民事再生法の再生計画に基づく手続きが完了し、1月31日付で会津乗合自動車(会津若松市、通称・会津バス)の完全子会社になった芦ノ牧温泉の「丸峰観光ホテル」。生まれ変わった同ホテルでは、どのような経営が行われているのか。
短期間で「稼働率アップ」の秘密
昨年2月、約21億円の負債を抱え地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請した丸峰観光ホテル。同年7月、会津乗合自動車がスポンサーとして支援することを表明し、同社の佐藤俊材社長が9月15日付で同ホテル社長に就任、再生計画に基づく手続きが進められた。今年1月24日に同支部により再生計画の認可決定が確定し、同31日付で会津乗合自動車の完全子会社になった。
会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している会津乗合自動車は、東日本最大の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。グループ全体の従業員数は5300人余に上る。
つまり、会津乗合自動車の完全子会社になった丸峰観光ホテルもみちのりグループの一員となったわけだが、グループで培われたノウハウは同ホテルの再建にも注入され、早くも効果を発揮しているようだ。
「新たなプランが奏功し、お客様から好評を博しています」と話すのは丸峰観光ホテルの渡邉新一郎常務取締役総支配人だ。
「三陸産の活アワビや毛ガニ、岩手県産の松茸すき焼きなど、福島県では味わえない新鮮な素材を用いながら、会津の馬刺しといった地物を組み合わせたプランが大変喜ばれています。4月中旬からは殻付きウニのご提供も始まっています」(同)
三陸・岩手産の食材はみちのりグループ傘下のみちのりホテルズ(岩手県盛岡市)が運営する浄土ヶ浜パークホテル(岩手県宮古市)で仕入れたものが毎日直送されてくる。
「施設の改修はお金と時間がかかるので、それがかからないグループとの連携でお客様の満足度を高めることからまずは始めました」(同)
渡邉総支配人は浄土ヶ浜パークホテルやつなぎ温泉四季亭(岩手県盛岡市。同じくみちのりホテルズが運営)でも常務取締役エリア総支配人を務めるなど、みちのりグループのホテルを統括する立場にある。
「グループの各バス会社はそれぞれ旅行会社を持っています。会津乗合自動車にも会津トラベルサービスという会社があります。それらの旅行会社でツアー商品をつくり、各県から丸峰観光ホテルにツアー客を送ってもらう一方、会津トラベルサービスからも他県にツアー客を送る相乗効果でグループホテル全体の底上げを図っています」(同)
そのオペレーションは高度で緻密だ。「1人で五つのホテルの稼働状況を同時に見ることができる」(同)というプロフェッショナル社員を2人配置し、丸峰観光ホテルを含むグループホテル全体に毎日効率良く客を振り分けている。一般的にホテルは週明けの月曜日と週末前の木曜日が閑散としていることが稼働率を押し下げる要因になるが、みちのりグループではプロフェッショナル社員がオペレーションすることにより、苦戦必至の月・木も稼働率を上げることに成功している。
「特に冬季はホテルは苦戦するので、まずは料金を下げてでもお客様にお越しいただき、稼働率を上げることに努めました。さらに、ご提供するプランにお客様がご満足いただければ、リピート率が上がり、口コミで評判も広がる、と」(同)
現在の稼働率を尋ねると「具体的な数字は申し上げられないが、一般のホテルより上です」(同)。コロナ禍を経て他のホテルは未だに平日休館にしているところも多いが、丸峰観光ホテルは毎日営業している。
インバウンドも好調だ。この間、グループ会社のみちのりトラベルジャパンによる斡旋でタイから計2000人の観光客が宿泊。台湾からも現地事務所を置くみちのりトラベル東北を通じて観光客が訪れている。
グループの強みを生かし、渡邉総支配人が言う「お金をかけずに短期間」で再建を果たしつつある印象だが、だからと言って全くお金をかけていないわけではない。
「ホテルの売りでもあるお風呂の改修にはすぐに取りかかりました」と説明するのは佐藤俊材社長だ。
「会津乗合自動車がスポンサーに手を挙げた時、檜風呂が長く利用できなくなっていたので、すぐに檜風呂と露天風呂をリニューアルし、必要な設備の修繕や内装工事も行いました」(同)
リニューアルという点では、1階のコンベンションホールを改装し、ビュッフェレストラン「麗峰」を3月1日に新設オープン。刀の飾りを配置したり、和ダンスに食器を収納したり、会津木綿や会津漆器を用いたところ「外国人のお客様はもちろん、地元のお客様にも大変喜ばれています」(同)。
今後は大展望風呂の刷新や外壁の塗装などが控える。佐藤社長は「必要な投資は惜しまない」考えで、客に不便をかけないことを第一に修繕を続けていくとしている。
スポンサーに名乗りを上げた時、従業員は約70人だったが、現在は約90人。それまで従業員は、フロント係はフロントの仕事、厨房係は厨房の仕事とタテの動きしかできなかったが、今はマルチタスク(短時間で切り替えながら複数作業を行う)を意識した働き方に変わっている。
「みちのりホテルズから社員5人が丸峰観光ホテルに出向し、従業員の意識と働き方を変えてきました。従業員は慣れない仕事を強いられ大変だと思いますが、支援前と比べて表情はとても明るく『やり甲斐がある』と言ってくれています」(同)
従業員が明るく元気だと、宿泊客にも伝わり好印象を持たれる。それが評判を呼び、リピーターや新たな宿泊客の獲得につながる――という好循環に結び付きつつあることを佐藤社長は実感している。
自主再建目指す丸峰庵
課題を挙げるとすれば何か。
「この間やってみて、いくつか反省点も見つかっているし、我々が目指すのは丸峰観光ホテルだけが良くなるのではなく、芦ノ牧温泉全体を活性化させることなので、その取り組みも本格化していかなければならない。行政には廃旅館問題を頑張ってもらいたい思いもある」
会津乗合自動車の強みを生かし、JR郡山駅から芦ノ牧温泉まで直通バスで結んだり、丸峰観光ホテルと周辺観光地との周遊ルートを確立するなど更なる集客に余念がない佐藤社長だが、それを芦ノ牧温泉全体にも波及させることができるかどうかが今後の課題になりそうだ。
ところで、丸峰観光ホテルの関連会社で約4億8000万円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した饅頭製造・販売業の丸峰庵(星保洋社長)は、会津乗合自動車の支援を断わったあともスポンサーが見つからず、自主再建を目指すという。
「債権者には3年間で債権の5%を払うと通知したようだ。20分の1と大幅なカットだが、それでも『スポンサー無しで本当に払えるのか』と怪しむ声が聞かれる」(事情通)
芦ノ牧温泉街にある丸峰庵の直営店は平日休みで、土日しか営業していない。星社長はたまに出勤しているようだが、人前に顔を見せることはないという。会社の問い合わせフォームから取材を申し込んだが、締め切りまでに返答はなかった。