【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

 2000年代を中心に、国の意向で進められた「平成の大合併」。本誌では昨年12月号から、合併に参加しなかった市町村の個々の現状をリポートしている。4回目となる今回は、県内では稀有な人口が増えている自治体である西郷村のいまに迫る。

白河と合併した旧村民が羨む「恵まれた条件」

白河と合併した旧村民が羨む「恵まれた条件」【西郷村地図】

 西郷村は西白河郡に属する。もともと同郡には、同村のほかに、表郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町、大信村の計7町村があった。

 「平成の大合併」議論が巻き起こった際は、2000年9月に同郡7町村と、同地域の中心自治体である白河市で、「西白河地方市町村合併研究会」を設立した。同研究会では「合併することが前提ではない」と前置きしたうえで、合併のメリット・デメリットなどの調査・研究が行われた。「平成の大合併」では、任意合併協議会→法定合併協議会→実際の合併といった流れだったが、同研究会は任意合併協議会に至る前の勉強会といった位置付けだった。

 その後、白河青年会議所メンバーが中心となり、白河市・西白河郡8市町村での法定合併協議会設置に向けた署名活動が展開され、2002年1月、8市町村に直接請求が行われた。これを受け、それぞれの議会で、直接請求の法定合併協議会設置に関する議案が審議された。結果は、白河市、表郷村、大信村の3市村が可決、西郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町の5町村が否決だった。

 つまりは、後者5町村(議会)は合併に否定的だったということ。

 その後も、調査・研究などは行われており、2003年10月、白河市長・助役(現副市長)が西白河郡の各町村を訪問して「任意合併協議会設置」を打診した。これに、前年に議会が法定合併協議会設置の直接請求を可決していた表郷村と大信村が賛同し、同年12月、3市村で任意合併協議会が設立された。翌2004年8月には東村からも参加意向が示され、同年9月に4市村で法定合併協議会が設置された。その後は4市村で合併協議が進められ、2005年11月に新・白河市が誕生した。

 西郷村は、西白河地方の合併に誘われたものの、加わらずに「単独の道」を選んだわけ。

財政指標の推移

 さて、ここからは過去3回のこのシリーズと同様、単独の道を歩むうえで最も重要になる財政面について見ていきたい。ちょうど、全国的に「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。別表は同法に基づき公表されている各指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ラスパイレス指数をまとめたもの。比較対象として、一緒に合併の勉強をしていた白河市の財政指標を併記した。

西郷村の財政指標の推移
実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数
2007年度3・2917・2814・453・01・17
2008年度3・1115・0613・529・21・38
2009年度2・5619・2812・038・61・44
2010年度――――14・650・61・27
2011年度――――17・438・71・01
2012年度――――12・422・70・88
2013年度――――11・90・50・89
2014年度――――10・8――0・89
2015年度――――9・0――0・88
2016年度――――9・9――0・90
2017年度――――8・2――0・90
2018年度――――6・9――0・89
2019年度――――5・6――0・91
2020年度――――4・1――0・94
※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成

白河市の財政指標の推移
実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数
2007年度8・4220・6723・6208・10・58
2008年度7・5119・5922・3186・80・61
2009年度6・7417・1319・9156・30・60
2010年度――――16・6136・80・58
2011年度――――14・6126・50・57
2012年度――――12・8115・60・55
2013年度――――11・188・50・57
2014年度――――9・873・40・58
2015年度――――9・359・70・60
2016年度――――9・758・80・60
2017年度――――10・557・80・60
2018年度――――10・963・00・61
2019年度――――11・470・10・63
2020年度――――10・453・00・64
※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成

西郷村の職員数とラスパイレス指数の推移
年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数
2010年139人99・4
2011年139人108・0
2012年141人108・6
2013年146人100・8
2014年150人100・6
2015年144人100・3
2016年146人100・2
2017年146人100・2
2018年140人100・4
2019年142人100・7
2020年145人100・1
※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成

用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成)

 ●実質赤字比率
 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。
 ●連結実質赤字比率
 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。
 ●実質公債費比率
 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。
 ●将来負担比率
 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。
 ●財政力指数
 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。
 ●ラスパイレス指数
 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。



