コンサルタントをするなどして少しずつだが定住しています。今後も起業を考える人を積極的に支援していきたい」
一方、昭和村にも同様の問い合わせをしたが、「分析しているのが民間団体で、公的機関の分析手法とは異なるのでコメントは控えたい」(村総務課)とのこと。
同村にとっての最近のトピックとしては、国道401号博士峠バイパスが開通したことが挙げられる。同村と会津美里町を結ぶ同国道は、急カーブと急勾配がつづく博士峠が難所となっていたが、昨年9月に同バイパスが開通した。これにより、会津若松方面への所要時間が大幅に短縮されただけでなく、冬季も通行できるようになった。
一方、同村では、1994年からからむし織体験生「織姫・彦星」事業を行っている。からむしという植物の繊維を使った織物の体験事業で、一定期間、同村に住み、山村での生活と、からむしの栽培から織物の技法などを学ぶ。その後、村に定住する人も少なくないというから、そういったことが若年女性人口の減少率が低い要因の1つだろう。
もう1つは、同村ではカスミソウの栽培に力を入れており、いまでは一定のブランド力を形成した。UIターン者の新規就農者を受け入れており、そうした事業も今回の指標に反映されたものと考えられる。
ただ、カスミソウ専業農家の菅家博昭さん(64)は「地域の行く末は人口動態だけではなく、産業を考えなければならない。『消滅可能性自治体』は産業の観点がなく、あくまで指標の一つに考えています」と話し、「実感としては、決して楽観視はできない」という。
柳津町、昭和村ともに、決して条件的に恵まれているとは言えない。そのため、「消滅可能性自治体」を回避できたことで安心せず、足元を見た取り組みが求められよう。
総括
人口戦略会議の分析の中から、「消滅可能性自治体」に該当しなかった意外に思える自治体の現状に迫ったが、関係者を取材した限り、なるほどと思える自治体があった半面、「意外」との感想を払拭できない自治体もあった。指標の捉え方にも温度差を感じた。
冒頭でも述べたように、これは若年女性人口の減少率(推計)を基にした「1つの指標」に過ぎない。「消滅可能性自治体」に該当しなかった自治体の住民は、「該当しなくてよかった」と思うことはあっても、ほかと比較して「豊かさ」を実感できる部分は多くないと思われる。今回の分析で参考になる部分は参考にしつつ、住民の豊かさを追求していくことこそが行政の役割と言える。