一般社団法人・福島県建設業協会には、地域のインフラを支える「守り手」の役割を果たす建設業者が加盟する。台風やそれに伴う豪雨は甚大化、頻発化し、迅速な復旧を地元業者が一挙に担う。他方で担い手不足の中、今年4月から労働時間の上限規制で、より効率的な働き方改革が求められる。業界を取り巻く課題にどう対応するのか。長谷川浩一会長に聞いた。
――若手人材の確保や担い手増加に向けた対策を強化していく方針です。具体的にどのような事業に取り組んでいくお考えでしょうか。
「担い手の確保及び人材の育成については、最重点課題として取り組んでいます。
担い手確保については、幼児や小学生に対しては、『アウト・オブ・キッザニア』などの職業体験イベントやマンガなどを活用し『仕事の面白さや楽しさ』を分かりやすく伝える取り組みをしています。
中高生・大学生に対しては、現場見学会やホームページ、SNS等を通じて『建設業の役割や魅力』を広く周知しています。就職先を考えるにあたって大きな影響力を持つ保護者の方々に対しても建設業の魅力を伝えるなど、就職促進に向けた広報活動を展開しています。特に今年度は、中学生を対象とした職業体験活動や、普通高校や農業高校の学生をターゲットにした座談会の開催など、これまで以上にきめ細かい入職促進活動を実施することとしています。
次に技術者育成については、一昨年度より実施してきた土木初任者研修後期コースについて、実務経験が少ない若手技術者の方に対象を広げた、『土木実務者研修(基礎コース)』に再編し、今年の4月に開催しました。
また、新規採用者等を対象とした土木初任者研修も継続して実施しています。それぞれの研修会では協会会員の受講者に加え、福島県土木部職員の皆様にも参加いただいて開催することができました。受注者と発注者双方の技術力の向上、コミュニケーション能力の強化が図られるよう、引き続き、カリキュラムの充実を図りながら各種研修を実施し、技術者育成に取り組んでいきたいと考えています。
一方で、若年者の入職・定着を促進するためには、建設業に対する3K(きつい、汚い、危険)のイメージから脱却しなければいけないと感じています。安心して働き続けられる新4K(給料・休日・希望・かっこいい)の魅力ある職場づくりが進められていることを分かりやすく伝える必要があります。
今年4月から適用された時間外労働の上限規制にも対応した週休2日制の導入などの働き方改革に加え、建設業従事者の賃金アップなどの処遇改善を推進するとともに、ICT技術や建設DXの活用をさらに進めることで、工事現場の生産性・安全性の向上を促進していきたいと考えています」
――本年は「働き方改革」に伴い労働時間を制限した2024年問題が業界において大きな課題と言えます。この間の影響と今後の取り組みについて教えてください。
「働き方改革について申し上げます。技術者の残業時間の削減に向けては、工事書類のさらなる簡素化が必要と考えています。県土木部では当協会の要望等も踏まえ、今年3月に『工事に関する提出書類の簡素化ガイドライン』を改正するなど、スピード感を持って取り組んでいただいており感謝しています。今後とも、引き続き一層の簡素化に向けた提案、要望等を行うとともに、市町村との書類の共通化なども働きかけていきたいと考えています。
また、週休2日制については、公共工事では浸透してきていますが、建築工事の8割以上を占める民間工事においては、思うように進んでいない現状もあります。公共工事と同様に適正な工期の設定や積算が行われないと、建設業全体の働き方改革は進みません。このため、国・県などの関係機関と連携を図りながら、商工団体など民間工事の発注者が加入する団体に対し、建設業界の働き方改革に対する理解を深めるための活動を実施して参りたいと考えています。
さらに、働き方改革の中では労働者の賃金の確保も重要となってきます。休みが増えた一方で賃金が減ってしまっては、働き方改革は進みません。休暇が増え、賃金も維持できるよう、設計労務単価の更なる引き上げなど、処遇改善に向けた要望、提言を関係機関に行っていきたいと考えています」
――今年度の重点事業について教えてください。
「今年度からの新たな取り組みとして、建設業の社会的役割と仕事の魅力を県民に伝えるため、福島県などと連携して『知ってほしい。ふくしまの建設業のこと』と題した広報事業を、福島市の『道の駅・ふくしま』において今年8月3日から来年1月26日までの半年間にわたり開催いたします。
このイベントでは、建設業のPR動画の放映やパンフレットの配布、パネル展示などを行う『建設業情報コーナー』を設置し、県民に建設業の魅力や大切さをPRするとともに、期間中は建設機械の試乗や最新の測量機器を体験できるイベントなども開催することとしています。また、期間中には建設現場を題材としたフォトコンテストや来場者へのアンケート調査なども実施いたしますので、たくさんの皆様の参加をお待ちしております」(※イベントの詳細は本文末のQRコードから紹介サイトを参照)
――今後の抱負について教えてください。
「本県の建設業界は、東日本大震災からの復興事業の収束等により建設投資額が縮小する中で、担い手の不足への対応や建設DXを活用した生産性の向上などの課題が山積しています。
一方で、全国各地で大規模な自然災害が頻発化しており、『地域の守り手』としての当協会の役割も一層重要になってくると考えております。
引き続き、県民の皆様の安全・安心の確保に貢献できるよう、資材の備蓄や災害発生時の連絡体制等の整備を進め、よりスピーディーに災害や除雪などへの対応が可能となるよう体制を強化してまいります。
当協会といたしましては、今後とも、建設業界を取り巻く課題の解決や県民の皆様に対する一層の貢献を目指し、引き続き、国・県等の行政機関をはじめ、全国建設業協会などの関係機関と連携を密にしながら、協会が行う各種事業にしっかりと取り組んでいきたいと考えています」