ねもと・たくみ 1951年生まれ。安積高、東大経済学部卒業後、建設省入省。衆院議員当選後、厚生労働大臣、復興大臣などを歴任。現在衆院予算委員長を務める。
岸田文雄政権発足から約1年半を迎えた。岸田首相の盟友で宏池会(岸田派)の会長代行兼事務総長を務める根本匠衆院議員(72、9期)は、政権運営をどう見るのか。防衛力強化や異次元の少子化対策への評価を聞いた。大震災・原発事故からの復興への道筋と、衆院予算委員長の職責の重さと心構えについても聞いた。
――岸田政権発足から約1年半が経過しました。
「岸田首相の強みは、『聞く力』と、判断力、そして決断力です。いろいろな意見に耳を傾けて課題を整理し、最後は迅速に決断します。新型コロナ対策は迅速で的確でしたし、ロシアによるウクライナ侵略に伴う資材価格、物価高騰に対しては、対策を切れ目なく行っています。ロシアによるウクライナ侵略は明々白々な国際法違反の暴挙です。ロシアに対してG7と足並みをそろえて経済制裁を行ってきました。ウクライナ電撃訪問は、首相の覚悟を示し、国際社会に向けて大きなメッセージになりました」
――岸田政権が進める防衛力強化と異次元の子育て支援をどう見ますか。
「『ウクライナは明日の東アジア』との危機感を持って見るべきです。国民の命とくらしを守り抜くことは政治の使命であり、防衛力強化はわが国の未来にとって不可欠です。反撃能力を持つのはあくまで抑止力を高めるためで、防衛のために弾薬を十分に確保して継戦能力も高めねばなりません。サイバー攻撃や宇宙空間からの攻撃など新たな脅威もあります。自衛隊が拠点とする建物を耐震化していく必要もあります。
『次元の異なる少子化対策』については、経済的支援の強化、保育サービスの拡充、働き方改革が欠かせません。特に重要なのは、男性が育児休業を取得し、子育てに深く関わることです。企業もワークライフバランスを整えて応援する雰囲気になっています。子育てを社会全体で支えていくんだという意識を共有して財源も確保していく必要があります」
――衆院予算委員長として、議事を取り仕切ってきました。
「国会の一番大事な仕事は予算を決めることです。内閣が作成した予算案を国民から選ばれた議員たちが議論し承認して初めて全ての政策が動きだします。予算委員会は、与野党ともに全力を傾注する、〝国会の主戦場〟であり〝花形委員会〟とも言われます。野党は首相や大臣の答弁が不十分だと抗議し、審議を止めろと言って議事が滞る。これをどうさばいていくかが予算委員長の職責です。全ての予算案に目を通すのはもちろん、関連法案も事前に頭の中で整理しています。
予算委員長は野党に7、与党に3の軸足を置いてさばきます。一方で盟友の岸田首相を支えなければならないとの心づもりもあります。源義経を支える弁慶のような心情です。予算委員長は受け身ではいけません。激しい議論をまとめるため、最後は自分がさばくんだという気迫と気概が必要です」
――震災・原発事故から12年を迎えました。
「第2次安倍内閣で復興大臣を務めました。安倍さんは『全閣僚は被災地復興の役割がある、復興大臣はその司令塔』と位置付けました。自ら考えて、復興大臣が関係省庁を直接指揮できる仕組み『タスクフォース』を創りました。私は『匠フォース』のつもりですが、各省庁の縦割りを乗り越え引っ張っていくのが私の仕事でした。
この仕組みを生かして津波被災地の高台移転等では、用地取得の迅速化などを実現しました。ただし事業規模が大きく市町村だけでは対応できないので、独立行政法人都市再生機構(UR)をフル活用しました。URには長年培ってきたまちづくりのノウハウがあります。一例を挙げると、高台移転地整備のために山を削って出た土を運んで津波被災地のかさ上げに使いました。1日200台のダンプをもってしても6年かかると言われていましたが、URは長さ100㍍以上のベルトコンベアを用いて1年半で達成、工期を大幅に短縮できたのです。
URは民主党政権時、その存在意義が問われ、冬の時代でした。事業仕分けで『宅地開発等の開発事業は廃止』とされていました。URがなかったら、復興は大幅に遅れていました。これだけでも、政権奪還の意味が大きかったことがお分かりいただけるでしょう。
復興大臣時代、新たな施策として町外コミュニティーの核となる復興公営住宅整備など、特に子どもの屋内外の遊び場をつくる『子ども元気復活交付金』の創設を主導しました。初めに制度ができれば、その後も予算付けをして事業が動き続けます。あの時、動かすための仕組みを創ったのは大きいと思います。大臣主導で様々なアイデアを練り上げて実現し、やりがいがありました。
復興大臣を辞めてだいぶ経ちますが、今も復興政策に深く関わっています。復興加速化本部プロジェクトチーム座長として、『里山・広葉樹林再生プロジェクト』を林野庁と徹底的に議論して昨年創設しました。しいたけ原木としての利用が停滞している広葉樹林の計画的な伐採と更新を進めるもので、10年間に5000㌶を対象とする予定です。里山の除染とは、単に土壌を剥ぐのではなく里山を構成する広葉樹林を伐採し、新しく芽を出すよう促すことが本質です。誰も気づかなかった。初めて私が気づいたのです。
萌芽更新により里山が再生され、自然循環が蘇る。原発事故で滞った伐採を進め、里山にも復興を広げていきます」
――東京電力は福島第一原発敷地内で溜まり続けるALPS処理水を春から夏ごろにかけて海洋放出する予定です。
「廃炉作業を促進するためには処理水を適切に処理するのが大前提です。トリチウムが出す放射線は極めて弱く、健康に影響を及ぼさないというのが科学的知見です。海洋放出する際にはトリチウム濃度を世界保健機関の飲料水基準値の7分の1程度にする計画で、国内外の原発でもトリチウム水は海に流しています。国際原子力機関(IAEA)など第三者機関の監視で安全・安心を担保することが必要です。風評被害については、対策の基金を設けており、迅速に対処します。万全の体制を整え国内外の理解を得る努力を続けていくしかありません」
――衆院小選挙区の区割り改定を受け、地盤が新2区に再編されました。次期衆院選にはどのような戦略で臨みますか。
「これまでの選挙区に2市9町村が加わります。票数で見ると自民党が弱かった場所です。選挙活動に奇策はありません。やるべきことをやるだけです。私は政策を考えるのが好きで政治家になりました。課題があると、解決にはどのような制度が必要かと担当省庁と議論を交わして政策を実践し、実現してきました。新しい選挙区を回り、各地域の課題を発見すると『課題解決型政治家』としてのやる気がみなぎります。これまでと変わらず、地元の皆様の声に耳を傾けて政策に生かしていきたいです。これまでも、そしてこれからも、福島から国を動かす。選挙の結果は自ずと付いてくるはずです」
掲載号:政経東北【2023年5月号】