コロナから着実に回復も目立つ増収減益
上場企業の昨年度決算は円安、価格転嫁の実施、コロナ禍からの回復などにより、最終利益が前年度比で増加した企業が目立った。ただ、最高益を出した企業には「円安の恩恵を受けた輸出・多国籍企業」という共通点があり、地方では企業業績の好調さが実感しづらい。そこで、県内上場企業の昨年度決算(連結)はどうだったのか、東京証券取引所の最上位市場「プライム市場」に上場する6社の業績と株価を分析した。(佐藤仁)
ゼビオHD
ゼビオHD(郡山市、諸橋友良社長)の2024年3月期決算は別表の通り。なお、コロナ禍からの回復具合を知るため、表には過去3年度分の決算も載せた(以下同)
ゼビオホールディングスの業績
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 2424億3300万円 | 42億0400万円 | 54億0500万円 | 25億9200万円 | 30円 |
2023年 | 2392億9300万円 | 83億2700万円 | 92億4200万円 | 53億9700万円 | 30円 |
2022年 | 2232億8200万円 | 49億9900万円 | 78億5100万円 | 38億3600万円 | 30円 |
2021年 | 2024億3800万円 | 27億6700万円 | 43億4200万円 | 4億1200万円 | 30円 |
前年度と比べると、売上高はプラス1・3%だったが、営業利益はマイナス49・5%、経常利益はマイナス41・5%、当期純利益はマイナス52・0%と大きく落ち込んだ。コロナの影響を受けた2021年3月期以降順調に持ち直してきたが、ブレーキがかか
った格好だ。
同社は増収減益の要因を次のように分析している。
▽コロナが落ち着き、部活動やスポーツイベントの正常化による一般競技スポーツ商品需要が回復。アフターコロナへの移行が進む中でシューズ、バッグなどのライフスタイル商品の需要も拡大=プラス要因。
▽コロナで市場拡大してきたゴルフやキャンプなど屋外スポーツ用品の需要は一巡=マイナス要因。
▽暖冬の影響でウインタースポーツ商品や防寒衣料関連の需要は大きく減退=マイナス要因。
▽部活動市場でカテゴリー毎の需要変化に対応すると共に、気候変動を見据えた売れ筋商品への注力や商品構成の見直し、コロナ前を超えるインバウンド需要の獲得に努めた=プラス要因。
▽設備投資、人件費、店舗関連費用、EC事業関連費用、システム開発費用などが増加=マイナス要因。
2024年3月期の特徴の一つに挙げられるのが売場面積の拡大だ。23年3月期はグループ全体で883店舗19万8738坪だったが、24年3月期は895店舗20万2701坪に。新規出店47、閉店35で12店舗増えたことが要因。
店舗別に見えていくと、スーパースポーツゼビオが出店9、閉店4、ヴィクトリアゴルフが出店14、閉店2、アウトドアのエルブレスが出店9、閉店1と店舗数を増やした。一方、中古ショップのゴルフパートナーが出店5、閉店7、カジュアルウェアのエックススタイルが出店7、閉店10と店舗数を減らした。
過去1年間の株価(昨年9月から今年8月の各月最初の営業日の終値を示す。以下同)は900~1100円台で推移。最高値は今年7月の1191円、最安値は昨年12月の937円だった。
1株当たりの年間配当金はここ4年、変わらず30円となっている。
幸楽苑HD
幸楽苑HD(郡山市、新井田傳会長兼社長)の2024年3月期決算は別表の通り。
幸楽苑ホールディングスの業績
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 268億円 | 3300万円 | ▲1億0600万円 | 9400万円 | 0円 |
2023年 | 254億6100万円 | ▲16億8700万円 | ▲15億2800万円 | ▲28億5800万円 | 0円 |
2022年 | 250億2300万円 | ▲20億4500万円 | 14億5200万円 | 3億7400万円 | 0円 |
2021年 | 265億6500万円 | ▲17億2900万円 | ▲9億6900万円 | ▲8億4100万円 | 0円 |
前年度と比べると、売上高はプラス5・3%。営業利益と当期純利益は赤字から持ち直したが、経常利益は2期連続の赤字となった。
1億円にも満たない黒字だが、同社にとっては「復活の足掛かりになる決算」になったと言っていい。
赤字から黒字に戻した背景には、昨年の株主総会で新井田昇社長(当時)が退き、相談役の傳氏が会長兼社長として復帰したことがある。昇氏は傳氏の長男で、総会では「任期満了での退任」と発表されたが、取締役からも退いたことを踏まえれば事実上の「引責辞任」だった。
