乱戦いわき市議選「選挙漫遊」リポート

乱戦いわき市議選「選挙漫遊」リポート

 9月1日告示、同8日投開票のいわき市議選には現行37の定数になって以降最多の47人が立候補した。自民系現職3人が落選し、元職・新人からなる7人が新たに当選。会派再編が始まる(当選者一覧と地図参照)。本誌は選挙期間中に全ての候補者に会う「選挙漫遊」を地元紙「いわき民報」と合同で行い、全47候補に取材した。

全候補者47人をいわき民報と合同取材

定数37に対し47人が立候補したいわき市議選のポスター掲示板
定数37に対し47人が立候補したいわき市議選のポスター掲示板

 「選挙漫遊」とは投票権のない地域の選挙をスポーツ観戦のように楽しんで観る取り組み。本誌に「選挙古今東西」を連載するフリーランスライター畠山理仁さんが提唱する。ポイントは「選挙期間中に全候補者に会う」の1点のみ。地元住民と交流してその地の課題を聞いたり、報道では削ぎ落される候補者の人となりを間近に見られるのが醍醐味だ。

 本誌は昨年11月の県議選で選挙漫遊を初体験。7人で4市の全39候補を直撃し、インタビュー動画を本誌ホームページにアップした。いわき市議選は、選挙漫遊企画の第2弾となる。撮影時間を1分程度とし、「市政の課題」や「選挙への意気込み」といった質問を投げかけ、候補者に訴えたい内容を話してもらった。全候補47人は、本誌だけで回り切れないので、同市を拠点にする地元紙いわき民報と共同取材した。本誌からは4人、いわき民報からは2人が参加。いわき民報が主に市北部から平地区までに地盤がある候補を、本誌が常磐、好間、小名浜、遠野、勿来地区を担当した。以降は選挙漫遊をした記者のレポートだ。

2024年いわき市議選(投票率41・28%)

得票氏名(敬称略)年齢属性期数事務所
4458草野 大輔371期小川
3687柴野 美佳59公明4期小名浜
3437塩田 美枝子72公明7期常磐
3387佐藤 和良70創世会6期小名浜
3380塩 恭子57共産1期
3114永山 宏恵57志帥会5期三和
3094塩沢 昭広54公明4期勿来
3029赤津 一夫68一誠会5期勿来
2978小野 茂65公明6期
2914福嶋 あずさ51創世会5期
2837根本 重和471期久之浜・大久
2758鈴木 さおり55創世会2期
2708山守 章二55志帥会4期内郷
2654長谷川 貴士47つつじの会2期勿来
2563吉田 雅人31一誠会2期常磐
2524小野 潤三591人会派4期小名浜
2460坂本 稔64創世会5期四倉
2403小野 邦弘71一誠会6期
2398菅波 健67志帥会6期
2392小菅 悟39一誠会2期常磐
2373蛭田 源治70志帥会6期勿来
2284佐藤 不二夫611期遠野
2212大友 康夫59つつじの会5期小名浜
2191菅野 宗長64共産2期内郷
2190田頭 弘毅50一誠会3期小名浜
2171狩野 光昭71創世会4期内郷
2166西山 一美64志帥会4期
2151鈴木 演44一誠会3期勿来
2123四家 智之61共産1期勿来
2029遠藤 崇広491人会派2期内郷
2004馬上 卓也64一誠会3期小名浜
1999川崎 憲正53志帥会3期四倉
1942上壁 充68創世会5期勿来
1847大峯 英之63志帥会5期
1799小野 光貴31維新1期好間
1786木田 都城子55志帥会3期好間
1612伊藤 浩之63元職5期遠野
1585佐藤 和美55一誠会6期常磐
1497石井 敏郎701人会派8期
1477鹿中 剛志48
1452引地 正伸45小名浜
1446箱﨑 政富40
1260佐川 俊輔41
930平子 善一40一誠会1期遠野
624井出 雅恵61維新好間
571渡部 安彦37
502平木 恒男60小名浜
年齢と属性は投開票日時点。当選者には改選後の期数を含む。

足で稼いだ1452票【志賀の視点】

 面積1232平方㌔を誇るいわき市。各候補者は各地区にある「マルト」などの商業施設や公共施設を街頭演説場所に選ぶ。1日出ずっぱりのことも多いため、選挙漫遊は昼か夜、各候補者が事務所に戻って来るタイミングを狙って実施することが多かった。

