福島駅東口で計画されている再開発事業の大幅な見直しと、西口で営業するイトーヨーカドー福島店が5月に閉店することが発表されると、木幡浩市長は「駅東西一体のまちづくり」を有識者や市民の声を聞きながら進める方針を明らかにした。これに何を今更と落胆するのが、同駅の「連続立体交差」で東西一体化を主張してきた地元経済界だ。
露呈した官民の連携不足


再開発事業の大幅見直しとイトーヨーカドーの閉店発表を受け、木幡市長は駅東西一体のまちづくりに意欲を見せているが、それに伴い注目されているのが福島駅の地下を通る東西自由通路だ。
1981年につくられた東西自由通路は延長189㍍。元は国鉄の業務用通路だったこともあり、市民からは「天井が低くて幅が狭い」「暗くて怖い」という声が以前から上がっていたほか「他の通路とつながっていない」「出入口が分かりづらい」と使い勝手の悪さが指摘されていた。
ならば駅の東側と西側を結ぶ他のルートはどうなっているのか。あづま陸橋と西町跨線橋は主に車道。太田町と矢剣町にあるアンダーパスは大雨が降ると浸水のリスクがある。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名。加えて、これらのルートは駅から遠いため、東西をスムーズに行き来する通路は駅近くに見当たらないのが実情だ。
こうした状況を踏まえ、市は2月2日に開いた市議会全員協議会で駅東西一体のまちづくりを考える上での参考として愛知県豊橋市のJR豊橋駅、長野県松本市のJR松本駅、広島市のJR西広島駅で自由通路を整備したり、駅橋上化を行った事例を紹介した。市によると、東北地方の県庁所在市は橋上での自由通路が整備済みという。
東口と西口を結ぶルートがなければ、線路によって街が分断され、一体化は図れない。新しい自由通路が福島駅にも必要なのは明白。そうした中、地元経済界はさらに先を見据え、踏み込んだ提唱をしてきた経緯がある。
2021年に設立された「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体。同協議会は駅周辺を整備し、中心市街地の活性化を図るため、福島駅を「連続立体交差」で整備することを模索してきた。
連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の補助事業(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。
数ある連続立体交差の中で同協議会が参考にするのは、2025年度完了予定のJR新潟駅。事業主体は新潟市で、事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円。このうち400億円を同市が負担している。
本誌は2022年8月号で、福島駅の連続立体交差の可能性についてリポートしているが、この時、木幡市長は本誌取材に「現時点で連続立体交差を検討する予定はない」とコメントしている。
このころ、東口では再開発事業に向けて既存建物の解体が始まったばかりだった。イトーヨーカドーも通常通り営業していた。木幡市長の念頭に連続立体交差がなかったのは当然とも言えるが、ある商店主の見方は手厳しい。
「東口だけをピンポイントで考えるのではなく、最初から駅を基点に東西一体のまちづくりを考えていれば今ごろ慌てふためいて有識者や市民に意見を聞くこともなかったのではないか。そもそも再開発事業が行き詰まってから『駅前に何が必要か皆さんの意見を聞かせてほしい』なんて進め方の順序が逆。イトーヨーカドーも撤退のウワサはだいぶ前から出ていたわけだから」
同協議会が連続立体交差の必要性を強く感じたのは、駅東西一体のまちづくりだけが理由ではない。
市の「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されている。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため、西口にも避難できる場所はあるにはあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのは自然だろう。
回遊性のない駅前

防災の観点から連続立体交差は必要と考える経済人もこう話す。
「浸水するということは、東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると駅周辺の人たちはあづま陸橋、西町跨線橋、曽根田踏切しか避難ルートがない」
もし災害が発生し、何千もの人が限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。
「火山泥流が福島駅に到達したら交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。つまり連続立体交差は、そういったリスクの解消にもつながるのです」(同)
事業費は前述・新潟駅の連続立体交差に1750億円かかったことを踏まえると高額だが、国の補助や鉄道事業者の負担が見込めるため、東口の再開発事業に福島市が補助金も含め約250億円投じるなら、連続立体交差に応分の負担をする価値はあるのではないか。
「まずは基盤を整備し人や車の流れをスムーズにしないと、テナントビルやホテル、劇場やコンベンションホールをつくっても賑わいは生まれない。今のままでは回遊性のない駅前になってしまう」(同)
再開発事業が完了すれば駅前の回遊性は高まるという意見があるが、東口と西口をスムーズに行き来できない駅前にハコモノをつくっても回遊性は生まれないという考え方もあるわけ。〝卵が先か鶏が先か〟という議論になってしまうが、駅東西一体のまちづくりを進めるなら後者の意見の方が説得力を感じる。
商工会議所の役員経験を持つ高齢の経済人はこんな考えを示す。
「今も変わっていないと思うが、福島市には市役所、会議所、JAなど主要組織の幹部が定期的に会食しながら、ざっくばらんに意見を交える機会がない。かつての郡山市は市政と経済界が車の両輪として機能し羨ましく感じていた。そういう普段からのコミュニケーションが取れていれば、東口の再開発事業や福島駅の連続立体交差も市内の主要な人たちの間で意思疎通が図れていたのではないか。今の状況は、まちづくりと言いながら市政と経済界の連携がとれていない」
再開発事業をやっても賑わいは生まれない、連続立体交差はお金がかかりすぎる、と否定的に捉えるのではなく、まずは多種多様な人同士で話し合い、駅東西一体のまちづくりに必要なものが何かを考える。そういう基本的なことを怠ったが故に、今日のドタバタ劇を招いたとも言えるのではないか。