5月23日に開かれた決算説明会では、新井田傳社長から黒字に転換した理由の一端が説明された。それによると、
▽「100年企業」を目指して昇氏に将来を託したが、社長に就いて4、5年で業績悪化を招いた。
▽3期連続の赤字決算で、その責任を取って社長職を辞したいとなり傳氏の出番となった。
▽昨年2月に復帰し、何から手を出していいか迷ったが、当時のメニューは原理原則から逸脱しており、これでは売れないと判断、メニューの作り直しから始めた。
▽メニューの値上げに踏み切りつつ、主力の味噌・塩・醤油ラーメンは価格を据え置き、セットメニューを数多く作って値引きを実施した。セットメニューは利幅があるため値引きし易い。値上げの時代、この値引きセットメニューが評価され客数が増加。その結果、ほとんどの店舗で昼ピーク時間は行列ができるほどになった。
▽夜の時間帯も昨年9月から変化が起きた。ある友人との会話がヒントとなり、夜限定メニューとして野菜炒め、レバニラ炒めを導入。これが大成功して夜の部の客数も増加、客単価も10円強上昇した。
▽5月からは「中華ダイニング」と称してディナーメニュー第2弾、麻婆豆腐と豚の角煮を導入。客数・客単価のアップが期待される。
昨年の株主総会では昇氏の責任に触れることはなかったが、長男の敷いた路線を父親が軌道修正し黒字に転じたことが明かされた。
株価を見ると、昨年9月の1039円から上昇し、今年8月には1301円をつけた。最高値は4月の1406円。社長交代・経営改善が、市場の評価につながっていることが分かる。
株主が今後期待するのは、長らく0円が続く配当金の復活だろう。
なお、同社は経営の効率化を図る狙いから、子会社の幸楽苑を吸収合併し、10月から社名を「幸楽苑」に変更する予定だ。
アレンザHD
アレンザHD(福島市、浅倉俊一会長兼CEO)の2024年2月期決算は別表の通り。
アレンザホールディングスの業績
営業収益 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 1497億1500万円 | 41億0600万円 | 46億1400万円 | 23億7200万円 | 38円 |
2023年 | 1491億9100万円 | 53億9300万円 | 59億1700万円 | 27億0700万円 | 38円 |
2022年 | 1569億3900万円 | 62億8100万円 | 68億4200万円 | 40億9100万円 | 36円 |
2021年 | 1574億0400万円 | 83億5000万円 | 88億6900万円 | 51億4400万円 | 36円 |
前年度と比べると、営業収益はプラス0・4%だったが、営業利益はマイナス23・9%、経常利益はマイナス22・0%、当期純利益はマイナス12・4%と落ち込んだ。ホームセンターやペットショップを全国展開する同社は、他の業界と比べてコロナの影響をあまり受けず堅実な経営を続けるが、決算の推移を見ると漸減傾向にあることが分かる。
浅倉会長は本誌6月号のインタビューで2024年2月期を次のように総括している。
「為替やエネルギー価格の高止まりなどにより原材料費が高騰しました。そうした中で人手不足もあり流通業界、とりわけホームセンター業界にとっては大変厳しい1年になったと思います。さらにコロナ禍の反動減で客数の減少が起こり、既存店の売り上げが減って前期を下回る数字になりました。営業収益が伸びたのは新規出店とM&Aが
影響しています。一方、利益が下がったのは人件費や電気料金、物流費など経費が増えたことが要因です。その結果、前期比でわずかな増収、大幅な減益となりました」
ホームセンター事業(ダイユーエイト、タイム、ホームセンターバロー)は競争激化に加え、物価高による買い控えや節約志向が売り上げを押し下げた。猛暑や暖冬により、園芸・植物・農業資材や季節商品の不振が見られた。PB商品の取扱高は増えたが、日用品等の売上構成比が増えたことで荒利率は横ばいか減った。
ペットショップ事業(アミーゴ)も、コロナ禍における急激なペット需要がピークアウトしたことで生体販売数が大きく減少したほか、ペットゲージなど関連用品の販売数も減り、既存店の売り上げが減収した。
一方で、同社は職人向けプロフェッショナル店(プロショップ)を積極的に出店。ホームセンターの新規出店は5店だったが、うち3店はプロショップだった。アミーゴもドミナントエリア拡大を図る狙いから、昨年度は群馬県、山梨県、福井県に初出店した。5月にはリフォーム事業を本格的に手掛ける新会社(ダイユーエイトリフォームサービスセンター)も設立した。
