公設温浴施設の現状に迫るこのシリーズ。本誌3月号では「会津編」、5月号では「いわき編」を掲載したが、今号では西郷村の温浴施設「ちゃぽランド西郷」についてリポートする。
民間への意見聴取で「市場価値なし」
西郷村の温浴施設「西郷村温泉健康センター ちゃぽランド西郷」は1994年にオープンした。施設の設置・所有者は村だが、管理・運営は指定管理委託制度により、第三セクターの西郷観光が担っていた。なお、隣接地にはキャンプ場や遊具などを備えた観光施設「西郷村家族旅行村(キョロロン村)」があり、ちゃぽランド同様、施設の設置・所有者は村で、管理・運営は西郷観光が担っていた。
両施設は、新型コロナウイルスの感染が広がった2020年4月に事業を停止し、同年11月には管理・運営者の西郷観光が福島地裁白河支部より特別清算開始命令を受けた。
民間信用調査会社によると、同社は例年、損益分岐点を上回る売上の確保には至らず、赤字決算が続き、債務超過に陥っていた。過去には金融機関への返済が滞り、株主筋からの債務保証を受けたり、取引関係筋に債務免除を要請するなど運営自体は厳しい状況が続いていたという。
ちゃぽランドの利用者は甲子トンネル開通直後の2009年度は9万1000人だったが、2019年度は6万5000人に減少。キョロロン村は1992年度の約14万7000人がピークで、2019年度は約2万人に落ち込んだ。そんな中、新型コロナウイルスの影響で事業休止し、売り上げがゼロになったうえ、事業再開の見通しがつかないことから、同年5月に株主総会で解散を決議し特別清算に至った。負債は2019年3月期末時点で約4000万円という。
以降は、村が両施設を管理しているが、営業再開はしていない。そうした中、村は2022年9月から10月にかけて、両施設のサウンディング調査を実施した。サウンディング調査とは、民間事業者の意見や新たな事業提案を受けること。数社から問い合わせがあり、現地見学やオンラインでの意見聴取が行われた。その際、「売却や貸付など資産活用の可能性」、「資産活用した場合の温泉施設等としての継続の可能性」、「資産活用した場合の転用案」などについて意見を聞き、村が考える施設転用例として、企業の研修施設、大学の課外活動施設、食堂・レストラン・複合型商業施設、農業施設、体験施設、博物館・美術館・民芸館、特殊浴場、ホテル・キャンプ場、スポーツ施設、公園、社会福祉施設などを挙げていた。
こうした要領からも分かるように、当然、村としてはサウンディング調査の中で、事業を引き継いでくれる事業者が出てきてくれれば、といった思惑があったはず。しかし、サウンディング調査に参加した民間事業者と、何かしらの契約に至ることはなかった。
村産業振興課によると、同調査では、キョロロン村に関しては「まだやりようがある」といった感じだったようだが、ちゃぽランドについては「市場価値がない」と判断されたという。
これを受け、村はちゃぽランドを廃止することを決め、実際に設置条例の変更など、そのための手続きも済ませた。
「(温浴施設としてではなく)建物自体は使おうと思えば使える状態ですが、今後どうするかの方針はまだ決まっていません。そのほかの設備としては、やはりボイラーなどは老朽化していますし、配管の状態がどうなっているかなどの調査はしていません」(村産業振興課)
3月号の「会津編」では、会津美里町の「高田温泉あやめの湯」、会津坂下町の「糸桜里の湯 ばんげ」など、廃止された公設温浴施設の事例を紹介したが、建物・設備が老朽化し、多額の修繕費用を要することがその理由だった。
他事例とは違った課題
ちゃぽランドもそれら施設と同時期にオープンしたもので、似たような状況だろう。ただ、「建物自体は使おうと思えば使える状態」とのことだから、今後、取り壊すのか、別の利活用策を模索するのかを検討することになると思われるが、それにはネックになることがある。
それは、同施設は日光国立公園区域内にあることと、建物は村所有だが、土地は国所有であることだ。国立公園内にあるため、新たな建造物を建てたり、改修したりする場合は、さまざまな規制があり、国への手続きが必要になる。しかも、村は国から土地を借り、そこに施設を建てて運営していたので、村の判断だけで自由にどうこうできないといった事情もあるのだ。
これはキョロロン村も同様。前述したように、同施設はサウンディング調査で「市場価値がない」とされたちゃぽランドとは違い、民間事業者から「まだやりようがある」と評価された。にもかかわらず、民間譲渡や運営委託(貸与)など、その後の展開が生まれなかった理由はそこにあろう。
そんな中、村は今年度予算で「甲子地区国有財産払下事業」として9152万円を計上した。これはちゃぽランドとキョロロン村がある国有地を取得するための事業予算。現在、村は土地取得に向けて国と交渉を続けている。
「まずは土地を取得しなければ、今後のことを決めるのは難しい」(村産業振興課)といった判断から、土地取得を目指しているわけ。両施設をどうするかは土地取得後にあらためて検討することになるという。
もっとも、前述したように、少なくともちゃぽランドは温浴施設として再生されることはないだろう。
ある村民は、「観光施設という側面もあっただろうが、それよりも村民の健康増進施設の意味合いの方が強かったと思う。ただ、オープンから30年ほどが経ち、役割を終えたということだろう」という。
同施設は甲子地区にあり、村中心部からはクルマで20分ほどかかるため、より多く利用すると思われる高齢者にとっては不便な立地だった。かつては、村民に無料券が配られ、温泉に入った後、大広間でお茶を飲んだり、談笑したりする光景が見られたというが、この村民の言うように、役割を終えたということなのだろう。いまはよりアクセスがいいところに村民屋内プールができ、温泉ではないものの、ジャグジーなどもあるため、それで十分に代替できる、といった意見も聞かれた。
西郷村(ちゃぽランド)については、もともと経営が厳しかったところにコロナ休業を余儀なくされ引き金となったこと、施設が国立公園内にあるうえ、土地が国所有であることなど、会津編やいわき編で取り上げた廃止事例とはまた違った事情があるということだ。