【玄葉光一郎】衆院議員空虚な「知事転身説」

【玄葉光一郎】衆院議員空虚な「知事転身説」

 数年前から突如として囁かれるようになった玄葉光一郎衆院議員(59)の「知事転身説」。背景には野党暮らしが長くなり、このまま期数を重ねても出世の見込みが薄いため「政治家として新たなステージを目指すべきだ」という支持者の思いがある。内堀雅雄知事(59)の3期目の任期満了日は2026年11月11日。次の知事選まで3年余り、玄葉氏はいかに行動するのだろうか。本人に真意を聞いた。

首相になれない状況を悲嘆する支持者

首相になれない状況を悲嘆する支持者

 玄葉氏の知事転身説を耳にするようになったのは、内堀氏が再選を果たした2018年の知事選が終わってからだろうか。

 「内堀知事は2期目で復興の道筋をつけ、3期目を目指す気はないようだ」

 こう訳知り顔で話す人に、筆者は何人も会ったが、では、その人たちが何か根拠があって話していたのかというとそうではない。政治談議は時に、あれこれ言い合うから盛り上がるわけで「誰かが『2期で終わるんじゃないか』と言っていた」「オレもそう思う」などと話しているうちにそれがウワサとなって広まり、いつの間にか「定説」として落ち着くのはよくあることだ。

 ならば、内堀知事が2期8年で引退するとして「次の知事は誰?」となった時、多くの人が真っ先に思い浮かべたのが玄葉氏だったと推測される。

 なぜか。

 一般的に「次の市町村長は誰?」となれば、大抵は副市町村長、市町村議会議長、地元選出県議などの名前が挙がる。同じように「次の知事は誰?」となれば、副知事、官僚、国会議員などが有力候補になる。

 消去法で見ていこう。

 現在の鈴木正晃、佐藤宏隆両副知事は、総務部長などを歴任したプロパーで、優秀なのかもしれないが知名度はない。

 官僚は、探せばいくらでも見つかるし、政治家転身への意欲を持つ官僚もいるが、内堀氏が総務省出身であることを踏まえると、2代続けて〝官僚知事〟は抵抗がある。

内堀雅雄知事
内堀雅雄知事

 残る国会議員は元参院議員の増子輝彦氏(75)や荒井広幸氏(65)の名前を挙げる人もいたが、民間人としてすっかり定着し、年齢も加味すると現実的ではない。

 というわけで現職の国会議員を見渡した時、多くの人が「最適」と考えたのが玄葉氏だったのだろう(誤解されては困るが、本誌は玄葉氏が知事に「適任」と言っているのではない。多くの人が「最適」と考える理由を探っているだけである)。

 理由を探る前に、玄葉氏の政治家としてのルーツを辿る。

玄葉光一郎衆院議員
玄葉光一郎衆院議員

 1964年、田村郡船引町(現田村市)に生まれた玄葉氏は、父方の祖父が鏡石町長、母方の祖父が船引町長、のちに結婚する妻は当時の佐藤栄佐久知事の二女と、幼少のころから政治と縁の深い家庭環境に身を置いてきた。

 安積高校、上智大学法学部を卒業後は政治家を志し、松下政経塾に入塾(8期生)。4年間の研修・実践活動を経て1991年の福島県議選に立候補し、県政史上最年少の26歳で初当選を果たす。県議会では自民党に所属したが、わずか2年で県議を辞職。その年(93年)の衆院選に福島2区(中選挙区、定数5)から無所属で立候補し、並み居る候補者を退け3位で議員バッジを手にした。

 当選後は自民党を離党、新党さきがけに所属した。以降は旧民主党、民主党、民進党、無所属(社会保障を立て直す国民会議)、立憲民主党と連続当選10回の議員歴は、民主党が一度は政権交代を果たし、玄葉氏も外務大臣や内閣府特命担当大臣、党政策調査会長などの要職を務めたものの、野党に身を置く期間が9割近くを占める。

