【原発事故から12年】終わらない原発災害

【原発事故から12年】終わらない原発災害

 大震災・原発事故から丸12年を迎える。干支が一周するだけの長い期間が経ったわけだが、地震・津波被災地の多くは目に見える復興を果たしているのに対し、原発被災地・被災者については、まだまだ復興途上と言える。むしろ、長期化することによって新たな被害が発生している面さえある。被害が続く原発災害のいまに迫る。

帰還困難区域の新方針に異議アリ

【帰還困難区域の新方針に異議アリ】双葉町の復興拠点と帰還困難区域の境界
双葉町の復興拠点と帰還困難区域の境界

 国は原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を決めた。その概要と課題について考えていきたい。

問題は「放射線量」と「全額国負担」

 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。

 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただ、2017年5月に「改正・福島復興再生特別措置法」が公布・施行され、その中で帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。

 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。なお、帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。

 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは除染やインフラ整備などを行い、順次、避難指示が解除されている。これまでに、葛尾村(昨年6月12日)大熊町(同6月30日)、双葉町(同8月30日)が解除され、残りの富岡町、浪江町、飯舘村は今春の解除が予定されている。

 復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、2月7日に閣議決定した。

 復興庁の公表によると、法案概要はこうだ。

 ○市町村長が復興拠点外に、避難指示解除による住民帰還、当該住民の帰還後の生活再建を目指す「特定帰還居住区域」(仮称)を設定できる制度を創設。

 ○区域のイメージ▽帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で設定。

 ○要件▽①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④復興拠点と一体的に復興再生できること。

 ○市町村長が特定帰還居住区域の設定範囲、公共施設整備等の事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」(仮称)を作成し、内閣総理大臣が認定。

 ○認定を受けた計画に基づき、①除染等の実施(国費負担)、②道路等のインフラ整備の代行など、国による特例措置等を適用。

 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、同様の流れになるようだ。

2つの課題

 実際に、どれだけの範囲が「特定帰還居住区域」に設定されるかは現時点では不明だが、この対応には大きく2つの問題点がある。

 1つは、帰還困難区域(放射線量が高いところ)に住民を戻すのが妥当なのか、ということ。その背景には、こんな問題もある。鹿砦社発行の『NO NUKES voice(ノーニュークスボイス)』(Vol.25 2020年10月号)に、本誌に度々コメントを寄せてもらっている小出裕章氏(元京都大学原子炉実験所=現・京都大学複合原子力科学研究所=助教)の報告文が掲載されているが、そこにはこう記されている。

   ×  ×  ×  ×

 フクシマ事故が起きた当日、日本政府は「原子力緊急事態宣言」を発令した。多くの日本国民はすでに忘れさせられてしまっているが、その「原子力緊急事態宣言」は今なお解除されていないし、安倍首相が(※東京オリンピック誘致の際に)「アンダーコントロール」と発言した時にはもちろん解除されていなかった。

 (中略)避難区域は1平方㍍当たり、60万ベクレル以上のセシウム汚染があった場所にほぼ匹敵する。日本の法令では1平方㍍当たり4万ベクレルを超えて汚染されている場所は「放射線管理区域」として人々の立ち入りを禁じなければならない。1平方㍍当たり60万ベクレルを超えているような場所からは、もちろん避難しなければならない。

 (中略)しかし一方では、1平方㍍当たり4万ベクレルを超え、日本の法令を守るなら放射線管理区域に指定して、人々の立ち入りを禁じなければならないほどの汚染地に100万人単位の人たちが棄てられた。

 (中略)なぜ、そんな無法が許されるかといえば、事故当日「原子力緊急事態宣言」が発令され、今は緊急事態だから本来の法令は守らなくてよいとされてしまったからである。

   ×  ×  ×  ×

 「原子力緊急事態宣言」にかこつけて、法令が捻じ曲げられている、との指摘だ。そんな場所に住民を帰還させることが正しいはずがない。

 もっとも、対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべき。今回の原発事故で、避難指示区域の住民は何ら過失がない完全なる被害者なのだから、「元の住環境に戻してほしい」と求めるのも道理がある。

 そこでもう1つの問題が浮上する。それは帰還困難区域の除染・環境整備は全額国費で行われていること。国は、①政府が帰還困難区域の扱いについて方針転換した、②東電は帰還困難区域の住民に十分な賠償を実施している、③帰還困難区域の復興拠点区域の整備は「まちづくりの一環」として実施する――の主に3点から、帰還困難区域の除染費用などは東電に求めないことを決めている。

 原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのであれば別だが、そうせず国費(税金)で行うとなれば話は変わってくる。利用者が少ないところに、多額の税金をつぎ込むことになり、本来であれば大きな批判に晒されることになる。ただ、原発事故という特殊事情があるため、そうなりにくい。国は、それを利用して、事故原発がコントロールされていることをアピールしたいだけではないかと思えてならない。

