【いわき市】内田広之市長インタビュー

【いわき市】内田広之市長インタビュー

うちだ・ひろゆき 1972年3月生まれ。東北大教育学部卒。東大大学院教育学研究科修了。文部科学省教育改革推進室長、福島大理事兼事務局長などを歴任し、2021年9月の市長選で初当選。

 ――市長就任から1年半が経過しました。この間を振り返って。

 「就任当時、市が抱えているさまざまな課題について、『見える化』が図られておらず、青写真も示されていない現状にありました。そのため、昨年1年かけて議論を重ねながら『いわき版骨太の方針』を策定し、今後のビジョンをお示ししました。

 教育・子育て、農林水産業の担い手不足、医師不足、産業振興、若者の雇用確保、公共交通整備などについて、骨格をつくり見通しを示しました。さらに各地区の区長を中心とした話し合いの場に足を運び、課題や取り組み状況を共有しました」

 ――優先的に取り組みたい課題は。

 「特に重視しているのが、若者の人口流出です。高校卒業後、進学・就職で約6割が首都圏などに流出します。人口減少につなげないためには、地元に帰りたいと思ってもらえる環境づくりが大事であり、産業振興や若者の雇用確保を生み出すことが大事です。本市は製造品出荷額等が東北で1位の都市であり、ものづくりや素材産業の分野で、いかに若者にとって魅力的な雇用を生み出せるかがポイントになると思います。

 4月1日、浪江町に福島国際研究教育機構(エフレイ)が開設されました。これらを見据えて、本市では課長級のエフレイ連携企画官を2人配置しました。また、4月15日には市役所内郷支所にエフレイの出張所が開設され、市内で設立記念シンポジウムが開催されました。世界トップレベルの研究者が集まる同機構と連携し、市内の既存産業と研究が融合していくことで、専門性が高い分野の若者に市内で働いていただけることを期待しています。若い力が活発になることが真の復興であり、今年はスタートの年だと思っています」

 ――新型コロナウイルスの5類移行に伴い、観光振興をはじめコロナ禍で制限されてきた事業に着手できることと思います。

 「コロナ禍前の市内入り込み客数は約800万人でしたが、2022年は約540万人でした。今後はウィズコロナの時代になり、一時的に感染者が増加しても、行動制限・イベント自粛を呼び掛けるのではなく、各自が対策しながら開催していくことになると思います。

 本市では昨年から花火大会、いわき七夕まつり、いわきサンシャインマラソンなどのイベントを順次復活しており、海水浴場もオープンしました。今年はそのほかのイベントも本格的に再開する予定で、市外から訪れる人をしっかりおもてなししていきたいと考えています。

 入り込み客数増加という意味では、サッカー・いわきFCのJ2昇格により、同チームや対戦チームのサポーターが多く足を運ぶようになったことも大きいです。先日、JR磐越東線のいわき―小野新町駅間が赤字になっているという発表がありましたが、いわきFCの試合などと連携し利用を促すのも一つの方法だと思います。沿岸部にサイクリングロード『いわき七浜街道』を整備しているので、自転車関連の合宿なども積極的に誘致したいですね」

 ――市では健康ポータルサイトを設立し、健康指標改善に取り組んでいますが、今後の展望は。
 「65歳の人が元気で自立して暮らせる年数を算出した『お達者度』を県内13市で比較すると、本市は男女とも県内最下位です。特定健康診断の受診率もワーストで心臓・脳血管疾患による死亡割合は他市と比べて高い。健診を怠り、病気が悪化して治療が遅れる傾向が読み取れます。塩分摂取率は全国平均より高く、生活習慣も健康指標の低さに影響していると思われます。
 子どものうちからの啓発が必要だと考え、現在、市内のモデル校の中学2年生を対象とした事業を実施しています。実際に早期指導は改善効果があることが分かったので、今後対象校を拡大し、学校を通して家庭に健康意識が広まることを期待しています。また、高齢者向けにフレイル(加齢により心身が衰えた状態)の疑いがないか検査を実施したり、スポーツイベントで血液検査や血圧測定を行ったり、シルバーリハビリ体操を普及させることで、介護予防の取り組みも広めています。加えていわき市医師会、いわき市病院協議会と連携協定を締結し、健康寿命を延ばす取り組みも進めています」
 ――近年、激甚化する自然災害への対策が不可欠となっています。
 「さまざまな対策を講じていますが、その中から2つ紹介します。
 1つは要支援者の把握です。東日本大震災や令和元年東日本台風では、思うように動けない要支援者が逃げ遅れて亡くなったケースが確認されました。そこで個別に避難計画を策定することを決め、特に、災害リスクが高い地域の要支援者からヒアリング調査を実施し、災害時の避難体制の整備を進めています。次の災害時は『逃げ遅れゼロ』を実現したいと思います。
 もう一つは防災士の活用です。本市には防災士の資格を持つ人が県内最多となる900人以上います。市内には町内会が529団体あり、403団体の自主防災組織が立ち上げられていますが、人口減少や高齢化の進展の中、訓練などの活動状況に差が生じてきているようです。そこで、防災士に災害時における地域のリーダーとして活躍してもらおうと考え、昨年、全国初となる『登録防災士』制度を作りました。
 令和元年東日本台風で越水した夏井川や好間川は川底の掘削がだいぶ進んでおり、同じ規模の雨が降っても水害は防げそうですが、自然災害の甚大化が進んでいるので、防災対策が重要になると考えています」
 ――国・東京電力は福島第一原発敷地内に溜まるALPS処理水の海洋放出を春から夏にかけて実施する方針です。沿岸部の自治体としてどのように受け止めていますか。
 「国・東電は住民向けの説明会を開いたり、福島県産品のPRイベントを開催しており、アンケートなどを見る限り、国民への理解も少しずつ広まっているように思います。ただ、まだ合意が整う途上にあります。国・東電は漁業関係者の皆さんに対し『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』と約束しているので、まずは理解醸成をしっかりやってほしい。そのためには、対話を重ねるしかないのではないでしょうか」
 ――今年度の重点事業について。
 「特に強調しておきたいのが、子育て関係の施策です。国の方で異次元の子育て支援策を掲げているので、本市でも連動して手厚くしていきたい。子育て世帯の支援としては、部活動などで全国大会などに出場する選手への支援メニューを充実したり、インフルエンザの予防接種費用の助成を実施しました。学校給食の無償化についても全国で議論になっているので、市長会を通じて国へ伝えていきたいと思います」

いわき市のホームページ

掲載号:政経東北【2023年5月号】

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