 それでも、選挙では無類の強さを発揮してきた。初めて小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の衆院選こそ選挙区で荒井広幸氏に敗れ、比例復活当選に救われたが、次の衆院選で荒井氏とコスタリカを組む穂積良行氏を破り、次の次の衆院選で荒井氏も退けると、以降は対立候補を大差で退けてきた。もちろん玄葉氏の背後に、当時絶大な権勢を誇った岳父・佐藤栄佐久知事の存在があったことは言うまでもない。

 しかし、栄佐久氏が県政汚職事件で失脚し、前々回、前回の衆院選では自民党の上杉謙太郎氏(48、2期、比例東北)に追い上げられたことからも分かるように、かつてのいかに得票数を増やすかという攻めの選挙から、近年はいかに得票数を減らさないかという守りの選挙に変わっていった。それもこれも野党議員では政府への陳情が通りにくい中、久しぶりに誕生した与党議員(上杉氏)に期待する有権者が増えていた証拠だろう。

 旧福島3区では、選挙区は玄葉氏の名前を書くが、比例区は自民党に投票する、あるいは県議選や市町村議選は自民系の候補者を推すという〝ねじれ現象〟が長く続いている。原因は玄葉氏の政治家としての出発点が自民党で、佐藤栄佐久氏も同党参院議員を務めていたから。野党暮らしが長いとはいえ、支持者たちも元はと言えば自民党なのである。

 そうした中で聞こえるのが「新党さきがけに行かず、自民党に留まっていれば……」と落胆する声だ。今の玄葉氏は、野党に身を置いたからこそ存在するわけで「たられば」の話をしても仕方ないのだが、根っこが自民党だけに残念がる人が多いのは理解できる。

 なぜなら、仮に自民党で連続10回当選を重ねれば、主要閣僚はもちろん総理大臣に就いている可能性もあったからだ。来年還暦の玄葉氏はその若さも魅力になったはず。

 ただ如何せん野党の身では、総理大臣は夢のまた夢。ならば政権交代を成し遂げるしかないが、政策の一致点が見いだせない野党はまとまる気配がない。玄葉氏が所属する立憲民主党も支持率が低迷し、野党第一党の座も危うい。選挙でも上杉氏に徐々に迫られている。

 だから、支持者からは「このまま野党議員を続けていても展望が開けない」という本音が漏れるようになっていたし、それが次第に「いっそのこと、政治家として新たなステージを目指した方がいい」という期待へと変わっていったのだろう。

陳情受け付けに消極的

陳情受け付けに消極的

 とはいえ、もし玄葉氏が知事選に立候補するとなった時、衆院議員としてどのような実績を残したかは冷静に見極める必要がある。

 震災・原発事故当時、玄葉氏は外務大臣をはじめ民主党政権の中枢にいたが、地盤の旧3区をはじめ福島県に何をもたらしたか。玄葉氏はもともと、陳情をおねだりと評し「そういうことは避けた方がいい」と語っていた(※)。昔からの支持者も「玄葉君は若いころから(陳情の受け付けに)消極的だった」と認めている。

※河北新報(2008年3月17日付)のインタビューで 「おねだり主義」という言葉を使っている。

 上杉氏の支持者からはこんな皮肉も聞こえてくる。

 「旧3区内を通る国道4号は片側1車線の個所が未だに残っている。それさえ解消できていない人が知事と言われても……」

 旧3区の石川郡の政治関係者は、同郡が新2区に組み込まれたことでこんな体験をしたという。

 「新2区から立候補を予定する自民党の根本匠衆院議員(72、9期)に『この道路をこうしてほしい』『あの課題を何とかしたい』とお願いしたら、その場から担当省庁に電話し即解決への道筋が示されたのです。実力者に陳情すればこんなに早く解決するのかと驚いたと同時に、根本氏も『石川郡はこんな些細な課題も積み残されているのか』と嘆いていました」

 陳情を受け付けることは選挙区への我田引水ではなく、県民生活を良くするための手段だ。玄葉氏が知事になれば県民にとってプラスと感じられなければ、地元有権者の「衆院議員から知事になっても変わらないんじゃない?」との見方は払拭できないのではないか。