 県市町村財政課による2020年度指標の総括によると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも差はない。

 実質公債費比率は、全国市区町村平均が5・7%、県内平均が6・1%で、西郷村はそれを下回っている。推移を見ても、年々良化していることが分かる。

 将来負担比率は、31市町村が発生しておらず、西郷村はその1つ。しかも、早い段階から「算出なし」となっている。そのほか、財政力指数も高い。

 いずれの指標も、白河市と比べると「いい数字」が並んでいることが分かる。
 ある村民は「合併しなかった最大の理由はそこにある」という。国が「平成の大合併」を推進したのは、財政基盤の強化と行政の効率化が大きな狙いだったが、同村はもともと財政基盤が強く、一時期は地方交付税の不交付団体だった。そのため、当初から「合併しなくてもやっていける」といった考えがあったというのである。

 その背景にあるのは条件の良さだ。代表的なのが新幹線が停車する新白河駅があること。同村は「日本で唯一の新幹線の駅がある村」としても知られる。そのほか、東北自動車道白河ICがあるのも同村。いずれも「白河」の地名が付いているが、実際に立地しているのは同村なのだ(※新白河駅の一部は白河市)。

 そうした施設・設備があることを背景に、交通の利便性が良く首都圏から近いこともあり、白河オリンパス、信越半導体、MGCエレクトロテクノなど優良企業の工場が稼働し、1000人規模の従業員が勤務している。さらにはイオン白河西郷店や場外馬券売り場・JRAウインズ新白河、ビジネスホテルなどもある。おおよそ「村」という行政区分には考えられないような充実度である。

 「加えて、白河市などと比較すると地価が安いため、西郷村に移り住む子育て世代も多い。白河市まではすぐだし、働き口、学校、病院、買い物(食料品・日用品の調達先)などでも不便はないから、十分選択肢になり得る」(ある村民)

 この言葉に裏付けられるように、同村の人口は年々増えている(左頁表参照)。これは県内では稀有なことで、同村のほかではこのシリーズの2回目で取り上げた大玉村しかない。隣接する白河市が合併直後から約8000人減少していることから考えても、西郷村の状況の良さが分かる。周辺地区の「いいとこ取り」のような格好とも言える。

高橋村長に聞く

高橋廣志村長
高橋廣志村長

 高橋廣志村長に、「単独」を選択した当時の関係者の選択の是非や、財政状況・行政運営面、人口が増えていることなどについて、どう捉えているのかを聞いた。なお、高橋村長は2015年から村議を務め、2018年の村長選で初当選し、昨年の村長選では無投票で再選された。

 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧白河市と西白河郡3村の合併がありました。その前段で、白河市と西白河郡7町村で「西白河地方市町村合併研究会」が立ち上げられ、合併についての調査・研究を行い、その後、白河青年会議所メンバーを中心に、西白河地方8市町村を対象とした法定合併協議会設置に関する直接請求がありました。これに対し、西郷村議会は「法定合併協議会設置案」を否決しましたが、当時の村長・議会をはじめ、関係者が「単独の道」を選択したことについて、いまあらためてどう感じていますか。

 「平成14(2002)年第1回定例会において、住民発議による合併協議会設置の議案が上程され、議会審議の結果、否決となりました。当時の村長・議会及び諸先輩の方々が、合併に伴う西郷村のメリット、デメリットについて熟慮を重ねた結果として、合併協議会設置案が否決されたものと理解しています。

 本村は、先人たちの英知とたゆまぬ努力により、立村以来一度の合併、分村もなく現在に至っている歴史があります。現在の西郷村は、県内でも数少ない人口が増加している自治体であり、財政力も他の町村と比較して上位に位置する財政基盤があります。現時点におきましては、先人たちが『単独の道』を選択したことについて良い選択であったと感じています」

 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。別紙(別表)は県市町村財政課が公表している「財政状況資料」(財政指標、職員数とラス指数)から抜粋したものですが、それら数字についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。

