飯舘村「復興拠点解除」に潜む課題

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飯舘村「復興拠点解除」に潜む課題

 飯舘村の帰還困難区域の一部が5月1日に避難指示解除された。解除されたのは、村南部の長泥地区で、同地区に設定された復興再生拠点区域(復興拠点)と復興拠点外にある曲田公園。同村の帰還困難区域は約10・8平方㌔で、このうち復興拠点は約1・86平方㌔(約17%)。

昨年9月からの準備宿泊は「3世帯7人」が登録

【昨年9月からの準備宿泊は「3世帯7人」が登録】「長泥コミュニティーセンター」の落成式でテープカットする杉岡村長(右から5人目)ほか関係者
「長泥コミュニティーセンター」の落成式でテープカットする杉岡村長(右から5人目)ほか関係者

 同日午前10時にゲートが解放され、11時からは復興拠点に整備された「長泥コミュニティーセンター」の落成式が行われた。杉岡誠村長が「この避難指示解除を新たなスタートとして、村としても帰還困難区域全域の避難指示解除を目指し、夢があるふるさと・長泥に向けてさまざまな取り組みを続けていきます」とあいさつした。

 同地区の住民は「こんなに多くの人が集まり、解除を祝ってもらい、うれしく思っている」、「この地区をなくしたくないという思いで、この間、通っていた」と話した。

 復興拠点内に住民登録があるのは4月1日現在で62世帯197人。昨年9月から行われている準備宿泊は、3世帯7人が登録していた。村は5年後の居住人口目標を約180人としているが、それに達するかどうかはかなり不透明と言わざるを得ない。

 復興拠点の避難指示解除は、昨年6月の葛尾村、大熊町、同8月の双葉町、今年3月の浪江町、同4月の富岡町に次いで6例目。なお、帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。つまりは、飯舘村ですべての復興拠点が解除されたことになる。

 今後は、今年2月に閣議決定された「改正・福島復興再生特別措置法」に基づき、復興拠点から外れたエリアの環境整備と、帰還困難区域全域の避難指示解除を目指していくことになる。

2つの問題点:①帰還困難区域(放射線量が高いところ)に住民を戻すのが妥当か、②帰還困難区域の除染・環境整備が全額国費で行われていること

【復興拠点外で解除された曲田公園】2つの問題点:①帰還困難区域(放射線量が高いところ)に住民を戻すのが妥当か、②帰還困難区域の除染・環境整備が全額国費で行われていること
復興拠点外で解除された曲田公園

 ただ、そこには大きく2つの問題点がある。

 1つは、帰還困難区域(放射線量が高いところ)に住民を戻すのが妥当なのか、ということ。

 もう1つは帰還困難区域の除染・環境整備が全額国費で行われていること。それ以外のエリアの除染費用は東電に負担を求めているが、帰還困難区域はそうではない。

 対象住民(特に年配の人)の中には、「どうしても戻りたい」という人が一定数おり、それは当然尊重されるべき。今回の原発事故で、住民は過失ゼロの完全な被害者だから、原状回復を求めるのは当然の権利として保障されなければならない。

 ただ、原因者である東電の負担で環境回復させるのではなく、国費(税金)で行うのであれば話は違う。受益者が少ないところに、多額の税金をつぎ込む「無駄な公共事業」と同類になり、本来であれば批判の的になる。ただ、原発事故という特殊事情で、そうなりにくい。だからと言ってそれが許されるわけでない。

 帰還困難区域は、基本、立ち入り禁止で、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないまでも「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人のための必要最低限の環境が整えば十分。そういった方針に転換するか、あるいは帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるか――そのどちらかしかあり得ない。

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