会津坂下町の中学校で、2014年に当時1年の男子生徒が学校でいじめにあった問題で、男子生徒の両親は2021年8月、町を相手取り計330万円の損害賠償を求める訴訟を地裁会津若松支部に起こしていた。同訴訟は11月17日に和解が成立した。
町が不適切対応を認めて謝罪

本誌はこの問題について2019年4月号をはじめ、随時経過を報じてきた。この間の経緯を振り返っておく。
○2014年5月、当時、坂下中学校の1年生だった男子生徒の筆箱がなくなり、後にトイレの掃除用具入れから見つかった。これを受け、学校は犯人探しを行ったが、犯人が見つからなかった(名乗り出なかった)ことから、「トイレ以外は表に出るな」といった罰則(禁足)を科した。これにより、学校内の空気が悪くなり、その鬱憤は次第に男子生徒に向くようになった。
○こうした問題を機に、男子生徒は同年6月ごろから学校に行けなくなった。
○2016年12月、男子生徒が3年生の時に、父親が学校に「いじめ防止対策推進法」に基づく調査を依頼。町教育委員会は「会津坂下町いじめ問題専門委員会」を設置し、同委員会に諮問した。2017年3月には、町教委が生徒や保護者を対象にアンケート調査を実施した。専門委は同年7月に調査報告(答申)をまとめた。なお、同年7月は、男子生徒が中学校を卒業した後のこと。
○調査委は、「学校の雰囲気を考慮するといじめがあった可能性が高く、それが不登校の原因の一部になっていると考えられる」、「不登校の最も大きな原因は、禁足による対応後の学校の雰囲気であると考えられる」としながらも、「不登校といじめの関連について明確に指摘できることは得られなかった」と結論付けた。
○この調査結果を受け、父親は町に再調査を依頼したほか、2018年7月に町教委が生徒や保護者を対象に実施したアンケート調査の開示請求を行った。ところが、請求の返答は「開示できない」というものだった。
○これを受け、父親は、同年8月に不服申し立てを行ったが、そこでも開示が認められなかった。
○男子生徒はフリースクールを経て通信制高校に通っていたが、2019年1月に自殺した。
○父親は同年3月までに「被害者として、真相を知る権利を奪われ、精神的苦痛を受けた」として、町を相手取り、アンケート結果の開示と100万円の損害賠償を求めて裁判を起こした。
○同裁判は2020年12月1日に判決が言い渡され、アンケート結果の一部開示と、11万円の損害賠償の支払いを認めた。
○その後、判決に従い、町から父親にアンケート結果が開示された。父親はそれを熟読したうえで、「いじめ防止対策推進法」、「会津坂下町いじめ防止基本方針」、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」で定められている調査が十分に行われておらず、調査の方法に問題があると考え、2021年2月22日、町議会に再調査を求める陳情を行った。
○町議会は同年6月定例会で採決を行ったが、反対多数で陳情は不採択となった。
○同年8月、男子生徒の両親が町を相手取り、計330万円の損害賠償を求める訴訟を地裁会津若松支部に起こした。
和解条項の中身

以上がこれまで本誌が報じてきた経緯だが、冒頭で書いたように同訴訟は11月17日に和解成立した。
それに先立ち、町は11月9日に臨時議会を開き、議会に和解への同意を求めた。和解案はおおむね以下のようなもの。
①町は、禁足措置が学校教育上、不適切なものであったことを認め、それによりいじめが誘発され、男子生徒が学校に通えなくなったことを両親に謝罪する。
②今後、学校において禁足措置を取らないことを約束する。
③町は今後、いじめが理由で登校できなくなった生徒がいた場合、必要な支援を行うとともに、いじめ防止対策推進法、いじめの防止等のための基本的な方針(文部科学省方針)に則り、いじめ防止対策に取り組むことを約束する。
④町は和解案を周知する。
⑤和解によって解決したことを尊重し、互いに名誉、信用を毀損する行為や、相手方を不安、困惑させるような言動をしない。
町はこの和解案を受け入れる方針であることを議会に諮ったところ、全会一致で可決された。なお、和解金(損害賠償)の支払いは発生しない。
臨時議会後、鈴木茂雄教育長は本誌取材に対して、「生徒指導のあり方は時代とともに変わってきています。今回の件は配慮が足りなかったものであり、反省していかなければならない、ということです」とコメントした。
謝罪の形式は、「町のホームページに謝罪文を掲載する」とのことで、和解が成立した日に、「元坂下中学校生徒いじめ訴訟に係る損害賠償請求事件の和解について」という新着情報がアップロードされた。そこには和解が成立したことと、「今後は、和解条項を踏まえしっかりといじめ対策に取り組んでまいります」との文言があったが、11月22日時点で「謝罪文」は掲載されていない。
一方、生徒の父親は次のように話した。
「調査委の報告書では、『不登校の最も大きな原因は、禁足による対応後の学校の雰囲気であると考えられる』としながら、『不登校といじめの関連について明確に指摘できることは得られなかった』というあいまいなものでした。それが今回、『禁則がいじめを加速させた』ということを認め、謝罪することになりました。それは評価できるが、今後、町がこの反省を生かして、どう対応していくか、ということが重要です。もう1つは、これまで町側は対応に問題はなかったというスタンスだったのが、今回、対応に問題があったことを認めて謝罪することになったわけですから、それについての説明責任があると思います」
和解が成立したことで、この問題は一応の決着を見たわけだが、父親が言うように、今回の反省を生かして、今後二度とこのようなことが起こらないように対応していくことこそが最も重要になろう。