【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2023.12)

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【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2023.12)

 たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。

 ――5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられました。今年は相馬野馬追が通常開催されるなどイベントが戻りつつありますが市内の状況は。

 「ワクチン接種への関心が大分薄れています。新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられる一方、ワクチンの副反応への警戒が残っていることが接種率低下につながっているようです。重症化率が高い高齢者や基礎疾患を抱える方を念頭に接種体制を整えています。高齢者が重症化しやすいのは、現在流行しているインフルエンザについても同じです。個人の意思を尊重した上で接種を勧め、流行と重症化リスクを下げるよう対応していきます。催しはできるだけ活発にやりたい。市の新春のつどいは、来年は行います」

 ――一昨年2月、昨年3月に福島県沖地震が発生し、相馬市は2年連続で震度6強の揺れに見舞われました。この間、市内では台風などによる水害なども発生しましたが、復興状況と対策はいかがでしょうか。

 「多くの住宅が損壊しました。行政として公費解体などできる支援はしてきたつもりですが、被害に遭った方の人生への影響は計り知れません。私の家も大規模半壊で建て替えざるを得ませんでした。70歳を過ぎて家を建てるのは容易でない。解体が必要な家屋は千数百軒で、約90%は解体が済んでいます。難しい判断なので解体はせかさず、時期を待って行政の手を差し伸べます。解体と移転が進むと更地が増えます。街なかを散歩すると空き地が増えているのが分かります。行政として、1年単位ではなく、10年、20年先を考えてリカバリーしなくてはなりません。リカバリーが新たな景観やビジネス創出につながってほしい。

 建て替えてまた再起した飲食店やホテルもあり、繁盛している店舗もあります。市としては、もう被害には遭わせないという気持ちで水を吸い上げるポンプ車を新たに2台配備し、さらに宇多川と小泉川の河川改修をしました。過去には水田で保水効果があった土地が宅地化でアスファルトになるなど土地の変化が水害に与える影響は大きいですが、対策を抜かりなく行っていきます」

 ――福島第一原発の処理水が放出されました。「常磐ものを食べて応援キャンペーン」が好調ですが観光の状況はいかがでしょうか。

 「私が知る限りでは、マイナスの影響はそれほどありません。IAEAの厳しい基準を各国が支持しています。米国のエマニュエル駐日大使が相馬市を訪れ、意見交換をしました。海洋放出については大丈夫、つまり影響がないことを示す科学的な根拠があるという趣旨のことを言ってくれました。

 中国内から日本の公共機関や店舗へ嫌がらせの電話が相次ぎ、それに対する反発で国民が冷静になった面はあります。相馬市内でも学校や病院、飲食店に中国語の電話や無言電話がずいぶんあり、業務を妨害されました。市民の間に科学的なデータに基づいて考えようという気持ちが芽生えました。

 全国市長会会長として、教育現場で放射線を正しく学ばせてほしいとこれまで訴えてきました。高校入試に出題するように求めましたが、実現はまだ遠いです。副読本だけではリテラシーは十分に身に着かないと思います。

 新たな名産として期待がかかるふぐの季節が始まりました。地元料理店での提供も徐々に増え、名物料理としても今後に期待ですが、漁業資源としては好調です。かねてからの名産地である山口県下関市のふぐ取扱業者が相当量買い取ってくれています。この前、全国ふぐ連盟の方々が相馬市を訪れ意見交換をしました。下関近海では温暖化の影響で近年ふぐが不漁です。相馬で獲れたふぐで下関のふぐ産業を支え、双方に実りあるようにしたいです」

 ――今年度取り組んでいる重点施策についてお聞かせください。

 「行政の役割は困った人たちに対して救いの手を伸べること、すなわち『不幸の緩和』です。自然災害や疫病への対応など住民の生活環境を守る義務を果たしていきます。無責任に夢みたいなことを語るよりも、目の前の義務を果たすことが一番大事なことだと思っています。

 物価高で困窮者が増えています。政府が総合経済対策を進めていますので、市町村分について、生活困窮者には特に対応していきたいです」

 ――全国市長会会長として政府に求めたいことは。
 「たくさんあります。11月15日には副会長ら8人で与党の両政務調査会長と、内閣官房長官らを訪ね、『減税する際に市町村に迷惑を掛けない』との言質を取ってきました。減税とは地方自治体の税収減も意味するからです。

 これまで他には児童・生徒が1人1台のタブレット端末で学ぶGIGAスクール構想の財源確保を要望してきました。同構想は5年を迎え、タブレット端末の更新を迎えます。5年に1回更新費用をその都度要望するのは非効率なので恒久財源を付けてほしいと訴えました。文部科学省は基金で対応することになりました。

 来年から新型コロナワクチン接種が有料となりますが、単価が高いと市町村間の公費負担に差が出るので、負担に格差がないようにしてほしいと政府に要請しています」

 ――今後の抱負を。

 「重点施策と重複しますが、不幸な事態を最大限に緩和することです。長い目で見ると人口減少が不幸な事態です。それを解消するには企業誘致に励み、県外に流出が進む女性の働く場所をつくらないといけない。今年は企業誘致がまとまって、市内の工業団地用地をいくつか売却しました。人口減少に歯止めをかけるのは難しいですが、対策を積み重ねていかなければなりません。野球に例えればホームランを打つのではなく、バントでヒットを狙って、着実に返すような守り主体にしていかなければならない。

 地道にコツコツが私の信条です。守りを継続していけば攻めに転じるチャンスが必ずある。一つが浜の駅松川浦です。浜の駅には原発事故後の風評被害の中、相馬の魚介類を味わってもらい『安全なんだな』と来場者に納得してもらう役割を担ってもらいました。『攻』というよりは『守』です。今や大勢の人で賑わい、近隣食堂に経済効果が波及するほどです。ところが、賑わいが商店街まで波及するかと期待したところに地震と水害、新型コロナ禍が襲いました。

 市を挙げて地道にコツコツ石を積んでいたところを崩された感じです。打撃は大きいですが、『不幸の緩和』のために守り続け、幸福という攻めに転じるために、苦境の中でも対策は積み上げていかねばなりません。行政とはそういうものです」

相馬市ホームページ

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