福島市の夏の風物詩と言えば、福島競馬。今年3月に赴任したばかりの阿部博史福島競馬場長に、現在開催中の〝夏の福島競馬〟の魅力、さらには福島競馬場の歴史や今後の展望について語ってもらった。
阿部博史場長に聞く魅力
2024年第2回福島競馬は6月29日から7月21日の8日間にわたって開催されている。6月30日にはJRA70周年記念ラジオNIKKEI賞(GⅢ)が行われた。7月7日の七夕賞(GⅢ)は例年同競馬場が最もにぎわう日とされており、今年も多くの競馬ファンの来場がみこまれている。
「福島競馬は春、夏、秋の年3回開催していますが、夏は中央開催がお休みとなるため、福島が『メーン開催』となり、全国からファンの方が観戦に訪れます。家族で楽しめる企画が盛りだくさんなので多くの方に足を運んでほしいです」
こう語るのは、今年3月、福島競馬場に赴任した阿部博史場長だ。
1968年、千葉県松戸市出身。東京理科大工学部建築学科卒。1991(平成3)年にJRAに就職。本部の建築関連セクションで施設全般に関する仕事を担当する一方で、東京、京都、新潟の各競馬場、栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)など全国のJRAの施設に赴任した。
実は福島競馬場に赴任するのは今回で2度目だという。
「就職して3年目、初めて実家を離れて寮で暮らすことになったのですが、不安を抱える中で、福島市の方にとても温かく接してもらった記憶があります。今回もその印象は変わりませんね。地域によっては競馬に対しあまりいいイメージをお持ちでない方も多いと思いますが、福島の方は『いつから福島競馬始まるの?』と興味を持っていただけるなど、競馬に対する理解度がとても深くて、ありがたく感じています。前回は一番下っ端だったので気楽な感じでしたが、今回はいい意味で緊張して仕事に取り組んでいます」
馬文化が根付くまち
福島市民の競馬に対する理解度が高い背景には、福島県が古くからの馬産地ということがあろう。国の重要無形民俗文化財・相馬野馬追をはじめ、民芸品の「三春駒」など馬関連の文化も根付いている。
ちなみに、相馬野馬追の由来は平安時代、平将門が下総国葛飾郡小金ヶ原(現在の千葉県松戸・流山付近)で野馬を捕らえ、御神馬として神前に奉納したことだとされている。「赴任後、相馬野馬追について調べたとき、自分の出身地とつながりがあったことを知って運命的なものを感じました」と阿部場長は笑いながら語る。
そうした土壌の中で競馬も県内各地で盛んに行われており、福島市では大正時代に財界人・大島要三氏(福島商工会議所会頭、福島市議、衆院議員などを歴任)を中心に政財界一丸となって競馬場を誘致。1918(大正7)年には政府公認の競馬倶楽部による競馬場が建設された。それが現在の福島競馬場の前身だ。
その後、全国の競馬倶楽部の団体である日本競馬会が組織され、1954年にJRA日本中央競馬会が設立された。
「これほど中心市街地に近く、路面電車の駅まであった(現在は廃線)競馬場は珍しい。それだけ地域振興の起爆剤として競馬場が期待されていたのだと思います。その歴史に敬意を表して、赴任後、信夫山公園に立てられている大島要三氏の銅像に足を運びました」
阿部場長がこれまで最も記憶に残っているレースは1990(平成2)年暮れの有馬記念だという。競馬ブームの火付け役となった〝芦毛の怪物〟オグリキャップの引退レースとして知られる。
「正直、学生時代は競馬に興味がなく、実際に見たこともありませんでした。内定が出たのを機に観戦するようになり、年末、中山競馬場に足を運んだら、約17万人の観客に圧倒された。当時は『大変な会社に入っちゃったな』と思ったし、その大舞台で見事に結果を残したオグリキャップの姿も強烈に印象に残っています。福島競馬場で生観戦したレースだと、1993(平成5)年の七夕賞で勝利したツインターボの見事な大逃げも記憶に残っていますね」
もっとも、近年はこうした生観戦派は少数派。阿部場長によると、現在はスマホやパソコンなどから勝馬投票券(馬券)を購入する「ネット販売」が主流で、馬券売り上げの8割を占めている。
福島競馬場の入場人員の最高記録も1993年七夕賞の4万7391人をピークに減少傾向にあるという。そうした中で、阿部場長は「現地でしか味わえない魅力もある。競馬場に一度足を運んで、サラブレッドの美しさやレースの迫力を体感してほしい」と呼びかける。
「『ウマ娘 プリティダービー』(競走馬をモチーフとしたキャラクターが徒競走レースで競うゲーム)で、若年層の新規ファンが一気に増えました。とはいえ、いきなりネットで馬券を購入するのはハードルが高いと思うので、まずは競馬場に来ていただき、生のレースでしか味わえない迫力や雰囲気を楽しんでもらいたい。そういう意味でも夏の福島競馬はおすすめですよ」
子ども向け企画が充実
夏の福島競馬開催期間中はさまざまなイベントが予定されている。
7月7日の七夕賞(GⅢ)当日には俳優の中村蒼さんが来場し、同レースのプレゼンターを務めるほか、トークショーも行われる。
同13日には子ども向けの「わんだふるぷりきゅあ!ショー」、同20日にはお笑い芸人のはなわさん、ムーディ勝山さん、あぁ~しらきさんによるお笑いライブが催される。
このほか、キッチンカーによるグルメフェス、ポニー体験乗馬、水鉄砲や水ヨーヨー釣りが楽しめる「ウオーターパーク」、懐かし遊具コーナー、「横手焼きそば」などのグルメが味わえる横手市物産展が予定されている。
加えて今年は「JRA創設70周年記念イヤー」ということで、夏休みに入る子どもたちが楽しめる謎解き脱出ゲームや記念展示などのコーナーもあり、例年以上に家族連れの来場者でにぎわいそうだ。
市街地に立地し、敷地が広くない分、直線が短い小回りコースとなっている福島競馬場。ただ、阿部場長は「他の競馬場と比べてスタンドと馬場の距離がとても近くて、一番ライブ感を楽しめると思います」とアピールする。〝建築畑〟出身、かつ現在は競馬を愛し欠かさずレースを観る場長ならではの視点と言えよう。
魅力満載の夏の福島競馬。この機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。