しぶかわ・ともお 1947年生まれ。会津高、日大商学部卒。澁川問屋会長。会津若松商工会議所副会頭などを経て、2016年から現職。現在3期目。
会津地方の中核都市である会津若松市は観光産業が盛んな半面、人口減少や中心市街地の衰退などの問題に直面している。今後は2026年春の大型観光企画を盛り上げ、多くの観光客を呼び集め、経済振興・定住人口増加につないでいけるか、という点が課題となる。現状や今後の見通しを会津若松商工会議所の澁川惠男会頭に聞いた。
──昨年10月から福島県の最低賃金が55円引き上げられ、955円になりました。労働者にとっては歓迎すべきことだと思いますが、企業にとっては人件費が高くなり、零細・中小企業の中にはなかなか対応できなくなるところも多いと思われます。会員事業所はどのように対応していますか。
「日本商工会議所の調査によると74%の会員事業所が賃上げを実施し、このうち約60%が『防衛的な賃上げ』で、業績改善が見られない賃上げでした。当会議所の調査では、56%の会員事業所が賃上げを実施し、そのうち『必要金額のすべてを転嫁できた』と答えたのはわずか4%にとどまり、厳しい事業環境にあります。飲食業界からは『春先に値上げしたばかりで再値上げは厳しい』という声が聞かれます。
当会議所の会員事業所は40%が『人手不足である』と回答しており、今後、人手不足を要因とした倒産や廃業が増えることも懸念されます。当会議所では人手不足解消の『省力化投資』への助言・支援に丁寧に対応していきます」
──福島空港と台湾を結ぶ定期チャーター便の就航を受け、昨年7月には台湾へ視察団を派遣して現地で会津の魅力をアピールするなど、インバウンド増加に向けた取り組みを進めています。今後期待している点があれば教えてください。
「インバウンドは重要な成長産業と認識しています。7月の台湾訪問は、定期チャーター便を経済団体として率先利用し、現地理解を深める目的で実施しました。相互理解を深めることでニーズや要望をきめ細かく捉えることができると考えています。現地では日本台湾交流協会台北事務所やチャーター運航便に関わる旅行会社を訪問し、意見交換してきました。
視察の際に乗った便は行きも帰りもほぼ台湾人で埋め尽くされており、旺盛な旅行意欲に応えられる観光地づくりが重要だと痛感しました。昨シーズンは観光庁のスノーリゾート形成事業により表磐梯・裏磐梯のスキー場が連結し、ハード面が整ったので、今後はインバウンドの受け入れ態勢整備に取り組みます。会津若松市では飲食を中心としたアフターレジャーの過ごし方が中心になると見ています。会津大の留学生を対象にしたモニターツアーでは多言語案内の弱さが指摘されたほか、PR方法など改善すべき点は多いです。行政はインフラ整備の面で、民間は観光施設や宿泊、飲食の受け入れ態勢構築などで、官民が高品質なサービスの提供に向けて互いに意識を高めなければなりません。当会議所でも受け入れのレベルアップに努めていきます」
中心市街地活性化を支援
──中心市街地の商店街・神明通りに面する大型スーパー跡地をイベント広場として利活用する計画が進められており、昨年11月にイベントが開催されました。手応えはいかがでしたか。
「コロナ禍後、地方の中枢都市を中心に地価が高い伸びを記録しており、福島、郡山、いわきの各商業地も堅調に推移しています。それに対し会津若松市の商業地はほぼ横ばいで推移しています。これは神明通りの大型スーパー跡地など中心部の大規模空き地の利活用法が定まっていないことが原因と考えられます。そこで市中心市街地活性化協議会、㈱まちづくり会津と連携して、11月9、10日の2日間、『会津まちなかふれあい市』を実施しました。飲食や雑貨など約50の出店があり、来場者は2日間合計で5000人を超えました。スーパーの撤退以来、十日市や祭礼などを除くと、これほどの人出を見ることはなく、手ごたえを感じています。
しかしイベントは一過性のもので、跡地利活用の抜本的な解決策とは言い難い。当会議所は2022年5月、大規模空き地などの利活用について、市に提言していますが、経済情勢などもあって実現のめどは立っていません。今回の実績を踏まえ、定期的にイベントを開催できる枠組みづくりなど、行政と連携した取り組みを進めていく所存です。
地権者、出店意欲のある方、何らかの形で土地利用をしたい方など民間サイドの調整は当会議所で担っていく考えです」
──2026年春から大型観光企画「ふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)」が実施される予定です。これを見据え、会津方部商工観光団体協議会として会津管内の各観光協会を交えた会議が行われました。
「人口減少が著しい会津地方にとって交流人口・関係人口の拡大は大きな課題であり、観光はその最たる手段です。会議では各地の個性的な取り組みが発表されたほか、JR東日本の高岡崇執行役員東北本部長に、DCについて講演していただきました。会津地方では2005年にもDCが実施されましたが、インバウンドやコロナ禍、物価高騰などで状況が大きく変わっており、さらなる観光資源の磨き上げが求められています。そうした考えを各協会のトップが共有することで、現場で事業を実施する際に生かされることを期待しています」
──その他重点事業について。
「人口減少による経済損失を補うためには、交流人口を増やし、商品を買ってもらわなければなりません。そのためには商品力・販売力の強化が必須であり、当会議所としても、昨年は会津地域の観光施設や道の駅のバイヤーを迎えてのブランド商談会、地元FMでの自社商品・サービスPRなど、〝売り込み〟の機会を設けました。そうした機会を通して、自社の長所と弱みを分析できるようになるので、経営戦略策定を支援できたのではないかと見ています。交流人口からビジネスチャンスを得る企業を育成できるように、事業所支援に取り組んでいきます」
──今後の抱負について。
「昨年4月に民間有識者団体が『消滅可能性自治体』を発表し、会津若松市もその一つとなりました。ただ10年前の分析と比較すると、消滅可能性から脱却した自治体があちこちにあるので、方法さえ間違えなければ挽回は可能です。
当会議所は『持続可能な地域の創生』を掲げて事業展開しており、まさに地域の存続に向けて取り組むべきときだと考えます。徹底した事業所支援などを通じて持続可能な経済を実現していくことが、当会議所の役割と認識しており、これからもフル稼働していきます」