韓国の最大野党「共に民主党」の国会議員4人が4月6〜8日の日程で福島県を視察した。同議員団は東京電力福島第一原発から排出される汚染水の海洋放出に反対の立場で、現地の状況を知るための視察だったようだが、どんな視察内容だったのか、同議員団と面談した島明美伊達市議会議員に話を聞いた。
海洋放出をめぐる韓国国内の動き
韓国議員団の福島視察は新聞等ではそれほど大きく扱われていない。ただ、ネットニュースなどでは「県内の議員や被災者らと面談した」と報じられ、そのうちの1人である島明美伊達市議会議員に、どういった経緯で韓国議員団と面談することになったのか、その中身はどんなものだったのかを聞いた。
まず面談に至る経緯だが、震災後にボランティアで福島県に入り、韓国語が話せるため韓国からの訪問者のコーディネートをしていた知人から、島議員に「韓国の議員団が福島県に来るのだが、短い時間でも可能なのでお話をうかがえないか」といった問い合わせがあった。詳しく聞くと、「海洋放出問題について現地を訪問して話を聞きたい」とのことだった。
当初、島議員は「海に面していない伊達市在住の自分より、もっとふさわしい人がいるのではないか」と考え、知人にそのことを伝えた。ただ、知人からは「時間の関係で難しい。どなたか地元議員を紹介していただけるならお願いしたい」と言われ、島議員は「探してみます」と回答した。
その後、島議員自身で来日(来福)する議員について調べたり(※そこで初めて、訪問するのが国会議員であることを知る)、海洋放出決定の経過や原発事故対応について見聞きしてきたことを発信している自身の活動を振り返り、「韓国の方々にお伝えすることも、自分の役割の一つ」と考え面談を受けることにした。4月7日に福島市内の会議室を借りて面談した。
ちなみに、韓国議員団は島議員との面談後、復興住宅に住む人や被災地などを訪問しており、一部報道ではそれらすべてを島議員が紹介・案内したかのようなニュアンスで捉えられているようだが、実際はそうではない。島議員は福島市内の会議室で1人で議員団と面談し、その場で別れた。
実際の面談では「島明美 個人的な意見」と明記したうえで、伝えたいことを資料としてまとめた。その内容は、①UNSCEAR(国連科学委員会)の「2020年/2021年報告書」は、初期被曝線量を100分の1過小評価したものである可能性があること、②結論ありきで進められ、日本政府が言う「科学的」は、根拠に基づいていないこと、③放射能汚染への〝風評払拭事業〟によって、地元民が被害を言えなくなっていること、④土壌汚染測定をしていないなど、被害の現状把握がなされていない面が多いこと、⑤歪められた科学を封じ込める健全な科学に基づく国際的枠組みをつくる取り組みが必要であること――等々。
「中には、安全だという情報を得て賛成している一般市民もいらっしゃるでしょうけど、『安全』とされる『科学的』データそのものの信頼性が欠如しているのならば、汚染水の放出に賛成する一般市民は、ほぼいないのではないか、とお伝えしました」(島議員)
島議員が伝えたかったこと
そのうえで、島議員は海洋放出についての以下のような自身の見解を韓国議員団に話した。
○タンクに溜められている「汚染処理水」とされている水の具体的な核種と汚染の数値は、国民にも世界的にも分かりやすく公開されていない。東電から発表されているデータについては第三者機関による検証も行われていない。健康影響についても調査結果は公表されていない。以上のことから、データそのものの信ぴょう性が問われるということを国内外にお伝えしたい。お伝えすることで、被害影響への対応や、事前に被害を防ぐための対策を準備するために、国際社会の協力が必要であることを実感してもらえると期待している。
○ALPS処理水=汚染水に関して、海洋放出に賛成している人は、私の周辺ではほぼいない。(韓国議員団と面談するに当たり)ここ数日、住民(伊達市と福島市)の数名に突然、海洋放出の是非について質問したところ、賛成という人はおらず、「よく分からないけど、良いことではないことは分かる」という声を複数人から聞いた。
○ほかにも、この間、海洋放出について反対運動をしている市民団体の方、専門家、原子力に関わる仕事をしている方の話を聞き、対話プログラムにも参加してきた。ALPS処理水=汚染水の海洋放出について学び、現在の時点での私の判断は、放出反対である。その根拠は、処理しきれないトリチウムの問題と、基準値を超えているほかの放射性物質があること。
こうした島議員の話に、韓国議員団の1人は「汚染水の問題は、日韓両国の国民の健康の問題です」と話したという。
「議員の方はデータを手に持ち、ノートパソコンを開き、資料の確認をされました。前日に訪問したところからデータ提供を受けたらしく、トリチウム以外の放射性核種が予想以上に入っていることを話されました。私よりも詳しい核種データの資料を持っているようでした」(島議員)
面談の最後に、島議員は「私からの希望として、歪む科学の封じ込めにつながる動きを、国際的な取り組みにしていただきたい」と伝えたという。さらに、当日取材にきていたテレビ局のインタビューには「日本政府は、当事者、地元の人の話をもっと聞いてほしいと答えました」(島議員)。
こうして韓国議員団との面談を終えた島議員は、海洋放出について、あらためて「議論が、まだまだ足りていない。そもそも、その議論に必要な『科学的なデータ』も、報道も、全く足りていない」と話した。
一方で、韓国の尹錫悦大統領が3月に訪日した際、汚染水の海洋放出について「韓国国民の理解を求めていく」と述べたとして、韓国国内では「日本に肩入れするのか」との批判が噴出したという。今回の野党議員団の来日(来福)は、尹政権が海洋放出問題に十分に対応していないことを印象付け、政権批判につなげる狙いがある、といった報道もあった。島議員は「韓国議員団は専門的な知識を持った方で、目的は『調査』でした。議員の方は『大統領は曖昧な態度でハッキリ答えていないのが現実』、『汚染水の問題は、日韓両国民の健康の問題です』と話されていました」と明かした。