 こうしたミクロの視点と同時にマクロの視点で言うと、東北大学大学院情報科学研究科(政治学)の河村和徳准教授は本誌昨年10月号の中でこのように語っていた。

 「問題は玄葉氏が知事選に出るとなった時、自公政権と正面から交渉できるかどうかです。政権はおそらく、玄葉氏が知事選に出たら『野党系の玄葉氏とは交渉できない』とネガティブキャンペーンを展開するでしょう」

 政権に近い内堀知事が、原発事故の海洋放出問題で国を一切批判しないのは周知の通り。野党系の玄葉氏が知事になった時、自公政権に言うべきことは言いつつ、福島県にとって有意義な予算や政策を引き出せるかどうかは、知事としての評価ポイントになる。

「次の展望」

「次の展望」

 結局、内堀氏は2022年の知事選で3回目の当選を果たしたが、既にこのころには玄葉氏の知事転身説は頻繁に聞かれるようになっていた。

 本誌2021年12月号でもこのように書いている。

 《玄葉氏をめぐっては、このまま野党議員を続けても展望がなく、衆院区割り改定で福島県が現在の5から4に減れば3区が再編対象となる可能性が高いため、「次の知事選に挑むのではないか」というウワサがまことしやかに囁かれている。

 「玄葉は内堀雅雄知事の誕生に中心的役割を果たした。その内堀氏を押し退け、自分が知事選に出ることはあり得ない」(玄葉事務所)》

 玄葉氏が内堀氏の知事選擁立に中心的役割を果たしたのは事実だ。内堀氏が初当選した2014年の知事選の出陣式ではこう挨拶している。

 「内堀雅雄候補と私は14年来の付き合いであり、この間、内堀さんの安心感と信頼感を与える仕事ぶりを見てきた。3・11以降、内堀候補は副知事として最も適切なタイミングで最も適切な対応をとってきた。県職員、市町村長からも絶大な信頼を受けている。県民総参加で県政トップに内堀雅雄候補を推し上げ、復興を成し遂げてもらいたい」

 これほど強いフレーズで支持を呼びかけた内堀氏を自ら押し退けて知事に就くことは、玄葉事務所も述べているように確かにあり得ない。

 ただ、内堀氏が今期で引退するとなれば話は別だ。政治家が自らの進退を早々に第三者に告げることは考えにくいが、内堀氏と玄葉氏は共に1964年生まれの同級生であり、玄葉氏が「14年来の付き合い」と語っているように両者が親しい関係にあるなら、阿吽の呼吸で「私の次はあなた」「あなたの次は私」と意思疎通が図られても不思議ではない。

 実際、玄葉氏が知事選立候補を決意したのではないかと思わせる出来事もあった。

「10増10減」で福島県の定数が4に減った

【「10増10減」で福島県の定数が4に減った】馬場雄基衆院議員
馬場雄基衆院議員

 衆院小選挙区定数「10増10減」で福島県の定数が4に減ったことを受け、旧3区選出の玄葉氏は次の衆院選では新2区から立憲民主党公認で立候補する予定。しかしその前段には、旧2区を地盤とする馬場雄基衆院議員(30、1期、比例東北)との候補者調整が難航した経緯がある。

 立憲民主党県連は党本部に対し、現職の両者を共に当選させる狙いから、同党では前例のないコスタリカ方式を採用するよう打診した。しかし、党本部はこれを見送り、玄葉氏を選挙区、馬場氏を比例東北ブロックの名簿1位で擁立する方針を決定したが、玄葉氏が一度はコスタリカを受け入れたことに、選挙通の間ではある憶測が広まった。

 あらためてコスタリカ方式とは、同じ選挙区に候補者が2人(A氏、B氏)いた場合、A氏が選挙区、B氏が比例区で立候補したら、次の衆院選ではB氏が選挙区、A氏が比例区に交代で回る方式である。ただ、比例区は政党名での投票で、全国的な著名人でもない限り顔と名前を覚えてもらえないため、コスタリカの当事者たちは必ず、自分の名前を書いてもらえる選挙区からの立候補を強く望む。

