「川沿いに盛り土が長い間放置されている」と喜多方市民が不安視する場所がある。盛り土したとみられる会社は事業停止状態。崩落したら誰が責任を取るのか。
大雨での崩落を懸念する近隣住民

喜多方市岩月町入田付地区の旧国道121号の峠道沿いに、資材置き場がある。近隣住民によると実はこの場所、もともと水田で、業者が10㍍近く盛り土して造成されたという。
「谷底を流れる田付川沿いの田んぼに業者が土砂を積み上げるようになり、気が付いたら国道から出入りできるまで高くなっていた。喜多方市では豪雨による道路崩落などがたびたび起きている。もし大雨が降って田付川が増水するようなことがあれば崩落するのではないか、と心配しています」(近隣住民)
グーグルマップで確認する限り、資材置き場の面積は5000平方㍍前後。現場を見ると、法面には草が生い茂っていて、周囲と見分けが付かなかった。近隣住民らに確認したところ、盛り土といっても10年以上前に運び込まれたものらしい。現場を見た土木業界関係者は「普通土砂の仮置き場では崩れないように整地したり排水溝を設置しているが、そのような対策が講じられた形跡がない。崩落するリスクは高いと思う」。
市内の事情通によると、運び込んだ業者は、近くで砕石工場(採石場)を運営していた喜多方貨物砕石工業(喜多方市)だという。
「トラックで土砂を運び込み、資材置き場として使うところが近隣住民らに目撃されている。砕石工場で岩石を採取する際に除去した大量の表土をここに積んだと思われます。同社の所有地なのか、別に地権者がいるのかは分かりません」
同地の不動産登記簿を取得しようと試みたが、山あいで地番が特定できず、法務局でも特定できなかった。「かつての地権者」と目される人物もいたが現在介護施設に入所しており、子どもは新潟市在住とのことで、連絡が取れなかった。「eMAFF農地ナビ」で検索したところ、少なくとも現在は農地(水田)として登録されていないようだ。
「住んでいる人がいないエリアなので大雨による土砂崩れに巻き込まれるリスクこそないが、近くの田付川に崩落して下流に流れてくる可能性はある。被害が出る前に対策を講じてほしい」(前出・近隣住民)
喜多方貨物砕石工業は1954(昭和29)年設立。代表取締役は石田圭一氏、大関修右氏の2人。事業は一般区域貨物自動車運送事業、土木資材の採取販売及び土木建築請負業、生コンクリート生産販売事業、砕石の製造販売及び岩石の採取販売業など。資本金1200万円。民間信用調査機関によると、2024年3月期売上高は4億5000万円。
同じく石田氏が代表を務めてきたのが会津喜多方生コンだ。「グループ会社」として喜多方貨物砕石工業と一体的に経営が行われてきたが、生コン需要減退により売り上げが低迷。複数の業界関係者によると「不渡りを出し、実質的な事業停止状態」。同社豊川工場は閉鎖され、敷地前には生コンスラッジ(汚泥=産業廃棄物)が山積みとなっている。
そのほか、別会社を作って喜多方市中心部に飲食店、東京・麻布十番にスーパーをオープンするなど、他業種参入にも積極的だったが、両店ともすでに閉店している。
「喜多方貨物砕石工業と言えば、先代社長で石田氏の父親である陽市氏が砕石業界の〝名物社長〟として知られた存在だった。陽市氏が亡くなった後、自宅を離れていた石田氏が呼び戻され代表に就いたが、悪い流れを止められず、グループ全体で金が回らなくなっているようだ。現在は私的整理のような状況と聞いている」(ある業界関係者)
田付川沿いの盛り土についてウワサになっていることをどう受け止めるのか。喜多方市豊川の喜多方貨物砕石工業本社を訪ねたが、オフィスには人の気配がなかった。ただ、何度か足を運ぶうちに、2階の蛍光灯がついているときがあり、人が出入りしている様子がうかがえた。そこで、勝手口前に質問を記した取材協力依頼書と雑誌を置いてきたが、12月19日現在、返答はない。
周知の通り、2021年7月、静岡県熱海市で大雨に伴い盛り土が崩落し、大規模な土石流が発生、死者28人、住宅被害98棟の被害が出た。それを受けて、2023年5月に盛土規制法が施行された。
喜多方建設事務所によると、同法で定められた規制区域内では、過去の盛り土も含めて土地所有者がその土地を安全な状態に維持することが求められ(前出の盛り土があるエリアは特定盛土等規制区域)、調査やパトロールで危険と判断された場合は改善命令などの対象になるという。取材を通して同事務所担当者に前出の盛り土について伝えたが、果たしてどういう判断が示されるか。
誰が責任を取るのか

盛り土のウワサを確認すべく、喜多方市小田付道上にある石田氏の自宅を訪ねたが、人が住んでいる気配はなかった。近隣住民によると、石田氏は普段東京におり、たまに自宅に戻って来るという。自宅の不動産登記簿を確認したところ、債務者喜多方貨物砕石工業、抵当権者東邦銀行、債務額5000万円の抵当権が昨年3月24日付で設定されていた。
石田氏の自宅近くには会津喜多方生コンの社宅がある。そちらを訪ねると、石田氏の親族で、会津喜多方生コン社長の石田一男氏がいた。石田氏は「物価高騰と建設需要低迷で生コン業界はどこも経営が厳しい。うちも経営的に行き詰まり、現在郡山市の滝田三良法律事務所に対応を依頼している。事業譲渡を検討中で、数社が手を挙げている」と話した。
喜多方貨物砕石工業や石田氏についても尋ねたが「そちらの経営にはタッチしていないので分かりません。ただ、(石田氏は)取材には応じないんじゃないかな」と述べた。
喜多方貨物砕石の代表はもともと石田氏のみだったが、法人登記簿によると、昨年1月1日付で大関氏が代表取締役に就任していた。大関氏は、太陽光発電事業や無公害エンジン開発、産業廃棄物処理業などの事業に取り組む栄光グループ(茨城県水戸市)の代表。
どういう経緯で喜多方貨物砕石工業の代表取締役に就いたのか。大関氏に取材を申し込もうと同グループに連絡したところ、担当者が「実質的に経営しているのは石田氏。大関が就任に至るまでいろいろな経緯があったんです。え、これ取材なんですか? いまから会議に入るので、あらためて連絡します」と回答し、その後連絡が取れなくなった。
喜多方貨物砕石工業が運営していた岩月町や熱塩加納町の砕石工場周辺は人けがなく、岩月町の方では機械を業者が分解して運び出しているところだった。採石業界関係者によると、山の中に採石場(砕石工場)を整備する際は林地開発開始時に計画を提出し、事業終了後は緑化作業などを行い、できるだけ原状復帰しているという。県会津農林事務所では事業予定期間の期限である2026年8月まで様子を見る構えだが、地元では「事業停止中であることを理由に、盛り土も採石場跡も後始末をしないまま放置するのではないか」と心配する住民が少なくない。
果たして誰が責任を取ることになるのか。この件に関しては引き続き取材を継続していきたい。