過去1年間の株価は1000~1100円台と、決算同様、堅実に推移している。
年間配当金は38円に増えた。
ハニーズHD
ハニーズHD(いわき市、江尻英介社長)の2024年5月期決算は別表の通り。
ハニーズホールディングスの業績
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 565億7100万円 | 69億7000万円 | 72億8100万円 | 48億7600万円 | 55円 |
2023年 | 548億8800万円 | 76億7000万円 | 80億2100万円 | 53億3600万円 | 50円 |
2022年 | 476億9500万円 | 49億9300万円 | 50億5700万円 | 32億5500万円 | 35円 |
2021年 | 453億6800万円 | 37億6700万円 | 39億7100万円 | 24億0300万円 | 30円 |
前年度と比べると、売上高はプラス3・1%だったが、営業利益はマイナス9・1%、経常利益はマイナス9・2%、当期純利益はマイナス8・6%となった。ただコロナで落ち込んだ決算は、年を追うごとに回復していることが見て取れる。
同社は増収減益の要因を次のように分析している。
▽外出需要が回復したほか、気温に合わせた売場づくり、消費者の需要に沿った商品提供、品質向上や適正価格への見直しなどを行った=プラス要因。
▽自社ECサイトのパフォーマンス改善やユーザビリティー向上に努め、SNS等による販促活動を積極展開したことで自社ECサイトを中心に伸長=プラス要因。
▽適時適正な商品投入や在庫コントロールのもと、プロパー消化の促進と値引きの抑制に努めた=プラス要因。
▽高いASEAN(アセアン)生産比率の維持とミャンマー子会社の有効活用に努め、安定した商品供給を行った結果、売上総利益率60%超を確保した=プラス要因。
▽給与のベースアップなどで人件費が前年同期を上回った。売り上げ増加に伴う店舗使用料や販促活動に基づくウェブ広告費なども増加した=マイナス要因。
▽EC商品発送費用やキャッシュレス決済の利用増加に伴う手数料などが増加した=マイナス要因。
▽円安により仕入れコストが上昇した=マイナス要因。
同社の特徴は、プラス要因にも挙げられているアセアン生産比率の高さだ。同社は中国から店舗・生産の撤退を図る一方、人件費が安く勤勉なアセアンに目を向け、ミャンマーに三つの自社工場を建設。2024年5月期の生産国別仕入れ状況はミ
ャンマー49・7%、バングラディシュ27・0%、カンボジア10・8%、ベトナム9・5%と97%を占めている。15年5月期には6割以上を占めた中国は、現在2%しかない。
さらに自社企画比率の高さ(97・6%)も、アセアンシフトとの相乗効果で60%超の売上総利益率を確保する要因になっている。
人件費や手数料の増加をマイナス要因としたが、人員確保のためには賃金アップは避けられないし、キャッシュレス決済がますます普及する中では、売り上げ増のための必要経費と捉えるべきだろう。
株価の推移を見ると、昨年9月が1728円で、今年4月には1846円をつけたが、8月は1573円に下げている。
一方、年間配当金が年々上がっているのは、株主からすると好感が持てる材料と言えるだろう。
日東紡
日東紡(福島市、多田弘行社長)の2024年3月期決算は別表の通り。
日東紡の業績
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 932億5300万円 | 83億8700万円 | 97億5200万円 | 72億9600万円 | 55円 |
2023年 | 875億2900万円 | 48億8000万円 | 60億6700万円 | 27億7200万円 | 55円 |
2022年 | 840億5100万円 | 72億6800万円 | 80億6500万円 | 65億1900万円 | 45円 |
2021年 | 787億2700万円 | 59億6400万円 | 62億7400万円 | 81億円 | 45円 |
前年度と比べると、売上高はプラス6・5%、営業利益はプラス71・9%、経常利益はプラス60・7%、当期純利益はプラス163・1%と大幅な増収増益となった。決算の推移を見ても2023年3月期は減益だったが、コロナの落ち込みから回復している様子がうかがえる。
増益の背景にはスペシャルガラスの存在がある。半導体基板やサーバーの高周波部材などに使われる高付加価値品で、需要の急増が利益を押し上げた。
