本誌2022年8月号、11月号で浪江町の副議長・山本幸一郎氏(4期)の言動を問題視する投書が寄せられたことを報じた。
町議を務めながら家業の建設会社・平成建設の社員として働いており、復興・除染需要で売り上げを伸ばした。ただ、周囲や同業者に乱暴な言動をとったり強引に仕事を取るため、悪評が絶えず「町議の立場を利用して(除染元請けの)大手ゼネコン幹部と仲良くなったり、発注情報をキャッチしているのではないか」とも囁かれている。
同町の吉田栄光町長は、町長選立候補時に山本氏が選対幹事長を務めたほど親密な関係。その親密ぶりを象徴すると言われているのが、山本氏の地元・同町末森地区で進む競走馬トレーニングセンター計画だ(本誌2022年9月号、2023年4月号参照)。
事業主体は2022年1月設立の「Blooming Stables」(東京都中央区日本橋、吉谷憲一郎社長)。資本金1000万円。事業目的は競走馬の生産、育成、調教、管理、売買など。吉谷氏は複数の競走馬の馬主を務める。
昨年2月の読売新聞県版の記事によると、敷地面積約35㌶で、1000㍍のトラックと、1000㍍の坂路コースを整備予定。約500頭収容可能で、120人の雇用を見込む。経産省主管の「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」を活用する。開業目標は2026年4月。
この事業の関係者が事業準備段階に吉田町長の親族と接触していたこと、さらに計画が表面化する前に山本氏が末森地区の土地を取得していたことから、「吉田町長を通じて山本氏が事前に情報を得て用地を先行取得し、売り飛ばそうとしていたのではないか」とウワサされたのだ。
本誌取材に対し山本氏は「同施設の計画が浮上したのは半年ほど前。うちの父親(幸男氏)が山本牧場付近の農地を取得し始めたのが3年前。計画に合わせて先行取得したわけではありません」と否定。吉田町長も関与を否定した。
だが、疑念は根強く残っており、今年に入ってからも浪江町民から情報提供があったほか、4月中旬には編集部宛てに匿名投書(差出人は「浪江の住人」となっていた)が寄せられた。基本的には前述のウワサをなぞる内容だったので、気になるポイントだけ要約して紹介する。

本誌編集部に届いた投書
▽2022年設立の会社が、国の補助金で50億円、シンジケートローンで21億円を調達。通常の商慣習ではあり得ない。
▽門別農協が事業者に名を連ねている(※JA門別の担当者は「浪江町のトレセン計画に関わっているという話はこれまで聞いたことがない」と否定した)。
▽「Blooming Stables」社長の吉谷氏は、リフォーム・家電取り付け工事を手掛けるメディオテック(東京都新宿区新宿)で取締役を務めているほか、経営コンサルタント、不動産開発などの会社を経営している。
このほか、投書には地権者へのメールの文面と思しきものが添付されていた。内容は用地交渉に応じなかった地権者に対し、「当該用地を除外して進める予定だったが、そうすると当初の想定以上の追加費用が発生し、スケジュールも余分にかかる」として再検討を求めるもの。メールには「Blooming Stables」の吉谷氏に加え、同社の〝スポンサー〟である「諏訪守」という人物の依頼文も記されていた。
名前を調べたところ、病院向けフリーマガジンなどを発行するオアシス(東京都中央区日本橋)の経営者で、中央競馬のGⅠ大阪杯、同ジャパンカップで勝利したスワーヴリチャードを所有する運営会社の代表者と同名。オアシスは資本金3000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期売上高16億円。
記載されていた携帯電話番号に連絡すると、諏訪氏を名乗る人物が電話に出た。経緯を説明し、取材を申し込んだところ、「現在会議中なのであらためて連絡する」と話したが、その後、連絡はなかった。
投書の内容が事実かどうか判然としないため、「Blooming Stables」にあらためて投書の内容について確認する文書を郵送したが、こちらも残念ながら期日までに返信はなかった。
同社は議会全員協議会に出席して事業に関する説明をしたそうだが、町議によると、補助金額の規模に至るまで細かい内容は説明されなかったという。
町内の事情通によると、投書と同じ内容の文書が飛び交っており、どこから情報が流出したのか注目されていたようだ。念のため、町役場にこうした投書が届いているかどうか確認したが、「見たことがない」(総務課)とのことだった。
開業まで2年を切っているが、いまひとつ事業内容が見えてこない同計画。前出・山本氏に対する不信感も加わり、計画自体をいぶかしくみる町民も少なくないようだが、今後どのように進められるのか。新たな事実が分かれば詳報したい。