放射能問題に挑んだNPOが解散

放射能問題に挑んだNPOが解散 NPO法人ふくしま30年プロジェクト

 震災・原発事故後に活動を始めたNPO法人ふくしま30年プロジェクト(福島市、佐原真紀理事長)が4月26日に解散した。放射能に対し、どのように判断して行動すればいいのか市民に選択肢を提供する目的で活動してきた同プロジェクトは、任意団体の期間も含め13年間の活動に終止符を打った。

NPO法人ふくしま30年プロジェクト

 「これまで適宜、ご寄付やご協力をいただいた皆様には心より御礼を申し上げます」と感謝を口にするのは理事長の佐原真紀さんだ。

 「セシウム137の半減期は30年なので、30年は子どもたちの未来を見守っていきたいと始まった同プロジェクトですが、現在の社会情勢や経済状況の変化、メインスタッフの健康問題もあり、NPO法人としての継続的な運営は困難と判断し解散を決めました」(佐原さん)

 メインスタッフとは副理事長の阿部浩美さんを指す。

 同プロジェクトで中心的役割を担ってきた阿部さんは本誌の取材にも度々協力していただいたが、2022年1月に病気を発症し4カ月間の入院を余儀なくされた。同年5月末に退院したものの、

 「体力・気力の低下もあり、今まで通りの活動を続けていくのは難しいと判断しました。後任の人材も見つからなかった」(阿部さん)

 加えて、震災・原発事故から13年経ち人々の関心が薄れていったことも、同プロジェクトが存在意義を見いだしにくくなる要因になった。

 とはいえ、同プロジェクトの功績は計り知れない。原発事故から半年後にはホールボディ・カウンタによる内部被曝検査や食品の放射能検査を開始し、ガイガーカウンターのレンタルも行った。行政が検査やレンタルの体制を整えると、公共施設のホットスポット探索やプール・側溝に溜まった泥の放射能検査などに乗り出し、その結果を積極的に公表した。各地から専門家を招き、子どもを被曝から守りたいと考える母親たちの相談に乗ったり、勉強会を開いたりもした。

 「行政は除染していると言いながら、実際は放射線量の下がっていない個所があちこちに存在した。行政の発表する情報は全て正しいわけではないということを自分たちも知ることができたし、多くの人に知ってもらうことができたのは意義深かったと思います」(佐原さん)

 一方、阿部さんが熱心に取り組んだのは各地で採取された山菜の汚染状況を調べ続けたことだ。特にコシアブラは原発事故から10年経っても食品衛生法の基準値(1㌔当たり100ベクレル)を遥かに超える放射性物質が検出されていたのに、フリーマーケットアプリ「メルカリ」に度々出品されていた。阿部さんはそれらを購入して汚染濃度を測り、採取地の保健所に通報したり、保健所を通じて出品者に注意喚起したり、メルカリの運営者に報告したりした。その結果、コシアブラはメルカリで出品禁止となり、無用な被曝を食い止めることにつながった。

 「出荷制限のかかっていない地域から採取・出品したコシアブラが実は高濃度で汚染されていたという点では、行政が発表する情報の危うさを痛感しました」(阿部さん)

 それと並行して、阿部さんは全国20以上の市民放射能測定室が参加し食品や土壌などの測定結果を集積するデータベース「みんなのデータサイト」でも中心的役割を果たし、2018年には『図説 17都県 放射能測定マップ+読み解き集』の発刊につなげた。

 多くの成果を挙げながら解散した同プロジェクトだが、最後に佐原さんは「個々人となっても他の組織・団体との連携を通じて可能な限りの支援活動を続けていきたい」と締めくくった。

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