同社の柱となっているグラスファイバー部門は原繊材事業、機能材事業、設備材事業と三つの事業に分かれているが、以下、事業ごとに見ていく。
▽原繊材事業では、電子材料向けスペシャルガラス・ヤーンの販売が好調に推移したが、強化プラスチック用途の複合材、電子材料向け汎用ヤーンの販売が低調だったことが利益を押し下げる要因となり、前年同期比で売上高は9・3%の増収も営業損失(前年度も損失計上)を計上する結果となった。
▽機能材事業では、AIサーバー向けの旺盛な需要の継続により、低誘電特性を持つスペシャルガラスの販売が伸長すると共に、半導体パッケージ基板向けのスペシャルガラスの販売が回復傾向となり、前年同期比で売上高は20・4%の増収、営業利益は59・6%の増益となった。
▽設備材事業では、断熱材および設備・建設資材向けガラスクロスの堅調な販売が収益に貢献。前年同期比で売上高は5・6%の増収、営業利益は964・5%の超増益を記録した。
同社は2024~27年度を実施期間とする「新中期経営計画」を打ち出し、4年間で800億円の設備投資と150億円の研究開発費を投入し、28年3月期決算では売上高1350億円、営業利益200億円を目指すとしている。
株価は昨年9月が3935円。今年6月には6780円をつけ、8月に5610円で落ち着いた。スペシャルガラスの好調さが追い風になっている模様。
それを物語るように、年間配当金も45円から55円にアップした。
東邦銀行
東邦銀行(福島市、佐藤稔頭取)の2024年3月期決算は別表の通り。
東邦銀行の業績
経常収益 | 経常利益 | 当期純利益 | 年間配当金 | |
2024年 | 589億8400万円 | 83億2100万円 | 52億5200万円 | 7円 |
2023年 | 587億0300万円 | 66億9900万円 | 44億9300万円 | 7円 |
2022年 | 602億2700万円 | 102億1700万円 | 67億5300万円 | 7円 |
2021年 | 582億7500万円 | ▲40億8700万円 | ▲46億6400万円 | 5円 |
前年度と比べると、経常収益はプラス0・5%と微増だったが、経常利益はプラス24・2%、当期純利益はプラス16・9%と増益になった。決算の推移を見ると、コロナの影響で2021年3月期は赤字を計上したが、翌年度以降は持ち直している。
銀行業は、事業性貸出の残高増加による貸出金利息の増加や、円建有価証券の積み上げ・利回り上昇による有価証券利息配当金の増加により、経常収益は504億7300万円となった。銀行業自体の利益は、前年度に計上した回復の見込めない投資信託等に係る解約損の影響がなくなったことに加え、一般貸倒引当金の予想損失率低下に伴う与信関係費用の減
少により79億0200万円となった。
一方、証券業、リース業、信用保証業の各経常収益は前年度比で増加したが、利益については証券業が赤字、リース業、信用保証業は黒字だ
ったものの前年度比で減少した。
主要勘定も見ておこう。
預金は、公金預金が減少したが、個人預金と法人預金の増加により前年度比552億円増の5兆8245億円となった。譲渡性預金を含む総預金も、個人預金と法人預金の増加により前年度比1032億円増の6兆2929億円となった。
貸出金は、県内における事業性貸出が増加したことに加え、東京で事業性貸出金残高の積み上げを図った結果、前年度比140億円増の3兆9220億円となった。
有価証券は、安定的な利息配当金確保のため円建債券を中心に残高を積み上げ、前年度比3148億円増の8782億円となった。
銀行の健全性を示す自己資本比率(国内基準行で4%、海外支店がある国際基準行で8%以上)は9・83%(連結)。
同行は2024~29年度を実施期間とする長期経営計画「TX PLAN 2030」を打ち出し、計画最終年度の30年3月期決算では連結コア業務純益185億円、連結当期純利益110億円、連結コアOHR(業務粗利益に占める営業経費の比率)67%、連結ROE(自己資本利益率)5%以上を達成するとしている。
株価は、昨年9月が280円で今年8月が315円。300円台は2018年以来の高値圏だが、同行の株価は東北各県の第一地銀と比較すると、七十七銀行4070円、岩手銀行2542円、秋田銀行2330円、山形銀行1104円(いずれも8月27日終値)とかなり低い。近年、隣県の地銀同士の合併が進み、金融庁も人口減少の中で合併を意識した発言をするなど地銀の適正数が問われているが、株価の高い・安いが将来の合併の行方に影響しないのか。
年間配当金はコロナ禍の5円から7円に上がっている。