ふくしま・いちろう 1959年4月生まれ。喜多方市出身。東京経済大卒。会津若松市観光商工部長、企画政策部長などを歴任し、2021年5月から会津若松観光ビューロー専務理事。今年5月から現職。
新型コロナウイルスの感染急拡大の局面が終わり、インバウンドも含めた観光客の動きが活発になっている。人気観光地を抱える会津若松市ではどんな現状にあり、今後はどのような展望が見えるのか。同市の観光振興のほか、鶴ヶ城天守閣や御薬園などの管理も担っている会津若松観光ビューローの福島一郎理事長に話を聞いた。
――5月に理事長に就任しました。
「これまでも常勤の専務理事として勤務しており、業務内容は大きく変わりませんが、最終意思決定者となり、より重大な責任を伴う立場にあります。専務理事を3年務めた中で、施設の指定管理、DMO業務、これらに付随する財務・総務管理にかかる課題に対処してきました。こうした経験は今後理事長として組織を運営していくにあたり、大いに役立つものと考えています。
理事長として社員に対し、この組織が進むべき道筋を示さなければならないと考え、就任直後に任期2年間の方針を社員に伝えました。具体的には、体制変更による影響緩和への取り組みと社員全員とのコミュニケーション密度・頻度の向上、部下の育成やホウレンソウの徹底といった『仕事の仕方』に関することに加え、『仕事の中身』である鶴ヶ城天守閣・麟閣・御薬園の指定管理と公園管理、観光地域づくりの取り組み、観光消費額の目標設定、再来年春に福島県を舞台に行われるJRの大型観光キャンペーン『デスティネーションキャンペーン(DC)』の準備、広報活動への注力――などの方針を社員全員と共有したところです」
──会津若松観光ビューローは観光庁の定める、観光地域づくり法人(DMO)の登録を受けていますが、今後の活動方針について。
「DMOには国が定めたガイドラインがあります。活動の基本は継続的にデータを収集・分析し、マーケティングを行うほか、地域の関係者との合意形成を図りながら戦略を策定し、それに基づく着地整備とプロモーションを行うことです。当ビューローとしては、観光消費額の拡大と分散型観光の推進という2つの目標を地域の関係者の皆さまと共有しながら、目標達成に向けて取り組みを加速していきます。
観光消費額の拡大に向けた方策としては、観光コンテンツの開発・販売促進やCRM(顧客の囲い込み)により多くのお客様に来ていただけるような多種多様なメニューを提供していきます。分散型観光の推進としては、教育旅行誘致に注力することで閑散期や平日の需要創出につなげていくとともに、会津若松市と磐梯町、北塩原村が共同で取り組んでいる『会津磐梯スノーリゾート形成計画』の推進による冬期間の誘客増を目指します」
観光客数は回復傾向
──新型コロナウイルスの5類移行から1年以上経過しましたが、この間の観光者数の推移、その他インバウンドや教育旅行の動きについて教えてください。
「令和5年度の鶴ヶ城天守閣の入場者数は約56万7000人で、コロナ前(令和元年度)の97%まで回復しました。天守閣へのインバウンド入場者数は約2万7000人で、過去最多の数字となりました。
教育旅行については、県外から訪れたのが753校で前年比83%でした。コロナ禍に来ていた関東圏の学校が鎌倉方面などほかの地域に戻っていったと考えられます。前年比では減ったものの、コロナ前(令和元年)との比較では114%と増加傾向にあります。
全体的に回復傾向にあるとはいえ、不安要素として物価高の影響により消費者の節約志向が強まっているとの分析があり、加えてインバウンドの増加による宿泊費高騰、さらには新型コロナウイルス感染第11波が到来しているとの指摘もあり、状況を注視していく必要があります」
――デジタル技術を活用し、教育旅行の魅力向上に向けた実証実験が今秋より開始予定です。
「昨年度、鶴ヶ城体験事業という名目で、市内の小中学生を対象にタブレット端末を用いて城内を探検してもらうという実験を行い、好評を博した経緯もあって、正式な事業化に向けた実証実験に踏み切りました。引き続きタブレット端末を使用し、鶴ヶ城公園内に配置されたクイズに答えてもらいながら会津の歴史を学ぶというもので、各ポイントでAR技術によるヒントが出現し、探究的な学習を支援します。開始時期は今秋で、児童生徒、教員等からの意見を聴取し、次年度以降の本格稼働も検討していきます」
──今年度の重点事業について。
「会津の茶道文化を生かした『Teaストーリーズ事業』に取り組んでいきます。外国人の興味関心が高い抹茶を横串に、鶴ヶ城(麟閣)や御薬園、市内各所での茶道体験、抹茶スイーツなどをプロモーションしています。歴史も学べる題材であり、千家再興の立役者でもある蒲生氏郷に関する企画展を鶴ヶ城天守閣で開催したり、『茶の湯の街』づくりを進める七日町通りまちなみ協議会とも連携していきます。
7月には会津西街道連絡協議会を立ち上げました。会津若松観光ビューロー、会津美里町観光協会、下郷町観光協会、大内宿観光協会といった観光協会レベルの団体での連携です。まずは商品を共同販売するところからスタートし、広域連携でのプロモーションや受け入れ環境の整備に注力していく考えです。
そして、再来年春のDC本番に向けて、来年からプレDCが始まる予定なので、準備が欠かせません。観光地として大きくレベルアップを図れるチャンスなので、関係者の皆様とも連携して受け入れ態勢を作っていかなければなりません。着地型旅行商品造成の活発化など、二次交通、宿泊、飲食、観光施設など、関係者が一丸となる取り組みを促していきます」
――今後の抱負について。
「観光振興という手段で地域の活性化に寄与するのがⅮⅯOの使命であり、経済的な活性化を図るという点でも一定の目標が必要です。令和5年度の観光消費額は666億円でした。ⅮⅯOの取り組みを通じて私の任期中に700億円を大きく超える観光消費額を目指していきます。
また、持続可能な観光地域づくりを進めていく考えで、観光庁が選定する先駆的ⅮⅯOを目指した活動を推進していきます。先駆的ⅮⅯOに選定されているのは和歌山県の田辺市熊野ツーリズムビューロー、京都府の京都市観光協会、岐阜県の下呂温泉観光協会の3つだけです。いずれも世界水準のⅮⅯOになりうるとして観光庁が選定したものであり、そうしたところにエントリーすることでⅮⅯOとしての力やノウハウを身に付け、会津地域をリードする観光団体として大きく成長していきたいと考えています」