 「当村の財政指標の推移を見るに、高い財政力を維持しつつ、かつ健全な財政運営が続けられていると読み取れます。また、職員数については、従来、国、県が行っていた業務が権限移譲されておりますが、大幅な職員の増員は行わず、職員給与の指標であるラスパイレス指数についても、平均以上が維持されていると読み取れます。

 今後の対応として、過去に誘致した製造業からの法人税、固定資産税に頼るだけではなく、再生可能エネルギーなどの他の産業からの税収確保に努めて『財政基盤強化』を図るとともに、現在の行政体系の見直し、職員の人材育成の強化、公共施設の統廃合、集約化により、『行政運営の効率化』を図っていきます」

 ――別紙(別表)は人口の推移をまとめたものですが、西郷村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。

 「様々な要因が考えられ、一概にこれというものを特定することは難しいですが、村内に東北新幹線新白河駅(1982年)と東北自動車道白河インターチェンジ(1973年)が整備されたことにより、都市圏からのアクセスの優位性が向上し、以降近隣市町村も含め、多くの企業や大型商業施設の進出により雇用の場が創出されました。

 また、『恵まれた自然環境』『里山と田園風景が残る農村環境』『新白河駅周辺の都市的環境』といった特色ある3つの環境が共存した均衡がとれた村であり、様々なライフスタイルが実現できる村として注目されています。

 人口が増加していることは、大変喜ばしいことではありますが、単に人口が増加するだけでは意味がなく、お住まいになられている皆様の満足度を向上させることが最も大切であると思っています。

 西郷村は中学生以下のお子さんをお持ちの子育て世代の転入が多くみられ、生産年齢人口の割合が比較的大きいことから、子育て・教育支援、就業・雇用支援、移住定住支援を充実し安心して子育てができる環境を築くと共に、全ての方が生きがいを持って、いつまでも愛される、また外の方からは『ここはいい村だね』と自然に語られるような魅力のある村づくりに取り組んでいきたいと思います」

 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。

 「『単独』だからこそ、村でありながら2万人規模の人口を有しながらも、高い財政力を維持でき、他市町村と比較しても、標準又は標準以上の行政サービスを維持できていると思われます。

 強みとしては、単独の小規模自治体であるが故、住民要望に対する予算化、実行に至るプロセスが短く、大規模自治体に比べ迅速に対応できる点が挙げられます」

 人口増加について、「一概にこれというものを特定することは難しい」との回答だったが、やはり、新白河駅、白河ICが整備されたことに伴う、複数の企業立地や大型商業施設進出などを挙げた。前述したように財政状況が良いのはそれに基づく部分が多い。

「単独」の利点を生かせ

 合併議論が本格化したころから、その後の大部分で村政を担ったのは佐藤正博氏だった。白河市職員、村収入役を経て2002年の村長選で初当選し、2018年まで4期16年間務めた。

 佐藤氏の在職時、近隣自治体などで話を聞くと、多くの行政関係者が「あの村長は個性的だからね」と評した。象徴的なのは、原発事故を受け、会津・県南地方が「自主的避難区域」から外された際、両地方の首長・議長などが集まり、「分断を許さないためにも、両地方の関係者が連携していこう」といった趣旨の協議会設置のための集会が開かれた時のこと。その場に居合わせた首長・議長から「とりあえず、西郷村の佐藤村長が仮議長になって、進めればいいのでは」といった声が上がり、佐藤氏がタクトを振った。最終的に両地方の中心都市である会津若松市と白河市の両市長が代表者といった立場になったが、首長・議長が勢揃いする中で、その前段を佐藤氏が取り仕切ったのだ。それだけ、インパクトの強い人物だったと言える。

 ただ、在職時に佐藤氏が何か目を引くような政策を打ち出したか、というと思い浮かばない。結局のところは、条件面で恵まれているから、すべてが上手く回っていたということではないか。

 白河市と合併した旧村の住民からは「そりゃあ西郷村はいいよ。あらゆる面で恵まれているから。あれだけ条件が良かったら、ウチも合併しなかった」との声も聞かれたほど。

 条件面に恵まれていることにあぐらをかかず、「単独」を選択したことで、小回りが利くからこそできる「新たな仕掛け」を生み出していってもらいたい。

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