いわき市の商業施設「鹿島ショッピングセンター エブリア」は4月1日、施設名を「いわきエブリア」に変更した。施設を運営していた鹿島ショッピングセンターとの賃貸借契約が3月末で終了し、新体制に移行したのに合わせたもの。8月にリニューアルオープンする方針だが、6月現在、館内は空きテナントだらけの状態だ。市民から愛されてきたショッピングセンターで何が起きているのか。
館内は空きテナントだらけ
いわき市出身のテレビプロデューサー・佐久間宣行さんが出演しているラジオ番組「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」2月7日放送分で、福島県内の商業施設が話題になる一幕があった。
進学と同時に上京した佐久間さんに、ヨークベニマルなどの商業施設について、リスナーがメールで教える展開となった。その中で、「エブリアの専門店街が閉店するので寂しくなる」というメールが紹介された。
周知の通り、エブリアとは「鹿島ショッピングセンター エブリア」のこと。佐久間さんは名前を聞いたことがある程度のようでピンと来ていなかったが、いわき市民なら一度は訪れたことがある商業施設。同市在住のリスナーはニヤリとしながら聞いたことだろう。
同施設は1995年10月開業。小名浜地区にあった2つのショッピングセンターの小売・飲食業59店舗と、市内のデベロッパ
ー・平南開発が車社会に対応した商業施設を設けるべく開発したもの。キーテナントとして総合スーパー・ダイエーいわき店が入居した。
2005年にダイエーが撤退した後は、ヨークベニマルエブリア店やスーパースポーツゼビオいわき店が入居。専門店街には最盛期に約70のテナントが入っていた。
平地区と小名浜地区を結ぶ県道26号小名浜平線(通称鹿島街道)沿いに立地し、週末には多くの買い物客が訪れる。延べ床面積3万8122平方㍍、駐車場2000台。
現在の土地・建物の所有者は平南ホールディングス(禹竜太代表社員、本店=東京都中央区晴海。郡山市大町に移転との情報あり)。もともとは、建設時から計画に携わっていた平南開発の関連会社が所有者だったが、外資系投資会社が運営する全く無関係の会社に吸収合併され、現在の名称に変更された。
そんな同社の株を取得し、子会社化したのが、福島県などを中心にパチンコホールを展開する「つばめグループ」の中原商事(登記上の本店=東京都港区南青山、本部=郡山市大町)だ。1968年設立。資本金2300万円。代表取締役は禹竜太、禹泰浩の両氏(いずれも名字は中原を名乗っている)。民間信用調査機関によると、2023年12月期の売上高578億9100万円、当期純利益4億円。
本誌2022年10月号では、中原商事が平南ホールディングスを子会社化する形で同施設を取得し、巨額の抵当権を設定、合計38億円もの融資枠を設定していたことを報じた。以下は記事の一部。
《中原商事に子会社化の狙いを問い合わせたが、「現時点では取材に対応できない。ノーコメント」(担当者)との回答だった。ただ、中原商事のルーツはもともといわき市植田のパチンコ店であり、禹竜太社長も同市出身であることから、東京の投資会社より〝地元企業〟が所有者になるべきと判断し、子会社化したのではないか」との見方がもっぱらだ。
ちなみに、同地は第二種住居地域でパチンコ店設置が可能とのことだが、「1㌔も離れていないところに鹿島小学校やかしま病院がある。立地規制には引っかからないかもしれないが、周辺住民との関係を考慮してさすがにパチンコ店の出店は控えるのではないか」(関係者)との見立てが聞かれる》
業界関係者の話によると、中原商事は銀行によるシンジケートローンで資金調達し、平南ホールディングスを子会社化。同施設に巨額の抵当権が設定されているのはそうした事情からだという。
同施設を取得した中原商事(平南ホールディングス)の狙いは何なのか、いろいろと推測されていたが、結局自社で運営する道を選んだ。
鹿島SCが破産申し立て
同施設内のヨークベニマル、スーパースポーツゼビオを除くテナント部分の運営は鹿島ショッピングセンターという会社が担当していた。だが、運営母体が中原商事(平南ホールディングス)に変わったのを機に、運営会社が変更されることが発表された。2月末には、その影響で一部店舗が閉店することもプレスリリースで発表された。
4月1日付のプレスリリースによると、EC(電子商取引)の発展をはじめとするネットの普及、大規模競合施設のオープン、新型コロナウイルスなどの影響を踏まえ、一部専門店の閉店と㈱鹿島ショッピングセンターによる運営の終了を決定した――とされている。
