【いわき市】内田広之市長インタビュー【2024.5月】

うちだ・ひろゆき 1972年3月生まれ。東大大学院教育学研究科修了。文部科学省教育改革推進室長、福島大理事兼事務局長などを歴任し、2021年9月の市長選で初当選。

 ――「人づくり日本一」というスローガンを掲げています。

 「いわき市は医師不足が大きな課題で、医療人材育成という意味での人づくりに取り組んでいます。令和2〜4年までに21人の医師が本市に来ており、目標としては任期中に30人まで増やしたいと考えていますが、医師を呼び込む取り組みと併せて医師を育成する取り組みも進めていかなければなりません。医療センターだけでなく市内の病院が連携して医療人材を育成する機会をつくることに加え、一昨年度から磐城高校に医学コースが創設され、医学部を目指す生徒約30名が医師会の協力による講習会や、座学だけでなく手術の体験授業も実施しており、医学の道に進む生徒さんの後押しをしています。実際に医師として勤務してもらうには最低でも10年はかかるので長期的な事業になりますが、着々と増やしていくことに意義があると見ています。また、県立医大の研修プログラムで現場体験をする実習があり、市内の病院でも学生を受け入れる体制を整備しています。

 一方、単に医師数を増やすだけでなく、様々な分野をカバーできるよう多数の診療科目を揃えることも重要です。最近では脳神経外科や循環器内科、眼科、麻酔科、整形外科、救急科など、様々な科目の医師の方々が着任しており、今後もカバー範囲を広げていきたいと考えています。

 現在、本市の人口10万人当たりの医師数は、183人となっていますが、全国平均が262人、県平均が219人と、いわき市は圧倒的に足りていません。まずは平均値に届くように取り組みを継続していきたいと考えています」

 ――昨年9月の台風13号で、市内各地で甚大な被害がありました。

 「重要なのは、どのセクションがどんな役割を担うかで、それによって対応スピードが変わってきます。発災時の避難所の運営はどこでやるのか、加えて罹災証明書発行などの平時にはない業務もありますし、これまでは、何の業務を優先するのか明確になっておらず、対応に時間がかかっていました。そのため、発災時にどの部署がいつ、どんなことをするのか事前にマニュアルを準備し、研修と訓練を実施するとともに、進行管理表を作成するなどにより、実際に今回の水害への対応は以前よりもスムーズにできました。
 災害発生からの3日間の初動はかなり重要で、今回も職員が全力で頑張ってくれたおかげで、かなり早い段階でボランティア受付の開始や罹災証明の窓口開設、災害ごみや災害廃棄物の受付など、令和元年東日本台風の際には思うように進まなかったことが事前準備や教訓を経て、適切に対応できたのは幸いでした。一方、死者が1名出てしまったのは非常に残念なことで、今後は線状降水帯対応の避難訓練の実施や、地区ごとに車で高台に避難できる場所を周知するなど、有事の際の対処法を市民の皆さまにお伝えしていきます」

F―REIと連携

 ――JRいわき駅並木通り地区再開発事業の進捗について。

 「現在、駅南側に建設が進められている21階建ての住宅棟については、すでに216戸すべてが完売し、完成前から人気を集めています。併せて商業・業務棟も年内に完成予定で、これらを合わせて『並木の杜シティ』として再開発事業のシンボルに据えられます。また、駅北口では松村総合病院の移転新築が決定しており、令和9年1月の完成予定となっています。このほか、磐城平城跡地に公園を整備する計画も進められており、基本計画策定後に遺構が出土したため、史跡指定と公園整備の両立を図る目的で、基本計画の改定を行い、令和6年度末のオープンを目指して工事が進められています。

 並木通り地区以外の事業としては、湯本駅前の市街地再生整備事業があります。コロナ禍前は全国から30万人以上が湯本温泉を訪れていましたが、最近は20万人を切ってしまいました。いわき湯本温泉を東北ナンバーワンの温泉地にしたいという地元有志の皆様の協力をいただきながら、民間の温浴施設に加えて、図書館、公民館、多目的ホールや支所などを複合化するとともに、観光客をはじめ地元の方々が集えるようなスペースを設置し、湯本地区を湯けむり漂う観光のまちにしていきたいと構想を練っているところです。また、四倉地区にも文化施設や教育施設を整備する企画を練っており、地元の方々と協議を進めていきます」

 ――昨年4月に福島国際研究教育機構(F―REI)内にいわき出張所を設立したほか、市内企業とF―REIとの連携を図っています。

 「まず大きな背景として、若者の流出がかなり進行しており、それに歯止めをかけなくてはいけないという課題があります。高校卒業後、およそ6割が首都圏等へと移っており、人口流出に歯止めをかけるためにも雇用の場を作らなければなりません。いわき市の場合は化学製品、情報通信機械、自動車部品などの製造業に加えてエネルギー産業もあり、それぞれの企業が新しい技術を活かしながらSDGsというキーワードのもとチャレンジし、それによって新しい商品や産業が生まれるのではないかと見ています。そうすることで若い人たちをいわき市に呼び戻したり、大学卒業後いわき市内で働く人が出てくると思います。エネルギー産業やロボット産業といった新たなチャレンジをしていくにはF―REIとの連携が不可欠です。そうした取り組みの一環として、常磐共同火力がネガティブエミッションのコア技術の研究開発・実証委託事業に採択され、木質バイオマス資源を燃料とした地産地消エネルギーシステムを構築する仕組みを福島大学とF―REIとの連携で研究していきます。また、福島高専との共同研究も始まっており、いわき出張所を拠点として利用してもらいながら研究を進めてもらうだけでなく、今後7年間で500人もの研究者がF―REIに来る予定なので、エネルギーやロボット、農林水産業や放射線、そしてリスクコミュニケーションの5つの分野について市内企業と連携しながら新たな取り組みを打ち出していきたいと考えています」

 ――今年度の重点事業について。

 「市内路線バスの大幅減便や高齢ドライバー増加の問題があり、高齢者の方々が免許を返納しても安心して出かけられるような公共交通網を構築するべく、4月より公共交通課を新設しました。新常磐交通やJR、市内タクシー業者の方々と協議を進めていきますが、一番の問題はバスの利用者が少ないという部分で、積極的に通勤利用を呼び掛けているほか、来年度までの2年間で公共交通が厳しい地域でのデマンドタクシーやグリーンスローモビリティーなど、様々な実証実験を通して公共交通の不便地域の解消を目指していきます」

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