8月24日、東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した後の水が、海洋放出された。
政府は海洋放出の時期を「夏ごろ」としてきた。岸田文雄首相が米国での日米韓首脳会談から帰国し、夏の終わりが近づくと、怒涛の勢いで準備が進められた。
8月20日には岸田首相が福島第一原発を視察。東京電力幹部と面会し、トンボ返りで帰京した。
同21日には岸田首相らが東京で全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長や福島県漁連役員と面会した。反対を表明しながらも政府対応に理解を示したのを受け、政府は「関係者から一定の理解を得た」と認識。同22日の関係閣僚等会議で同24日の放出を決定した。同日午後には西村康稔経済産業大臣が来福し、内堀雅雄知事や県漁連の野﨑哲会長らに説明した。
政府と東電は2015(平成27)年8月、地下水バイパスなどの水の海洋放出について県漁連と交渉した際、「ALPS処理水に関しては、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束していたが、結局、反対意見を押し切る形で海洋放出が強行された。
こうした政府・東電の姿勢に憤りを覚える一方で、本誌も含めた反対意見はなぜ届かなかったのか、なぜ世の中を変えられなかったのか、顧みる必要があるだろう。
今後、国内でのいわゆる風評被害の発生、海外からの反発が必至だが、今回のような強行姿勢で乗り切れるとは思えない。原発敷地内では現在も汚染水が発生し続けており、港湾内の魚からは基準値を大きく超える放射性物質が検出されている。汚染水問題は新たなステージに差し掛かったと言える。