施設名称は同日付で「いわきエブリア」に改称され、新たな支配人には中原商事の吉村正徳氏が就いた。コンサル会社のトリニティーズとマネジメント契約を締結。主なテナントは1階フロアに集約して回遊性を高め、2階は大型区画を整備して新たな店舗誘致を計画する方針だ。
その一方で、契約を打ち切られた形となった鹿島ショッピングセンターは5月28日付で福島地方裁判所いわき支部に破産申し立てを行った。負債総額は約7億6735万円。
同社の売り上げはテナントからの家賃で、大家(平南ホールディングス)に払う家賃との利ざやが収益となっていた、だが、テナント数の減少に伴い売り上げは年々減少。ピーク時の2002年3月期売上高は12億2519万円だったが、近年は競合店出店やコロナ禍の影響で落ち込み、2023年3月期売上高は6億2942万円にとどまっていた。
平南ホールディングス側が出したプレスリリースでは、一昨年から鹿島ショッピングセンターと移管協議を行っており、合意が図れた――と円満契約完了を強調していた。だが、6月1日付のいわき民報では内情が次のように記されていた。
《関係者によると、鹿島SCは平南HDと協議を進め、事業の円滑な引き継ぎを模索していたが、退店するテナントの対応を含め、両者の話し合いが難航。双方合意の上で清算を目指すも、平南HD側が態度を硬化させ、不調に終わったため、やむなく法的手続きに踏み切った。
平南HDと鹿島SCとの賃貸借契約は3月末で終了したが、平南HDとの明け渡しの点が不明瞭なため、鹿島SCとテナントで解約が済んでいないケースがあるという》
複数の関係者に接触したところ、「福島民報や福島民友より、いわき民報の記事が正確に書いてくれていた」と話していたから、少なからずトラブルが起きていたということだろう。
この間の経緯をウオッチングしていた事情通によると、ポイントは家賃の値下げと敷金の返還のようだ。
「イオンモールいわき小名浜の出店に加え、新型コロナウイルスの影響でテナントが集まらなくなった。空きテナントが目立ちテナントが支払う家賃も格安に設定していたので、鹿島ショッピングセンターが支払っている賃料も引き下げてほしいと依頼していたのです。ただ、中原商事はあくまで通常金額を要求し、協議は噛み合なかったようです」
家賃が上がるとなれば退店を希望する店舗も出てくる。鹿島ショッピングセンターは預けていた保証金(敷金)の返還を求めたが、平南ホールディングスは難色を示し、弁護士を入れて協議を重ねてもなかなか交渉がまとまらなかった。そのまま、鹿島ショッピングセンターの体力が尽き、破産に至った、と。
鹿島ショッピングセンターが運営から離れ、それに伴い一部店舗が閉店したことで、同施設内は歯抜け状態となっている。報道によると、現在残って営業を続けているのは25店舗。最盛期(70店舗)の35%だ。
6月上旬、足を運ぶと、ヨークベニマルやスーパースポーツゼビオなどの一角はにぎやかだが、それ以外のエリアは空きテナントだらけということもあり、人通りはまばらだった。場所によっては、本当に営業中の商業施設か疑ってしまうほどだ。
人気テナントを呼べるか
こうした状態で「既存テナントを1階フロアに集約し、2階は大型区画を整備して店舗を誘致する」計画は実現できるのか。同施設の管理を請け負っている会社の担当者は「鹿島ショッピングセンターが破産した影響で、準備に遅れが生じた。そのため、グランドオープンの予定を当初の6月から8月10日に延期し、準備を進めている段階です」と話した。
とはいえ、6月中旬現在も空きテナントが点在し、2階部分に入居する店舗が公表されていないところをみると、8月10日のグランドオープンはひとまず1階に集約して仕切り直す形になるのだろう。どの商業施設もテナント確保に苦戦する中、想定通り2階に新たな核となる大型店を呼んでこられるのか。
約30年にわたり営業していることもあって地域での知名度は高く、市民からは「イオンモールいわき小名浜がオープンした後も慣れ親しんだエブリアを利用してしまう」という声が多く聞かれた。
ただ、空きテナントだらけの状況が続くようでは、さすがに顧客も離れていく。イオンモールいわき小名浜も地域に馴染んできて、少しずつ利用者が流れつつあるという話も聞こえてくる。新生エブリアにとっては正念場が続く格好だ。
小名浜港はかつてサケ、マスなどの北洋漁業が盛んで、多くの人でにぎわい、商業も盛んだった。1960年代には地元小売業者が協力して設置した「小名浜ショッピングセンター」、「小名浜名店街」という2つの大型商業施設が開設され、双葉郡や茨城県からも買い物客が訪れたほどだった。ただ、北洋漁業が下火になり、地元小売業者による大型商業施設も閉店していった。
車社会に対応すべく開設されたエブリアも約30年経過し、生き残り策を模索している状況。時代が移り変わりつつあるということだ。