 そもそも、各地で起こされた原発賠償集団訴訟で、最高裁は国の責任を認めない判決を下している。一方では「国の責任はない」とし、もう一方では「国の責任として帰還困難区域を復興させる」というのは道理に合わない。

 帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境が整えば十分。そういった方針に転換するか、あるいは帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるか、そのどちらかしかあり得ない。

海外からも責められる汚染水放出

海外からも責められる汚染水放出
多核種除去設備などを通しトリチウム以外の62物質を低減させたALPS処理水などを収めたタンクが並ぶ

東京電力福島第一原発敷地内に溜まる汚染水(ALPS処理水)について、政府は今春から夏ごろに海洋放出する方針だ。健康被害やいわゆる風評被害が発生する懸念があるため、反対する声も多く、国外でも疑問視する意見が噴出している。

「外交への影響」を指摘する専門家

 汚染水放出については、日本に近い韓国、中国、台湾が「海洋汚染につながる」と反対。放出決定後は、太平洋諸島フォーラム(オーストラリア、ニュージーランドなど15カ国、2地域が加盟する地域協力機構)などが重大な懸念を示した。昨年9月にはミクロネシア連邦のパニュエロ大統領が国連総会の演説で日本を非難している。

 1月31日には国連人権理事会が日本の人権状況についての定期審査会合を開いた。韓国・中央日報日本語版ウェブの2月2日配信記事によると、この中で汚染水海洋放出について触れられたという。

 《マーシャル諸島代表は「日本が太平洋に流出しようとしている汚染水は環境と人権にとって危険」とし「放流が及ぼす影響を包括的に調査してデータを公開する必要がある」と注文した。サモア代表は「我々は汚染水放流が人と海に及ぼす影響に関する科学的かつ検証可能なデータが提供され、太平洋の島国に情報格差が生じている問題が解決されるまでは日本は放流を自制するよう勧告する」と話した》

 日本政府は〝火消し〟に躍起で、2月7日に太平洋諸島フォーラム代表団と会談した岸田文雄首相は「自国民及び太平洋島嶼国の国民の生活を危険に晒し、人の健康及び海洋環境に悪影響を与えるような形での放出を認めることはない」と約束した。

 しかし、不安は根強く残っている。

 昨年12月17日、市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」が開いたオンラインフォーラム「放射能で海を汚すな!国際フォーラム~環太平洋に生きる人々の声」ではマーシャル諸島出身の女性が反対意見を述べた。同諸島では過去に米国の核実験が行われており、白血病や甲状腺がんなどの罹患率が高いという。

 核燃料サイクルなどを専門とする米国の研究者・アルジュン・マクジャニ氏は東電の公開データは不十分であり、汚染水をきちんと処理できるか疑問があると指摘。地震に強いタンクを作るなど〝代替案〟があるのに、十分に検討されていない、と述べた。

東アジアは不安視

【東アジアは不安視】福島市で開かれた「原子力災害復興連携フォーラム」
福島市で開かれた「原子力災害復興連携フォーラム」

 東アジアの韓国、中国、台湾も日本と距離が近いだけに不安視しているようだ。2月8日、福島市で開かれた「原子力災害復興連携フォーラム」(福島大、東大の主催)で、福島第一原発事故についての意識調査の結果が発表されたが、こうした傾向が強く見られた。

 調査は東大大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授の関谷直也氏が2017年と2022年にインターネットで実施したもの。票数は世界各国の最大都市各300票で、合計3000票(性年代は均等割り当て)。

 例えば、福島第一原発3㌔圏内に関する認識を問う質問で、2017年に「放射能汚染が原因で、海産物が食べられなくなった」と答えたのは、ドイツ66・0%、英国50・7%、米国47・3%。それに対し東アジアは台湾77・7%、中国70・7%、韓国68・7%と高い傾向にあった。5年後の2022年調査でも東アジアは下がり幅が小さく、韓国に至っては73・0%と逆に上昇している。

 2022年調査で、県産食品の安全性を尋ねた質問では「非常に危険」、「やや危険」と考える割合が韓国で90%、中国で71・4%を占めた。「観光目的で福島県を訪問したいか」という問いには韓国の76・7%、中国の64・0%が「思わない」と答えた。

 関谷准教授は「近くにある国なので、自国への影響を気にする一方、原発や放射性物質に関する情報自体が少なく、危険視する報道を鵜呑みにする傾向も見られる」と分析し、「本県の現状を正確に発信し、理解を求めることが重要だ」と話す。