 前述・自民党の荒井広幸氏と穂積良行氏がコスタリカを組み、玄葉氏にことごとく敗れたのは、名前を書いてもらえない比例区に回っている間に、玄葉氏が顔と名前を有権者に浸透させたことが影響している。

 そんなコスタリカ方式の弊害を身を持って知る玄葉氏が、馬場氏との間で受け入れたとなったから、選挙通たちは「玄葉氏は最初に選挙区から立候補し、あとは知事選に挑むので、結局、比例区から立候補する状況にならない。だからコスタリカを受け入れたのではないか」と深読みし、知事転身説がより色濃くなったのである。

 当の玄葉氏はどのように考えているのか。本誌は衆院解散もあり得るとされていた6月上旬、本人に質問し、次のようなコメントを得た。

 「確かに皆さんのところを回っていると『首相になれないなら知事選に』と言われます。ただ、今後どうしていくかはこれからの話。いずれにしても、まずは次の総選挙です。選挙区で勝たないと、自分にとっての『次の展望』はない。選挙区で必ず勝つ。そうでないと『次の展望』もないと思っています」

 「私たちの政権が続いたり、現政権がブレる可能性があれば逆に(知事転身を)言われないのかもしれませんね。今はそういう政局じゃないから(知事選と)言われるのかな。ま、なんて言ったらいいのか。うーん、それ以上のことは触れない方がいいかもしれませんね。はい、これからしっかり考えます」

 含みを持たせるような発言だが、周囲から知事転身を勧められていることは認めつつ、自ら「目指す」とは言わなかった。

新2区でも〝ねじれ現象〟

新2区でも〝ねじれ現象〟

 ちなみに本誌には、支持者や立憲民主党関係者から「本人から『知事を目指す』と挨拶された」「いや、本人が『目指す』と言ったことは一度もない」という話が度々伝わってくるが、真偽は定かではない。

 「選挙区で必ず勝つ」と発言している通り、玄葉氏は今、新2区の中心都市である郡山市内を精力的に歩いている。さまざまなイベントや会合に顔を出し、各種団体や事業所からも「×回目の訪問を受けた」との話を頻繁に聞く。玄葉氏自身も「当選がおぼつかなかった初期の選挙時並みに選挙区回りをしている」と語っている。

 玄葉氏は郡山市(旧2区)に縁がないわけではない。母校は安積高校なので同級生や先輩・後輩は大勢いる。佐藤栄佐久氏も同市出身で政界を離れて17年経つが、今も存在する支持者が玄葉氏を推すとみられる。経済人の中にも旧3区時代から支えてきた人たちが一定数いる。

 同じく新2区から立候補を予定する根本匠氏はそうした状況に強い危機感を抱いており、同区は与野党の大臣経験者が直接対決する全国屈指の激戦区として注目されるのは確実だ。玄葉氏が本気で知事を目指すなら次の衆院選は負けられないが、根本氏も息子の拓氏にスムーズに地盤を引き継ぐため絶対に負けられない戦いとなる。

根本匠衆院議員

 ある建設業者からはこんな本音も聞かれる。

 「今までは無条件で根本先生を支持してきた。ウチの事務所にも根本先生のポスターが張ってあるしね。でも、玄葉氏が出るとなれば話は変わってくる。国政レベルで考えれば与党の根本先生を推した方が断然得策。しかし玄葉氏は、今は野党だが将来、知事になる可能性がある。いざ『玄葉知事』が誕生した時、あの時の衆院選で玄葉氏を応援しなかったとなるのは避けたいので、次の衆院選は、表向きは根本先生を支持しつつ玄葉氏への保険もかけておきたいという業者は多いと思う」

 旧3区で見られる〝ねじれ現象〟が新2区でも起こりつつある。知事転身説の余波と言えよう。

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