【JA福島五連】管野啓二会長インタビュー【2024.3】

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 かんの・けいじ 1952年生まれ。福島県農業短期大学校卒。JA福島さくら代表理事専務、代表理事組合長を務め、2022年6月の総会でJA福島五連会長に選任された。(写真左は昭和カスミソウ)

 「第53回日本農業賞」で、JA会津よつばかすみ草部会が集団組織の部大賞に選ばれた。JAグループの中期計画の中で、「ふくしま園芸ギガ団地構想」を掲げており、その1つの成果と言える。同賞受賞の意義やギガ団地構想の今後の展望、さらにはALPS処理水の海洋放出の影響などについて、管野啓二JA福島五連会長にインタビューした。

持続可能な「福島の農業」と「JA」の未来づくりを進める。

 ――「第53回日本農業賞」で、JA会津よつばかすみ草部会が集団組織の部大賞に選ばれました。

 「昭和村の村おこしを兼ねた、行政とともに進んできた部会活動が認められた大きな成果だと捉えていますし、過疎化している地域として成果を上げたことも大きな意義があると思っています。日本農業大賞を集団・組織の部で本県が受賞するのは第44回JA会津みなみ南郷トマト生産組合以来9年ぶりで、JAグループ福島としても大変名誉なことです。部会長はまだ若く、以前はトラック運転手をしていたという異色の経歴の方です。運ぶのではなく、自ら栽培して地域に貢献したいという熱意からスタートしていますが、その熱意が部会全体に伝わったのかなと思っています。担い手不足が深刻化する本県農業において、山間地でも儲かる農業を実現し、未来に続く農業経営と地域振興を実現されたことは、まさに本県農業の誇りであり、大賞受賞を契機として今後もさらなる担い手づくりと地域農業振興へのご尽力を期待しています」

 ――JAグループでは「ふくしま園芸ギガ団地構想」を進めており、園芸品の生産振興に力を入れています。JA会津よつばかすみ草部会の大賞受賞はその成果の1つと言えますが、昭和カスミソウやそのほかの品目(地域)の今後の展望について。

 「『ふくしま園芸ギガ団地構想』は、県内各5JAがそれぞれの地域性を生かし、県の補助事業を有効に活用しながら園芸振興を図っており、現在5JA12地区で取り組みを進めています。中身としては『1団地で1億円以上の販売高を目指す』というもので、きゅうり、ピーマン、ねぎ、いちご、トマト、アスパラガス、宿根かすみ草の7品目を中心に取り組んでいます」

園芸ギガ団地を拡大

 ――ギガ団地構想は、農家の所得向上と、「農業で生計を立てられる」ということを実践し、若い人の新規参入や担い手不足解消が目的とされています。

 「継続して経営を安定させていくためには『売り上げ』、そして所得がいくら確保できるかがとても重要です。いわゆる『儲かる農業』を目指していかなければ持続的な経営につながっていきません。そのためには、技術面の向上とコストをいかに減らせるかがカギです。また、産地の拡大によって販売数のロットを大きくしていかなければ市場での優位性が発揮できません。より所得を確保できる園芸作物の振興に取り組み、十分な収益をあげる農業を実践することによって、農業を生業として選択することができ、それが、新規就農者の獲得にもつながっていくと考えています。

 令和5年度(県発表。令和4年5月2日~令和5年5月1日)の新規就農者数は367名(前年比33名増)となり、2030年に340人以上を目指すとした県総合計画を上回る結果となりました。さらに令和5年度は、JAふくしま未来・桃(73億円)、夏秋キュウリ(44・8億円)、JA福島さくら・ピーマン(7億円)、JA会津よつば・昭和かすみ草(6・3億円)、南郷トマト(12・3億円)など、県内の主要品目の販売額が過去最高額を更新するなど、非常に良いニュースがありました。今後の県内各JAで園芸ギガ団地構想の拡大を図り、農家手取り最大化に向け努力していきます」

 ――昨年4月、県、JAグループ福島、福島県農業会議、福島県農業振興公社がワンフロアに常駐する総合相談窓口「福島県農業経営・就農支援センター」が開所しました。

 「『福島県農業経営・就農支援センター』が発足して10カ月余が経過しました。こうした連携体制は全国でも福島県が唯一で、各県からの注目もあり視察の依頼も増えています。

 サテライト窓口も含めた1月末までの10カ月間での相談件数は1164件(就農相談854件、経営相談267件、企業参入相談43件)で、前年同時期対比1・3倍となりました。就農相談については、県が主催するフェアの開催などにより着実に増加するとともに、男女問わず年齢も若い方から定年前後まで実に幅広い方から相談を受けています。県が発表した令和5年度の新規就農者も367名となり、2年連続で300人を超え、センター設置前の令和4年度から連携協議会を設置して取り組んできたことが成果に繋がっています。

 ただその中で重要なのは『定着率』だと思っています。福島県では新規就農した方々で3年以上離農せずに定着している方が8割を超えています。特に就農した後のフォローとして販売チャネルの相談や確保がJAグループとして一番の使命だと思っています。

 引き続き年間1200件の相談目標に向けて取り組むとともに、現在研修中の方々に対する就農計画の策定や農地の斡旋、販路の確保など、各団体の持てる機能を発揮して、着実に就農に結び付くよう取り組みを強化していきます」

 ――「JAグループ福島東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会」の原発賠償の状況について。

 「1月末までに請求額が約3710億円、支払額が約3622億円で、賠償率は97・6%となっています。国の風評対策もあり、事故直後のような状況ではありませんが、ALPS処理水の海洋放出開始以降も、県産農畜産物への風評被害は、JA関係団体においても、残念ながら確認されています。国や東京電力には昨年11月17日に開催された『JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会』での決議事項に基づき、確実かつ速やかな対応を求めていきます」

 ――今後の抱負。

 「農業に携わっている方々が『来年もまた作りたい、経営を継続したい』と言えるような1年にしたいと思っています。また、国では現在開会中の通常国会において、農政の憲法とされる『食料・農業・農村基本法』の改正を目指しています。食料安全保障の強化や、環境と調和のとれた産業への転換、生産性の高い農業経営、農村・農業人口・コミュニティーの維持などが検討されています。消費者の方々は、これまで『安ければいい』という考えが多かったと思いますが、今後は国家を守るために、食料に対する国民の負担というものを考え、食料安全保障の重要性を理解していただくきっかけとなる年になるのではないかと思っています」

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