 もっとも、国内でも反対意見が出ているのに簡単に理解を得られるとは思えない。もしこの状態で海洋放出を強行すれば国際問題にまで発展することが想定される。

 政府はいわゆる風評被害対策として300億円、漁業者継続支援に500億円の基金を設けているが、国外の人は対象になっていない。

 海外で損害への対応を訴える人がいた場合どうなるのか、同連携フォーラムの質疑応答の時間に手を挙げて尋ねたところ、公害問題・原発問題に詳しい大阪公立大大学院経営学研究科の除本理史教授が対応し、「おそらく裁判を提起されることになるのではないか」と答えた。

 本誌昨年12月号巻頭言では、海外の廃炉事情に詳しい尾松亮氏(本誌で「廃炉の流儀」連載中)が次のようにコメントしていた。

 「現時点では、西太平洋・環日本海で放射性物質による海洋汚染を規制する国際法の枠組みがないため、被害額を確定して法的効力のある賠償請求をすることは難しい面があります。しかし国連や国際海洋法裁判所などあらゆる場で、日本の汚染責任が繰り返し指摘され、エンドレスな論争に発展し得る。政府や東電がいくら『海洋放出の影響は軽微』と主張しても、汚染者の言い分でしかない。政府や東電は『海洋放出以外の選択肢』を本当に探り尽くしたのか、東電の行う環境影響評価は妥当なものか、国際社会から問われ続けることになるでしょう」

 海洋放出に向けた工事は着々と進められており、2月14日には海底トンネル出口となるコンクリート製構造物「ケーソン」の設置が完了した。トリチウムは世界の原発で海洋放出されているとして、放出に賛成する意見もあるが、国内外で反対意見が噴出している状況で放出を強行すれば、外交問題に発展する恐れもある。

 トリチウム(半減期12・3年)など放射性物質の除去技術を開発しながら、堅牢な大型タンクに移すなどの〝代替案〟により、長期保管していく方が現実的ではないだろうか。

双葉町公営住宅の入居者数は22人

【原発事故から12年】旧避難区域のいま【2023年】写真
JR双葉駅西側に整備された双葉町駅西住宅。同町に住んでいた人が対象の「災害公営住宅」、転入を希望している人も対象となる「再生賃貸住宅」で構成される。

 浜通りの原発被災自治体では国の財源で〝復興まちづくり〟が進められている。だが、現住人口は思うように増えておらず、文字通り住民不在の復興が進められている格好だ。

大規模な「復興まちづくり」の是非

 昨秋、JR双葉駅西側に公営住宅「双葉町駅西住宅」が誕生した。福島第一原発や中間貯蔵施設が立地する同町。町内のほとんどが帰還困難区域に指定されていたが、町はJR双葉駅周辺や幹線道路沿いを特定復興再生拠点区域に設定し、この間、除染・インフラ整備を行ってきた。

 同住宅はそうした動きに合わせて整備されたもので、同年8月の避難指示解除後、入居が始まった。

 住宅の内訳は、町民を対象とした災害公営住宅30戸、町民や転入予定者を対象とした再生賃貸住宅56戸。まず第1期25戸が分譲され、順次整備・入居が進められる。

 住宅には土間や縁側が設けられ、大屋根の屋外空間を備えた共有施設「軒下パティオ」も併せて造られた。基盤整備を担当したのはUR都市機構。2月1日には団地の隣接地に双葉町診療所が開所するなど周辺環境整備も進められている。

 町役場によると、現在住んでいるのは18世帯22人。町内には一足先に避難指示が解除されたエリアもあり、自宅で暮らす人がいるかもしれないが、それほど多くはないだろう。

 町は特定復興再生拠点区域について、避難指示解除から5年後の居住人口目標を約2000人に設定している。原発事故直前の2011年2月末現在の人口は7100人。

復興への複雑な思い

【復興への複雑な思い】曺弘利さん
曺弘利さん

 同住宅内に住む人に声をかけた。兵庫県神戸市で設計会社を営む一級建築士の曺弘利(チョ・ホンリ)さんだった。同町住民と住宅をルームシェアし、町内の風景をスケッチに残す活動をしてきたという。最近では神戸市の学生とともに、同町の街並みをジオラマとして再現する活動にも取り組んでいる。

制作中のジオラマ


 神戸市出身の曺さんは、阪神・淡路大震災からの〝復興〟により、自分が知るまちが全く違うまちに変容していく姿を見て来た。その経験から全町避難が続いていた双葉町に思いを寄せ、一部区域への立ち入り規制が解除された2020年以降、頻繁に足を運んだ。

 双葉町の復興状況を見てどう感じたか。曺さんに尋ねると、「原発事故直後から時間が止まっている場所がある。町を残すために奮闘している伊澤史朗町長の思いは分かる」と語った。その一方で、「わずかな現住人口のために、大規模な復興まちづくりを進める必要があったのかとも考える。国の復興政策を検証する必要があるのではないか」と複雑な思いを口にした。

