飛行機レースの世界大会「レッドブル・エアレース・チャンピオン・ワールドシップ2017」でアジア人初の年間総合王者に輝いた室屋義秀さん(50)。4月から、次世代のエアレースパイロットを発掘する「レースパイロットプログラム」を福島市の拠点でスタートさせた。
2日間の〝サバイバル〟試験に密着
エアレースは最高時速370㌔に及ぶ飛行機を駆使し、空中のコースでタイムを競うモータースポーツ。操縦技術はもちろん、高い水準の知力、体力、精神力が求められるため、専門パイロットの育成には通常10年以上かかるとされる。
そうした中で、才能ある若者を発掘して育成を加速化させ、5年後のエアレースパイロットデビューを本気で目指そうというのが今回の取り組みだ。主催は室屋さんが所属するチーム「LEXAS PATHFINDER AIR RACING」。
対象年齢は16歳以上(今年9月30日時点)40歳未満。学歴不問。訓練費用は室屋さんが代表を務める㈱パスファインダー(福島市)ら主催者が全額負担する。事前の募集では「体力・知力・やる気の全てを満たす心意気がある人以外は、申込をしないでください」と呼び掛けていた。
4月29日のキャンプ1(1回目)、会場のEBM航空公園(ふくしまスカイパーク)には全国から20~30代の男女32人が集結。体力測定が行われ、全員が候補生として合格した。
続く6月10、11日のキャンプ2(2回目)には合格者18人が参加(14人は辞退)。体力測定10種目と、世界を転戦するパイロットに必須なコミュニケーション能力をはかるディベート、英会話試験が行われた。
2回目で5人が脱落
体力測定に関しては、キャンプ1の時点で、〝最低ライン〟が発表されていた。例えば腕立て伏せは2分間で連続24回、腹筋は同36回、懸垂4回など。各候補生らはクリアを目標にこの間、トレーニングを重ねてきたが、その成果をうまく発揮できなかった人もおり、体力測定が終了した初日夕方の段階で4人が脱落決定。即刻退席を求められた。
2日目のディベートは候補生同士でチームを作り、一つのテーマについて議論するというもの。英会話試験は同チームの外国人スタッフと面談する。ディベートではユニークなテーマが設定され、うまく対応できなかった候補生1人が脱落した。キャンプ1の自己紹介時にはそれぞれが室屋さんや飛行機への愛を語ったが、基準を満たさない者は容赦なく立ち去ることを求められる。
キャンプ2を終えて、室屋さんは「チームとして戦っていくことが求められるエアレースでリーダーとしてスタッフを率いながら、世界で戦っていける人材を生み出すのが狙い。自分が長年エアレースパイロットとして活動してきた中で必要と感じた点を試験に盛り込みました。若い候補生が、次のキャンプまでどれだけ伸びしろを見せられるか、楽しみ」と感想を述べた。
キャンプ3は8月予定。並行して航空関連の各種資格試験も受験していく。唯一県内からの参加となった会津若松市在住の宮田翔さん(32、山形県出身)は、東北電力ネットワーク会津若松電力センター送電課に勤めながら、キャンプ3突破を目指す。
「幼いころから飛行機と室屋さんが好きで、こんなチャンスはないと思った。キャンプ1から1日も欠かさずトレーニングを続けている。会社の同僚にも応援してもらっているので、全力で取り組んでいきたい」
室屋さんらは同プロジェクトと併せて、世界を舞台にしたエアレース事業「エアレースX」の開催に向けて準備を進めている。室屋さんに続く若きスターが福島市から飛び立っていくことに期待したい。