 立候補者が多かった原因としては、「全国的な傾向で、いわき市で行われる選挙も年々投票率が下がっている。投票率が下がれば当確ラインとなる得票数も下がるので、新人は出馬に前向きになる」(市内の選挙ウオッチャー)ことがあるという。 加えて昨年11月の県議選いわき市選挙区で、無所属新人や日本維新の会所属の元職が当選、世代交代ムードが高まり、既存政党のベテラン現職が落選した。とりわけ医師不足解消を訴えた医師の山口洋太氏(34)=れいわ新選組推薦=が2位当選した衝撃は大きく、市議選でも複数の現職陣営で「山口ショック」の再来を恐れる声があった。

 各候補者が挙げる市の課題は人口減少、医師不足、公共交通機関の充実、公共施設の縮減など。本誌8月号で地域活動家の小松理虔さん(いわき市)が述べていた「縮退」の実態をあらためて感じた。最も印象に残ったのは、無所属新人で立候補したサラリーマンの引地正伸氏(45)。金のかかる選挙戦に異議を唱え、事務所、後援会、選挙カーを使わず走って回る選挙を展開した。落選したものの、1452票を獲得。市民ランナー団体に所属し「この後20㌔走りながら支持を訴えます」と去っていった姿が忘れられない。当落にこだわらない、多様な候補者の考えを聞けるのは選挙漫遊の醍醐味だ。(志賀)

63万円分の仕事した?【末永の視点】

 各候補者の動画は、選挙期間中に本誌HPにアップし、SNSでは「市議選は政見放送がないのでありがたい」といった反応があった。これは企画を実施した立場からすると嬉しい限りだが、その半面、選挙のあり方に疑問を覚えずにはいられない。

 選挙において、最も目につくのは掲示板(各候補者のポスター)だが、顔写真と名前のほか、抽象的な文言、キャッチフレーズのようなものが書かれているだけ。これで有権者はどう判断しろと言うのか。

 これは今回のいわき市議選に限ったことではない。選挙は、候補者が「自分はこういう経歴・職歴で、こういうことを成したいから立候補した。共感してくれる人は、ぜひ私に投票を」というのが基本だが、そのための情報発信を候補者自身が十分にしているとは言えない。つまり、今回の企画がウケるということは、候補者が有権者に判断材料を示していない(怠慢!)ということの裏返しでもある。

 一方で、議員報酬(月額)は議長70万円、副議長66万円、議員63万円で、このほか年2回の期末手当(いわゆるボーナス)がある。この報酬について、多くの市民は「高い」と感じるのではないか。これに対して、議会本会議、委員会等は多くても年間100日程度。活動内容と報酬が見合っているとは言えない。新しい議会には、その辺の検証もしてもらいたい。(末永)

取材を嫌がる公明党【佐藤仁の視点】

 昨秋の県議選に続いて二度目の選挙漫遊。定数37を10人オーバーし「いわゆる泡沫と言われる候補者はいない」という声もあってか、県議選の時より緊張感が漂っていた。

 一方で「市議レベル、市政レベルではできないことを平気で訴える候補者がいて困る」(若手候補者)という本音も聞かれた。「怖いのは、その訴えを聞いて『だったらこの人に入れよう』という投票行動が起きること」(同)とも。それで割を食うのは前回下位で当選した人たちなので、かなり警戒している様子だった。

 支持者の熱気は、県議選よりいわき市議選の方が感じられた。おそらく、市議の方が県議より身近な存在ということが影響しているのだと思う。ある候補者(自民系)の街頭演説には60人以上が集まり、昨秋取材した県議選会津若松市選挙区では見なかった光景を目の当たりにした。

 今回の選挙漫遊は、候補者全員の声を動画に収められたことが大きな収穫だったが、候補者本人や事務所との事前交渉は難航したケースも少なくなかった。

 とりわけ4人が立候補した公明党は、窓口となった真山祐一県議(いわき市選挙区選出)から「党として動画の中身を事前にチェックする必要があるし、流れた内容がマイナスに作用しても困る」と、いったんは取材を断られた。それでも「他の候補者は全員応じており、公明党だけ応じないと逆に目立つのではないか」と説得すると、最終的には4人全員に応じていただいた。

 石丸伸二氏が存在感を発揮した東京都知事選では、SNSが有権者の投票行動に大きな影響を与えた。人口が少ない地方選挙は、ひたすら選挙カーを走らせ、一人でも多くの有権者と握手する昔ながらの戦術が未だに続く。今回の動画投稿に、候補者や有権者がどんな感想を持ったのか興味深い。(佐藤仁)

