【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2023.12)

【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2023.12)

 わたなべ・ひろみ 1946年生まれ。福島大経済学部卒業後、福島ヤクルト販売入社。2012年に福島商工会議所副会頭。13年11月に会頭就任。現在4期目を務める。

 福島商工会議所は職員らの力を結集し、渡邊博美会頭の下、伴走型支援で会員事業所の経営環境の足腰強化に力を入れている。経済に打撃を与える慢性的な人手不足と資材高騰は福島駅前東口再開発に影響し、建設費用が増加。完成が1年延期され2027年度の予定になった。「福島駅東西エリア一体化推進協議会」会長も務める渡邊氏に再開発の行方などを聞いた。

足腰の強い経営環境を共に目指していく

 ――新型コロナウイルスが感染症法上の5類に引き下げ後、福島わらじまつりが通常開催されるなど新型コロナ禍前の活気が戻ってきました。現況を教えてください。

 「わらじまつりは今年、まず6月に青森市で行われた東北絆まつりに参加しました。賑わいを見て、福島のイベントも賑わうぞと期待が膨らみました。祭りは参加者が熱狂し、笑顔が観客に伝播します。その光景が復活したのは感慨深いものです。7月末に『ふくしま花火大会』があり、熱気が高まったまま、8月3、4日のわらじまつりで最高潮となりました。大相撲の福島巡業が4日に行われたため、福島市の夏は例年にない盛り上がりでした。

 福島駅東口の再開発工事中は賑わい創出のため駅前通りやまちなか広場では週末に各種イベントが開かれて盛況です。県立医大保健科学部と福島学院大学の駅前キャンパスがあるため、多くの若者がイベントに関わっています。学生ならではの自由な視点には目を見張るものがあり、若手も参入しやすい雰囲気が生まれています。これらを起爆剤に、来年はもっと魅力のある街になるよう盛り上げていきます」

 ――円安と物価高が深刻な問題となっています。人手不足や後継者問題も深刻です。会員事業所からはどのような声がありますか。

 「人手不足は日本を覆う問題です。福島県は特に女性の生産年齢人口の流出が全国と比べて高いというデータがあります。要因は様々ですが、女性が魅力を感じる産業を用意できていないという点で、我々経営者にも責任があると感じています。働く場所としてもそうだし、結婚し子育てをする場として不安を感じ、学校を出ると福島を離れてしまう。

 価格転嫁について会員事業所を調査していますが、問題なく行っているという事業所はまずありません。燃料費の高騰が特に打撃で、賃金を上げて今いる従業員を雇用し続けられるよう経営者は奮闘しています」

 ――資材価格高騰で福島駅東口再開発が1年先送りとなりました。会頭自身も「福島駅東西エリア一体化推進協議会」の会長を務めていますが会議所ではどのような対応をしていきたいですか。

 「百貨店の中合が閉店してから福島駅前の歴史あるランドマークが無くなってしまいました。特に私ども高齢者は駅前が一番賑わっていた時代が頭に残っていますから衝撃は大きかった。当会議所には往時の駅前の活気を知る方たちから、なぜ中合を閉めるのかと惜しむ声が聞こえてきました。地方都市では、駅前の活気は衰退し、賑わいは駅の中だけに収まってしまいました。

 福島市は東北新幹線の駅があり、交通の便では恵まれています。行政施設とコンベンション施設が駅前に集まると都市機能が向上します。さらに大切なのは、医大保健科学部、福島学院大のキャンパスがあり、近くに大原綜合病院が位置している点です。再開発地区には既に暮らしに密接な教育機関や病院があります。東京や仙台などの大都市では地代が高い分、行政や教育、医療機関の集約は困難でしょう。その点で福島市は再開発で機能を集約しやすい強みがある。自家用車を持っていなくても誰もが暮らしやすい街になる可能性を秘めています。

 ただ、資材価格高騰が建設に影響を与えています。完成後も維持費を考える必要があります。そして、暮らす人にとって一番良い方策を考えねばなりません。私は今、関係者に建設中の今こそ、腹を割って話そうと言っています。

 資材価格高騰によるコスト上昇や地方の再開発事業の難しさをみると、予算や持続可能性に厳しい部分があるのであれば、福島に住む人にとって一番いいやり方を駅西口と一体化して考える必要があります。後世に悔いが残らぬように、知恵を絞るのは今しかできません。見栄や他の都市に負けたくないという発想ではなく、自分たちのためになる形を追求したいです。

 東北中央道ができたことで、福島市には相馬市や山形県米沢市からも訪れるようになりました。福島の魅力は分析すればたくさんあるはずです。構造物だけどんどん造って、継続できませんでしたでは済みません。行政とまちづくりセンター、当会議所で連携を密にして取り組んでいきます」

 ――福島市出身の作曲家、故・古関裕而さんが野球殿堂入りしました。街づくりにどうつなげますか。

 「古関先生をモデルにしたテレビドラマで火が付き、記念の音楽祭や作曲賞の創設、夫人の金子さんの出身地である愛知県豊橋市とのつながりが生まれました。豊橋市の方たちには花火大会でも筒花火を披露していただきました。

 野球のオール早慶戦を11月26日に行いました。早稲田大と慶応大の応援歌をどちらも古関先生が作曲している縁からです。現役生やOBが試合をし、市や当会議所も準備に関わりました。応援合戦は盛り上がりました。古関先生の縁で福島に若い人が来てくれた。試合後も果物や温泉を楽しんで、福島の魅力を知っていただいたようです。福島の魅力はたくさんありますが、古関先生はそれらをつなぐ要です」

 ――今年度取り組んでいる重点施策について。

 「激変する経営環境に対応できる、足腰の強い経営ができるよう企業や商店の伴走型支援に取り組んでいきます。具体的には人手不足や資材高騰、デジタル移行に対応します。セミナーで一方的に教えるだけではなく、職員が赴いて親身に対応できるよう、商工会議所では人づくりを進めています。来年のカレンダーを配る時期ですが、会員事業所には職員が直接回って配り、ネット環境の整備や人手の確保、新商品開発に使える便利な制度を紹介するなど対面であらゆる相談に乗っています。若手職員が出向くことで気兼ねなく相談できるとの声があります。

 浮かび上がった課題は、当会議所の各種委員会で共有して解決策を編み出します。いくつかの委員会では女性や会議所議員になってから1年以内の若手メンバーを委員長に据え新しい風を取り込んでいます。多種多様な意見をまとめていくのは並大抵ではありませんが、その分チャレンジングな発想が生まれます。時代の変化に合わせて新たな経営視点を会員事業所と一緒に磨き上げていきたいです」

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