国見町長選の争点と化す公文書開示訴訟

国見町長選の争点と化す公文書開示訴訟

 高規格救急車リース事業で業者と結んだ不透明な契約が問題となった国見町は、公文書開示手続きでも法令違反を問われ、開示を求める愛知県在住の男性に訴えられている。福島地裁で9月17日に開かれた第2回口頭弁論で町側は「全面不開示は適切だった」と反論。原告が再反論する3回目の口頭弁論は11月5日に決まり、町長選の告示日に重なった。現職の対抗馬と目される元県職員は、町が条例を曲解して不開示にした対応を問題視しており、町長選の争点の一つとなりそうだ。

告示日に3回目の裁判

引地真氏
引地真氏

 国見町(人口8170人、町職員246人=4月1日現在)に不開示文書の開示を求めた訴訟の原告は愛知県西尾市(人口17万人)の簗瀬貴央氏(60)。簗瀬氏は同市職員(1700人)で危機管理局長を務める。行政機関に公文書開示請求をして第三者の立場から行政監視することをライフワークにしている(本誌7、9月号で詳報)。

 簗瀬氏が裁判を通じて町に開示を求めているのは、今年3月に男性職員が受けた懲戒処分に関し、その根拠を示す文書だ。男性職員は救急車事業に関して内部資料を集めていたことが「職権逸脱」や「情報漏洩」に問われ、減給の懲戒処分を受けた。男性職員は町監査委員事務局に情報提供しており、「公益通報目的だったので、処分は公益通報者保護法に違反する」と公平委員会で争っている。

 男性職員の処分に関し、簗瀬氏は今年3月に開示請求したが、町は「個人情報」を理由に全面不開示。簗瀬氏が審査請求(不服申し立て)をすると、今度は「簗瀬氏は開示請求権者ではない」と審査請求を却下した。

 国見町情報公開条例では、開示請求権者を「何人も」とし、制限を設けていない。現に愛知県在住の簗瀬氏は救急車事業に関する文書については開示を受けていたため、町の「簗瀬氏は開示請求権者ではない」という主張に矛盾が生じた。簗瀬氏は条例を曲解してまで審査請求を門前払いする町のやり方に憤り、不開示文書の開示を求めて6月に提訴した。

 審査請求の却下が条例違反なのは明白であり、簗瀬氏が却下の撤回を裁判で求めれば町は完敗する可能性が高い。ただ、簗瀬氏は「却下が取り消されたとしても町の情報公開審査会に移送され、振り出しに戻る」と審査会に期待してはいない(委員一覧は別表)。あくまで開示を求め、裁判の争点を「町の不開示決定が妥当かどうか」に絞った。不開示文書の一部でも開示されれば簗瀬氏の勝訴、町の敗訴。訴訟は町にとって分が悪い。

国見町行政不服及び情報公開・個人情報保護審査会(敬称略)

会長鈴木 靖裕県弁護士会長
職務代理者上床  悠福大准教授(公法学)
委員元井 貴子桜の聖母短大准教授(ジェンダー法学)
委員奥山 光雄元町代表監査委員
委員羽根田ヒサ町民
任期2023年6月7日~25年6月6日(23年8月31日時点の名簿)


 9月17日に福島地裁で開かれた第2回口頭弁論(小川理佳裁判長、荒井格裁判官、渡邉小百合裁判官)では、原告簗瀬氏と、被告国見町の代理人を務める渡辺健寿弁護士(町顧問弁護士)、安倍孝祐弁護士が初めて相対した。傍聴した報道機関は前回に続き福島民報、河北新報、読売新聞、共同通信。傍聴人は町の公僕のみ記述すると総務課の八島章氏、町議の小林聖治氏、山崎健吉氏、宍戸武志氏。

 安倍弁護士は以前本誌の訴訟代理人を務めたため、関係性を明らかにしておく必要がある。本誌は2023年8月号掲載の記事を巡り、会津若松市の学校法人中沢学園に掲載差し止めを求める仮処分を申し立てられた。福島地裁での審尋の結果、同学園は仮処分請求を自ら取り下げた(本誌2023年9月号参照)。記事掲載に至るまで法的助言をしてくれたのが安倍弁護士だった。その後、同学園からの提訴はないため、安倍弁護士とは1年以上にわたり契約関係にはない。

 9月17日の裁判は5分で終了。

 小川裁判長「被告は提出していただいた答弁書で一通り主張したということでよろしいか」

 渡辺弁護士「はい」

 小川裁判長「被告が反論のために示した最高裁の判例だが、(公務員の)氏名については公開する前提の判例だ。判例を本件に適合させるのはどうなのかなと思うがよろしいか」

 渡辺弁護士「評価上の問題なので……」

 町側はひとまず反論を終えた。簗瀬氏の反論を待って、この判例を証拠に使うかどうかを決める。次回の期日は11月5日午後3時半に決まった。

 閉廷後、簗瀬氏が取材に応じた。

簗瀬氏
簗瀬氏


 「国見町は答弁書で不開示にした理由を述べていますが、本来は不開示決定の際に、文書を特定した上で『情報公開条例のこの条文に照らして不開示にした』と開示しない詳細な理由を通知しなければなりません。裁判になるまで詳細な説明がなかったのは問題と考えています」

 町の準備書面によると(※欄外注)、不開示にした文書は①令和5年12月15日付「職員の懲戒処分について(諮問)」、②「事情聴取録」、③「会議録」、④令和6年2月1日付「弁明の機会の付与について」、⑤令和6年2月8日付「不利益処分の原因となる事実の明示への回答について(伺い)」、⑥令和6年2月27日付「職員の懲戒処分について(答申)」、⑦令和6年2月28日付「職員の懲戒処分について(伺い)」。

※民事裁判の訴訟資料は何人も裁判所に閲覧を請求できる(民事訴訟法91条1項)。請求の際には、訴訟当事者双方、または事件番号を特定し、身分証と印鑑、150円分の収入印紙を用意する必要がある。国見町の裁判の事件番号は「令和6年(行ウ)第8号」である。

 ⑤の文書名からは、男性職員が「懲戒処分の原因となる事実が町から明示されていない」と異議を唱えていたことが分かる。

弁護士費用誰が負担?

 奇しくも、3回目の口頭弁論は国見町長選の告示日(11月5日)と重なった。同10日投開票の町長選には現職の引地真氏(64)と元県職員で新人の村上利通氏(60)が立候補を表明している。同27日から次の町長の任期が始まり、裁判の判決はそれよりも遅い年末から来年1月にかけて言い渡される見込み。町長選が裁判の結果に影響を与える可能性が出てきた。

村上利通氏
村上利通氏

 町が「簗瀬氏は開示請求権者ではない」と急に持ち出し、条例を曲解して審査請求を却下したことから分かるように、町執行部の決定は法的な裏付けがなく極めて恣意的だ。恣意的ということは、人や状況が変われば容易に転じることを意味する。

 却下は引地町長の名の下に行われたため、引地氏が再選されれば方針転換はまずない。対抗馬の村上氏はどう考えるか。村上氏に見解を聞くと「一町民として裁判には注目している。条例では開示請求権者を制限していないのに、町が『請求権者ではない』との理由で手続きを拒否したとすれば問題だ」と述べた。

 町長選の争点は、救急車事業の成否をはじめ候補者の見解が分かれるものがたくさんある。その中で公文書開示請求手続き拒否の問題は、原告が町外在住者ということもあり町民には他人事に映るかもしれない。だが、町の条例曲解が原因で裁判になり、本来は必要なかった弁護士費用を2人分払わなければならなくなった。ツケは町民に回ってくる。大きな問題だ。

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