公人の自覚がない候補【小池の視点】

 候補者の人となりや陣営の雰囲気が一番分かるのは、取材申請した際の対応だ。有権者に広く自分の見解を知ってもらう機会なのに拒否する候補者がおり、それは現職に多かった。

 ある現職候補の陣営に取材依頼すると、男性スタッフが「支援者の方の対応が優先。予定がパンパンに入っていて対応は難しい」と渋かった。「取材時間は5分」「他の候補も受ける」「地元紙のいわき民報との合同取材」と強調しても「やむを得ません」と頑なだった。

 そもそも、選挙運動は公的な活動で、税金が支出されている。公人の自覚があるなら取材拒否はあり得ない。諦めて「事務所や選挙カーでの演説の様子を撮って上げます」と言うと、勝手に撮影されたくないのか受けてもらえた。「忙しいから受けない」という理由はなんだったのか。

 最後に残った現職候補は、「取材を受けない権利もある」と主張。状況が変わったのは、取材を拒否していた公明党候補が全員受けるようになってからだった。遊説中に駆け付け、動画撮影に応じない最後の1人であることを伝えると応じた。なぜ最初は応じなかったのか聞くと、「SNSは使わない方針」だという。後で確認すると、フェイスブックのアカウントを持っており最近まで更新しているので説得力がない。

 遠野地区が地盤の平子善一氏には意表を突かれた。動画を撮影したいと申し出ると、「自前で動画を撮って提供する」という。なぜ撮影に応じないか聞くと、「私は発言を切り取られてばかりいる」。本誌6月号で、筆者は平子候補の後援会が収支報告書を提出せず「みなし解散」となったことを報じたため、平子氏は本誌を警戒していた。

 平子氏の動画は、ネット選挙における閲覧者数稼ぎについて考えさせられた。本誌といわき民報は、候補者の動画サイズを横長にして一覧にしたが、平子氏は、自前の動画を縦長で撮影した。YouTube上では、縦長の動画が「ショート動画」に勝手に分類され、ページトップに頻繁に上がるようになる。結果的に他の候補者よりも再生回数が伸びた。ネットでは注目されたが、当選には及ばなかった。(小池)

「選挙漫遊を続けて」

畠山理仁さん
畠山理仁さん

 現職が3人落選し、日本維新の会が初議席を得るなど選挙戦に熱がこもった一方、有権者は冷ややかだった。投票率は41・28%で過去最低だった4年前の前回(44・77%)を3・49ポイント下回った。本誌といわき民報は「長い歴史の中で民衆が勝ち取ってきた参政権を放棄せずに行使してほしい」との思いで、選挙漫遊で全候補者の声を届けることにこだわった。投票率からは、まだまだ伝える側の課題を感じる。

 選挙漫遊の生みの親である畠山さんに、今回の漫遊の意義を尋ねると、「地方選挙の場合、候補者の情報はポスターや選挙広報に限られる。投票日より前に地元密着型メディアが速報性のあるネット上の動画で候補者情報を提供するのは有権者にとっても有益。続けてほしい」。

 報道機関が選挙漫遊をするのは珍しかったのか、本誌はネット配信番組「デモクラシータイムズ」に取り上げられた(YouTubeで配信)。選挙漫遊が大手メディアでも珍しくない取材手法になってほしい。

 市議会の会派再編に触れる。改選前に最大会派(9人)だった自民系の一誠会は2議席減らした一方、同じく自民系の志帥会(8人)は議席を維持した。直近の衆院選と来年秋の市長選を見据え、保守会派の合同を促す動きがあったが頓挫。旧志帥会を母体に、無所属の新人3人、旧一誠会の田頭弘毅氏、旧つつじの会の長谷川貴士氏が加わり、最大会派の「政風会」(13人)が誕生した。

 旧一誠会のうち6人は「真政会」を形成。立民、社民系からなる創世会と議席が同数になった。旧志帥会は、渡辺敬夫元市長と関係が深く、その後継者の内田広之市長との距離が近い。旧志帥会を引き継いだ政風会は内田市長との関係を維持する。対して旧一誠会は、清水敏男前市長と関係が深かったため内田市長とは距離を置いていた。改選後の議会は「市長派」が最大会派になった。

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