双葉町で不適切巡回横行の背景

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双葉町で不適切巡回横行の背景

 双葉町がまちづくり会社に委託している町内の戸別巡回業務で60~80代の全巡回員13人が不適切行動をしていた。所有者が巡回を希望していない宅地に無断で立ち入ったほか、道路や線路沿い、空き家の敷地などに実る柿や栗、山菜を無断で持ち去っていた。まちづくり会社は町が設置に携わり、巡回事業は復興庁の交付金を活用していたため全国を賑わし、巡回員のレベルの低さが露呈。法令順守が行き渡っておらず、町とまちづくり会社は指導の不徹底を問われる。

巡回員のレベルの低さが露呈

復興庁が委託した巡回業務で不適切行動があった(写真は双葉町役場)
復興庁が委託した巡回業務で不適切行動があった(写真は双葉町役場)

 戸別巡回業務は東京電力福島第一原発事故に伴い指定された双葉町内の避難指示解除区域の空き家などを巡り、玄関の施錠確認などを行う防犯活動。2022年8月に町内の帰還困難区域の一部が解除され、立入通行証を所持しなくても誰もが自由に行き来できるようになるのを前に、町が21年度から一般社団法人ふたばプロジェクト(双葉町)に業務委託した。

 委託期間は今年3月末までを予定していたが、不適切行為を公表してから町は別の民間警備会社に巡回車だけで見回る業務に代替している。

 同プロジェクトの渡辺雄一郎事務局次長によると職員は24人で、うち正職員5人、有期雇用の職員6人、残り13人が今回不適切行動があった巡回員だった。巡回員は1日5人の体制で、2人ずつ2組が車2台に分かれて乗り、朝8時30分から夕方5時15分まで町内の民家や公共施設を365日見回る。1人は班長として事務所で待機する。班は2日で一巡する。

 避難指示解除区域では、老朽化や放射能汚染を受けた建物の公費解体が進む。巡回員は未解体の建物がある敷地に立ち入り、建物の侵入形跡や損壊、残された車両が盗まれていないかを確認する。家主が戸別巡回を希望しないと事前に届け出ている場合や、家屋・門扉を閉じたりロープを張ったりして立ち入らないでほしい意思を明らかに示している場合は敷地外からの目視に留めていた。

 不適切行為に気づいた経緯は、2023年10月8日、3連休の中日の日曜日、ある1組が2人で宅地を回っていた際、もう1人が20分も掛かっていたことを不審に思ったからだった。探すと、門扉が閉まって立ち入り禁止の意思表示がされているにもかかわらず、立ち入って建物の解体が進む様子を撮影していた。自身のフェイスブックに投稿していたという。解体工事で敷地を分ける構造物が一部取り払われていたため、門扉が閉まっていても敷地に入れる状況になっていた。バディを組むもう1人が別の巡回員に不適切行動を伝えた。巡回員は10月12日に同プロジェクトの事務局職員に報告した。フェイスブックの投稿を確認し、業務を監督する双葉町住民生活課に報告した。町から事情聴取の上、他の巡回員にも不適切行動がないか追加調査するよう指示された。

 無断立ち入りし写真を撮影した巡回員の投稿は、巡回員の許可を得て削除した。同プロジェクトの渡辺次長によると、巡回員は「大震災・原発事故で受けた双葉町の悲惨な記憶が風化しないように現状を伝えたかった」と釈明したという。

 同12日から実施した全13人の巡回員への聞き取りでは、無断立ち入りのほかに道路や線路脇、公共施設敷地、民有地10カ所内に自生している果実や山菜の無断採取が判明した。生えている場所を巡回員同士で共有し、採った後は自分たちで消費していたという。果実は柿や栗、銀杏などで、実がなる時季を考えると、業務が始まった2021年秋から無断採取は始まっていたとみられる。

 町住民生活課長が10月17日から11月27日にかけて民有地10カ所の全地権者に電話や文書で謝罪した。同27日に謝罪が完了したことをもって町と同プロジェクトが不適切行動を発表。同プロジェクトは巡回員13人を自宅謹慎にした上で、11月23日以降の巡回業務を停止した。

 一連の不適切行動は10月上旬の写真投稿で発覚した。業務を停止したのは11月23日以降だから、その間は継続していたことになる。

 「人手が足りないという難しいところもありました。代わりの要員を採用するといっても地域に精通した人材をすぐに見つけられるわけではなかった」(渡辺次長)

 この事業は復興庁→双葉町→ふたばプロジェクトの順に再委託されている。土屋品子復興相は町の発表と同時に11月27日に事案を公表した。

 《本事案発覚後、直ちに、SNSに無許可で写真を投稿した巡回員を業務から外したほか、全巡回員に再教育を行うなど再発防止策を徹底、更に11月23日より、果実等の無断採取を含めて問題行為を行った全ての巡回員を戸別巡回業務から外したところです》

 さらに町の情報を上げるスピードが遅かったことを指摘した。

 《本事案については、発覚後、双葉町から福島復興局への報告に3週間かかり、また、復興局から復興庁本庁への報告にも3週間かかり、これによる対応の遅れがありました》

 復興庁の予算を使った防犯パトロール事業は浪江、大熊、富岡、楢葉、広野、葛尾の6町村でもあったが、多くは青色灯を付けた車両で敷地外を回り、民間警備会社に委託しているところが多い。浪江町は住民を特別職として雇い、チームで巡回し、不審な点を見つけたら敷地内に入る形を取っている。

 ある自治体の担当者は「無断で立ち入るだけでなく、果物や山菜を取るのは異常」。別の自治体の担当者は「復興庁に報告するため、本自治体でも不適切事案の調査を進めています」と忙しい様子だった。

任される数々の業務

 双葉町の巡回で不適切事例が横行していたのは、戸別巡回という防犯としては積極的な種類だったこと、それをまちづくり会社が担っていたことが挙げられる。論文「福島県の原子力被災地におけるまちづくり会社の実態と課題に関する研究―双葉郡8町村のまちづくり会社を対象として―」(但野悟司氏ら執筆、公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集21号、2023年2月)によると、広野、楢葉、富岡、大熊、浪江、葛尾、双葉、川内の8町村のまちづくり会社のうち、防犯パトロールを実施しているのはふたばプロジェクトのみだった。

 法人登記簿によると、同プロジェクトは2019年に設立した。当初から実務を担う事務局長には町職員が出向し、現在は宇名根良平氏。理事には徳永修宏副町長や町商工会関係者が名を連ねる。事業目的は《「官民連携・協働によるふるさとふたばの創生」を基本理念とし、民間と行政の協働による町民主体のまちづくりを牽引するとともに、町民のための地域に根ざした事業を展開し、町の将来像に向けた魅力あるまちを創造すること》としている。主な事業は①各種イベント支援や町民の交流を促進する事業、②双葉町及び町民に関連する情報発信事業、③空き地・空き家の活用による賑わい再生事業など。戸別巡回業務は異色だった。

 町が関わっている組織故に信頼があり、敷地に立ち入る戸別巡回を任された。だが、実際に携わった60~80代の男性たちが不適切行動をしていた以上、委託した町や巡回員を指導した事務局がどの程度、法令順守を徹底していたかが問われる。同プロジェクトの本分は交流促進による活性化だが、町には民間事業者が戻らず、あらゆる仕事を任されている状態。手を広げていた中で起きた事案だった。

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