 原発被災自治体では復興を加速させるためにさまざまな公共施設が整備されている。昨年9月には双葉駅前に同町役場の新庁舎が整備された。総事業費は約14億6600万円だ。県は原発被災自治体への移住を促すべく、県外からの移住者に最大200万円の移住交付金を交付している。もともとの住民は避難先に定着しつつあり、帰還率は頭打ちとなりつつある。

 原発事故の理不尽さ、故郷を失われた住民の無念、住民不在で復興まちづくりを進める是非……スケッチやジオラマで再現された風景にはそうした思いも込められている。

 完成したジオラマは3月、役場に贈呈される予定だ。

3年目迎える福島第二の廃炉作業

【3年目迎える福島第二の廃炉作業】北側の海岸から見た福島第二原発(2月19日撮影)
北側の海岸から見た福島第二原発(2月19日撮影)

 東京電力福島第二原発の廃炉作業が2021年6月に始まってからもうすぐ2年。2064年度に終える計画だが、まだ原子炉格納容器などの放射能汚染を調査する段階で、工程は変わりうる。「始まったばかり」で確かなことは言えない状況だ。

2064年度終了計画は現実的か

 楢葉町と富岡町に立地する福島第二原発は福島第一原発と同じ沸騰水型発電方式で、震災時は1、2、4号機が電源を失い原子炉の冷却機能を喪失した。現場の必死の対応で危機的状況を脱し、全4基で冷温停止を維持している。1~4号機の原子炉建屋内では計9532体の使用済み核燃料を保管している。これらの燃料はいずれ外部に移し、処分しなければならないが、受け入れ先は未定だ。

 県や県議会は震災直後から福島第二原発の廃炉を求めていた。東電は動かせる原発は動かし、そこで得た利益を福島第一原発事故の賠償に充てる考えだったため、あいまいな態度を取り続けていたが、2018年6月に廃炉を検討すると明言(朝日新聞同年6月15日付)。翌19年7月に正式決定し、震災による冷却機能喪失から10年が経った21年6月にようやく廃炉作業が始まった。

 廃止措置計画では、2064年度までの期間を4段階に分けている。山場となるのは、31年度から始まる第2段階「原子炉周辺設備等解体撤去期間」(12年)と43年度ごろから始まる第3段階の「原子炉本体等撤去期間」(11年)だ。第2段階では原子炉建屋内のプールから核燃料の取り出しが本格化し、第3段階では内部が放射能で汚染されている原子炉本体の解体撤去を進める予定だ。

 現在から2030年度までは第1段階の「解体工事準備期間」。汚染状況の調査は1~4号機で継続して行われている。今年3月までは放射線管理区域外にある窒素供給装置などの設備解体が進められている(昨年12月時点)。

 東電は昨年5月、「福島第二原子力発電所 廃止措置実行計画2022」を発表した。毎年更新するとのことだが、どの月に発表するかは作業の進捗状況に左右されるという。

 懸念されるのは、福島第一原発や廃炉が決定した他の原発の大規模作業とかち合い、ただでさえ足りない人手がさらに不足する事態だ。人員確保の費用も上昇しかねない。

 解体に要する総見積額は次の通り。

 1号機 約697億円

 2号機 約714億円

 3号機 約708億円

 4号機 約704億円

 1~4号機で計約2823億円

 ただし、これは新型コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻前の2019年8月時点の試算。資材や原油価格の高騰、円安などによる影響は考慮されていない。本誌が「コロナ禍後の影響を考慮した最新の試算はあるのか」と尋ねると、福島第二原発の広報担当者はこう答えた。

 「廃止措置の作業は始まったばかりのため、コロナ禍や資材不足が影響するような大きな作業はまだ行われていません。44年の廃止措置期間に影響が出るような大きな変更は今のところないです」

 確かに、作業が始まったばかりのいまは大した影響はないかもしれない。しかし、大がかりな建設・土木作業と人員が求められる第2、第3段階では大量の資材が必要となり、作業員同士の感染防止対策も強化しなければならいため、試算が変わる余地があるということではないか。年月の経過とともに物価は上昇する傾向にあるから、第2、第3段階で見積もりが増加するのは想像に難くない。

 第2段階以降の計画も、東電は汚染状況の調査結果を反映して変更する可能性があると前置きしている。震災で最悪の事態を回避し、冷温停止に持ち込んだ福島第二原発でさえ汚染状況次第では計画に変更が出るということだ。

 こうした中、水素爆発を起こした福島第一原発では、現代の技術力では困難とされる燃料デブリ取り出しが手探り状態で続いているが、格納容器内部の初期調査でさえロボットのトラブルが相次ぎ、前進している気配がない。廃炉作業の先行きが全く見えないのも当然だろう。

 東電をはじめ電力会社は、多数の原発の廃炉作業がかち合い、想定通りに進まないという最悪のシナリオを試算・公表して、国全体で危機感を高めていく必要がある。

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